東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「体を動かすとかえって痛みが強くなる気がして、運動していいのか分からない」。線維筋痛症の方やご家族から、これはとてもよく聞かれる質問です。結論から言うと、有酸素運動や筋力トレーニング、水中運動などの運動療法は、痛みや生活の質、体の動かしやすさに対して小さめから中くらいの範囲でプラスに働く可能性があると複数の研究で示されています1,2,4。ただし研究の質には限界があり、効果の大きさや続き方、どの方に一番合うのかははっきりしていません1,3。この記事では、患者さん・ご家族に向けて、研究で分かっていることと分かっていないことを正直に整理します。
2. 研究では効果があると言っているのか
3. エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
4. 何が変わりやすく、何は変わりにくいか
5. どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
6. 頻度・強度・時間・期間の目安
7. 当施設での経験と正直なまとめ
8. よくある質問
9. 参考文献
線維筋痛症は、体の広い範囲に続く痛みやこわばりに加えて、強い疲れ、眠りの浅さ、集中しにくさ、気分の落ち込みなどをともないやすい慢性の状態です8。検査で異常が見つかりにくく、痛みを感じ取るしくみ(中枢性の痛みの過敏さ)が関わっていると考えられています。
薬だけで症状をおさえるのは難しいことが多く、国内外のまとめでは、薬に頼らない方法の中で運動療法が中心的な選択肢のひとつとして位置づけられています8。2025年に発表されたネットワークメタアナリシスでも、「運動療法は線維筋痛症に対して強く推奨される唯一の介入である」と述べられています4。慢性的な痛みでは、以前は安静がすすめられた時期もありましたが、現在は「動かないことで体力や筋力が落ち、痛みや不安がさらに強まる悪循環」を避ける意味でも、体を動かすことが見直されています7。慢性的な痛みと脳のしくみの関係については、慢性的な首の痛みと脳への影響という視点について解説した記事もあわせて参考にしてください。

有酸素運動に関する13件のランダム化比較試験(合計839人)をまとめたコクランレビューでは、運動をしない対照群と比べて、生活の質が中くらいの確実性で改善する可能性があり(平均差 −7.89、95%信頼区間 −13.23〜−2.55)、痛みの強さ(平均差 −11.06)、身体機能(平均差 −10.16)は低い確実性で少し良くなる可能性があると報告されました。一方で疲労とこわばりは明確な差とは言えませんでした1。
ランダム化比較試験をまとめた別のメタアナリシスでは、運動によって痛み(標準化平均差 −1.11、95%信頼区間 −1.52〜−0.71)や全体的な調子、抑うつ症状が減り、生活の質が上がることが示されました。著者らは「有酸素運動と筋力トレーニングが、痛みを減らし全体的な調子を整えるうえで最も有効な方法」と結論づけています2。
運動の種類による違いも検討されています。2025年のネットワークメタアナリシス(51件・2,873人)では、短期(3か月以内)では水中運動が痛みを減らす効果が最も高く、長期(3か月超)では筋力トレーニングが最も高い、という結果でした。ピラティス、気功、バーチャルリアリティ、複合運動、有酸素運動なども通常ケアより良い傾向でしたが、確実性は「中程度」にとどまっています4。水中運動だけをまとめたメタアナリシス(14件・762人)でも、痛みや6分間歩行距離、線維筋痛症の影響度スコアで改善が報告されています5。中国の非薬物療法ガイドライン(2025年)も、有酸素運動と筋力トレーニングを「痛みの軽減・身体機能の向上・長期的な利益」を理由に推奨しています8。
在宅での運動をどう続けるかという観点では、慢性の痛みに対するオンライン運動指導の研究もあります。慢性腰痛の遠隔リハビリ(オンライン運動指導)について解説した記事もあわせてご覧ください。
運動療法をすすめる研究は多い一方で、その質には共通した限界があります。コクランレビューは、含まれた試験の数と参加人数が少ないこと、自己申告のアウトカムで盲検化(どちらの群か分からないようにすること)ができていないことなどを理由に、多くの結果を「低い確実性」に格下げしています1。慢性の痛み全体を見わたしたコクランのまとめでも、「身体活動と運動のエビデンスの質は低い。主にサンプルサイズが小さく、研究の検出力が不足しているため」と述べられています7。フォローアップも多くが3〜6か月までで、長期の影響は十分に検討されていません1,7。
1. どの運動が誰に一番合うのか。種目を比べた研究の多くは小規模な単一試験で、確実性が低いままです1。
2. 最適な強度・時間・頻度・期間。研究ごとにばらつきが大きく、「もっと具体的なプロトコルの記述が必要」と指摘されています6。
3. 効果がどのくらい続くか。痛みや機能の改善は残るという報告と、生活の質や疲労では続かないという報告があります1。
4. 症状が重い方や併存疾患が多い方への効果と安全性。研究の参加者は比較的動ける方が中心です。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の症状の重さ、運動の内容、評価方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は「集団の平均的な変化」であり、個人がどう変化するかを保証するものではありません。
・痛みの強さ(小さめの改善、確実性は低め)1,2
・身体機能・動かしやすさ、抑うつ症状1,2
・長期(半年以降)の生活の質や疲労1
・「痛みがゼロになる」ような大きな変化(研究で示されているのは平均で1〜2割程度の相対的な改善)1

運動療法は、症状の波がありながらも日常生活である程度動ける方、体力や筋力の低下が気になり始めた方、痛みへの不安から活動を控えがちな方などで検討される場面が多いです。運動の種目は、続けやすさや好み、関節への負担で選び、負荷は「低め」から始めて少しずつ調整するのが一般的です1,4。
・症状の増悪期(フレアアップ)で全身の痛みが強いとき
・心臓・呼吸器・関節などの別の病気があり、運動制限を受けている
・強い睡眠障害や気分の落ち込みがあり、運動を続けるのがつらい
・立ちくらみ、動悸、胸の痛み、しびれなど、いつもと違う症状が出たとき
研究でも報告される多くの有害事象は「一時的な筋肉痛やだるさ」で、数週間でおさまることが多いとされています。ただし有害事象をきちんと記録した研究は少なく、安全性が完全に確かめられているわけではありません1。
コクランレビューに含まれた有酸素運動の研究で多かった設定は、おおよそ次のとおりです1。あくまで研究上の平均であり、個人に合わせた調整が前提です。
・強度:軽め〜中等度(予測最大心拍数の60〜75%程度)
・1回の時間:平均35分(20〜60分)
・期間:6〜24週(平均15週前後)
・実施形態:屋内外のウォーキング、自転車こぎ、低衝撃のエアロビクス、水中運動、音楽に合わせた運動など。多くは指導者の監督つき
筋力トレーニングの研究では、週2〜3回で数週間から数か月かけて負荷を少しずつ上げる方法が用いられています2,3。共通する考え方は「やりすぎない・体調の波に合わせる・生活の中で続けられる量にする」ことと、患者教育やペーシング(活動量の配分)と組み合わせることです6,8。運動の種目選びで迷うときは、運動の種目ごとの違いについて解説した記事も参考になります。

線維筋痛症では、運動量を一律に決めず、痛み・疲労・睡眠・体調の波を確認しながら負荷を調整することを重視します。始めは短時間・低負荷とし、当日だけでなく翌日以降の症状も見て、必要なら休息日や減量日を設けます。「つらくても決めた量をやり切る」ことは目標にせず、生活の中で続けられる形を主治医やリハビリ専門職と一緒に探すことが安全な進め方です。
まとめると、線維筋痛症に対する運動療法は「痛みや生活の質に対して、平均としては小さめから中くらいのプラスが期待できるが、効果の大きさや続き方には不確実さが残る」方法です1,2,4。うまくいくかどうかは、種目の選び方、負荷の調整、続けやすさ、他の治療やセルフケアとの組み合わせに左右されます。始めるとき・見直すときは、必ず主治医やリハビリ専門職と相談しながら進めてください。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Sosa-Reina MD, Nunez-Nagy S, Gallego-Izquierdo T, Pecos-Martín D, Monserrat J, Álvarez-Mon M. Effectiveness of Therapeutic Exercise in Fibromyalgia Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Clinical Trials. Biomed Res Int. 2017;2017:2356346. PMID: 29291206/PMCID: PMC5632473. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5632473/
3. Busch AJ, Webber SC, Richards RS, Bidonde J, Schachter CL, Schafer LA, Danyliw A, Sawant A, Dal Bello-Haas V, Rader T, Overend TJ. Resistance exercise training for fibromyalgia. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(12):CD010884. PMID: 24362925/PMCID: PMC6544808. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6544808/
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