東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
骨折予防のための運動は何がどこまで有効か
健康診断で骨密度の低下や骨粗鬆症を指摘されると、「運動はした方がいいのか」「かえって骨折しないか」「どんな運動をどれくらいすればいいのか」と迷う方が多いと思います。骨粗鬆症は自覚症状がほとんどないまま進み、転倒などをきっかけに骨折して初めて気づくことも少なくありません。
この記事では、高齢者(主に閉経後の女性を中心とした研究知見を含みます)を対象に、荷重運動やレジスタンス運動が骨密度にどの程度関係すると報告されているか、転倒・骨折リスクへの影響、運動の種類・強度・頻度、そして骨折リスクが高い方が運動する際に気をつけたい点を、研究と現場の両方から整理します。なお、脳卒中の後遺症がある方の骨密度低下については対象や背景が異なるため、この記事では扱いません。
最終更新日:2026年8月22日
最新レビュー日:2026年8月22日
最近骨折した、強い腰背部痛がある、めまいや立ちくらみが起きやすい、心臓や血圧に不安がある、医師から運動を制限されている、という場合は、自己判断で強い運動を始めず、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。骨粗鬆症の程度や併存疾患によって、安全に行える運動の内容は大きく変わります。
骨粗鬆症は、骨の中の密度(骨量)が減り、骨の内部構造がもろくなることで、軽い衝撃でも骨折しやすくなる状態です。加齢とともに骨は少しずつ弱くなりますが、特に女性は閉経後にエストロゲン(女性ホルモン)が減ることで骨の減少が速まりやすいとされています。
骨粗鬆症そのものには痛みがないことが多く、背骨(椎体)がいつの間にか押しつぶされるように変形する「いつのまにか骨折」や、転倒をきっかけとした手首・足の付け根(大腿骨近位部)の骨折で初めて発見されることもあります。実際に足の付け根を骨折してしまった後の手術やリハビリについては、当施設のブログで大腿骨近位部骨折の術後リハビリについて解説した記事で取り上げていますので、あわせてご覧ください。この記事では、骨折が起きる前の段階で運動がどこまで役立つと報告されているかを中心に整理します。
骨は、体重を支える「荷重」や、筋肉が引っ張る「負荷」がかかると、その刺激に応じて強くなろうとする性質があります。この性質を利用して、骨に一定以上の負荷をかける運動が、骨密度の維持や増加に関連するかどうかが研究されてきました。
オーストラリアで行われたランダム化比較試験では、骨量が少ない閉経後女性101名を、週2回・30分の監督下での高強度レジスタンス運動(スクワットやデッドリフトなどを5セット×5回、最大挙上重量の80〜85%以上の強度)とジャンプ着地による衝撃運動を組み合わせたグループと、自宅で行う低強度運動グループに分け、8か月間比較しました。高強度グループは、腰椎の骨密度が平均2.9%増加した一方、対照グループは平均1.2%低下しており、その差は統計的に意味のある差でした1。大腿骨頸部(足の付け根の骨)の骨密度でも同様に、高強度グループの方が良好な結果でした1。
従来、骨粗鬆症のある方への高強度の運動は「骨折しやすいのではないか」と敬遠されがちでしたが、この研究では専門家による丁寧な監督のもとで実施された結果、2600回を超える実施回数の中で発生した有害事象は軽い腰の筋肉のこわばりが1件のみでした1。ただし、これは心臓や血管の重い持病がない、比較的健康な方を対象にした結果であることには注意が必要です。
一方で、運動の種類によって骨密度への効果には差があると報告されています。運動とカルシウム・ビタミンDの併用を検討した2025年のメタアナリシス(複数の研究をまとめた報告)では、全身振動運動や太極拳のような心身運動を含むプログラムで腰椎・大腿骨頸部の骨密度がより大きく改善する傾向が示された一方、レジスタンス運動や有酸素運動単独では統計的に意味のある差に至らなかったと報告されています3。研究ごとに運動の内容や期間が異なるため、この結果がそのまま「どの運動が一番良いか」の答えにはならない点は本文の後半でも触れます。
筋力そのものを保つという観点では、運動と栄養(たんぱく質摂取)を組み合わせる考え方も重要です。高齢者の筋力低下(サルコペニア)と運動・たんぱく質の関係については、当施設のブログで運動とたんぱく質の組み合わせについて解説した記事を公開していますので、骨だけでなく筋肉量も含めて考えたい方はご参照ください。
研究全体では運動と骨密度の間に一定の傾向がありますが、対象者の年齢・骨密度の程度・介入内容・追跡期間が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。特に押さえておきたい限界を2点挙げます。
イギリスで行われた大規模な転倒予防運動プログラム(オタゴ運動プログラムなど)の研究では、319名を対象に24週間の介入を行いましたが、大腿骨頸部の骨密度には統計的に意味のある変化が見られませんでした5。著者らは、転倒予防を目的とした運動は骨に十分な強さの刺激を与えられていない可能性や、介入期間が骨密度の変化を検出するには短かった可能性を指摘しています5。転倒予防と骨密度の維持は関連はしていますが、同じ運動で両方が同じように得られるとは限らない、という区別が大切です。当施設のブログでもオタゴ運動プログラムについて解説した記事で、転倒予防としての効果と限界を紹介していますので、あわせてご覧ください。
振動する台の上に立つ全身振動運動(WBV)についての2017年のシステマティックレビューでは、14件の研究(約1800名)をまとめた結果、転倒の回数は減る傾向が示された一方、骨密度(腰椎・股関節)には統計的に意味のある変化が見られませんでした4。骨折そのものを主要な結果として報告した研究は1件のみで、その差も統計的に意味のあるものではありませんでした4。「転倒が減る」ことと「骨折が減る」ことは関連しますが、直接骨折の減少まで確認できた研究はまだ限られています。
現在の研究でも、どの運動の組み合わせが最も骨折予防に役立つのか、どのくらいの頻度・強度・期間が最適なのか、重篤な心血管疾患や骨折の既往がある方にどこまで安全に応用できるのかは、十分に分かっていません。今後は、対象者の重症度や併存疾患をふまえた、より長期の研究が必要とされています。
骨密度だけでなく、実際の骨折を減らせるかどうかも重要な視点です。ヨーロッパで70歳以上の高齢者1488名を対象に行われた大規模なランダム化比較試験(DO-HEALTH試験)では、特別な器具を使わない自宅でできる簡易な運動プログラム(座位からの立ち上がり、片脚立ち、ゴムバンドを使った運動、階段昇降など5種目、週3回・30分程度)を3年間継続したところ、女性においては椎体(背骨)の骨折発生率が、通常のプログラムに比べて約半分(発生率比0.52)に低下したと報告されています2。ただし、男女を合わせた解析では統計的に意味のある差には至らず、この結果は主に女性でみられたものである点には注意が必要です2。
やや古い研究になりますが、45歳以上を対象とした運動と骨折予防に関するメタアナリシスでは、運動を行ったグループの方が全体の骨折数が少ない傾向(相対リスク0.49)が報告されています6。ただし著者ら自身が、出版バイアス(良い結果が出た研究の方が発表されやすい偏り)の可能性を指摘しており、骨折そのものを主要な目的として設計された大規模研究がまだ十分ではないとも述べています。このため、この数値は参考情報として捉え、断定的な根拠としては扱っていません。
低骨密度の方を対象にした別のレビューでは、バランス運動・筋力運動・荷重運動を組み合わせたプログラムが、転倒や転倒に関連した骨折を減らす方向で報告される傾向があるとまとめられています7。これも研究間で運動内容にばらつきがあるため、「この組み合わせなら確実」と言い切れるものではありませんが、複数の要素を組み合わせる考え方自体は、現時点の研究の方向性と大きく矛盾しません。
骨密度が低い、あるいは骨粗鬆症と診断されているからといって、運動そのものを避ける必要があるわけではありません。多くの研究は、専門家の監督下であれば、骨量が少ない方でも段階的に運動強度を上げていけることを示しています。一方で、自己判断での実施は避けたい場面もあります。
高強度のレジスタンス運動や衝撃運動は、フォームを誤ると腰や関節に負担がかかりやすい運動でもあります。LIFTMOR試験でも、著者らは「低骨量の方が監督なしでこの内容を行うことは推奨しない」と明記しています1。強度を上げる場合は、リハビリ専門職や運動指導者と一緒に、正しいフォームを確認しながら段階的に進めることが安全につながります。
・監督下の高強度レジスタンス運動:週2回×30分、8か月以上の継続(LIFTMOR試験)1
・骨密度の変化がDXA(骨密度測定)で確認できるまでには、数か月〜1年程度の期間を要することが多いとされています
興味深いことに、運動とカルシウム・ビタミンD併用のメタアナリシスでは、6か月以内の短期の介入の方が、7か月以上の長期介入よりも骨密度の変化量が大きい傾向が報告されています3。これは「長く続けるほど効果が増え続ける」というよりも、初期の適応反応が大きく出やすいことを示している可能性がありますが、著者らも研究間のばらつきが大きいことを限界として挙げており、この数値だけで運動をやめてよい理由にはなりません。骨や筋力を維持する目的では、継続すること自体に意味があると考えられています。
骨粗鬆症の薬物療法(骨吸収抑制薬や骨形成促進薬など)を受けている方も、運動の可否や内容は主治医と相談して決めることが大切です。薬を飲んでいるから自己判断で強い運動を加える、または運動をすべて中止するのではなく、治療内容、骨折歴、痛み、転倒リスクを踏まえて個別に調整してください。
Journey Rehabでは、骨密度の数値だけで運動を決めず、骨折歴、痛み、姿勢、転倒リスク、服薬、生活環境を確認します。骨折が疑われる急な背中や腰の痛み、身長低下、転倒後の痛みがある場合は運動を進めず、医療機関への相談を優先します。
骨密度は目に見えないため、ご本人が実感を持ちにくいテーマでもあります。だからこそ、なぜその運動を行うのか、どこまでが目安で、どこからは医師に確認すべきかを、一つずつ言葉にしてお伝えすることを大切にしています。
高強度のレジスタンス運動や衝撃運動、自宅でできる簡易な運動プログラムなど、複数の研究で骨密度や骨折発生率との関連が報告されています。一方で、転倒予防に有効な運動が必ずしも骨密度を変えるとは限らないなど、運動の種類によって効果の出方は異なります。骨折リスクが高い方は自己判断を避け、専門家と一緒に、その方に合った運動内容・強度を見極めることが大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。骨粗鬆症の程度や安全に行える運動の内容は個別に大きく異なります。運動を始める前、特に骨折歴がある方、強い痛みがある方、心臓や血圧に不安がある方は、必ず主治医・リハビリ専門職へ相談してください。研究データは執筆時点のものであり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
