
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「ぐるぐる回るめまいが続く」「頭を動かすとふらつく」「めまいが怖くて外出しにくい」——耳のはたらき(前庭)に関わるめまいで、こうした悩みを抱える方は少なくありません。安静にしているだけではなかなか慣れが進まず、かえって長引くこともあります。この記事では、末梢性(耳が原因)のめまいに対する前庭リハビリテーションについて、研究で分かってきたこと、何が変わりやすく何がまだはっきりしないのかを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

・前庭神経炎など「片側の耳のはたらきの低下」による末梢性めまいに対して、複数の質の高い研究をまとめた検討で、安全で有効な方法だと中程度〜強い確からしさで示されています1。
・めまい感、ふらつき、視界の安定、日常生活のしづらさ(DHI)などに、良い方向の変化が報告されています1。
・ただし「良性発作性頭位めまい症(BPPV)」では、まず頭の位置を変える手技(耳石を戻す方法)のほうが短期的には有効で、運動主体のリハビリとは役割が異なります1,3。
・めまいには脳が原因のものもあり、見分けが重要です。強い頭痛・手足の麻痺・ろれつの回りにくさを伴う場合はすぐ受診してください。
私たちは、耳の奥にある「前庭(半規管や耳石器)」という器官で、頭の傾きや動きを感じ取り、バランスを保っています。この前庭のはたらきが片側で低下すると(前庭神経炎、めまいを伴う突発性難聴の後など)、左右の情報がつり合わなくなり、ぐるぐる回るめまいやふらつき、頭を動かしたときの視界の揺れが起こります。こうした「耳が原因のめまい」を末梢性めまいと呼びます。
前庭リハビリテーションは、頭・目・体をあえて動かす運動を繰り返し、脳が新しいバランス情報に慣れていく力(前庭代償と呼ばれます)を後押しする方法です。代表的には、頭を動かしながら一点を見続けて視界を安定させる練習(注視安定運動)、立って重心を移す練習、歩きながら頭を動かす練習などがあります。安静にしているだけでは慣れが進みにくいため、少しめまいを感じる範囲で計画的に体を動かすことがポイントです。なお、めまいには脳(脳幹や小脳)が原因のものもあり、対応が異なります。脳卒中に伴うめまいについては脳卒中後のめまい・ふらつきと前庭リハビリについて解説した記事で扱っています。
結論から正直にお伝えすると、片側の前庭のはたらきが低下した末梢性めまいに対して、前庭リハビリは「比較的しっかりとした根拠がある」方法です。一方でBPPVのように、運動より先に行うべき手技があるタイプもあります。研究を順にみていきます。
米国理学療法士協会の2022年の診療ガイドラインも、急性期・亜急性期および慢性期の片側前庭機能低下、さらに両側の前庭機能低下に対して、前庭リハビリを「行うべき」と、強い推奨(レベルの高い根拠)で示しています2。一方で、目だけを動かす運動(サッケードや追従だけの運動)を、注視安定の練習として単独で用いることは勧められないとされています2。

研究をていねいに読むと、前庭リハビリで「比較的期待しやすい部分」が見えてきます。片側の末梢性前庭機能低下では、自覚的なめまい感、頭を動かしたときの視界の安定、歩行やバランスの安定、日常生活のしづらさ(DHI)などに、良い方向の変化が報告されています1。「めまいが怖くて動けない」状態から、少しずつ活動範囲を広げていく後押しになりやすい部分です。バランスの土台づくりという点は脳卒中後のバランス訓練について解説した記事とも共通します。
一方で、両側の前庭機能が低下している方では、片側の場合ほど回復が進みにくく、バランスや生活の質の戻り方は限られることが指摘されています2。また、低下した前庭のはたらきそのものが元に戻るというより、脳が慣れて症状を補っていく(代償する)ことが中心です。回復のスピードや到達点には個人差があり、「必ず完全に元通りになる」とは言い切れません1,2。めまいへの不安が強い方では、活動を避けることでかえって長引くこともあるため、無理のない範囲で動くことが大切です。
前庭リハビリが向いているのは、耳が原因と診断された片側(または両側)の前庭機能低下による、めまい・ふらつきが続いている方です1,2。前庭神経炎の後や、慢性的にふらつきが残っている方に用いられます。反対に、BPPVが疑われる場合は、まず耳石を戻す手技の適応を確かめることが先です3。
ガイドラインでは、慢性期の片側前庭機能低下に対して、頭を動かす注視安定運動を1日3〜5回、合計20分以上、4〜6週間ほど続けることが一つの目安として示されています(ただしこの量に関する根拠は強くありません)2。両側の場合はもう少し長め(5〜7週間程度)が目安とされています2。共通して言えるのは、「一度に長く頑張る」よりも、短い練習を1日に数回、こまめに続けるほうが取り組みやすいということです。
進め方としては、専門職の評価にもとづき、まず座って頭を動かす練習から始め、慣れてきたら立って行う、歩きながら行う、と少しずつ難しくしていきます。ガイドラインでは、通院での指導と自宅練習を組み合わせる方法が勧められています2。めまいへの不安からふらつきや転倒が心配な方は、あわせて脳卒中後の転倒への備えについて解説した記事も参考になります。ご家庭で行う場合は、やり方と強さ、一人で行ってよい範囲を専門職に確認しておくと安心です。


修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Hall CD, Herdman SJ, Whitney SL, et al. Vestibular Rehabilitation for Peripheral Vestibular Hypofunction: An Updated Clinical Practice Guideline From the Academy of Neurologic Physical Therapy of the American Physical Therapy Association. J Neurol Phys Ther. 2022;46(2):118-177. DOI:10.1097/NPT.0000000000000382. PMID:34864777. PMCID:PMC8920012.
3. Bhattacharyya N, Gubbels SP, Schwartz SR, et al. Clinical Practice Guideline: Benign Paroxysmal Positional Vertigo (Update). Otolaryngol Head Neck Surg. 2017;156(3_suppl):S1-S47. DOI:10.1177/0194599816689667. PMID:28248609.
