脳卒中後のめまい・ふらつきと前庭リハビリテーションとは?バランス・歩行への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のめまい・ふらつきと前庭リハビリテーションとは?バランス・歩行への研究と限界を正直に解説

「立つとふらつく」「頭を動かすとめまいがする」——脳卒中の後に、こうしたふらつきやめまいに悩む方は少なくありません。前庭リハビリテーション(内耳の平衡感覚=前庭の働きに合わせて、視線を安定させる運動やバランスの運動を行う方法)は、もともとめまいの治療で使われてきましたが、近年は脳卒中後のバランスやふらつきに対しても研究されています。この記事では、脳卒中後のめまい・ふらつきと前庭リハビリについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、通常のリハビリに「加える」形でバランスや歩行の指標に良い変化を示した研究がまとまってきていますが、研究の質にはばらつきがあり、まずは専門職による評価が大切です。

脳卒中後の前庭リハビリで視線を保つ練習
視線を保つ練習は、めまいの出方を確認しながら無理のない範囲で行います。
この記事の要点
・前庭リハビリとは、視線を安定させる運動(注視安定訓練)や頭を動かす運動、バランスの運動を組み合わせ、ふらつきやめまいに働きかける方法です1
・15件の研究(769人)をまとめた分析では、通常のリハビリに前庭リハビリを加えた群で、バランスの指標(効果量SMD 0.59)と歩行の指標(Timed Up and Goで平均4.32秒短縮)に良い変化が示され、根拠の確からしさは「中程度」と評価されました1
・別の11件の研究(509人)をまとめた分析でも、前庭リハビリでバランスが良くなり(SMD 0.64)、二重課題の練習で歩行の指標に良い変化がみられました2
・特に発症から6か月以内の方や、注視安定訓練を組み合わせた場合に、より良い変化が報告されています1
・一方で、研究の質にばらつきがあり、めまいの原因はさまざまです。自己流で行う前に、まず主治医・リハビリ専門職に相談することをおすすめします1,2,4
SECTION 01
めまい・ふらつきと前庭リハビリとは

私たちが立ったり歩いたりするとき、体は「目からの情報」「足の裏などの感覚」「内耳の平衡感覚(前庭)」の3つをまとめてバランスをとっています。脳卒中の後は、この情報のまとめ役である脳がダメージを受けることで、ふらつきやめまい、まっすぐ立っている感覚のずれが起こることがあります1

前庭リハビリテーションは、こうしたバランスの土台に働きかける運動の組み合わせです1。代表的なものに、頭を動かしながら一点を見続けて視線のブレを抑える「注視安定訓練」、頭や体をゆっくり動かす運動、立った姿勢でのバランス運動などがあります1,5。回転いすを使った運動を組み合わせる方法も研究されています1。なお、めまいには内耳そのものの病気や血圧など、脳卒中以外の原因もあります。原因によって対応が変わるため、まずは医師の評価が大切です。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「通常のリハビリに前庭リハビリを加えると、バランスや歩行の指標に良い変化を示した研究がまとまってきている」一方で、「研究の質にばらつきがあり、確実といえるほどではない」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。

バランス・歩行についての大きな分析
脳卒中後の前庭リハビリについて、15件の研究・769人をまとめた系統的レビュー・メタアナリシス(2023年)があります。この分析では、通常のリハビリに前庭リハビリを加えた群が、加えない群と比べて、バランスの指標(効果量SMD 0.59)で良い方向の結果を示しました。歩行の指標(Timed Up and Go:立ち上がって歩いて戻る時間)も平均で約4.32秒短くなりました。研究の質はPEDroという指標で平均5.9点(10点満点)で、根拠の確からしさは「中程度」と評価されています1。特に、注視安定訓練と回転いすの運動を組み合わせた場合(SMD 0.85)や、4週間続けた場合(SMD 0.64)に、より良い変化がみられました1
発症から時間が経った方の分析
発症からしばらく経った時期(亜急性後期〜慢性期、平均で発症から約36か月)の方を中心に、11件の研究・509人をまとめた分析(2025年)でも、前庭リハビリでバランスの指標に良い変化(SMD 0.64)が示されました。特にバランスに特化した運動で大きな変化がみられています。あわせて、歩きながら別のことを行う「二重課題」の練習では、歩行の指標に中くらいの良い変化(SMD 0.46)が報告されました2。重い有害な出来事は報告されておらず、比較的安全に取り入れやすい方法とされています2。歩きながら考え事や会話をするような二重課題の練習については脳卒中後の二重課題トレーニングについて解説した記事でも紹介しています。
個々の試験から
発症してまもない時期の方52人を対象に、早期リハビリに前庭・感覚の運動を加えた試験(2024年)では、加えた群でバランスの指標により大きな良い変化がみられました5。一方、前庭リハビリとバーチャルリアリティ(VR)を比べた34人の試験(2023年)では、めまいの症状は前庭リハビリのほうが、バランスと歩行はVRのほうが良い変化を示すなど、方法によって得意な部分が違う可能性も示されています3
手すりと療法士の見守りで行う注視と立位の練習
立位での頭部運動は、手すりと専門職の見守りを使って安全を優先します。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
これらの研究には共通した限界があります。まず、参加者や担当者を伏せる(盲検化する)ことが十分でない研究があり、割り付けの隠し方に弱さがあった点が指摘されています1。研究間の結果のばらつき(異質性)も大きく、まとめて分析した際の根拠の確からしさは、指標によっては「中程度」から「低い・非常に低い」まで幅がありました1,2。とくに歩行だけに絞った少数の研究をまとめたレビューでは、研究数が3件と少なく、質も非常に低いと評価され、確実な結論は出せないとされています4。良い結果を示した研究があっても、すべての方に同じ変化が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、前庭リハビリについて、どの運動の組み合わせが最も役立つのか、週に何回・何分・どのくらいの期間続けるとよいのかは、十分に定まっていません2。どの時期(急性期・回復期・生活期)の、どんなタイプのめまいやバランス障害の方に最も向いているのかもはっきりしていません1,4。バランスや歩行の指標が良くなったことが、実生活での転倒の少なさや外出のしやすさにどこまでつながるのかも、今後の課題です。めまいの原因は脳卒中だけとは限らないため、原因の見きわめも重要です。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、前庭リハビリは「通常のリハビリに組み合わせることで、バランスや歩行の指標、ふらつき・めまいの感じ方に良い変化を示しうる選択肢」と考えるのが現実的です1,2。特別な機器がなくても始められる運動が多く、比較的安全に取り入れやすい点は利点です。ふらつきが和らぐことで、動くことへの不安が軽くなり、リハビリに取り組みやすくなる可能性も考えられます2

一方で、「前庭リハビリだけでめまいが完全になくなる」「これだけで転ばなくなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません1,4。反応には個人差があり、変化を感じにくい方もいます。前庭リハビリは単独の決め手ではなく、歩行やバランスの練習、筋力づくり、必要に応じた環境の工夫などと組み合わせる「一部」として位置づけるのが現実的です。バランスを整える取り組み全体については脳卒中後のバランス訓練について解説した記事もご覧ください。

SECTION 05
どんな人に向いているか

研究の対象を見ると、脳卒中後にふらつきやめまい、バランスの不安があり、通常のリハビリに何か加えたい方が想定されています1,2。発症から6か月以内の方で、より良い変化が報告されている一方、発症から時間が経った方でもバランスに良い変化がみられています1,2。頭を動かす運動が中心のため、めまいが強い方は最初につらく感じることもあり、少しずつ慣らしていく配慮が必要です。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
前庭リハビリは比較的安全な運動が多いですが、注意点があります。頭を動かす運動でめまいや吐き気が強く出ることがあり、無理に続けると気分が悪くなることがあります。立って行う運動は転倒の危険があるため、支えのある環境で行うことが大切です。急に強くなっためまい、これまでと違うめまい、手足のしびれ・ろれつが回らないなどの症状を伴うめまいは、新たな病気のサインのこともあります。その場合は運動を続けず、すぐに医療機関に相談してください。めまいの原因は人によって異なり、脳卒中以外の原因が隠れていることもあります。自己流で運動を始める前に、まず主治医・リハビリ専門職に、自分のめまいの原因や体の状態に合う運動を相談することをおすすめします。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、成果をすべての方に保証するものではありません。
SECTION 06
進め方・頻度の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、注視安定訓練や頭・体を動かす運動、バランス運動を組み合わせ、4週間ほど続ける形などが報告されています1。前庭リハビリは通常のリハビリに「加える」形で行われていた点が大切です1。頭を動かす運動でめまいが出やすいため、最初は短い時間・ゆっくりした動きから始め、体の慣れに合わせて少しずつ増やしていくのが一般的です。

これはあくまで研究の目安であり、実際の運動の種類や頻度は一人ひとりのめまいの原因や状態に合わせて調整します。運動中に強いめまい・吐き気・冷や汗が出たときは中止し、無理をしません。ふらつきが強い時期は、支えを使う・座って行うなど、安全を最優先にします。

周囲を確認しながら行う脳卒中後の安全な歩行練習
視線や頭の動きを、歩行や周囲の確認など生活場面へ段階的につなげます。
SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
当施設でのリアルな経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、「立つとふらつく」「頭を動かすとくらっとする」というお悩みはよくいただきます。私たちが前庭リハビリの要素を取り入れるときにまず大切にしているのは、いきなり運動を始めないことです。めまいの出方や、どんな動きで強くなるか、血圧の変化などをていねいに確認し、必要に応じて医師の評価をお願いします。そのうえで、支えのある環境で、短い時間・ゆっくりした動きから始め、体の慣れを見ながら少しずつ進めます。実際に、続けるうちに動くことへの不安が軽くなったと話される方もいれば、めまいが強く出て内容を大きく変えた方もいらっしゃいました。前庭リハビリは万能ではなく、生活のなかで安全に動けるようになるための一つの手段として、その方のめまいの背景に合わせてていねいに選んでいくことを心がけています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
めまいやふらつき、バランスの状態を一緒に確認しながら、生活に合ったリハビリの進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。めまいには脳卒中以外にもさまざまな原因があり、対応が異なります。実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。急に強くなっためまい、これまでと違うめまい、手足のしびれや言葉の出にくさを伴うめまいがある場合は、運動を続けず速やかに医療機関に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
前庭リハビリは脳卒中のめまいに使えますか?
脳卒中後のバランスやふらつきに対して研究されています。通常のリハビリに加える形で、バランスや歩行の指標に良い変化を示した研究があります。ただしめまいの原因はさまざまなので、まずは原因を確認するためにも主治医・リハビリ専門職に相談してください。
運動をするとかえってめまいが強くなりませんか?
頭を動かす運動で一時的にめまいを感じることはあります。最初は短い時間・ゆっくりした動きから始め、慣れに合わせて少しずつ進めます。強いめまいや吐き気が出るときは中止し、専門職に相談してください。
どのくらいの期間続ければよいですか?
研究では4週間ほど続けた報告があります。ただしこれは目安で、適切な期間や運動の種類はめまいの原因や状態によって異なります。無理のない範囲で、専門職と相談しながら進めてください。
発症から時間が経っていても意味はありますか?
発症から時間が経った方を対象にした分析でも、バランスの指標に良い変化が報告されています。ただし個人差があり、原因や状態によって向き・不向きがあります。専門職に状態を確認してもらうとよいでしょう。
家で自分だけでやっても大丈夫ですか?
立って行う運動は転倒の危険があり、めまいが強く出ることもあります。まずは専門職に運動の種類や進め方を確認し、支えのある安全な環境で行うことをおすすめします。ひとりで無理に進めないようにしてください。
こんなめまいは受診したほうがよい、という目安はありますか?
急に強くなっためまい、これまでと違うめまい、手足のしびれ・ろれつが回らない・強い頭痛を伴うめまいは、早めの受診が大切です。判断に迷うときは自己判断で運動を続けず、医療機関に相談してください。
REFERENCES
参考文献
1. Meng L, Liang Q, Yuan J, Li S, Ge Y, Yang J, Tsang RCC, Wei Q. Vestibular rehabilitation therapy on balance and gait in patients after stroke: a systematic review and meta-analysis. BMC Medicine. 2023. DOI:10.1186/s12916-023-03029-9. PMID:37626339. PMCID:PMC10464347. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37626339/
2. Nairn B, Koohi N, Kaski D, Bamiou DE, Pavlou M. Impact of Vestibular Rehabilitation and Dual-Task Training on Balance and Gait in Survivors of Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis. Journal of the American Heart Association. 2025. DOI:10.1161/JAHA.124.040663. PMID:40407062. PMCID:PMC12229107. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40407062/
3. Sana V, Ghous M, Kashif M, Albalwi A, Muneer R, Zia M. Effects of vestibular rehabilitation therapy versus virtual reality on balance, dizziness, and gait in patients with subacute stroke: A randomized controlled trial. Medicine. 2023. DOI:10.1097/MD.0000000000033203. PMID:37327306. PMCID:PMC10270552. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37327306/
4. Mitsutake T, Imura T, Tanaka R. The Effects of Vestibular Rehabilitation on Gait Performance in Patients with Stroke: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Journal of Stroke and Cerebrovascular Diseases. 2020. DOI:10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2020.105214. PMID:33066892. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33066892/
5. Calisgan E, Talu B. The effect of vestibular and somatosensory rehabilitation in addition to early rehabilitation on balance after stroke: a randomized controlled trial. Topics in Stroke Rehabilitation. 2024. DOI:10.1080/10749357.2024.2318096. PMID:38373015. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38373015/