
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
結論:手や腕の運動がパーキンソン病の非運動症状や認知機能に関係する可能性はありますが、研究は小規模で、どの運動が最も良いかは分かっていません。VR訓練も通常の上肢訓練を明確に上回るとは確認されておらず、薬の効く時間帯や転倒リスクに合わせた個別調整が重要です。
パーキンソン病というと、手足の震えや歩行の問題(運動症状)に目が向きがちですが、不安・抑うつ・意欲低下・認知機能の変化といった「非運動症状」も生活の質に大きく影響します。近年、手や腕を使う「上肢運動」がこうした非運動症状の軽減や認知機能の維持に関わる可能性が研究で示されつつあります1。この記事では、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、できるだけ正直に整理します。
2. 研究では何が示されているのか
3. エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
4. 何が変わりやすく、何は変わりにくいか
5. どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
6. 運動の内容と進め方の目安
7. 運動を取り入れる前に確認したいこと
8. よくある質問
9. 参考文献
非運動症状とは何か・なぜ上肢運動が注目されるのか
パーキンソン病の非運動症状には、不安、抑うつ、無気力(アパシー)、睡眠の問題、幻覚、そして記憶力や段取り力といった認知機能の変化が含まれます。これらは運動症状と同じくらい、あるいはそれ以上に生活の質に影響することが知られています。パーキンソン病のうつについては、パーキンソン病のうつと運動療法について解説した記事でも扱っています。
これまで、パーキンソン病への運動療法研究は歩行やバランスといった下肢・全身の運動が中心でした。一方、手や腕を使う「上肢運動」が非運動症状や認知機能に及ぼす影響については、まだ研究が少ない分野でした1。近年、上肢運動そのものを対象にした研究が報告されるようになっています。

研究では何が示されているのか
上肢運動3種類を比較したランダム化比較試験(2026年・地域在住37人)
地域在住のパーキンソン病患者37人(平均年齢62±10歳、罹病期間平均7±5年)を、上肢の筋力トレーニング群、有酸素運動群、課題特異的訓練群、通常ケア対照群の4群に無作為に割り付けた試験です。週3回・1回40〜50分、8週間実施されました。結果、3つの上肢運動群はいずれも、対照群と比べて非運動症状全体の重症度(MDS-UPDRS Part I)と認知機能の低下を同程度に抑える効果が見られました。筋力トレーニング群と課題特異的訓練群では不安も軽減し、筋力トレーニング群では無気力(意欲低下)の軽減も見られました。研究チームは「単独の上肢運動でも非運動症状に臨床的に意味のある効果が得られることを示した初めての研究」と位置づけています1。
没入型VR上肢訓練のランダム化比較試験(2026年・入院患者58人)
入院リハビリ中のパーキンソン病患者58人を、没入型VR(バーチャルリアリティ)を使った上肢訓練群と、通常の上肢訓練群に無作為に割り付けた二施設評価者盲検試験です。週4回・30分、4週間実施されました。腕の機能・手の機能という主要評価項目では、VR群と通常訓練群の間に明確な差はなく、手の機能は通常訓練群の群内比較で改善しましたが、両群の優劣を示すものではありません。ただし、健康関連QOLの「日常生活動作」領域と「認知関連」領域では、VR群で変化が示唆されています。研究チームは「VR上肢訓練は実行可能で受け入れられやすいが、通常訓練と比べた明確な優位性は示されなかった」と結論づけています2。
有酸素インターバルトレーニングのランダム化比較試験(2019年・軽度〜中等度20人)
軽度〜中等度のパーキンソン病患者20人を、8週間の有酸素インターバルトレーニング群(自転車エルゴメーター使用)と従来の理学療法を行う対照群に無作為に割り付けた試験です。トレーニング群では、両手動作の協調性、遂行機能(ストループテストの成績向上、p=0.007)、上肢のブラジキネジア(動作緩慢、p=0.015)、日常生活動作(p=0.004)、気分・知的機能(p=0.005)に改善が見られました。これは腕だけの運動を検証した試験ではありません。全身の有酸素運動に関する補助的な情報として解釈する必要があり、参加者20人という小規模な研究です3。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
上肢運動と非運動症状を直接扱った研究は、小規模試験で前向きな結果が報告されていますが、この報告だけで効果を確定することはできません1。一方、内容を詳しく確認できた2つの研究では、VR上肢訓練は通常訓練を明確に上回る効果は示されず2、有酸素運動の研究は参加者20人という小規模なものでした3。3つの研究に共通するのは、いずれも参加者が20〜58人と少なく、単独の研究だけで「上肢運動が非運動症状に効く」と言い切れる段階ではないという点です。
まだ分かっていないこと
1. 上肢の筋力トレーニング・有酸素運動・課題特異的訓練のうち、非運動症状にどれが最も効果的かは、37人規模の1研究だけでは確立していません1。
2. VRなどのデジタル機器を使うことで、通常の上肢訓練より効果が上乗せされるかどうかは、現時点で明確な優位性が確認されていません2。
3. 効果がどのくらい続くか。紹介した研究はいずれも介入終了時点までの評価で、長期的な効果の持続は分かっていません1,2,3。
4. 重症度・罹病期間の異なる患者への当てはまりやすさ。紹介した研究の対象は軽度〜中等度が中心です1,3。
5. 日本人パーキンソン病患者における実態。紹介した研究はブラジル・オーストリア・ポーランドの集団が対象で、日本人での検証は限られています。
研究の数値は、参加した集団の平均的な傾向です。パーキンソン病の重症度、罹病期間、併存疾患、生活環境は人によって大きく異なるため、ある研究で報告された結果が、そのままご自身やご家族に当てはまるとは限りません。

何が変わりやすく、何は変わりにくいか
・自転車エルゴメーター運動後の遂行機能などの変化(上肢単独の効果を示す研究ではない)3
・VR上肢訓練後のQOL認知関連領域の変化の示唆2
・どの運動モダリティが最も効果的かという優劣1
・効果の長期的な持続性(いずれも短期評価にとどまる)1,2,3
パーキンソン病の認知機能全般への運動療法・認知トレーニングの考え方は、パーキンソン病の認知機能と認知トレーニングについて解説した記事でも整理しています。デジタル機器を使ったリハビリ全般については、パーキンソン病のVRリハビリについて解説した記事もあわせてご覧ください。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か
紹介した研究の多くは、Hoehn & Yahr重症度分類で軽度〜中等度(ステージ2前後)のパーキンソン病患者が対象です1,3。上肢運動は歩行やバランスへの負担が少ないため、転倒リスクが気になる方でも比較的取り組みやすい運動の一つと考えられます。
・服薬調整中で症状の変動が大きい
・強い抑うつや意欲低下があり、運動への取り組み自体が難しい
・認知機能の低下により、動作の理解や模倣が難しい
・心疾患など運動強度の調整が必要な持病がある
パーキンソン病は症状の日内変動があるため、薬の効果が出ている時間帯(オン時)に運動を行うなど、服薬タイミングとの兼ね合いを主治医・リハビリ専門職と相談しながら進めることが大切です。
運動の内容と進め方の目安
下記は研究で扱われた内容の紹介であり、「これが唯一の正解」という意味ではありません。実際の内容は、症状の程度・体力・生活環境によって個別に決められます。
・1回の時間:30〜50分程度1,2
・期間:4〜8週間の短期プログラムとして検証されている1,2,3
・内容例:上肢の筋力トレーニング、有酸素運動(エルゴメーターなど)、課題特異的訓練(日常動作を模した課題)1,3
大切なのは、上肢運動を「歩行・バランス訓練の代わり」にするのではなく、全身の運動療法と組み合わせた選択肢の一つとして位置づけることだと考えられます。

運動を取り入れる前に確認したいこと
手や腕の運動を選ぶ際は、生活で使いたい動作、疲労、服薬後の動きやすい時間を確認します。意欲や気分の変化が強い場合は運動だけで対処しようとせず、主治医に相談してください。
作業療法士としての視点
作業療法士の視点では、筋力や反応速度だけでなく、食事、着替え、書字、スマートフォン操作など本人が困っている具体的な作業を評価します。上肢練習は、意味のある生活動作の中で反復できる形に調整し、疲労やオン・オフ変動も含めて無理のない量を検討します。
中止基準と医療機関へ相談すべき症状
運動中に胸の痛み、強い息苦しさ、動悸、冷汗、強いめまい、失神しそうな感覚、急な脱力・しびれ・ろれつの回りにくさ、普段と異なる強い振戦や固縮、すくみ足による転倒、痛みの急な増悪が出た場合は中止してください。急な神経症状や胸痛は救急受診を検討し、オン・オフ変動が大きくなった場合は主治医へ相談してください。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月18日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機関・製薬・医療機器事業者から本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
よくある質問
Q. 上肢運動だけで非運動症状は良くなりますか?
Q. VRを使った訓練のほうが効果的ですか?
Q. どんな上肢運動が良いのですか?
Q. 認知機能にも効果がありますか?
Q. どのくらいの期間続ければ効果が出ますか?
Q. 日本人でも同じ結果になりますか?
参考文献
2. Heinzle K, Habig J, Pröglhöf M, Diwald A, Mildner S, Haslinger M, Lehner F, Stampfer-Kountchev M, Hatschenberger R, Brenneis C, Seebacher B. Immersive virtual reality upper-limb exercises in people with Parkinson’s disease: an observer-blinded randomised controlled trial. Journal of NeuroEngineering and Rehabilitation (J Neuroeng Rehabil). 2026. doi:10.1186/s12984-025-01851-1. PMID: 41508050. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12781375/
3. Marusiak J, Fisher BE, Jaskólska A, Słotwiński K, Budrewicz S, Koszewicz M, Kisiel-Sajewicz K, Kamiński B, Jaskólski A. Eight Weeks of Aerobic Interval Training Improves Psychomotor Function in Patients with Parkinson’s Disease-Randomized Controlled Trial. International Journal of Environmental Research and Public Health (Int J Environ Res Public Health). 2019. doi:10.3390/ijerph16050880. PMID: 30861998. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6427316/