パーキンソン病のうつ(抑うつ)と運動療法とは?研究で分かっていることと限界を正直に解説

· パーキンソン病関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病のうつ(抑うつ)と運動療法とは?研究で分かっていることと限界を正直に解説

パーキンソン病と診断されたあと、体の動かしにくさだけでなく「なんとなく気分が晴れない」「以前より意欲がわかない」と感じる方は少なくありません。うつ症状はパーキンソン病でよくみられる非運動症状のひとつで、運動症状より先に現れることもあると報告されています。この記事では、運動療法とうつ症状の関係について、研究で分かっていることと、まだはっきりしていないことを整理してお伝えします。

この記事の要点
・パーキンソン病のうつ症状は珍しいものではなく、脳の変化そのものが関わっている可能性があると考えられています。
・複数のメタアナリシスで、運動によって抑うつ症状の指標が下がる傾向が報告されていますが、研究の質は高くないと評価されています。
・一方で、パーキンソン病だけに対象を絞った解析では、はっきりした差が確認できなかったという報告もあり、結論は完全には一致していません。
・意欲の低下(アパシー)とうつ症状は似て見えても別のものとされ、区別には専門的な評価が役立ちます。
SECTION 01
パーキンソン病の「うつ」とは

パーキンソン病のうつ症状は、診断を受けたショックや生活の変化だけで説明できるものではないと考えられています。パーキンソン病では、運動に関わるドパミンだけでなく、気分に関わるセロトニンやノルアドレナリンの神経系にも変化が起こることが知られており、うつ症状は病気そのものの経過に関わる非運動症状のひとつとして扱われています。実際、運動症状がはっきりする前からうつ症状や意欲の低下がみられることも報告されています。

注意したいのは、「うつ」と「アパシー(意欲の低下)」は見た目が似ていても別の状態として整理されている点です。アパシーは気分の落ち込みそのものよりも、物事への関心や自発的な行動が乏しくなる状態を指すことが多く、うつを伴って起こることもあれば、うつを伴わずに単独で起こることもあります。この区別には専門的な評価が必要なため、気になる変化があれば自己判断せず、主治医や専門職に相談することをおすすめします。気分や意欲の状態を数値で把握するための評価指標については、パーキンソン病のリハビリで用いる評価指標について解説した記事でも取り上げています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から言うと、運動療法はうつ症状の指標を下げる方向に働く可能性が複数のメタアナリシスで報告されていますが、研究の質はまだ高くないと評価されています。「運動すれば必ず気分が良くなる」というより、「選択肢の一つとして検討する価値がある」という位置づけが実情に近いと考えています。

研究から読み取れること
パーキンソン病患者を対象としたランダム化比較試験14件(参加者516名)を統合したメタアナリシスでは、運動によって抑うつ症状の指標が中程度改善したことが報告されています(標準化平均差 −0.60)1。特にレジスタンス運動(筋力トレーニング)を1回60〜90分・週4回以上・12週間以上続けた群で効果が大きく、発症から5年を超える人ではより明確な差がみられた一方、発症5年以内の人ではその差がはっきりしませんでした1。別の系統的レビュー(RCT14件、参加者961名)でも、通常ケアと比べて運動群で抑うつ症状の指標が下がったことが示されていますが(標準化平均差 −0.49)、著者らはこの結果の確実性を「非常に低い」と評価しています2。マインドフルネスヨガとストレッチ・筋力トレーニングを比較したランダム化比較試験もあり、軽度〜中等度のパーキンソン病患者138名を対象に8週間介入し20週まで追跡した結果、ヨガ群でうつ・不安の指標がより大きく下がったと報告されています3。ヨガを用いたリハビリについては、パーキンソン病とヨガの研究について解説した記事でも取り上げています。
自宅でレジスタンスバンド運動に取り組むパーキンソン病の高齢者と支援するリハビリ専門職
運動量は研究条件をそのまま当てはめず、体調や症状に合わせて調整します。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

ただし、すべての研究が同じ結論を出しているわけではありません。パーキンソン病を含む複数の脳の病気を横断的に解析したメタアナリシス(122研究、7231名)では、脳の病気全体でみると運動は抑うつ症状に大きな効果を示した一方、パーキンソン病だけを対象にした5件の研究に限ると、統計的にはっきりした差は確認されませんでした(効果量0.05、有意差なし)4。同じ「運動とうつ」というテーマでも、対象の絞り方や統合の仕方によって結論が変わりうるということです。さらに2008年の初期のメタアナリシスでは、運動がうつ症状を減らすという十分な根拠はまだないと結論づけられていました5。近年の研究でプラスの傾向が積み重なってきてはいるものの、「はっきり確立した」とまでは言い切れないのが現状だと考えています。

まだ分かっていないこと
・どのくらいの強度・種目(有酸素運動、筋力トレーニング、ヨガなど)が最も適しているかは、研究によって結論が分かれています。
・発症からの年数や重症度によって効果の出方が違う可能性が示唆されていますが、十分に検証されていません。
・運動そのものの効果なのか、人と関わる時間が増えたことなど別の要因が関わっているのかを、研究だけで完全には切り分けられていません。
・研究の多くはサンプルサイズが小さく盲検化も難しいという構造的な限界があり、今回紹介した研究の多くでバイアスのリスクが高いと評価されています。
SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究結果を踏まえると、比較的変わりやすいのは、抑うつ症状を測る質問紙のスコアや、生活の質(QOL)に関する指標です123。一方で、意欲の低下(アパシー)や認知機能は気分の指標とは別の動きをすることがあり、うつの指標が下がったからといって意欲や認知面まで同じように変わるとは限りません。運動機能についても、ヨガとストレッチ・筋力トレーニングを比較した研究では両群とも同程度に変化しており、気分面の差がそのまま運動機能の差になるわけではないことがうかがえます3

また、効果の大きさには個人差があります。発症から時間が経っている人の方が変化を感じやすいという報告がある一方1、パーキンソン病だけに絞るとはっきりした差が出なかったという報告もあり4、「誰にでも同じように効く」と言い切れるものではありません。

SECTION 05
どんな人に向いているか・注意したい人

軽度〜中等度で、支えなし、または補助具を使って立位・歩行ができる方は、これまで紹介した研究の対象に近く、運動療法を検討しやすい場合が多いといえます3。一方で、重度の運動症状がある方や認知機能の低下が大きい方は、多くの研究で対象から除外されており、そのまま同じ結果が当てはまるとは限りません3

⚠ 忘れたくない大切なこと
強い気分の落ち込みや「消えてしまいたい」という気持ちがあるとき、意欲の低下が急に強まったとき、現在精神科的な治療を受けているときは、運動を始める前に必ず主治医や専門職に相談してください。うつ症状は本人の性格や努力不足によるものではなく、病気の経過に関わる症状のひとつです。
SECTION 06
頻度・時間・期間の目安

研究で使われた内容を目安として紹介します。ある系統的レビューでは、1回60〜90分のレジスタンス運動を週4回以上・12週間以上続けた設定で、抑うつ症状の指標がより大きく下がったと報告されています1。ヨガを用いた研究では、90分のセッションを週1回・8週間行い、さらに自宅で20分程度の自主練習を週2回程度取り入れる形がとられていました3。ただし、これらはあくまで研究で採用された設定であり、体力や体調、パーキンソン病の重症度によって無理のない量は大きく異なります。運動やリハビリの頻度そのものについては、パーキンソン病のリハビリの頻度について解説した記事でも取り上げています。実際にどの程度の頻度・時間から始めるかは、専門職と相談しながら決めることをおすすめします。

公園で無理のない歩行練習に取り組む高齢者とリハビリ専門職
続けやすい活動を小さく始め、気分と身体症状の両方を確認します。
SECTION 07
支援で重視する確認ポイント
🏥 運動だけで判断しないために
気分の落ち込みがある場合は、運動の可否だけでなく、睡眠、食欲、服薬状況、痛み、疲労、活動量の変化を一緒に確認することが大切です。強い希死念慮、自傷の考え、急激な悪化、日常生活が保てない状態があるときは、運動を優先せず、主治医・精神科や心療内科などの医療機関へ早めに相談してください。うつ症状の診断や治療を運動だけで置き換えることはできません。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。気分の落ち込みや運動・リハビリの内容は、主治医や担当専門職に相談しながら調整してください。強い抑うつや「消えてしまいたい」という気持ちがあるときは、早めに医療機関へご相談ください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。(公開日:2026年8月11日)
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
主治医の指示の範囲内で、歩き方や足元の状態、生活での困りごとを一緒に確認しながら進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
運動をすればパーキンソン病のうつはなくなりますか?
運動には抑うつ症状の指標を下げる方向に働く可能性が研究で報告されていますが、効果の大きさは研究によって異なり個人差もあります。なくなることを保証するものではなく、医療的な支援と組み合わせて考えるものです。
うつと意欲の低下(アパシー)はどう違いますか?
うつは気分の落ち込みそのものが中心ですが、アパシーは物事への関心や自発的な行動が乏しくなる状態を指し、別のものとして整理されています。見分けには専門的な評価が役立つため、気になる場合は主治医や専門職に相談してください。
どんな運動から始めればよいですか?
研究では筋力トレーニングやヨガなどが用いられていますが、まずは無理のない範囲でできる軽い運動から始めるのが現実的です。体の状態や持病に合わせて、専門職と一緒に内容を決めると安心です。
発症してから何年たっていても運動は意味がありますか?
発症から5年を超える方でより明確な差が報告された研究がある一方、はっきりしないとする報告もあり、結論は一致していません。発症年数だけで判断せず、今の体調に合わせて専門職と検討することをおすすめします。
家族はどう関わればよいですか?
「頑張って」と急かすより、一緒に体を動かす時間や外出のきっかけをつくることが助けになることがあります。強い気分の落ち込みなど心配なサインがあるときは、家族から専門職に相談しても構いません。
抗うつ薬とリハビリはどちらを優先すべきですか?
どちらか一方を選ぶものではなく、症状の程度や本人の状態に応じて医師が総合的に判断するものです。薬の使用や中止は自己判断せず、必ず主治医に相談してください。
REFERENCES
参考文献
1. Tian J, Kang Y, Liu P, Yu H. Effect of Physical Activity on Depression in Patients with Parkinson's Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2022. DOI:10.3390/ijerph19116849. PMID:35682432. PMCID:PMC9180645.
2. Feller D, Fox I, Gozzer P, Trentin F, Papola D. Exercise for Depressive Symptoms in Parkinson Disease: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Arch Phys Med Rehabil. 2023. DOI:10.1016/j.apmr.2022.07.021. PMID:36030894.
3. Kwok JYY, Kwan JCY, Auyeung M, Mok VCT, Lau CKY, Choi KC, Chan HYL. Effects of Mindfulness Yoga vs Stretching and Resistance Training Exercises on Anxiety and Depression for People With Parkinson Disease: A Randomized Clinical Trial. JAMA Neurol. 2019. DOI:10.1001/jamaneurol.2019.0534. PMID:30958514. PMCID:PMC6583059.
4. Dauwan M, Begemann MJH, Slot MIE, Lee EHM, Scheltens P, Sommer IEC. Physical exercise improves quality of life, depressive symptoms, and cognition across chronic brain disorders: a transdiagnostic systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. J Neurol. 2021. DOI:10.1007/s00415-019-09493-9. PMID:31414194. PMCID:PMC7990819.
5. Goodwin VA, Richards SH, Taylor RS, Taylor AH, Campbell JL. The effectiveness of exercise interventions for people with Parkinson's disease: a systematic review and meta-analysis. Mov Disord. 2008. DOI:10.1002/mds.21922. PMID:18181210.