パーキンソン病の認知機能と認知トレーニングとは?物忘れ・段取りへの研究と限界を正直に解説

· パーキンソン病関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の認知機能と認知トレーニングとは?物忘れ・段取りへの研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月27日
「最近、物忘れが増えた気がする」「二つのことを同時に進めるのが難しくなった」——こうした変化は、パーキンソン病で認知機能を確認するきっかけになります。パーキンソン病では、体の動きだけでなく、考えたり段取りを立てたりする力(認知機能)にも変化が起こることが知られています。結論から正直にお伝えします。パソコンや課題を使った「認知トレーニング」については、研究の結果が分かれており、全体としてはっきりした効果は確認されていません。この記事では、作業療法士の立場から、何が分かっていて何が分かっていないのかを、期待をあおらずに整理します。
SECTION 01
パーキンソン病で起こる認知機能の変化とは
パーキンソン病は、震えや動きにくさといった運動の症状で知られていますが、それだけの病気ではありません。経過のなかで認知機能に変化がみられることがあり、動きの症状とは別に評価することが大切です1
比較的みられやすいのは、段取りを立てる、注意を切り替える、二つのことを同時に進める、必要な情報を一時的に覚えておく——といった力の変化です。専門的には遂行機能や注意、ワーキングメモリと呼ばれる領域です。ただし現れ方には個人差があり、記憶の変化や認知症の有無を症状だけで自己判断することはできません。
医学的には、日常生活は自立しているものの検査で変化がみられる段階を「パーキンソン病に伴う軽度認知障害(PD-MCI)」、生活に支障が出る段階を「パーキンソン病に伴う認知症(PDD)」と呼び分けています1。この記事で扱う「認知トレーニング」とは、記憶や注意、段取りといった特定の力に的をしぼって、課題やコンピューターの練習を繰り返し行う方法のことです。歩きながら考えるといった、動きと認知を組み合わせる方法については、パーキンソン病の二重課題トレーニングについて解説した記事で扱っています。
服薬や鍵など生活場面の困りごとを作業療法士と整理する高齢者
検査の点数だけでなく、生活のどの場面で困っているかを整理します。
SECTION 02
研究で分かっていること
研究紹介|コクランレビュー(2020年・7研究225名)
Orgetaらのコクランレビュー1は、パーキンソン病に伴う軽度認知障害または認知症のある方を対象に、認知トレーニングと対照条件を比べたランダム化比較試験7件(合計225名)をまとめたものです。練習期間は4〜8週間でした。その結果、全般的な認知機能では、統計的にはっきりした差は認められませんでした(標準化平均差 0.28、95%信頼区間 −0.03〜0.59)。遂行機能(0.10、−0.28〜0.48)や視覚的な情報処理(0.30、−0.21〜0.81)でも差は示されていません。注意(0.36、0.03〜0.68)と言葉の記憶(0.37、0.04〜0.69)では良い方向の差がみられましたが、認知機能の低下が軽い方が多く含まれる研究を除くと、この差は不確かになりました。日常生活動作(0.03)や生活の質(−0.01)にも差はありませんでした。エビデンスの確実性は、すべての項目で「低い」と評価されています。
一方で、認知機能の低下がまだ軽い段階の方を含めた研究では、やや異なる結果も報告されています。Leungらのメタアナリシス2では、ホーン・ヤール分類I〜IIIの方を対象とした7研究(272名)をまとめ、認知トレーニング全体として小さいながら統計的な差がみられました(効果量 g=0.23、95%信頼区間 0.014〜0.44、p=0.037)。領域別にみると、一時的に情報を保持する力(g=0.74)、情報処理の速さ(g=0.31)、段取りを立てる力(g=0.30)で差が示されました。一方、全般的な認知機能、記憶、視空間の力、気分の落ち込み、生活の質、生活動作では、はっきりした差はありませんでした。研究間のばらつきは小さく、有害な出来事の報告もありませんでした。
この二つを並べると、傾向が見えてきます。認知トレーニングは、「練習した課題に近い力」には小さな差が出ることがある一方、「全般的な認知機能」や「日常生活そのもの」への差ははっきりしない、という整理です。とくに、すでに認知機能の低下がある方(PD-MCIやPDD)を対象にしたコクランレビューでは、明確な効果は確認されていません1
なお、認知機能に働きかける方法は認知トレーニングだけではありません。運動そのものが認知面に関わる可能性も検討されています。運動と認知の関係については、認知症の方への運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
コクランレビュー1では、集まった研究が7件・225名と少なく、研究の進め方に偏り(バイアス)のリスクがあること、結果の幅が広く精度が低いことから、エビデンスの確実性はすべての項目で「低い」と判定されています。研究の対象者も、多くは地域で暮らす軽度認知障害の方で、認知症の段階にある方を対象とした研究は1件のみでした。また、比較の相手(対照条件)が、何もしない場合、レクリエーション、言語の練習、運動など研究ごとに大きく異なるため、比べにくいという課題もあります。練習期間も4〜8週間と短く、その後どうなるかは確認されていません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・練習で得られた変化が、実際の暮らし(家事の段取り、金銭の管理、外出など)にどこまで結びつくかは確認されていません1,2
・認知機能の低下がどの段階の方に最も向いているのかは、十分に確立していません1。とくに認知症の段階にある方への研究はほとんどありません。
・最適な課題の種類、1回の時間、頻度、続ける期間ははっきり決まっていません1,2
・練習をやめた後に効果がどのくらい続くのか、長期的にみて認知機能の低下を遅らせられるのかは分かっていません2
・認知トレーニングと運動を組み合わせた場合にどうなるかは、さらに検討が必要です1
専門職が難しさを調整しながらコンピューターの認知課題に取り組む高齢者
課題を行う場合も、疲労や負担に合わせた個別調整が必要です。
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
正直に整理します。良い方向の差が報告されているのは、練習した内容に近い力です。具体的には、一時的に情報を覚えておく力、情報を処理する速さ、段取りを立てる力といった領域で、小さいながら差が示されています2。有害な出来事の報告はほとんどありませんでしたが、安全性に関する情報自体が少ないため、「安全性が確立している」とまでは言えません1,2
一方、はっきりしないこと、変わりにくいことのほうが多いのが現状です。全般的な認知機能への差は確認されていません1,2。日常生活動作や生活の質にも差は示されていません1,2。気分の落ち込みについても同様です2。そして、パーキンソン病そのものの進行や、認知機能の低下を将来にわたって食い止められるかどうかは、現在の研究では分かっていません1
実践では、「課題を繰り返せば認知機能全体が良くなる」とは考えず、いま困っている具体的な場面——たとえば「服薬を忘れる」「料理の手順が飛ぶ」「出かける準備に時間がかかる」——を整理します。そのうえで、手順を見える形にする、順番を固定する、環境側を変えるといった工夫を、ご本人・ご家族・専門職で組み立てます。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究の対象となってきたのは、主に地域で暮らす、認知機能の変化が軽度な段階のパーキンソン病の方です1,2。課題の内容を理解でき、ある程度の時間集中して取り組める方であれば、選択肢として検討する場面があります。ただし安全性に関する情報は十分ではありません。疲労や自信の低下につながらないよう、難しさと時間を調整しながら行うことが大切です。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
認知面の変化には、パーキンソン病そのもの以外の原因が隠れていることがあります。薬の影響、うつや不安、睡眠不足や睡眠時の呼吸の問題、脱水や感染、甲状腺の病気などでも、物忘れや集中しにくさが強く出ることがあります。これらは対応することで変わる可能性があるため、「病気だから仕方ない」と決めつけず、まず主治医にご相談ください。また、短期間で急に物忘れが進んだ、幻視が出てきた、日によって様子が大きく変わるといったときは、早めの受診が必要です。課題の難しさが本人の自信を損なう場合は、無理に続けないことも大切です。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
コクランレビューに含まれた研究では、練習期間は4〜8週間で、多くが合計12回程度のセッションを行っていました1。ただし、これは研究で用いられた設定にすぎず、最適な頻度や期間ははっきり決まっていません1,2。効果自体がはっきりしていない以上、「この回数をこなせば」という目安を示すことは、現時点ではできません。
実際に取り入れる場合は、時間や回数にこだわるよりも、ご本人が負担なく続けられること、そして「できなかった」という体験が積み重ならないよう難しさを調整することのほうが大切だと考えています。パーキンソン病では薬の効き方によって集中しやすい時間帯が変わることがあるため、取り組む時間帯も専門職と相談しておくとよいでしょう。
鍵の置き場所や手順を決め家族と外出準備を確認する高齢者
手順を見える形にし、物の置き場所を固定するなど環境を整えます。
SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
まず、認知面の変化以外に原因がないかを整理します(薬、睡眠、気分、体調)。そのうえで、検査の点数ではなく「生活のどの場面で困っているか」を具体的に聞き取ります。服薬の管理、料理や買い物の段取り、書類やお金の管理、外出の準備などです。次に、困っている場面ごとに、手順を書き出す、道具の置き場所を決める、やることを一つずつに分ける、声かけのタイミングを決めるといった工夫を組み立て、ご家族と共有します。課題形式の練習を行う場合も、生活の困りごととつなげた内容にすることを意識します。
まとめると、パーキンソン病の認知トレーニングについては、練習した課題に近い一部の力に小さな差が報告されている一方、全般的な認知機能や日常生活への差ははっきり確認されていません。安全性の情報も限られており、「これをやれば認知機能の低下を止められる」といった説明はできません。認知面の変化が気になるときは、まず主治医に相談し、原因の整理と生活の工夫を並行して進めることをおすすめします。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。認知機能の変化には、パーキンソン病以外の原因が関わっている場合もあります。気になる変化があるときは、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
段取りや物忘れで困っている場面について、今の状態を一緒に確認しながら生活での工夫を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 脳トレのアプリやドリルは役に立ちますか?
研究では、練習した課題に近い一部の力に小さな差が報告されていますが、全般的な認知機能や日常生活への差ははっきり確認されていません1,2。安全性に関する情報も十分ではないため、疲れや自信の低下がみられるときは中止し、難しさや時間を専門職と見直してください。
Q. パーキンソン病では必ず認知症になりますか?
必ずではありません。経過のなかで何らかの認知面の変化を経験する方は多いとされていますが1、その程度や進み方は個人差がとても大きいものです。心配なときは、経過を主治医に定期的にみてもらうことをおすすめします。
Q. 物忘れが増えました。認知症でしょうか?
物忘れの背景には、薬の影響、睡眠不足、気分の落ち込み、体調の変化など、パーキンソン病以外の原因が関わっていることもあります。自己判断せず、まず主治医にご相談ください。原因によっては対応で変わる可能性があります。
Q. 運動は認知面にも関係しますか?
運動と認知の関係は研究が進んでいる分野ですが、パーキンソン病に限ればまだ結論は出ていません。ただし運動は動きの症状や体力の面で大切とされているため、認知面だけを目的にせず、続けられる形を専門職と相談されるとよいと思います。
Q. 家族はどう関わればよいですか?
できないことを指摘するより、手順を見える形にする、物の置き場所を固定する、一度に頼むことを一つにするなど、環境を整える関わりが役立つことが多いです。ご本人の自信を損なわない伝え方も大切です。具体的な工夫は専門職にご相談ください。
Q. 認知トレーニングをすれば進行を止められますか?
現在の研究では、認知機能の低下を長期的に遅らせられるかは分かっていません1,2。研究の期間も4〜8週間と短いものが中心です。進行そのものを止める方法として説明することはできません。
Q. すでに認知症と診断されていても取り組めますか?
認知症の段階にある方を対象とした研究はごくわずかで、効果は確認されていません1。課題の難しさが負担になることもあるため、取り組むかどうかは、ご本人の様子をみながら主治医や専門職と相談して決めることをおすすめします。
REFERENCES
参考文献
1. Orgeta V, McDonald KR, Poliakoff E, Hindle JV, Clare L, Leroi I. Cognitive training interventions for dementia and mild cognitive impairment in Parkinson's disease. Cochrane Database Syst Rev. 2020;2(2):CD011961. PMID: 32101639.
2. Leung IHK, Walton CC, Hallock H, Lewis SJG, Valenzuela M, Lampit A. Cognitive training in Parkinson disease: A systematic review and meta-analysis. Neurology. 2015;85(21):1843-1851. PMID: 26519540.