脳卒中後のウェアラブルデバイスとは?麻痺した手を「どれだけ使えているか」を測る研究と限界を正直に解説

· 脳卒中上肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のウェアラブルデバイスとは?麻痺した手を「どれだけ使えているか」を測る研究と限界を正直に解説

「練習のときは動くのに、家では結局使っていない気がします」——これは、上肢のリハビリを続けている方から本当によくいただくお話です。実は、この「実際の生活でどれだけ使えているか」は、練習室での動きの検査だけでは分かりません。近年、腕時計型のセンサーを手首に着けて、麻痺した手の使用量を数値として記録する方法が研究で使われるようになってきました。この記事では、こうしたウェアラブルデバイスについて、何が測れるのか、練習に組み合わせると何が変わるのか、そして何がまだはっきりしていないのかを整理します。結論から正直にお伝えすると、動きの大きな範囲の指標では良い方向の結果が示されている一方、手先の細かさや実生活での使用量そのものについては、まだ明確な差は示されていません1

手首センサーのデータを作業療法士と確認する場面
センサーの数字は、生活の使い方を話し合う材料のひとつです。
この記事の要点
・ウェアラブルデバイスとは、手首などに着けて動きを記録する機器のことです。研究では、麻痺した側と麻痺していない側の両手首に着け、動いた量の比を見る方法がよく使われます2
・14件の無作為化比較試験・508人をまとめた系統的レビュー・メタアナリシス(2024年)では、腕全体の動きの指標(FMA-UE)で標準化平均差0.26(95%信頼区間0.07〜0.45、I²=0%)、物をつまんで移す検査(BBT)で0.43(0.17〜0.69)と、良い方向の差がみられました1
・一方、同じ分析で、実生活での手の使用量を本人が申告する指標(MAL)では差がありませんでした(0.05、−0.35〜0.44)1
・カナダの6施設で73人が参加した無作為化比較試験では、センサーによる回数の表示と療法士の関わりを組み合わせた3週間の遠隔プログラムで、1日あたりの手を伸ばしてつかむ回数が1日368回多いという結果でした(95%信頼区間6〜730)3
・センサーは「どれだけ動いたか」は測れますが、「どう動いたか」「その動きが生活の役に立ったか」は測れません2
SECTION 01
なぜ「使っている量」を測るのか

脳卒中の後の上肢リハビリには、昔から知られている悩ましい現象があります。練習の場面では手を動かせるのに、日常生活に戻ると、つい使いやすい側の手だけで済ませてしまうというものです。使わない状態が続くと、動かせる力があってもさらに使わなくなっていきます。この考え方は、麻痺した手を意識的に使う練習方法の背景にもなっています。詳しくは脳卒中後のCI療法について解説した記事で紹介しています。

問題は、この「実際にどれだけ使えているか」をどう把握するかです。従来は本人やご家族の申告に頼ってきましたが、日々の細かな動作を正確に思い出すのは簡単ではありません。そこで登場したのが、加速度センサーを内蔵した腕時計型の機器です。両方の手首に着けておくと、それぞれの腕がどれだけ動いたかが記録され、麻痺した側と麻痺していない側の比として表すことができます2

この方法の魅力は、練習室ではなく生活の場での様子が分かる点にあります。リハビリの量と在宅での練習をどう考えるかについては脳卒中後の上肢麻痺と自主トレについて解説した記事でも扱っています。

SECTION 02
研究で分かっていること

ウェアラブルデバイスの研究には、大きく二つの流れがあります。ひとつは「測る道具として信頼できるのか」という研究、もうひとつは「練習に組み合わせると結果が変わるのか」という研究です。順に見ていきます。

測る道具としての信頼性(2022年)
2021年12月までに報告された34件の研究をまとめた系統的レビューがあります。手首に着ける加速度センサーで得られた数値と、従来の臨床検査との関係を調べたものです。本人が申告する使用量の指標(MAL)との相関は0.31〜0.84、物をつかむ動作の検査(ARAT)とは0.15〜0.79、運動麻痺の検査(Fugl-Meyer)とは0.28〜0.73と報告されました。装着時間は22時間から72時間まで研究ごとにばらばらで、著者らは「装着時間の根拠を示した研究はひとつもなかった」と指摘しています。センサーの種類については、3方向を測れる機器のほうが望ましいとしつつ、どの機器が最も適しているかの結論は出ていないと述べています2
練習に組み合わせた場合の分析(2024年)
ウェアラブル機器を用いた練習と、従来のリハビリを比べた無作為化比較試験14件・508人をまとめた系統的レビュー・メタアナリシスです。含まれた機器は、装具型、センサー型、電気刺激型、仮想現実型の4種類でした。実施量は1回30〜60分、週2〜5回、3〜12週間という範囲です。結果は、腕全体の運動麻痺の指標(FMA-UE、11件・448人)で標準化平均差0.26(0.07〜0.45、I²=0%)、物をつまんで移す検査(BBT、8件・253人)で0.43(0.17〜0.69、I²=23%)と、いずれも良い方向の差がみられました。一方、物をつかむ動作の検査(ARAT)では0.20(−0.15〜0.55)、本人が申告する使用量(MAL)では0.05(−0.35〜0.44)、筋のつっぱりの指標(MAS)では−0.06(−0.59〜0.46)と、いずれも明らかな差はありませんでした。機器の種類別の順位づけでは装具型が最も高く、仮想現実型が最も低いという結果でした1。仮想現実を用いた練習そのものについては脳卒中後のVRリハビリについて解説した記事で詳しく扱っています。
遠隔プログラムと組み合わせた試験(2025年)
カナダの6つのリハビリ施設で行われた無作為化比較試験です。発症から12か月以内で、腕にある程度の動きが残っている在宅生活の方73人(平均年齢63歳)が参加しました。介入は3週間のプログラムで、自宅での運動(1日2時間以上)、手首に着けたセンサーが「手を伸ばしてつかむ」動作の回数を数えてタブレットに表示する仕組み、そして理学療法士または作業療法士による3週間で6回のオンライン面談を組み合わせたものです。療法士は1日の目標回数(1,000回以上、または開始時から20%増)を個別に設定しました。対照群は通常のケア(週1回までの訓練)です。4週後、1日あたりの回数は介入群1,655回・対照群1,286回で、差は368回(95%信頼区間6〜730、p=0.046)でした。自己申告の使用量の指標でも差がみられています(0.6点、0.3〜0.9)。実際の運動時間は1日平均2.3時間でした3
機器だけでは足りない可能性
ここで注目したいのは、良い結果を示した試験が、機器の表示だけでなく、療法士による目標設定と定期的な面談を組み合わせていた点です3。一方で、まとめた分析において、本人が申告する実生活での使用量には差が出ていません1。機器を着けるだけで生活の中の使い方が変わるわけではなく、目標をどう決め、誰と振り返るかという枠組みのほうが結果を左右している可能性があります。この点は、まだ十分に切り分けられていません。
日常生活の中で麻痺した手を安全に使う場面
回数だけでなく、生活のどの場面で使えたかを振り返ります。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
14件をまとめた分析では、バイアスのリスク評価において、すべての項目で低リスクと判定された研究は14件中2件にとどまりました。多くの研究で、盲検化がはっきりしないことによる「懸念あり」の判定が付いています。また、ファンネルプロットが左右対称ではなく、報告の偏りがある可能性が指摘されています。介入期間が3〜12週間とばらばらであること、介入直後のデータしかなく長期的にどうなるかが分からないことも、著者ら自身が限界として挙げています1。測定についての系統的レビューでは、多くの研究の参加者が100人未満と小規模であること、データの区切り方(1秒から1分まで)や相関の判断基準が研究ごとに異なることが指摘されています2。遠隔プログラムの試験も、参加者73人と小規模で、腕にある程度の動きが残っている方に限られており、待機群との比較では療法士が関わること自体の影響を切り分けられないと述べられています3
まだ分かっていないこと
センサーが測っているのは動いた量であり、動きの質は分かりません。歩いているときの腕の振りのように、意図しない動きと意図した動作を区別できないことも指摘されています2。何日間、1日何時間着ければ生活の実態を正しく捉えられるのかも定まっていません2。機器の種類によって結果が違うのかについては順位づけの報告がありますが、直接比べた質の高い研究は限られます1。麻痺が重く、腕をほとんど動かせない方にどこまで当てはまるのかも分かっていません。試験の参加者は動きが残っている方に限られていました3。そして、回数が増えたことが、着替えや食事といった実際の生活動作のしやすさにつながるのかは、まだ確かめられていません1,3。研究全体としては一定の傾向がありますが、対象となった方の条件や機器の種類が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえて整理します。まず期待できることとして、腕全体の大きな動きの指標や、物をつまんで移す検査では良い方向の差が示されています1。回数が見えることで練習の量が増えるという結果も報告されました3。そして、測る道具としては、本人の申告と一定の相関があることが確かめられています2。「思っていたより使えていなかった」「実は増えていた」という気づきが得られること自体に、意味を感じる方は少なくありません。

一方で、はっきりしていないこともあります。手先の細かい動きや、筋のつっぱりについては差が示されていません1。本人が申告する実生活での使用量でも、まとめた分析では差が出ていません1。回数が増えることと、生活が実際にしやすくなることは、同じではありません。また、機器の表示だけを頼りに回数を追い求めると、動かしやすい形だけで数を稼いでしまう可能性もあります。数字は目的ではなく、あくまで話し合いの材料だと考えるのが現実的です。

SECTION 05
どんな人に向いているか

研究に参加した方の条件を見ると、腕にある程度の動きが残っていて、在宅で生活している方が中心でした3。そのうえで、特に相性がよさそうなのは次のような方です。練習では動くのに家では使えていない気がすると感じている方。自主トレを続けているものの、進んでいるのか分からず張り合いを失いかけている方。目標があると取り組みやすいタイプの方。そして、ご家族が見守る中で、客観的な数字があったほうが話しやすいと感じている場合です。

逆に、慎重に考えたほうがよい場合もあります。麻痺が重く腕をほとんど動かせない状態では、記録される数値がごく小さく、かえって落ち込む材料になることがあります。数字に強くとらわれてしまう傾向のある方も、注意が必要です。また、機器の購入には費用がかかります。日常的に使われている腕時計型の活動量計は、必ずしも研究で用いられたものと同じ性能ではありません。導入を検討する前に、何のために測るのかを担当の専門職と整理しておくことをおすすめします。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
回数を増やそうとして無理を重ねると、肩や手首の痛みにつながることがあります。特に肩の状態に不安がある方は、量を増やす前に専門職に確認してください。数値が伸びない時期があっても、それは取り組みが足りないという意味ではありません。体調、痛み、疲れ、季節や生活の変化によって、日々の使用量は自然に上下します。研究で用いられた1日2時間という運動量も、療法士の関わりのもとで段階的に設定されたものであり、いきなり同じ量を目指すためのものではありません。機器はあくまで補助であり、医療機器としての診断や治療の判断に用いるものではありません。ここで紹介した研究結果は、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
SECTION 06
使い方と量の目安

研究で用いられた設定を紹介します。練習と組み合わせた試験では、1回30〜60分、週2〜5回、3〜12週間という範囲でした1。遠隔プログラムの試験では、3週間にわたり自宅での運動を1日2時間以上行い、療法士との面談を6回設け、1日の目標回数を1,000回以上または開始時から20%増と個別に決めていました3。測定を目的とする場合、装着時間は研究によって22〜72時間と幅があり、週末を含む7日間が望ましいという提案はあるものの、実際にそれを行った研究はありませんでした2

実際の生活では、いきなり目標回数を追いかけるより、まず何日か記録して「今の自分がどのくらい使っているか」を知るところから始めるのが現実的です。そのうえで、増やす場面を具体的に決めます。歯を磨く間だけ麻痺側で歯ブラシを持つ、洗濯物を干すときに麻痺側で手を伸ばす、といった生活の中の場面です。ただしこれは研究で定められた手順ではなく、あくまで考え方の目安としてお読みください。目標の立て方そのものについては脳卒中後の目標設定について解説した記事もご覧ください。

活動データを見ながら生活目標を相談する場面
数値の変化を、本人にとって意味のある生活目標につなげて考えます。
SECTION 07
Journey Rehabでお手伝いできること

Journey Rehabでは、麻痺した手を生活のどの場面で使いたいかを伺い、今の動きや痛みの有無を確認しながら具体的な目標を一緒に考えます。機器の数字だけで判断せず、生活のしやすさや安全性を含めて振り返ることを大切にしています。

Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
生活の中で麻痺した手をどう使っていくか、今の身体の状態を一緒に確認しながら考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。ここで紹介した機器は、研究の場面で用いられたものであり、特定の商品を推奨するものではありません。市販の活動量計は研究で用いられた機器と性能が異なる場合があります。運動の量や内容は、麻痺の程度、痛みの有無、体力、併存する病気によって向き・不向きが異なります。実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。練習中に痛みが出た場合は中止してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
市販のスマートウォッチでも代わりになりますか?
研究で用いられた機器と市販品では、測る仕組みや精度が異なる場合があります。おおまかな傾向をつかむ目的であれば参考になりますが、研究の数値をそのまま当てはめることはできません。すでにお持ちの機器がある場合は、担当の専門職に相談してみてください。
何日くらい着ければよいですか?
研究では22時間から72時間まで幅があり、決まった目安はありません。週末を含む7日間が望ましいという提案もありますが、実際に行った研究はまだない状況です。生活の波を見たい場合は、平日と休日の両方を含めると参考になりやすいでしょう。
数字が増えれば、生活も楽になりますか?
必ずしもそうとは限りません。回数が増えることと、着替えや食事といった動作がしやすくなることが結びつくかどうかは、現時点の研究では確かめられていません。数字は目安のひとつとして受け止めてください。
腕がほとんど動かないのですが、使う意味はありますか?
研究の参加者は、腕にある程度の動きが残っている方が中心でした。動きが少ない段階では記録される数値が小さく、励みになりにくいことがあります。その場合は別の指標を用いるほうがよい場合もありますので、専門職と相談してください。
歩いているときの腕の振りも数えられてしまいませんか?
その通りで、これはこの方法の弱点として指摘されています。センサーは意図した動作と、歩行に伴う自然な腕の振りを区別できません。数値を見るときは、この点をふまえて解釈する必要があります。
1日に何回を目指せばよいですか?
研究では1,000回以上、または開始時から20%増という目標が用いられましたが、これは療法士が個別に設定したものです。誰にでも当てはまる数値ではありませんので、ご自身の現在の量を把握したうえで専門職と決めることをおすすめします。
機器がなくても同じことはできますか?
生活の中で麻痺側を使う場面を具体的に決めて記録する方法は、機器がなくても行えます。良い結果を示した研究でも、機器の表示だけでなく目標設定と定期的な振り返りが組み合わされていました。その枠組み自体は機器なしでも作れます。
REFERENCES
参考文献
1. Song Q, Qin Q, Suen LKP, Liang G, Qin H, Zhang L. Effects of wearable device training on upper limb motor function in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis. The Journal of International Medical Research. 2024;52(10). DOI:10.1177/03000605241285858. PMID:39382039. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39382039/
2. Heye AL, Kersting C, Kneer M, Barzel A. Suitability of accelerometry as an objective measure for upper extremity use in stroke patients. BMC Neurology. 2022;22:220. DOI:10.1186/s12883-022-02743-w. PMID:35705906. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35705906/
3. Simpson LA, Barclay R, Bayley MT, Brasher PMA, Dukelow SP, et al. A Randomized Control Trial of a Virtually Delivered Program for Increasing Upper Limb Activity After Stroke. Neurorehabilitation and Neural Repair. 2025;39(3). DOI:10.1177/15459683241303702. PMID:39727287. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39727287/