![]() | 田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表 認定作業療法士/修士(作業療法学) 東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍 初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立 |
パーキンソン病のリハビリでは、「歩き方が悪くなった」「転びやすくなった」という運動症状だけでなく、便秘、睡眠、疲れやすさ、気分の落ち込み、痛み、活動量の低下など、非運動症状も生活に大きく影響します。そのため、評価指標は1つだけでは足りません。
MDS-UPDRSやHoehn & Yahr分類は全体像をつかむうえで重要ですが、リハビリの現場では、バランス、筋力、歩行速度、TUG、6分間歩行、活動量、転倒恐怖、外出環境まで合わせて見ていく必要があります。定期的に測っておくことで、薬の効き方、神経症状の進行、二次的な体力低下を見逃しにくくなります。
なお、評価指標の選択は、病期、服薬状況、転倒歴、認知機能、生活環境によって異なります。本記事では、リハビリ現場で参考にされる代表的な評価指標を目的別に整理します。
患者さん・ご家族にもわかるように、専門用語はできるだけ噛み砕いて説明します。
この記事は一般的な情報提供です。評価結果だけで診断や治療方針を決めるものではありません。症状の変化、転倒、急な体調変化がある場合は、主治医や担当のリハビリ専門職に相談してください。
パーキンソン病の評価で大切なのは、病気そのものの状態と、生活の中で何が困っているかを分けて見ることです。たとえばMDS-UPDRSは、運動症状だけでなく、日常生活の運動・非運動の困りごと、運動合併症まで幅広く評価できる代表的な尺度です。国際パーキンソン・運動障害疾患学会も、MDS-UPDRSを臨床と研究の両方で使える尺度として説明しています。1
ただし、MDS-UPDRSだけでは、歩行速度が年齢相応か、バランスがどの程度落ちているか、6分間歩ける体力があるか、外出を避けて活動量が落ちていないかまでは十分に見えません。リハビリでは、症状の点数に加えて、実際の身体機能と生活場面を測ることが重要です。
評価指標は、病期、服薬が効いている時間帯、転倒歴、認知機能、痛み、疲労、生活環境によって適したものが変わります。点数だけで良し悪しを決めるのではなく、「何を知るために測るのか」「結果を生活やリハビリ計画にどう活かすのか」を明確にして使うことが大切です。
MDS-UPDRSは、パーキンソン病の評価で最も知られている尺度の一つです。Part Iでは非運動症状、Part IIでは日常生活での運動の困りごと、Part IIIでは診察・検査場面での運動症状、Part IVでは薬の効きすぎや効き切れに関連する運動合併症を見ます。
リハビリで特に使いやすいのは、Part IIとPart IIIです。Part IIは「生活でどの動作に困っているか」、Part IIIは「動きの遅さ、こわばり、震え、姿勢、歩行などがどの程度か」を整理できます。薬が効いている時間帯と効きにくい時間帯で結果が変わることがあるため、評価した時間帯も一緒に記録しておくと解釈しやすくなります。
MDS-UPDRS、MDS-NMS、PDQ-39、Mini-BESTestなどの評価尺度は、版、翻訳、採点方法、使用許諾、研修要件が定められている場合があります。臨床・研究・公開資料で使う場合は、公式配布元や所属施設のルールを確認し、自己流に改変しないことが大切です。
Hoehn & Yahr分類は、パーキンソン病の進行度を大まかに示す分類です。片側症状中心か、両側に症状があるか、姿勢反射障害があるか、介助が必要かといった視点で病期を整理します。細かな生活課題まではわかりませんが、医師、療法士、ご家族が状態像を共有する入口として役立ちます。
パーキンソン病では、まっすぐ歩く場面よりも、歩き出し、方向転換、狭い場所、玄関、エレベーター前、人混みで困りやすい方がいます。すくみ足がある場合は、Freezing of Gait Questionnaireのような質問票や、実際の方向転換・ドア通過・二重課題歩行を組み合わせて確認します。
APTAのパーキンソン病理学療法ガイドラインでは、歩行練習、バランストレーニング、外的キュー、有酸素運動、筋力トレーニング、地域での運動参加などが推奨されています。ガイドライン内でも、歩行、バランス、生活の質、非運動症状など多面的なアウトカムが扱われています。2
10m歩行は、一定距離を歩く速さを測る検査です。歩行速度は「歩けるかどうか」だけでなく、屋外移動、横断歩道、買い物、通院などに関係します。普段の速さと最大努力の速さを分けて測ると、生活上の余裕が見えやすくなります。
Timed Up and Go(TUG)は、椅子から立ち上がり、3m歩き、方向転換して戻り、再び座るまでの時間を測ります。歩行だけでなく、立ち上がり、方向転換、バランス、注意の切り替えが入るため、日常生活に近い移動能力を見やすい検査です。TUGは複数の疾患・年齢層で信頼性が検討されており、臨床で使いやすい活動レベルの評価として位置づけられます。3
6分間歩行は、6分間でどのくらい歩けるかを測る検査です。短い距離は歩けても、外出や買い物では数分以上歩き続ける力が必要になります。パーキンソン病では運動症状に加えて、活動量低下、疲労、フレイルが重なることがあるため、持久力の評価は重要です。
Mini-BESTestは、予測的姿勢制御、反応的姿勢制御、感覚の使い方、歩行中の安定性などを幅広く見ます。Berg Balance Scaleは、座位・立位・方向転換・物を拾うなど、基本的なバランス課題を評価します。APTAガイドラインでも、バランス介入研究ではMini-BESTestやBerg Balance Scaleなどが多く使われています。2
パーキンソン病では、動きにくさから活動量が減り、筋力や体力が落ちることがあります。これは病気の症状そのものだけでなく、二次的な廃用やフレイルとして進む場合があります。握力、5回立ち上がり、下肢筋力、体重変化、歩行速度を組み合わせると、年齢と比べて体力が落ちすぎていないかを確認しやすくなります。
TUGや10m歩行は短時間で測りやすい一方、混雑した場所、段差、暗い場所、疲労時の歩きにくさまでは十分に反映しないことがあります。6分間歩行は体力を見やすい反面、心肺疾患、痛み、当日の体調に影響されます。Mini-BESTestやBerg Balance Scaleも、結果だけで転倒リスクを断定せず、転倒歴、服薬時間帯、すくみ足、生活環境と合わせて解釈します。
パーキンソン病では、震えや動作の遅さだけでなく、非運動症状が生活のしづらさに大きく関係します。便秘、頻尿、起立性低血圧、睡眠障害、日中の眠気、疲労、痛み、不安、抑うつ、認知機能の変化などは、リハビリの安全性や継続にも影響します。
MDSの評価尺度一覧には、MDS-UPDRSに加えて、MDS Non-Motor Rating Scale、Non-Motor Symptoms Questionnaire、SCOPA-Sleep、SCOPA-AUTなど、非運動症状に関係する尺度が整理されています。4
非運動症状は、本人から言い出しにくいことがあります。「年齢のせい」「病気とは関係ない」と思われていることも少なくありません。NMSQのような質問票を使うと、便秘、睡眠、気分、痛み、自律神経症状などを広く確認できます。
PDQ-39は、パーキンソン病に関連した生活の質を測る代表的な質問票です。移動、日常生活、感情、社会的支援、認知、コミュニケーション、身体的不快感などを含みます。身体機能の点数が少し良くなっても、本人の生活のしやすさにつながっていない場合があります。そのズレを確認するために、生活の質の評価は大切です。
検査室では歩けても、日常生活ではほとんど外に出ていない方がいます。転倒への不安、すくみ足、疲れやすさ、家族の心配、道路環境などが重なると、活動量は下がりやすくなります。歩数、外出頻度、座っている時間、家の中での移動範囲を確認すると、生活の実態が見えます。
転倒経験がある方はもちろん、転んだことがなくても「転びそうで怖い」という気持ちから外出を控えることがあります。Falls Efficacy Scale-InternationalやActivities-specific Balance Confidence Scaleのような評価は、バランス能力だけでは見えない不安を拾う助けになります。
歩行補助具は、本人が安心して外出するための環境づくりの一部です。杖、歩行器、手すり、靴、玄関の段差、夜間のトイレ動線、屋外の坂道や信号などを確認し、本人が使いやすい形に調整します。大切なのは、補助具を持たせること自体ではなく、「その人が行きたい場所へ安全に行けるか」を一緒に考えることです。
パーキンソン病は症状が少しずつ変化するため、評価は初回だけで終わらせないことが大切です。定期的に同じ評価を行うと、「最近なんとなく歩きにくい」という感覚を、歩行速度、TUG、6分間歩行、バランス点数、活動量などで確認できます。
APTAガイドラインでも、アウトカム尺度のばらつきが研究比較を難しくしていること、共通した評価指標を持つ重要性が述べられています。2 臨床でも、毎回違う検査をするより、目的に合った指標を決めて継続的に追うほうが変化に気づきやすくなります。
Journey Rehabの現場では、運動症状の評価だけでなく、非運動症状、身体機能、活動量、外出への不安をセットで確認することを大切にしています。UPDRSのような代表的な評価は重要ですが、それだけでは「本人がなぜ外に出なくなったのか」「歩けるのに買い物へ行かない理由は何か」までは見えにくいことがあります。
特に注意しているのは、二次障害です。パーキンソン病の進行だけでなく、活動量低下による筋力低下、バランス低下、持久力低下、フレイルが重なると、生活範囲が一気に狭くなることがあります。歩行速度、TUG、6分間歩行、5回立ち上がり、握力、活動量を定期的に見ることで、神経症状の変化と体力低下を分けて考えやすくなります。
また、転倒恐怖心が強い方では、実際の転倒リスクだけでなく「怖さに合わせた環境づくり」が重要になります。歩行補助具、玄関、靴、屋外の道、家族の見守り方を一緒に確認し、本人が安心して外出できる条件を整えることが、リハビリの大切な役割だと感じています。
パーキンソン病の評価指標は、1つの検査で完結しません。MDS-UPDRSやHoehn & Yahr分類で病気の全体像を見ながら、歩行速度、TUG、6分間歩行、Mini-BESTest、筋力、活動量、非運動症状、生活の質、転倒恐怖、環境を目的別に組み合わせることが大切です。
評価の目的は、点数を並べることではありません。本人がどこで困っているのか、何が変化しているのか、どの支援があれば安心して生活できるのかを見つけることです。定期的に同じ指標を追うことで、神経症状の進行や二次的な体力低下にも気づきやすくなります。
本記事は、パーキンソン病の評価やリハビリに関する一般的な情報提供を目的としています。個別の診断、治療、医療行為の推奨を行うものではありません。評価や運動内容を検討する場合は、主治医や担当リハビリ専門職に相談し、身体状況やリスクを確認したうえで進めてください。研究情報は2026年6月7日時点で確認した内容です。
![]() | 執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光 保有資格 修士(作業療法学) 作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会) 東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍 経歴 ・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事 ・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立 ・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中 研究活動 ・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表 ・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表 論文執筆 ・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会. |
UPDRSは重要ですが、それだけでは歩行速度、体力、転倒恐怖、活動量、外出環境までは十分にわかりません。目的に応じて複数の評価を組み合わせます。
毎回すべてを測る必要はありません。ただし、定期的に同じ条件で測ると、体調や生活範囲の変化に気づきやすくなります。
確認します。睡眠、便秘、疲労、痛み、気分、血圧変動などは、運動の安全性や継続しやすさに関係します。
バランス能力だけでなく、転倒恐怖、歩行補助具、玄関や屋外環境、家族の見守り方、すくみ足が出る場面を確認します。
見るべきです。活動量低下により筋力や持久力が落ちると、神経症状とは別に生活機能が下がることがあります。
初回に広く評価し、その後は目的に合わせて4〜12週ごと、または転倒・外出低下・体調変化があった時に見直すと実用的です。
1. International Parkinson and Movement Disorder Society. MDS-Unified Parkinson's Disease Rating Scale (MDS-UPDRS). https://www.movementdisorders.org/
2. Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Phys Ther. 2022;102(4):pzab302. PMID: 34963139. PMCID: PMC9046970. DOI: 10.1093/ptj/pzab302.
3. Christopher A, et al. The reliability and validity of the Timed Up and Go as a clinical tool in individuals with and without disabilities across a lifespan: a systematic review. Disabil Rehabil. 2021;43(13):1799-1813. PMID: 31656104. DOI: 10.1080/09638288.2019.1682066.
4. International Parkinson and Movement Disorder Society. MDS Rating Scales. https://www.movementdisorders.org/MDS/MDS-Rating-Scales.htm
5. Tomlinson CL, et al. Physiotherapy intervention in Parkinson's disease: systematic review and meta-analysis. BMJ. 2012;345:e5004. PMID: 22867913. PMCID: PMC3412755. DOI: 10.1136/bmj.e5004.
6. El Hayek M, et al. Type, Timing, Frequency, and Durability of Outcome of Physical Therapy for Parkinson Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Netw Open. 2023;6(7):e2324860. PMID: 37477916. PMCID: PMC10362470. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2023.24860.

