田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の起立性低血圧(立ちくらみ)とは?対策の研究と限界を正直に解説
「立ち上がると目の前が暗くなる」「食後に椅子から立つとふらつく」「朝の運動のときだけ調子が悪い」。パーキンソン病の方から、こうしたご相談をいただくことがあります。動きの症状ばかりが注目されがちですが、血圧の変動は生活のしやすさにも、リハビリの安全にも直結します。
結論から正直にお伝えします。パーキンソン病では、起立性低血圧がおよそ3人に1人にみられると報告されています1。薬を使わない対策としては、腹部を締めるベルト(腹帯)が比較的よく検討されており、弾性ストッキングより効果的とされています1,2。ただし、薬を使わない対策の多くは、参加者5〜17名程度の小さな研究に基づくもので、根拠の質は「非常に低い」と評価されています2。
この記事では、何が推奨されていて、その根拠はどれくらい強いのかを整理します。
SECTION 01
起立性低血圧とは何か・どう調べるか
起立性低血圧は、立ち上がってから3分以内に、上の血圧が20mmHg以上、または下の血圧が10mmHg以上下がった状態と定義されています1,2。上の血圧が90mmHgを下回る場合も、この状態が疑われます1。
パーキンソン病でこれが起こるのは、自律神経の働きが低下し、立ったときに血管を縮めて血圧を保つしくみがうまく働かなくなるためです。加えて、パーキンソン病の薬そのものが血圧を下げることがあり、睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬・鎮痛薬なども起立時のつらさを強めうるとされています1。
調べ方 1:シェロング試験(自力で立つ方法)
目的:日常に近い条件で血圧の下がり方をみる
方法:少なくとも5分間あお向けで休んだ後に血圧と脈拍を測り、立ち上がってから1分後・3分後に再度測る1
注意:ふらつきが強い方は、支えられる人がそばにいる状態で行う
調べ方 2:ヘッドアップティルト試験(傾斜台)
目的:より詳しい情報を得る
方法:少なくとも60度以上傾けた台の上で血圧の変化をみる1
注意:医療機関で行う検査です
⚠ 見落とされやすい「寝ているときの高血圧」
起立性低血圧のある方のおよそ50%で、あお向けに寝ているときにかえって血圧が高くなる状態が同時に起こると報告されています1。血圧を上げる薬は、この状態を表面化させたり強めたりすることがあるため、24時間の血圧測定などで確認する必要があるとされています1。「立つと低く、寝ると高い」という両方が起こりうる、という点は知っておいていただきたい部分です。
起立性低血圧の評価では、あお向け・座位・立位で血圧と症状の変化を確認します。
SECTION 02
どれくらいの方にみられるのか
ドイツ神経学会の診療ガイドラインは、自律神経の働きの低下による起立性低血圧がパーキンソン病の方のおよそ3分の1にみられるとしています1。
システマティックレビュー・メタアナリシス 2021年
パーキンソン病に限らず、一般の高齢者を含めた61件の研究をまとめた検討です。起立性低血圧の頻度は全体で18%(95%信頼区間 16〜21%)、地域で暮らす方では17%、かかりつけ医を受診している方では19%、施設で暮らす方では31%と報告されています。年齢が高いこと、糖尿病があることが関連していました。ただし研究間のばらつきが非常に大きく(I²=99%)、測り方の違いが結果に影響していると指摘されています3。
McDonagh STJ ら, BMC Family Practice, 2021
脳卒中後にも同じ状態が起こることがあります。原因や対応が一部異なるため、脳卒中後の起立性低血圧について解説した記事もあわせてご覧ください。
SECTION 03
薬を使わない対策について分かっていること
ドイツ神経学会のガイドラインは、95%の合意のもとで次の内容を挙げています1。
1. 腹部を締めるベルト(腹帯)
ガイドラインは、腹帯を弾性ストッキングより効果的と記載しています1。別の系統的レビューでは、20mmHgの腹帯について「中等度の質の根拠」で強く推奨するとされ、パーキンソン病の方を対象とした研究で、傾斜台で起こしたときの血圧低下が小さくなり、4週間後の症状の点数も良好だったと報告されています2。
2. 水分と塩分を十分にとる
禁忌がない範囲で、という条件つきです1。水を300〜500ml飲む方法については6件の研究で血圧を上げる作用が報告されており、作用が続く時間はおよそ35分とされています。ただし45〜60分後には作用がみられなかったとする研究も2件あります2。塩分については、水の血圧を上げる作用を弱めたとする研究もあり、結果が一致していません2。
3. 体を使った工夫(対抗動作)
脚を組む、しゃがむ、お腹に力を入れる、太ももの筋肉に力を入れるといった方法です1。血圧が上がることを示した研究はありますが、参加者が少なく方法もばらばらで、根拠の質は「非常に低い」とされています2。
4. 頭を高くして眠る
ガイドラインは10〜20度の頭高位を挙げています1。系統的レビューでは12度傾けた研究が紹介され、朝の症状が軽くなったとされる一方、参加者は6〜8名と少なく、あお向けのときの血圧は変わりませんでした2。
5. 大きな食事・お酒・暑さを避ける
ガイドラインが挙げている生活上の工夫です1。食事量については7名を対象とした研究で、量が多いほど血圧が低くなったものの、立ったときの血圧低下の平均には差がなかったと報告されています2。
第2相試験 2020年
60歳以上37名(年齢中央値71歳)を対象に、水480mlを5分以内に飲む+脚を組んで立つという組み合わせ(A)と、そこに10mmHgの腹部圧迫を加えた組み合わせ(B)を比べました。上の血圧が10mmHg以上上がった方の割合はAで38%、Bで46%。立ったときの上の血圧はAで13mmHg、Bで20mmHg高くなりました。ただし症状の点数はどちらも有意には変わりませんでした。有害事象の報告はありません4。
Frith J, Newton JL, Age and Ageing, 2020
ランダム化クロスオーバー試験 2022年
起立性低血圧のあるパーキンソン病の方16名に、腹帯と弾性ストッキングをそれぞれ1週間ずつ使ってもらい、日常生活での立ち座りの回数を測った試験です。立ち座りの回数には差がありませんでした(腹帯3.6回/時、ストッキング4.4回/時、無しの状態3.6回/時、p=1.0)。一方で、動きの症状以外の症状の点数は両方で良好となり、起立性低血圧そのものの質問票と自律神経症状の質問票は腹帯でのみ良好な結果となりました5。
Paschen S ら, Journal of Parkinson's Disease, 2022
SECTION 04
エビデンスの質と限界
⚠ 数字を読むときに知っておいていただきたいこと
1. 薬を使わない対策の研究は参加者5〜17名程度のものが中心で、根拠の質は多くが「非常に低い」と評価されています2
2. 1日だけの短い検討が大半で、続けたときにどうなるかはほとんど調べられていません2
3. 研究ごとに方法がばらばらで、共通の評価指標がありません2
4. 同じ対策でも研究によって結果が食い違います(水を飲む方法、塩分の効果など)2
5. 頻度のデータもばらつきが非常に大きく(I²=99%)、測り方の違いが影響しています3
6. ガイドライン自身が、パーキンソン病という状況に絞った治療研究は「不足している」と述べています1
つまり、ここで紹介した対策は「専門家の合意として推奨されている」ものであり、「強い試験結果に裏づけられている」ものではありません。この違いは、率直にお伝えしておきたい点です。
SECTION 05
まだ分かっていないこと
1. 血圧の数値が良くなることと、つらさが軽くなることが一致しません。37名の試験では血圧は13〜20mmHg高くなったのに、症状の点数は有意に変わりませんでした4
2. 日常の活動量が増えるかどうかは示されていません。16名の試験で、立ち座りの回数に差はみられませんでした5
3. 転倒が減るかどうかを直接調べた質の高い試験は見当たりません
4. どのくらいの期間続けるとよいかが分かっていません。ほとんどの研究が1日だけの検討です2
5. 塩分をどれくらい増やすとよいかが定まっていません。研究結果が一致していないうえ2、心臓や腎臓の状態によっては増やせません
6. 運動そのものが起立性低血圧にどう影響するかを、パーキンソン病の方で調べた質の高い試験は限られています
急に立たず、いったん座位で症状を確認してから次の動作へ進みます。
SECTION 06
運動・リハビリを行うときの注意
⚠ 実施前に必ずご確認ください
・起立性低血圧が疑われる場合、自己判断で対策を始める前に必ず主治医にご相談ください。飲んでいる薬が関係している可能性があり、薬の調整が先になることがあります1
・水分や塩分を増やす対応は、心臓・腎臓・血圧の状態によっては行えません。必ず主治医の指示を受けてください1
・腹帯や弾性ストッキングも、皮膚の状態や呼吸の状態によっては適さない場合があります
・寝ているときの高血圧が同時に起こることがあるため1、頭を高くして眠る方法を含め、主治医と相談のうえで行ってください
動き方の工夫 1:段階を踏んで起き上がる
寝た姿勢からいきなり立たず、端座位で少し待ってから立つ。ガイドラインで挙げられている対抗動作(脚を組む、太ももに力を入れる)を、立つ直前に行う方法もあります1。
動き方の工夫 2:時間帯と食事のタイミング
大きな食事のあとは血圧が下がりやすいとされています1。運動の時間帯を食後すぐから外す、朝に症状が出やすい方は起床直後を避ける、といった調整が考えられます。
有酸素運動を続けている方では、運動中や運動後の血圧の変化に注意が必要になることがあります。運動の進め方全般については、パーキンソン病の有酸素運動について解説した記事で整理しています。
SECTION 07
Journey Rehabでの考え方と正直なまとめ
🏥 当施設で確認しているポイント
Journey Rehabでは、パーキンソン病の方の訪問時に、その日の体調として立ち上がったときのふらつきの有無を伺うようにしています。動きの症状の変動と混ざって「今日は調子が悪い」とだけ表現されることがあり、分けて確認しないと見落とされやすい部分です。
気をつけているのは、症状が出る時間帯と場面を先に整理することです。朝だけなのか、食後だけなのか、暑い日だけなのか。ガイドラインでも、大きな食事・お酒・暑さは避けるべき要因として挙げられています1。この整理をしないまま運動の内容だけを変えても、うまくいかないことがあります。
正直にお伝えしている点もあります。腹帯を使ったり水を飲んだりして血圧の数値が変わっても、つらさが必ず軽くなるとは限りません。実際、37名を対象とした試験では血圧は上がったのに症状の点数は有意に変わらず4、16名の試験でも日常の立ち座りの回数は変わりませんでした5。ですので、数値だけを目標にせず、「どの場面が困っているか」を軸に一緒に考えるようにしています。血圧に関わる対応は主治医の領域ですので、気になる点は必ず受診時にお伝えいただくようお願いしています。
この記事のまとめ
1. 起立性低血圧は、立ってから3分以内に上の血圧が20mmHg以上、下の血圧が10mmHg以上下がる状態です1,2
2. パーキンソン病の方のおよそ3分の1にみられるとされています1
3. 薬を使わない対策では、腹帯が弾性ストッキングより効果的とされています1,2,5
4. 水を飲む方法の作用が続く時間は、およそ35分と報告されています2
5. 血圧の数値が良くなっても、つらさや活動量が変わるとは限りません4,5
6. 対策の根拠は小規模・短期の研究が中心で、質は高くありません2
7. 寝ているときの高血圧が同時に起こることがあり、自己判断は避けてください1
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。実施の可否や内容については、必ず担当の医師・リハビリテーション専門職にご相談ください。掲載している研究データは執筆時点のものであり、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
主治医の指示の範囲内で、体調の変動と1日の過ごし方を一緒に確認しながら進め方を考えます。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 立ちくらみは、パーキンソン病そのものの症状ですか?薬のせいですか?
A. 両方の可能性があります。自律神経の働きの低下によるものが、およそ3分の1の方にみられるとされています1。同時に、パーキンソン病の薬や、睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬・鎮痛薬なども起立時のつらさを強めうるとされています1。どちらが主なのかは、飲んでいる薬を含めて主治医に判断していただく必要があります。
Q. 弾性ストッキングと腹帯、どちらがよいですか?
A. ガイドラインは腹帯のほうが効果的としています1。16名を対象とした試験でも、起立性低血圧の質問票と自律神経症状の質問票が良好になったのは腹帯のみで、上下の血圧差はストッキングでかえって大きくなったと報告されています5。ただし参加者が少ない試験です。使用の可否は主治医にご相談ください。
Q. 水を飲むと本当に楽になりますか?
A. 血圧を上げる作用は複数の研究で報告されており、続く時間はおよそ35分とされています2。ただし45〜60分後には作用がみられなかったとする研究もあります2。また、37名の試験では血圧は上がったものの症状の点数は有意に変わりませんでした4。心臓や腎臓の状態によっては水分量に制限があるため、必ず主治医の指示に従ってください。
Q. 塩分を増やしたほうがよいと聞きましたが、本当ですか?
A. ガイドラインは「禁忌がなければ」という条件つきで挙げています1。一方、系統的レビューでは根拠の質は低く、塩分が水の血圧を上げる作用を弱めたとする研究もあり、結果が一致していません2。高血圧、心不全、腎臓の病気がある方では増やせません。自己判断は避けてください。
Q. 頭を高くして眠ると、腰や肩がつらくなりませんか?
A. 角度の目安は10〜20度とされています1。枕を重ねるのではなく、ベッド全体を傾けるかギャッチアップ機能を使う形が基本です。姿勢のつらさが出る場合は無理をせず、主治医・リハビリ専門職に角度や寝具の調整をご相談ください。
Q. 立ちくらみがあると、運動はしないほうがよいですか?
A. 一律に中止すべきとは言えません。ただし、姿勢が急に変わる動作や、暑い環境での運動、食後すぐの運動には注意が必要です1。実施の可否と内容は、必ず主治医とリハビリ専門職に確認したうえで決めてください。
Q. 家庭で血圧を測るとき、どう測ればよいですか?
A. 研究や診療で用いられる方法は、5分以上あお向けで休んだ後に測り、立ってから1分後・3分後に再度測るというものです1。ふらつきが強い方は必ず支える人がそばにいる状態で行ってください。測り方や記録の仕方は、主治医の指示に合わせてください。
運営主体・利益相反について
本記事は、自費リハビリサービスを運営する株式会社Journey Rehabが作成しています。記事内には当社サービスの案内を含みますが、文献の選定と研究結果の記載では利益だけを強調せず、根拠が乏しい点、研究間で結果が一致しない点、安全上の注意も併記しています。外部医師による監修記事ではありません。最終更新:2026年8月8日。
REFERENCES
参考文献
1. Fanciulli A, Sixel-Döring F, Buhmann C, Krismer F, Hermann W, Winkler C, et al. Diagnosis and treatment of autonomic failure, pain and sleep disturbances in Parkinson's disease: guideline "Parkinson's disease" of the German Society of Neurology. Journal of Neurology. 2025;272(1):90. PMID: 39751950. PMCID: PMC11698777.
2. Eschlböck S, Wenning G, Fanciulli A. Evidence-based treatment of neurogenic orthostatic hypotension and related symptoms. Journal of Neural Transmission (J Neural Transm Vienna). 2017;124(12):1567-1605. PMID: 29058089. PMCID: PMC5686257.
3. McDonagh STJ, Mejzner N, Clark CE. Prevalence of postural hypotension in primary, community and institutional care: a systematic review and meta-analysis. BMC Family Practice. 2021;22(1):1. PMID: 33388038. PMCID: PMC7777418.
4. Frith J, Newton JL. Combination non-pharmacologic intervention for orthostatic hypotension in older people: a phase 2 study. Age and Ageing. 2020;49(2):253-257. PMID: 31868889. PMCID: PMC7047813.
5. Paschen S, Hansen C, Welzel J, Albrecht J, Atrsaei A, Aminian K, et al. Effect of Lower Limb vs. Abdominal Compression on Mobility in Orthostatic Hypotension: A Single-Blinded, Randomized, Controlled, Cross-Over Pilot Study in Parkinson's Disease. Journal of Parkinson's Disease. 2022;12(8):2531-2541. PMID: 36278359.