脳腫瘍の治療後のリハビリテーションとは?生活動作・体力・認知面への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳腫瘍の治療後のリハビリテーションとは?生活動作・体力・認知面への研究と限界を正直に解説

「手術と放射線治療が終わりましたが、この先どう過ごせばよいのか分かりません」「体力が落ちたまま戻りません」「集中力が続かず、以前のようには仕事ができません」。脳腫瘍の治療を終えた方やご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。

結論から正直にお伝えします。脳腫瘍の治療後のリハビリについては、コクランのレビューが対象とした研究がわずか1件(106名)しかなく、根拠の質は「低い」と評価されています1。ただしその研究では、通常の外来ケアと比べて生活動作の自立度に差がみられ、その差は6か月後も保たれていました1。運動については、脳腫瘍の方を対象とした小規模な試験がいくつか行われている段階です2,3

脳卒中の分野と比べると、研究の蓄積は圧倒的に少ないのが現状です。この記事では、その少ない研究から何が言えて、何が言えないのかを整理します。

SECTION 01
脳腫瘍の治療後に残りやすい困りごと

脳腫瘍は、できた場所や大きさ、治療の内容によって、残る症状が大きく異なります。研究で扱われている困りごとは、おおむね次のように整理できます。

1. 体の動きと生活動作
手足の動かしにくさ、バランスの不安定さ、着替えや入浴といった日常生活動作の困難。コクランのレビューが対象とした研究では、生活動作の自立度を測る指標が主な評価項目とされています1
2. 体力・疲れやすさ
治療中の安静や治療そのものの影響で、体力が落ちた状態が続くことがあります。運動の研究では、最大酸素摂取量などの体力指標や、疲労感が評価項目になっています2,3
3. 認知面(注意・記憶・段取り)
集中が続かない、話の切り替えが難しい、手順が組み立てにくいといった困難。運動の研究でも、注意の指標や情報処理の速さが評価されています3。注意の問題への向き合い方については、脳卒中後の注意障害と認知リハビリについて解説した記事の考え方が参考になる部分があります。
4. けいれん発作
脳腫瘍では、けいれん発作を伴う方が少なくありません。在宅運動の研究では、参加者の74%にてんかんがありました2。運動の内容と量を決めるうえで、必ず考慮すべき条件になります。
脳腫瘍治療後の疲れやすさ・生活動作・注意課題・歩行を支援する様子
治療後の困りごとは、体の動きだけでなく疲れやすさや注意・計画のしづらさにも現れます。
SECTION 02
多職種によるリハビリの研究
コクランレビュー 2015年
2015年1月までの文献を検索し、条件を満たしたのは比較試験1件(106名)のみでした。参加者は神経膠腫(グリオーマ)の方で、平均年齢51歳、診断からの期間は中央値2.1年です。介入は、1時間の連続した治療を週2〜3回、6〜8週間行う外来の多職種リハビリで、作業療法・理学療法・心理面・社会面の内容を30分ずつ組み合わせたものでした。

結果は、生活動作の自立度(運動面)が3か月時点で中央値18点の変化(対照群8点、p<0.001、効果量R=0.32)、6か月時点で12点(対照群4点、p<0.05、R=0.25)。認知面の指標でも差がみられました(3か月:6点対3点、6か月:6点対1.5点)。一方、不安・抑うつ・ストレスの指標、生活の質の指標には差がみられませんでした。介入によるとされる重い有害事象の報告はありません。

根拠の質はすべての項目で「低い」と評価されており、著者らは結論を「せいぜい暫定的なもの」と述べています1
Khan F ら, Cochrane Database of Systematic Reviews, 2015

同じレビューには、830名を含む13件の観察研究も参考として挙げられていますが、質は「非常に低い」とされています1

ランダム化比較試験 2020年
神経膠腫の方64名を対象に、がん治療を受けている最中に理学療法・作業療法にもとづくリハビリを行った試験です。主な評価項目である6週後の全体的な生活の質には、群間で有意な差がみられませんでした(調整後の平均差 8.7%、95%信頼区間 -4.36〜21.79%)。一方、副次的な項目では、認知面の働き、疲労感、有酸素能力で良好な結果が報告されています。著者らは、参加者数が不足しており追跡期間も短いため、優越性は判断できないとしています4
Hansen A ら, Physical Therapy, 2020
SECTION 03
運動についての研究
予備的ランダム化比較試験 2018年
状態が落ち着いている神経膠腫(グレードII・III)の方34名を対象に、自宅で6か月間の有酸素運動を行った試験です。内容は本人が選んだ運動(自転車・ランニング・水泳など)を最大心拍数の60〜85%で週3回。心拍計つきの時計のデータを理学療法士が確認し、毎週メールで助言する形をとりました。

実施のしやすさは、平均遵守率79%(範囲39〜100%)、週あたり平均126分。参加率は招待した方の25%にとどまりました。体力の指標では、最大酸素摂取量が運動群で1.9ml/kg/分増え(p=0.02)、対照群は0.1減少(p=0.84)。運動によるけがはなく、てんかんのある方(74%)でも1名を除いて継続に支障はありませんでした2
Gehring K ら, Clinical Rehabilitation, 2018
予備的ランダム化比較試験 2020年
同じ枠組みで、認知面の結果を報告したものです。運動群では、注意の抑制(効果量0.52)、注意の持続(0.57)、聴覚性の選択的注意(0.51)で中程度、情報処理の速さ(0.47)や注意の切り替え(0.35)で小さい効果量が示されました。気分(0.50)、心の健康に関する生活の質(0.63)、睡眠の質(0.34)でも同様の傾向がみられています。

ただし著者らは、個人単位で「意味のある変化」と判断できる基準に達した方は限られていたと述べています。参加者は34名と少なく、評価項目が多いため偶然の結果である可能性も指摘されています3
Gehring K ら, Neuro-Oncology, 2020
SECTION 04
エビデンスの質と限界
⚠ 数字を読むときに知っておいていただきたいこと
1. コクランのレビューが採用できたのは1件だけで、しかもランダム化されていない比較試験です。割り付けの隠蔽も行われていません1

2. その研究はオーストラリアの1施設で行われたもので、参加者が限られており、他の環境にそのまま当てはめられません1

3. 6か月時点で20%が脱落しており、追跡期間も6か月までです1

4. 運動の研究は参加者34名の予備的な試験で、招待した方の25%しか参加していません。もともと運動に関心の高い方が集まった可能性があります2,3

5. 運動の研究では対照群でも活動量が増えており、研究に参加したこと自体の影響が混ざっています2

6. 64名の試験では、主な評価項目に差がみられませんでした4

脳腫瘍という診断名でひとくくりにできない点も重要です。良性の腫瘍と悪性の腫瘍、できた場所、治療の内容によって、経過も必要な支援もまったく異なります。研究の対象も多くは神経膠腫の方に限られています1,2,3,4

SECTION 05
まだ分かっていないこと
1. どこで行うのがよいか(入院・外来・在宅)が分かっていません。コクランの著者らが今後の課題として挙げている点です1

2. どの職種の関わりが、どの程度必要かが分かっていません1

3. どのくらいの量・期間が適切かが定まっていません1

4. 費用に見合うかの検討がされていません1

5. 生活の質や気分への影響ははっきりしていません。106名の研究でも64名の研究でも、これらの指標に差はみられませんでした1,4

6. 認知面への運動の影響は、集団としての傾向は示されたものの、個人単位で意味のある変化と言えた方は限られていました3

7. 6か月より長い期間にどうなるかは、ほとんど調べられていません1
自宅で心拍計を装着して固定式自転車による有酸素運動を行う様子
研究では心拍数を確認しながら在宅で有酸素運動を行いましたが、実施条件は主治医と確認が必要です。
SECTION 06
安全上の注意と進め方の目安
⚠ 実施前に必ずご確認ください
・脳腫瘍の治療後の運動は、必ず主治医の許可を得てから始めてください。治療の段階、頭蓋内の状態、血液の状態によって、行ってよい内容が変わります
・けいれん発作の既往がある方は、発作の状況を主治医と共有し、運動の種類・場所・同伴者の条件を決めてください。研究でも発作が頻回な方は回数を減らす調整がされています2
・水泳や入浴中の運動、高所での運動など、発作が起きた場合に危険が大きい活動は慎重に判断してください
・治療中は体調が日ごとに変わります。予定した量にこだわらず、その日の状態に合わせてください
・頭痛の悪化、吐き気、いつもと違う症状があれば中止し、速やかに主治医にご連絡ください
研究で用いられた量:多職種リハビリ
1時間の連続した治療を週2〜3回、6〜8週間。30分ずつの内容を組み合わせる形1。あくまで研究で用いられた量であり、最適な量として確立されたものではありません。
研究で用いられた量:在宅の有酸素運動
1回20〜45分、週3回、最大心拍数の60〜85%で6か月間。実際の平均は週126分、達成した強度は最大心拍数の76%でした2。状態が落ち着いている方を対象とした条件である点にご注意ください。

お仕事への復帰を考えている方も多い領域です。進め方の一般的な考え方については、脳卒中後の復職・職場復帰について解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 07
Journey Rehabでの考え方と正直なまとめ
🏥 当施設で確認する方針
Journey Rehabでは、脳腫瘍の治療後にご相談をいただいた際、まず主治医からどこまで許可が出ているかを確認したうえで内容を組み立てます。治療の段階によって行える内容が大きく変わるため、この確認を省略することはありません。

次に確認するのが、けいれん発作の状況です。研究でも参加者の74%にてんかんがありました2。発作の頻度や前ぶれの有無によって、行える運動の種類も、一人で行ってよいかどうかも変わります。

もう一つ大切にしているのは、困りごとを「体の動き」と「見えにくい部分」に分けて整理することです。手足の動きに大きな問題がなくても、疲れやすさや集中の続かなさで生活が回らなくなっている場合があります。そのときは、運動量を増やすことよりも、1日の組み立て方を先に見直すことがあります。

正直にお伝えしている点もあります。この領域は、脳卒中と比べて研究がきわめて少なく、コクランのレビューが採用できた研究は1件だけでした1。「研究でこうなっています」と言い切れる場面は多くありません。分かっていないことは分かっていないままお伝えし、そのうえでご本人の目標に合わせて内容を決めています。
この記事のまとめ
1. コクランのレビューが採用できたのは比較試験1件(106名)のみで、根拠の質は「低い」とされています1
2. その研究では、生活動作の自立度に差がみられ、6か月時点でも保たれていました1
3. 一方、不安・抑うつ・生活の質の指標には差がみられませんでした1,4
4. 在宅の有酸素運動は、状態が落ち着いた方では遵守率79%で実施可能でした2
5. 認知面には中程度までの効果量が示されましたが、個人単位で意味のある変化と言えた方は限られています3
6. 研究の対象は主に神経膠腫の方で、腫瘍の種類による違いは分かっていません1,2,3,4
7. けいれん発作の有無は運動内容を決めるうえで欠かせない条件です2
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。実施の可否や内容については、必ず担当の医師・リハビリテーション専門職にご相談ください。掲載している研究データは執筆時点のものであり、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
主治医の許可の範囲内で、身体の状態と1日の過ごし方を一緒に確認しながら進め方を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 治療が終わったら、運動をしてもよいのでしょうか?
A. 必ず主治医の許可が必要です。状態が落ち着いている神経膠腫の方を対象とした研究では、週3回・6か月間の在宅運動が実施可能で、運動によるけがはなかったと報告されています2。ただしこれは条件を満たした方に限った話です。治療の段階や合併症によって判断は変わります。
Q. けいれん発作があります。運動は避けるべきですか?
A. 一律に避けるべきとは言えません。在宅運動の研究では参加者の74%にてんかんがありましたが、発作が頻回だった1名を除いて継続に支障はありませんでした2。ただし、発作が起きた場合に危険が大きい活動は慎重に判断する必要があります。運動の種類・場所・同伴者の条件を、必ず主治医と決めてください。
Q. 集中力が続かないのですが、運動で変わりますか?
A. はっきりしたことは言えません。34名の予備的な試験では、注意に関する指標で小さいものから中程度の効果量が示されましたが3、個人単位で意味のある変化と判断できた方は限られていました3。評価項目が多く、偶然の結果である可能性も指摘されています。期待しすぎず、生活の中での工夫と組み合わせて考えるのが現実的です。
Q. 脳卒中のリハビリの情報を参考にしてもよいですか?
A. 共通する部分はありますが、そのまま当てはめることはお勧めしません。脳腫瘍では治療が継続していることが多く、けいれん発作や体調の変動という条件が加わります。また、腫瘍の種類や場所による違いも大きく、研究の対象も主に神経膠腫の方に限られています1,2,3,4。判断に迷うことは、必ず主治医にご確認ください。
Q. リハビリを受けると生活の質は上がりますか?
A. 研究では示されていません。106名の研究でも64名の研究でも、生活の質の指標に群間の差はみられませんでした1,4。生活動作の自立度には差がみられていますので1、「できることが増える」ことと「生活の質の点数が上がる」ことは別に考える必要があります。
Q. どのくらいの期間、リハビリを続ければよいですか?
A. 決まった答えはありません。コクランのレビューでも、適切な期間・量・実施場所は今後の課題とされています1。研究で用いられたのは6〜8週間の集中的な外来リハビリ1や、6か月間の在宅運動2ですが、これらは最適な期間として確かめられたものではありません。
Q. 家族はどう関わればよいでしょうか?
A. 疲れやすさや集中の続かなさは外から見えにくく、「怠けている」と受け取られやすい部分です。体調が日ごとに変わることを前提に、予定を詰め込みすぎない組み立てにすることをお勧めします。ご家族自身の負担についても、担当の医療者に率直にお伝えください。
運営主体・利益相反について
本記事は、自費リハビリサービスを運営する株式会社Journey Rehabが作成しています。記事内には当社サービスの案内を含みますが、文献の選定と研究結果の記載では利益だけを強調せず、根拠が乏しい点、研究間で結果が一致しない点、安全上の注意も併記しています。外部医師による監修記事ではありません。最終更新:2026年8月8日。
REFERENCES
参考文献
1. Khan F, Amatya B, Ng L, Drummond K, Galea M. Multidisciplinary rehabilitation after primary brain tumour treatment. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;2015(8):CD009509. PMID: 26298178. PMCID: PMC6481476.

2. Gehring K, Kloek CJ, Aaronson NK, Janssen KW, Jones LW, Sitskoorn MM, et al. Feasibility of a home-based exercise intervention with remote guidance for patients with stable grade II and III gliomas: a pilot randomized controlled trial. Clinical Rehabilitation. 2018;32(3):352-366. PMID: 28882061. PMCID: PMC6625754.

3. Gehring K, Stuiver MM, Visser E, Kloek C, van den Bent M, Hanse M, et al. A pilot randomized controlled trial of exercise to improve cognitive performance in patients with stable glioma: a proof of concept. Neuro-Oncology. 2020;22(1):103-115. PMID: 31755917. PMCID: PMC6954415.

4. Hansen A, Pedersen CB, Jarden JO, Beier D, Minet LR, Søgaard K. Effectiveness of Physical Therapy- and Occupational Therapy-Based Rehabilitation in People Who Have Glioma and Are Undergoing Active Anticancer Treatment: Single-Blind, Randomized Controlled Trial. Physical Therapy. 2020;100(3):564-574. PMID: 32043148.