東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「パーキンソン病には、きつめの運動のほうがよいと聞いた」という方は少なくありません。ここで話題になるのが、短い高強度の運動と軽い運動をくり返す「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」です。結論から先にお伝えします。研究では、監督のもとで行うHIITは、軽症〜中等症のパーキンソン病の方にとっておおむね実施可能で、短期的には安全とされ、体力(最大酸素摂取量)を上げ、運動症状スケールの点数を良くする報告があります1,2,3。ただし、「中等度の運動と比べてHIITのほうが優れている」という証拠はまだ弱く、研究の多くは12週間以内の短期です1,2。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。
HIIT(High-Intensity Interval Training)は、短い時間の「きつい運動」と、休息や軽い運動を交互にくり返す方法です。パーキンソン病の研究では、自転車エルゴメーター(エアロバイク)やトレッドミルを使い、最大心拍数の80〜95%程度まで上げる区間と、60%前後まで落とす区間を数分ずつくり返す形が多く使われています1。一定のペースで続ける「中等度持続運動(MICT/MICE)」と対比されます。
背景には、「運動の強度を上げるほど、脳や体への働きかけが大きくなり、症状の進みをゆるやかにできるのではないか」という仮説があります。動物実験や、運動でふえる神経の栄養因子(BDNF)の変化などがそのもとになっています1。この仮説を人で確かめようとした代表的な研究が、後で紹介する「SPARX試験」です3。有酸素運動全般の位置づけはパーキンソン病の有酸素運動について解説した記事で、歩く練習そのものについてはパーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事で扱っています。
システマティックレビュー(多くの研究を集めてまとめた論文)・メタアナリシス(結果を数量的に統合した解析)と、代表的なランダム化比較試験を順に見ていきます。
対象は主に軽症〜中等症のパーキンソン病。プログラムはすべて専門職の監督つきで、期間は6週間から24か月でした。9件で完遂率90〜100%と報告され、有害事象はまれでした。ただし12週間を超える研究は1件だけでした。HIITは、通常のケアと比べて最大酸素摂取量(体力の指標)を上げましたが、中等度持続運動と比べると差はありませんでした。神経の栄養因子(BDNF)の増加や運動症状の改善を報告した研究もあります。著者らは「12週間までの監督つきHIITは、軽症〜中等症の一部の方にとって実施可能で安全そうだ」とまとめています1。
高強度運動を対照群(通常ケアなど)と比べると、病気の重症度スケールで平均差 −4.80(95%信頼区間 −6.38〜−3.21、確実性は高い)、生活の質(PDQ-39)で平均差 −0.54(95%信頼区間 −0.94〜−0.13、確実性は中程度)、最大酸素摂取量で平均差 +1.81(95%信頼区間 0.36〜3.27、確実性は非常に低い)でした。一方、高強度と中等度を直接比べると、「立ち上がって歩いて戻る時間(Timed Up and Go)」で平均差 −0.38秒(95%信頼区間 −0.91〜0.16)と有意差はなく、著者らは「高強度と中等度を比べた研究が不足している」と述べています2。
薬をまだ使っていない発症早期の方を、(1)高強度トレッドミル運動(週4回・最大心拍数の80〜85%)、(2)中等度トレッドミル運動(60〜65%)、(3)待機(通常ケア)の3群に分け、6か月追跡しました。運動症状スケール(UPDRS運動パート)の6か月の変化は、高強度群 +0.3点(悪化がほぼなし)、中等度群 +2.0点、通常ケア群 +3.2点でした。あらかじめ「3.5点未満の差なら次の大規模試験に進む価値がない」という基準を決めており、高強度群はこの基準をクリアし「次に進む価値あり」と判定されましたが、中等度群は基準に届きませんでした。ただし、この試験は「安全性と実施可能性を確かめる」段階であり、臨床的に意味のある効果を示すには大規模な第3相試験が必要とされています3。この研究の追加解析では、心拍数が上がりにくい体質(変時性不全)の方でも、体力の向上は同じように得られたと報告されています7。
自転車エルゴメーターを使い、HIIT群15人と中等度持続運動群14人を10週間比較しました。どちらの群でも最大酸素摂取量は上がり(時間の主効果 p<0.01)、その伸びはHIITのほうが大きい傾向がありました(Δ3.7 対 1.7 mL/kg/分、p=0.099)。運動症状スケール(UPDRS運動パート)も両群で良くなりましたが、群間の差はありませんでした(Δ−9.7 対 −8.4、p=0.51)。歩行・バランス・血圧・心拍数は変化しませんでした5。
有酸素運動と筋力トレーニングを、強度と期間で分けて比べた解析です。運動症状スケール(UPDRS運動パート)に対しては「短期間・高強度の筋力トレーニング」が最も上位で(標準化平均差 −0.95、95%信頼区間 −1.68〜−0.22)、TUGや歩行速度、生活の質でも同様に上位でした。高強度は、いずれの指標でも低強度を上回る傾向がありました。ただし著者らは「研究数が少なく、直接比較も乏しい。質にばらつきがある」と限界を挙げています4。別の大規模なネットワークメタアナリシス(111試験・5,358人)でも、「立ち上がって歩いて戻る時間(Timed Up and Go)」の短縮には高強度の運動とアジリティ(俊敏性)練習の組み合わせが上位に来ましたが、運動の種類ごとに得意なアウトカムが異なり、研究の質にばらつきがあると報告されています8。
全体をまとめると、「高強度の運動は、通常ケアと比べれば体力を上げ、運動症状スケールの点数を良くしうる。SPARX試験では発症早期の悪化が小さかった」という報告がある一方、「中等度の運動と比べて優れているとまでは言えず、長期の効果や進行への影響ははっきりしていない」というのが現時点の見方です1,2,3,5。
研究の質には共通した限界があります。各試験の参加人数が少なく(多くは数十人)、参加者や評価者に「どちらの群か」を伏せる盲検化が難しいため、成績の伸びに期待の影響が混じりやすい状態です2,4。有害事象の記録が不十分な研究も多く報告されています2。体力(最大酸素摂取量)の解析は研究間のばらつきが大きく、確実性は「非常に低い」と評価されています2。SPARX試験は「実施可能性と安全性」を確かめる段階であり、臨床的に意味のある効果はまだ証明されていません3。
1. 中等度の運動より本当に優れているか。直接比べた質の高い研究が不足しており、多くの指標で差が出ていません1,2,5。
2. 病気の進行そのものをゆるやかにできるか。SPARX試験は発症早期の6か月で悪化が小さかったと報告しましたが、長期の進行への影響は第3相試験の結果待ちです3。
3. どの人に向くか。重症度(ホーエン・ヤール分類)、発症からの年数、心臓の状態などで効果や安全性がどう変わるかは、十分に分けて検証されていません1,2。
4. 最適な強度・区間の長さ・頻度・期間。研究ごとに条件が異なり、「正解」は定まっていません1,2。
5. 続けやすさと長期安全性。12週間を超える研究がほとんどなく、在宅で安全に続ける方法も確立していません1。
数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。対象者の重症度、運動の種類(自転車・トレッドミル)、強度の設定、評価の方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
・運動症状スケール(UPDRS/MDS-UPDRS運動パート)の点数2,3
・生活の質(PDQ-39)2,6
・SPARX試験では、発症早期の6か月間の運動症状の悪化が小さかった3
・歩行速度・バランス(直接比較の試験では変化しなかった報告あり)5
・すくみ足・振戦などの個別症状
・病気の長期的な進行(第3相試験の結果待ち)3
現時点で確かなのは「強度を問わず、有酸素運動を続けると体力と運動症状の面で前向きな変化が報告されている」という点です。「HIITでなければ意味がない」わけではなく、続けられる強度で行うことが土台になります1,5。筋力面の運動についてはパーキンソン病の筋力トレーニングについて解説した記事も参考になります。
研究の対象は、主に軽症〜中等症(ホーエン・ヤール分類でおおむね1〜3)で、心臓や整形の大きな問題がない方です1,3。自転車エルゴメーターは、バランスが不安な方でも座って行えるため、転倒リスクを抑えながら強度を上げやすい利点があります。一方で、HIITはきつさを伴うため、開始前のメディカルチェックと、監督下での段階的な導入が前提になります1,3。
・起立性低血圧(立ちくらみ)が強い、運動中に血圧が下がりやすい
・重い呼吸器の病気、コントロール不良の糖尿病がある
・強い姿勢異常(腰曲がり)、重度のすくみ足・突進があり、安全な姿勢が取りにくい
・薬の効いている時間・切れている時間で症状の差が大きい(オン・オフ変動)
SPARX試験では、高強度群のほうが中等度群・通常ケア群より筋肉や関節の軽い不調(有害事象)が多く報告されましたが、重いものではなかったとされています3。ウォームアップとクールダウン、水分補給、主観的なきつさ(ボルグスケールなど)の確認、体調が悪い日は強度を下げる、といった管理が必要です。
高強度は、自己判断で目標心拍数だけを追う運動ではありません。薬の効いている時間帯、起立性低血圧、不整脈・狭心症、転倒リスク、疲労の残り方を確認し、軽症〜中等症で医学的に運動可能と判断された方が、専門職の監督下で段階的に行うことが前提です。胸痛、失神しそうな感覚、普段と違う強い息切れ、動悸、急な神経症状があれば中止して医療機関へ相談してください。
下記は「研究で使われた条件」であって、「これが最適」という意味ではありません。実際の設定は、心臓の評価や本人の体調に合わせて専門職が決めます。
・頻度:週3〜4回(SPARX試験は週4回を処方し、実際は週2.8回でした)3
・1回の時間:ウォームアップ・クールダウンを含めて30〜45分程度1
・期間:研究の多くは6〜12週間。12週間を超える研究はほとんどありません1
・様式:自転車エルゴメーター、トレッドミルなど。座って行える自転車は、バランスが不安な方でも強度を上げやすいです5,6
HIITは有酸素運動の「やり方の一つ」です。中等度の運動を一定のペースで続ける方法でも、体力と運動症状の面で前向きな報告があります2,5。まずは無理のない強度で習慣にし、体調と相談しながら少しずつ強度を上げていく進め方が現実的です。脳卒中の分野でも同じHIITが研究されており、考え方の比較として脳卒中後の高強度インターバル運動について解説した記事もご覧ください。
訪問リハビリで「きつい運動のほうがよいと聞いた」と相談を受けたときは、まず「高強度が中等度より優れているとまでは言えず、大事なのは続けられる強度で有酸素運動を習慣にすること」という研究の現状をお伝えします。高強度を試す場合は、事前に主治医と循環器の評価を確認し、心拍数や主観的なきつさを見ながら、軽い強度から数週間かけて上げていきます。自宅にエアロバイクがある方には、それを使った区間走法(速くこぐ・ゆっくりこぐの交互)を、体調の良い日に限って提案することがあります。薬が効いている時間帯に運動を合わせること、オフの時間や立ちくらみ、疲れやすさを見ながら量を調整すること、転倒を避けられる姿勢(座位)を選ぶことを重視しています。「強度を上げる」こと自体が目的にならないよう、生活の中で続く形にすることを中心に考えます。
本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月9日に再確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の運動機器・製薬・プール運営事業者から本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Garcia De Sena I, Veronese da Costa A, Dos Santos IK, Pessoa de Araújo D, da Silva Gomes FT, Lopes de Paiva Cavalcanti JR, Knackfuss MI, Fernandes de Andrade M, Moura Melo PK, Teixeira Fonseca IA. Feasibility and effect of high-intensity training on the progression of motor symptoms in adult individuals with Parkinson's disease: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2023. doi:10.1371/journal.pone.0293357. PMID: 37948405. PMCID: PMC10637666. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37948405/
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