変形性膝関節症・股関節症の水中運動療法(プール運動)とは?痛み・生活動作への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
変形性膝関節症・股関節症の水中運動療法(プール運動)とは?痛み・生活動作への研究と限界を正直に解説
公開日:2026年9月8日/最終更新:2026年9月9日

「膝や股関節が痛くて陸の運動がつらい。プールならどうか」と考える方は多いです。結論から先にお伝えします。変形性膝関節症・股関節症に対する水中運動(プールでの運動)は、コクランレビューをはじめ複数のシステマティックレビュー(多くの研究を集めてまとめた論文)とメタアナリシス(結果を数量的に統合した解析)で、何もしない場合と比べて痛み・生活動作のしづらさ・生活の質を「小さいながら意味のある範囲で」やわらげると報告されています1,2,3。ただし効果の大きさは小〜中程度で、長く続く効果は確認されていません1。また、陸上の運動と水中運動を比べると、多くの研究で大きな差はありません3,4,5。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。

SECTION 01
水中運動療法とは何か・なぜ関節症で使われるのか

水中運動療法(アクアエクササイズ、hydrotherapy)は、プールなど水の中で行う運動の総称です。歩行、スクワット、脚の振り、バランス練習、水中エアロビクスなどが含まれます。水の浮力で関節にかかる体重が減るため、陸上では痛くてできない動きも行いやすくなります。一方で水の抵抗があるため、ゆっくりでも筋肉には負荷がかかります。水温はおおむね30〜34度程度が使われます。

変形性関節症では、運動療法が基本の対策として国内外のガイドラインで勧められています。その中で水中運動は、「痛みや肥満、他の関節の問題で陸上運動が続けにくい人」の入り口として位置づけられることが多い方法です1,5。運動療法全体の考え方や、股関節症での運動については変形性股関節症の運動療法について解説した記事で、筋トレの強さや量については変形性膝関節症の筋トレの強さと量について解説した記事で扱っています。

温水プールで水中運動を行う高齢者
水の浮力を利用すると、膝や股関節への荷重を抑えながら運動しやすくなります。(場面イメージ)
SECTION 02
研究では効果があるとされているのか

「何もしない場合と比べてどうか」と「陸上運動と比べてどうか」を分けて見ると、理解しやすくなります。

コクランレビュー(2016年・膝/股関節症、13のランダム化比較試験、1,190人)

参加者の75%が女性、平均年齢68歳、運動期間の平均は12週間でした。何もしない対照と比べて、水中運動は運動直後に、痛みを小さく減らし(標準化平均差 −0.31、95%信頼区間 −0.47〜−0.15)、生活動作のしづらさを小さく減らし(標準化平均差 −0.32、95%信頼区間 −0.47〜−0.17)、生活の質を小さく上げました(標準化平均差 −0.25、95%信頼区間 −0.49〜−0.01)。これは0〜100点の尺度で痛み・生活動作が約5点、生活の質が約7点ぶんの差にあたります。エビデンスの確実性はいずれも「中程度」で、「小さいが臨床的に意味のある短期の効果があるかもしれない」と結論づけられています。一方、運動をやめた後の追跡(3試験)では有意な効果は残りませんでした(痛みの標準化平均差 −0.30、95%信頼区間 −0.92〜0.32)。重い有害事象の報告はありませんでした1

システマティックレビュー・メタアナリシス(2014年・下肢の関節症、11のランダム化比較試験)

何もしない対照と比べて、水中運動は痛み(標準化平均差 0.26、95%信頼区間 0.11〜0.41)、自己評価の機能(0.30、95%信頼区間 0.18〜0.43)、身体機能(0.22、95%信頼区間 0.07〜0.38)、こわばり(0.20、95%信頼区間 0.03〜0.36)、生活の質(0.24、95%信頼区間 0.04〜0.45)を、いずれも小さく良くしました。著者らは「効果は小さく、評価尺度のばらつきや小規模な研究が多いため、慎重に解釈すべき」と述べています2

システマティックレビュー・メタアナリシス(2023年・膝関節症、22試験・1,394人)

何もしない対照と比べて、水中運動は運動直後に痛み(標準化平均差 −0.58、95%信頼区間 −0.82〜−0.33)、こわばり(−0.57、95%信頼区間 −1.03〜−0.11)、身体機能(−0.35、95%信頼区間 −0.52〜−0.18)を良くしました。運動をやめてから3か月後に効果が残っていたのは痛みだけでした(−0.48、95%信頼区間 −0.91〜−0.06)。ただし信頼区間の幅が広く、「はっきり体感できる大きさの差」に届いているとは言い切れません。陸上運動と比べた解析(13試験・648人)では、痛み・こわばり・身体機能のいずれも有意な差はありませんでした。水中運動に関連する重い有害事象の報告はありませんでした3

水中運動と陸上運動を直接比べたレビュー2件

膝関節症で水中運動と陸上運動を比べた8試験(579人)のレビューでは、痛み・機能・生活の質のいずれも、短期でも長期でも2群に有意な差はありませんでした。一方、続けやすさ(アドヒアランス)と満足度は水中運動のほうが高い傾向でした4。膝/股関節症で同様に比べた10試験のレビューでも「水中運動の成績は陸上運動と同等」とされ、著者らは「陸上運動が難しい人にとって、水中運動は運動を始められる有力な選択肢になる」とまとめています5。18週間かけて比べたある試験では、両群とも痛みと機能が良くなり、歩行前後の痛みだけは水中運動群のほうが大きく減りました8

運動全体を比べたネットワークメタアナリシス(2013年・下肢の関節症、60試験・8,218人)

「運動をすること」自体は、2002年の時点で「何もしないより良い」という結論が十分に固まっている、と分析されています。筋力・柔軟性・有酸素運動を組み合わせた運動が機能の面で最も有効とされ(標準化平均差 −0.63、95%信頼区間 −1.16〜−0.10)、水中での筋力運動も、何もしない場合より痛みの面で有意に有効でした。ただしデータの多くは膝関節症のものです6

全体をまとめると、「水中運動は、何もしない場合と比べて痛み・生活動作・生活の質を小〜中程度やわらげるが、効果は運動をしている期間に限られやすい。陸上運動と比べて特別に優れているわけではないが、続けやすさでは利点がある」というのが現時点の見方です1,3,4,5

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

研究の質にはいくつかの限界があります。水中運動では、参加者に「運動をしているかどうか」を伏せることが原理的にできないため、期待の影響(プラセボ反応)が結果に混じりやすくなります。コクランレビューでは、13試験のうちバイアスのリスクが低いと判断できたのは1試験だけで、この点で確実性が1段階引き下げられています1。ある単一のランダム化比較試験でも、著者らは「効果が運動そのものによるのか、注目されることによる反応なのかは区別できない」と述べています7。膝と股関節をまとめて解析している研究が多く、関節ごとに分けると使える試験が少なくなります1。1回のプログラムの内容(種目・強度)が十分に記載されていない研究も多く報告されています5

まだ分かっていないこと

1. 効果がどのくらい続くか。運動をやめると効果は薄れやすく、長期に続いたという証拠はほとんどありません1,3
2. 最適な「量」。水温、1回の時間、頻度、期間、種目の組み合わせの「正解」は定まっていません1
3. 関節ごとの違い。膝と股関節、進行度(レントゲンの重症度)ごとに効果が違うかは、十分に検証されていません1
4. 関節の構造への影響。軟骨のすり減りや変形そのものに影響するかを調べた研究はありません1
5. どんな人に最も向くか。肥満や他の関節痛がある人に特に有用と考えられていますが6、条件を分けた比較は限られます。

数値は集団の平均的な変化です。関節の状態、体重、痛みの強さ、プログラムの内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではなく、個人の結果を保証するものではありません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究で前向きな変化が報告されているもの(何もしない場合との比較・運動期間中)
・関節の痛み(小〜中程度)1,2,3
・生活動作のしづらさ、身体機能1,2,3
・こわばり、生活の質1,2
・日常生活動作、余暇・スポーツ活動4
変わりにくい・はっきりしないもの
・運動をやめた後の効果の持続(薄れやすい)1,3
・陸上運動に対する上乗せ効果(多くの比較で差なし)3,4,5
・関節の変形・軟骨のすり減りそのもの1
・手術の必要性を変えられるか(この点を調べた質の高い研究は乏しい)

水中運動の役割は「痛みで動きにくい時期に、運動を始めて続ける入り口をつくること」に近いです。体重管理や陸上での筋トレと組み合わせる考え方は、変形性膝関節症の体重管理と運動について解説した記事も参考になります。

プールで重心移動と歩行を練習する高齢者
研究では、水中歩行、関節運動、筋力・バランス運動などを組み合わせています。(場面イメージ)
SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

水中運動は、陸上の運動をすると痛みが強く出る方、体重が重く関節の負担が気になる方、複数の関節に痛みがある方、転倒が心配でバランス運動を陸上で行いにくい方に向いています5,6。水中では体重の負担が減るため、痛みを抑えながら関節を動かし、筋肉を使うことができます。手術後のリハビリでプールを使うこともありますが、時期や傷の状態によるため主治医の指示が必要です。手術後の一般的な流れは人工膝関節全置換術後のリハビリについて解説した記事で扱っています。

⚠ 次のような場合は、自己判断で始めず、主治医・リハビリ専門職に相談してください
・治りきっていない傷、皮膚の感染、コントロールされていない皮膚の病気がある
・コントロールされていない心不全・不整脈・狭心症、重い呼吸器の病気がある
・発熱している、関節が赤く腫れて熱をもっている(急性の炎症が疑われる)
・失禁のコントロールが難しい、けいれん発作の既往がある
・強いめまい、水への強い恐怖心がある
・関節に強い変形があり、プール内で安全に立てない・移動できない

研究では、水中運動に関連する重い有害事象は報告されていません。報告されたものは、一時的な関節の違和感、腰の痛み、ふくらはぎや足のつり程度でした1。プールの出入り、滑りやすい床、更衣室での移動には注意が必要です。心臓や血圧に持病がある方は、温水につかることで体への負担が変わるため、事前に主治医に確認してください。

SECTION 06
回数・頻度・期間の目安と陸上運動との関係

下記は「研究でよく使われた条件」であって、「これが唯一の正解」という意味ではありません。実際の内容は、関節の状態・痛み・通える環境に合わせて調整します。

・頻度:週2〜3回1
・1回の時間:40〜60分程度(準備運動・整理運動を含む)1
・期間:研究の多くは6〜20週間、平均12週間1。ただし効果は運動期間中に限られやすいため、続けることが前提です1,3
・内容:水中歩行、脚の振り、スクワット、バランス練習、水中エアロビクスなど
・水温:おおむね30〜34度

陸上運動と水中運動は、効果の大きさでは大きな差がありません3,4,5。そのため、「陸上運動がつらい時期は水中運動から始め、痛みが落ち着いてきたら陸上の筋トレやウォーキングに移行する・併用する」という進め方が現実的です1,6。プールに通えない日のために、家でできる膝・股関節まわりの運動を用意しておくと、続けやすくなります。

水中運動の前に体調を相談する高齢者と専門職
心臓・呼吸器の病気、血圧、傷の状態などは、プール利用前に確認が必要です。(場面イメージ)
SECTION 07
訪問リハビリの現場で大切にしていること
現場で確認している視点

訪問リハビリではプールは使えないため、水中運動について相談を受けたときは、「陸上運動と効果は同等で、特別な近道ではないが、痛みで動きにくい時期の入り口としては有力」という研究の要点をお伝えします。近くに通える温水プールや自治体の教室があるかを一緒に調べ、通う場合は、送迎・更衣・出入りの動線まで具体的に確認します。並行して、家では膝・股関節まわりの筋力運動、体重管理、痛みの出にくい生活動作の工夫を続けられるように整えます。「プールに通えない週があっても運動がゼロにならない」ことを重視し、水中と陸上の運動を組み合わせて、長く続けられる形にすることを中心に考えます。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。運動の可否や内容は、関節の状態や持病によって異なります。新しい運動を始めるときや内容を変えるときは、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
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執筆・確認と運営上の立場

本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月9日に再確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の運動機器・製薬・プール運営事業者から本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. プール運動は陸上の運動より効きますか?
A. 多くの研究で、水中運動と陸上運動の効果に大きな差はありません3,4,5。ただし、痛みで陸上運動がつらい時期は水中運動のほうが取り組みやすく、続けやすさや満足度は水中運動のほうが高いという報告があります4
Q. どのくらい痛みが軽くなりますか?
A. コクランレビューでは、0〜100点の尺度で痛みが平均5点ぶんほど下がる、という小さな差でした1。人によって体感は異なり、大きく楽になる方もいれば、変化が乏しい方もいます。
Q. やめたら元に戻りますか?
A. 研究では、運動をやめた後に効果が残ったという証拠はほとんどありません1,3。水中運動に限らず、運動療法は続けることが前提になります。通えない時期に備えて、家でできる運動も用意しておくとよいでしょう。
Q. 週に何回、どのくらい続ければよいですか?
A. 研究では週2〜3回、1回40〜60分、6〜20週間(平均12週間)という設定が多いです1。実際の回数・内容は、関節の状態や痛みに合わせて担当の専門職が調整します。
Q. 泳げなくても大丈夫ですか?
A. 大丈夫です。研究で行われているのは、胸〜腰の深さで立って行う歩行や体操が中心で、泳ぐ必要はありません。ただし、水への強い恐怖心がある方や、プール内で安全に立てない方は、事前に専門職に相談してください。
Q. 変形やレントゲンの所見は良くなりますか?
A. 水中運動が関節の変形や軟骨のすり減りそのものを変えるかを調べた研究はありません1。目的は、痛みや生活動作のしづらさをやわらげ、動ける範囲を保つことです。
Q. 手術のあとにプール運動をしてもよいですか?
A. 手術後にプールを使うリハビリはありますが、傷の状態や時期によって開始できる時期が決まっています。必ず主治医の許可を得てから始めてください。
REFERENCES
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