
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「音楽に合わせて体を動かすダンスが、パーキンソン病のリハビリに良いと聞いた」「タンゴが体に良いって本当?」——最近、ご本人やご家族からこうした質問をいただくことが増えました。ダンスは、楽しみながら続けられる運動として注目されており、研究も少しずつ積み重なっています。この記事では、パーキンソン病に対するダンスについて、研究で分かっていること、期待できる面とまだ不確かな面を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論を先にお伝えすると、運動症状の重さやバランス、動きやすさの一部の指標には良い変化が示されていますが、研究の規模が小さく、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。

・アルゼンチン・タンゴの13研究をまとめた解析では、運動症状の重さ(UPDRS-III)やバランスに良い変化が示されました1。
・11試験(339名)を含む大規模なまとめでも、ダンスは運動症状(標準化平均差0.72)やバランス、歩く速さに良い変化を示しました2。
・一方で、6分間歩行やすくみ足でははっきりした差が示されず、生活の質への効果もはっきりしませんでした1,2。
・研究の多くは参加人数が少なく、同じ研究グループからのものが多い点が限界です1。
ここでいうダンスとは、音楽やリズムに合わせて、ステップを踏んだり、体重を移したり、方向を変えたりする運動のことです。パーキンソン病のリハビリでよく研究されているのはアルゼンチン・タンゴですが、ワルツ、フォックストロット、さまざまなグループダンスも取り上げられています1,2。ダンスには、音楽のリズムが動きのきっかけ(合図)になる、体重移動や方向転換の練習が自然に含まれる、パートナーや仲間と一緒に楽しめる、といった特徴があります。
パーキンソン病では、動き出しにくさ、歩幅の小ささ、バランスの取りにくさが起こりやすく、ダンスはこうした要素を「楽しみ」の中で練習できる方法として関心を集めています。ヨガやピラティスなど、ほかの体を動かす取り組みと同じく、続けやすさが一つの魅力です。似たテーマとして、パーキンソン病とヨガについて解説した記事もあわせて読むと、自分に合いそうな運動を考える手がかりになります。
結論から正直にお伝えすると、ダンスは運動症状の重さやバランス、動きやすさの一部の指標に良い変化が期待できます。ただし、研究の規模が小さいものが多く、変わりにくい指標もあります。以下に、研究をまとめた解析を紹介します。
より多くの運動の種類を比べた大規模なまとめでは、ダンス(11試験・339名)は、運動症状の重さ(標準化平均差0.72、95%信頼区間0.44〜1.01)、バランス(Berg Balance Scale 0.59)、動きやすさ(Timed Up and Go 0.49)、歩く速さ(0.51)に良い変化を示しました2。ただし、生活の質でははっきりした差は示されませんでした2。
別のまとめでも、5つのランダム化比較試験(159名)で、ダンスがほかの運動と比べて運動症状や動きやすさに良い変化を示したことが報告されています3。全体として、効果の方向はおおむね良い側にありますが、後で述べるように、研究の規模や質には限界があります。

研究の結果から整理すると、ダンスで比較的変わりやすいのは、運動症状の重さ、バランス、立ち上がって歩く動作の速さといった指標です1,2。反対に、6分間で歩ける距離やすくみ足、生活の質などは、変わりにくい、あるいは結果が一定しない部分だと考えられます1,2。パーキンソン病そのものの進行を止めるものではない点も、正直にお伝えしておきます。
大切なのは、ダンスを「これ一つですべてが解決する方法」ととらえないことです。ダンスは、続けやすさや楽しさという点で優れた選択肢の一つであり、ほかの運動や日常の練習と組み合わせて考えると、無理なく続けやすくなります。運動の種類ごとの向き・不向きを比べたいときは、パーキンソン病のピラティスについて解説した記事もあわせて読むと、選択の幅が広がります。どの運動が自分に合うかは、体の状態や好みによっても変わります。
研究で対象になったのは、多くが軽度から中等度のパーキンソン病の方です1,2。「楽しみながら体を動かしたい」「音楽が好き」「一人での運動が続かない」という方には、ダンスは相性の良い選択肢になり得ます。仲間やパートナーと一緒に取り組めることが、続けやすさにつながります。一方で、ダンスには方向転換や体重移動が多く含まれるため、バランスや転倒への配慮が欠かせません。
研究では、多くのプログラムが週1〜2回、1回あたり1時間程度を、10週間から数か月続ける形で行われていました1。ただし、これも「これが正解」という決まった形ではなく、対象者や研究によってさまざまです1,2。ここから言えるのは、「最初から難しい振り付けに挑戦する」より、「無理のないステップと時間から始め、慣れてきたら少しずつ広げていく」という進め方が現実的だということです。
自宅で取り入れる場合も、好きな音楽に合わせて体重を移す、ゆっくりステップを踏む、といった無理のない形から始めるとよいでしょう。取り組みの成果を「歩く速さ」や「立ち上がりの動作」などで確認したい場合は、パーキンソン病のリハビリで用いる評価指標について解説した記事も参考になります。何をどこまで自分で行い、どこから専門職に相談するかの線引きは、担当の専門職と決めておくと安心です。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Radder DLM, Silva de Lima AL, Domingos J, Keus SHJ, van Nimwegen M, Bloem BR, de Vries NM. Physiotherapy in Parkinson's Disease: A Meta-Analysis of Present Treatment Modalities. Neurorehabil Neural Repair. 2020;34(10):871-880. DOI:10.1177/1545968320952799. PMID:32917125. PMCID:PMC7564288.
3. Dos Santos Delabary M, Komeroski IG, Monteiro EP, Costa RR, Haas AN. Effects of dance practice on functional mobility, motor symptoms and quality of life in people with Parkinson's disease: a systematic review with meta-analysis. Aging Clin Exp Res. 2018;30(7):727-735. DOI:10.1007/s40520-017-0836-2. PMID:28980176.
