
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「脳卒中の後、便秘がひどくなった」「トイレがつらい」——これは、ご本人にもご家族にも切実な悩みでありながら、なかなか人に相談しづらいテーマです。実は便秘は、脳卒中後に非常に多くみられる問題で、体調や気分、リハビリの意欲にも影響します。この記事では、脳卒中後の便秘・排便障害について、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、便秘は脳卒中後の約半数に起こるとされるほど身近な一方で、「これをすれば確実に解決する」という決定的な方法はまだ確立しておらず、いくつかの工夫を組み合わせながら主治医と相談していくことが現実的です。
・出血性(脳出血)で66%、脳梗塞で51%と、脳卒中のタイプによって差がみられました1。
・便秘の背景には、体の動きにくさ、水分・食物繊維の不足、飲み込みにくさ、トイレでの介助が必要なこと、薬の影響、脳と腸のつながり(脳腸相関)の乱れなど、複数の要因が重なります1。
・神経の病気のある方の排便障害への対応をまとめたコクランレビュー(25件・1,598名、うち脳卒中5件)では、食事・排便習慣づくり・お腹のマッサージなどが調べられましたが、研究の質はおおむね低く、確実な結論には至っていません2。
・便秘は生活の質に関わる大切な問題です。強い腹痛・嘔吐・便やガスが出ない・血便などがあるときは、我慢せず医療機関に相談してください。
便秘とは、便が出にくい、回数が少ない、硬くて出しづらい、残った感じがする、といった状態をまとめた呼び方です。脳卒中の後は、この便秘がとくに起こりやすくなります。理由は一つではなく、いくつもの要因が重なります。たとえば、体が動かしにくくなって活動量が減ること、飲み込みにくさ(嚥下障害)や食欲の低下で水分や食物繊維が不足すること、トイレに自分で行きにくく我慢しがちになること、脳卒中後に使う薬の中に腸の動きを抑えるものがあること、そして脳と腸のつながり(脳腸相関)が脳の損傷によって乱れることなどです1。
便秘は「たかが便秘」と思われがちですが、お腹の張りや不快感で食事が進まなくなったり、気分やリハビリの意欲が下がったりと、生活全体に影響します。また、排泄の悩みは尿の問題と重なることもあります。尿もれ・排尿の困りごとについては脳卒中後の尿失禁について解説した記事もあわせてご覧ください。排泄はデリケートな話題ですが、一人で抱え込まず、専門職に相談してよいことです。
結論から正直にお伝えすると、「便秘が脳卒中後にとても多い」ことははっきりしていますが、「どう対応すれば最も良いか」については、質の高い証拠がまだ乏しいのが現状です。代表的な研究をみていきます。
次に、対応の方法についてです。神経の病気のある大人の排便障害(便失禁・便秘)への対応をまとめたコクランレビュー(25件・1,598名、うち脳卒中を対象にした研究は5件)があります2。ここでは、食物繊維や整腸のための食事、排便習慣づくりや姿勢の工夫、看護師による評価・教育などの「生活・ケアの工夫」と、お腹のマッサージ、肛門から水を入れて排便を促す方法(経肛門的洗腸)、立位をとる練習、電気刺激などの「体への働きかけ」が調べられました。生活・ケアの工夫はお腹の症状を和らげる可能性が示され、お腹のマッサージなどは便秘の症状を中くらい和らげる可能性が報告されました(いずれも低い確実性)2。日本では、漢方薬(大建中湯)を用いた脳卒中後の便秘に関する研究も報告されていますが、規模は限られます3。
研究をふまえると、便秘への対応は「一つの決め手」ではなく、「無理のない工夫を組み合わせて続けること」が現実的です。水分や食物繊維をとりやすくする、活動量を少しずつ増やす、決まった時間にトイレに行く習慣をつくる、お腹のマッサージを取り入れる、といった工夫は、体に大きな負担をかけずに試せるものが多く、生活のリズムを整える助けにもなります2。体を動かすことは腸の動きにも関わるため、無理のない範囲で活動量を保つことが役立つと考えられます。運動・活動の考え方は脳卒中後の有酸素運動について解説した記事もあわせて参考にしてください。
一方で、「この方法なら誰でも確実に便秘が解消する」ことは、現時点の質の高い研究でははっきり示されていません2。効果には個人差があり、薬(下剤など)が必要かどうかも、他の薬や持病を含めて主治医が判断する領域です。自己判断で下剤を長く使い続けたり、市販薬を強めていったりすることは避け、続く便秘は主治医・薬剤師に相談してください。ご自身で体調を整えていく取り組みについては脳卒中後のセルフマネジメントについて解説した記事も参考になります。
便秘がちで、お腹の張りや不快感が続く方、飲み込みにくさや活動量の低下がある方、便秘になりやすい薬を使っている方は、早めに主治医・専門職に相談することがすすめられます。便秘は生活の質に関わる大切な問題で、我慢して抱え込む必要はありません。
研究では「これをすれば確実」という決まった方法は定まっていません1,2。そのうえで、体に負担をかけずに試しやすい工夫としては、次のようなものがあります。水分をこまめにとる(飲み込みにくさがある方は、とろみのつけ方も含めて専門職に相談)、野菜・海藻・果物・発酵食品など食物繊維や整腸に役立つ食品を無理のない範囲でとる、朝食後などタイミングを決めてトイレに座る習慣をつくる、可能な範囲で日中の活動量を保つ、といったものです。
トイレでは、少し前かがみになり、足の下に台を置いてかかとを上げる姿勢が排便しやすいとされ、現場でもよく用いられます。お腹を「の」の字にやさしくさするマッサージを取り入れる方もいます。これらは一度に全部やろうとせず、続けられそうなものから一つずつ試すのがおすすめです。飲み込みや食事量に不安がある方は、まず食べる・飲む力の状態を整えることも大切で、脳卒中後の口腔ケアについて解説した記事もあわせて参考にしてください。工夫を続けても便秘がつらいときは、我慢せず主治医に相談してください。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Todd CL, Johnson EE, Stewart F, Wallace SA, Bryant A, Woodward S, Norton C. Conservative, physical and surgical interventions for managing faecal incontinence and constipation in adults with central neurological diseases. Cochrane Database Syst Rev. 2024;10(10):CD002115. DOI:10.1002/14651858.CD002115.pub6. PMID:39470206. PMCID:PMC11520510.
3. Arita R, Numata T, Takayama S, et al. Responder Analysis of Daikenchuto Treatment for Constipation in Poststroke Patients: A Subanalysis of a Randomized Control Trial. J Evid Based Integr Med. 2019;24:2515690X19889271. DOI:10.1177/2515690X19889271. PMID:31823650. PMCID:PMC6906340.
