脳卒中後の便秘・排便障害とは?生活で整えたいポイントと注意点

· 自費リハビリ情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の便秘・排便障害とは?研究で分かっていることと限界を正直に解説

「脳卒中の後、便秘がひどくなった」「トイレがつらい」——これは、ご本人にもご家族にも切実な悩みでありながら、なかなか人に相談しづらいテーマです。実は便秘は、脳卒中後に非常に多くみられる問題で、体調や気分、リハビリの意欲にも影響します。この記事では、脳卒中後の便秘・排便障害について、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、便秘は脳卒中後の約半数に起こるとされるほど身近な一方で、「これをすれば確実に解決する」という決定的な方法はまだ確立しておらず、いくつかの工夫を組み合わせながら主治医と相談していくことが現実的です。

排便の悩みは、水分、食事、活動量、薬の影響などを一緒に整理することから始めます。
排便の悩みは、水分、食事、活動量、薬の影響などを一緒に整理することから始めます。
この記事の要点
・便秘は脳卒中後にとても多い症状です。8件の研究(約1,385名)をまとめた分析では、脳卒中後の便秘の割合はおよそ48%(95%信頼区間33〜63%)と報告されています1
・出血性(脳出血)で66%、脳梗塞で51%と、脳卒中のタイプによって差がみられました1
・便秘の背景には、体の動きにくさ、水分・食物繊維の不足、飲み込みにくさ、トイレでの介助が必要なこと、薬の影響、脳と腸のつながり(脳腸相関)の乱れなど、複数の要因が重なります1
・神経の病気のある方の排便障害への対応をまとめたコクランレビュー(25件・1,598名、うち脳卒中5件)では、食事・排便習慣づくり・お腹のマッサージなどが調べられましたが、研究の質はおおむね低く、確実な結論には至っていません2
・便秘は生活の質に関わる大切な問題です。強い腹痛・嘔吐・便やガスが出ない・血便などがあるときは、我慢せず医療機関に相談してください。
SECTION 01
脳卒中後の便秘・排便障害とは

便秘とは、便が出にくい、回数が少ない、硬くて出しづらい、残った感じがする、といった状態をまとめた呼び方です。脳卒中の後は、この便秘がとくに起こりやすくなります。理由は一つではなく、いくつもの要因が重なります。たとえば、体が動かしにくくなって活動量が減ること、飲み込みにくさ(嚥下障害)や食欲の低下で水分や食物繊維が不足すること、トイレに自分で行きにくく我慢しがちになること、脳卒中後に使う薬の中に腸の動きを抑えるものがあること、そして脳と腸のつながり(脳腸相関)が脳の損傷によって乱れることなどです1

便秘は「たかが便秘」と思われがちですが、お腹の張りや不快感で食事が進まなくなったり、気分やリハビリの意欲が下がったりと、生活全体に影響します。また、排泄の悩みは尿の問題と重なることもあります。尿もれ・排尿の困りごとについては脳卒中後の尿失禁について解説した記事もあわせてご覧ください。排泄はデリケートな話題ですが、一人で抱え込まず、専門職に相談してよいことです。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「便秘が脳卒中後にとても多い」ことははっきりしていますが、「どう対応すれば最も良いか」については、質の高い証拠がまだ乏しいのが現状です。代表的な研究をみていきます。

研究から読み取れること
まず、便秘がどのくらい多いかについてです。脳卒中患者の便秘を調べた8件の研究(合計約1,385名)をまとめた分析では、便秘の割合はおよそ48%(95%信頼区間33〜63%)と報告されました1。脳卒中のタイプ別では、出血性(脳出血)で66%、脳梗塞で51%と差がみられ、時期別では急性期45%、リハビリ期48%でした1。研究によって29〜79%と幅がありますが、脳卒中後の便秘が「多くの方に起こる身近な問題」であることは共通しています。

次に、対応の方法についてです。神経の病気のある大人の排便障害(便失禁・便秘)への対応をまとめたコクランレビュー(25件・1,598名、うち脳卒中を対象にした研究は5件)があります2。ここでは、食物繊維や整腸のための食事、排便習慣づくりや姿勢の工夫、看護師による評価・教育などの「生活・ケアの工夫」と、お腹のマッサージ、肛門から水を入れて排便を促す方法(経肛門的洗腸)、立位をとる練習、電気刺激などの「体への働きかけ」が調べられました。生活・ケアの工夫はお腹の症状を和らげる可能性が示され、お腹のマッサージなどは便秘の症状を中くらい和らげる可能性が報告されました(いずれも低い確実性)2。日本では、漢方薬(大建中湯)を用いた脳卒中後の便秘に関する研究も報告されていますが、規模は限られます3
エビデンスの質と限界
対応方法の研究には共通した限界があります。排便障害へのコクランレビューでは、組み入れられた研究の質が「ほぼ一律に低い」と評価されました2。参加者や実施者が「どの方法を受けているか」を分からなくする工夫が難しいこと、半数の研究で報告の偏り(都合のよい結果だけ載せる傾向)がみられたこと、測り方が研究ごとにバラバラで直接比べにくいこと、生活の質に関するデータが少ないことなどが指摘されています2。しかも、脳卒中だけを対象にした研究は25件中5件にとどまります。便秘の割合を調べた分析でも、研究の方法や時期がそろっておらず、活動量・食事・気分・薬など多くの要因が絡む点が限界とされています1。良い傾向を示した工夫も、確実に効くと言い切れる段階ではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、脳卒中後の便秘に対して、どの工夫が・どのような方に・どのくらいの期間で最も役立つのかは、十分に分かっていません1,2。食物繊維やお腹のマッサージ、排便習慣づくりなどは実際によく行われますが、それぞれの効果を脳卒中の方に絞って厳密に確かめた質の高い研究は限られています。また、便秘が脳卒中後の回復や見通しにどう影響するかを調べたデータも十分ではありません1。今後、脳卒中の方を対象にした、測り方をそろえた大きく質の高い研究が必要とされています。
水分、食物繊維、歩行、生活リズムなどを、無理のない範囲で整えていきます。
水分、食物繊維、歩行、生活リズムなどを、無理のない範囲で整えていきます。
SECTION 03
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、便秘への対応は「一つの決め手」ではなく、「無理のない工夫を組み合わせて続けること」が現実的です。水分や食物繊維をとりやすくする、活動量を少しずつ増やす、決まった時間にトイレに行く習慣をつくる、お腹のマッサージを取り入れる、といった工夫は、体に大きな負担をかけずに試せるものが多く、生活のリズムを整える助けにもなります2。体を動かすことは腸の動きにも関わるため、無理のない範囲で活動量を保つことが役立つと考えられます。運動・活動の考え方は脳卒中後の有酸素運動について解説した記事もあわせて参考にしてください。

一方で、「この方法なら誰でも確実に便秘が解消する」ことは、現時点の質の高い研究でははっきり示されていません2。効果には個人差があり、薬(下剤など)が必要かどうかも、他の薬や持病を含めて主治医が判断する領域です。自己判断で下剤を長く使い続けたり、市販薬を強めていったりすることは避け、続く便秘は主治医・薬剤師に相談してください。ご自身で体調を整えていく取り組みについては脳卒中後のセルフマネジメントについて解説した記事も参考になります。

SECTION 04
どんな人に注意が必要か・受診の目安

便秘がちで、お腹の張りや不快感が続く方、飲み込みにくさや活動量の低下がある方、便秘になりやすい薬を使っている方は、早めに主治医・専門職に相談することがすすめられます。便秘は生活の質に関わる大切な問題で、我慢して抱え込む必要はありません。

⚠ こんなときはすぐ相談・受診を
次のような場合は、便秘の背景に別の問題が隠れていることがあるため、我慢せず医療機関に相談してください。数日以上、便もガスも出ず、お腹が強く張って痛む/吐き気・嘔吐をともなう/血便が出る/急に便秘と下痢を繰り返す/体重が急に減る、といった場合です。また、下剤を使っても効かない、量がどんどん増えている、というときも主治医・薬剤師に相談してください。とくに、飲み込みにくさで水分がとりにくい方は脱水にも注意が必要です。無理にいきむと血圧が上がることもあるため、いきみ方に不安がある方は専門職に相談しましょう。ここで紹介した生活の工夫は、あくまで一般的な情報であり、効果を保証するものではありません。
SECTION 05
生活での工夫の目安

研究では「これをすれば確実」という決まった方法は定まっていません1,2。そのうえで、体に負担をかけずに試しやすい工夫としては、次のようなものがあります。水分をこまめにとる(飲み込みにくさがある方は、とろみのつけ方も含めて専門職に相談)、野菜・海藻・果物・発酵食品など食物繊維や整腸に役立つ食品を無理のない範囲でとる、朝食後などタイミングを決めてトイレに座る習慣をつくる、可能な範囲で日中の活動量を保つ、といったものです。

トイレでは、少し前かがみになり、足の下に台を置いてかかとを上げる姿勢が排便しやすいとされ、現場でもよく用いられます。お腹を「の」の字にやさしくさするマッサージを取り入れる方もいます。これらは一度に全部やろうとせず、続けられそうなものから一つずつ試すのがおすすめです。飲み込みや食事量に不安がある方は、まず食べる・飲む力の状態を整えることも大切で、脳卒中後の口腔ケアについて解説した記事もあわせて参考にしてください。工夫を続けても便秘がつらいときは、我慢せず主治医に相談してください。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当院での経験
これまで脳卒中後の方の生活を支援する中で、便秘は運動量だけの問題ではなく、飲み込みにくさ、食事量、服薬、トイレまでの移動や衣服操作、排便姿勢などが重なっていることが少なくありません。当院では、回数だけで判断せず、便の硬さ、いきみ、残便感、排便しやすい時間帯も伺い、数日単位で生活全体を整理します。たとえば、朝食後にトイレへ座る時間を決める、足台を使って軽く前かがみになる、日中の立位・歩行を無理なく増やす、水分を取りやすい場所や容器を工夫する、といった方法から一つずつ試します。変化を記録し、うまくいった工夫だけを残すことが継続のポイントです。強い腹痛や嘔吐、血便、便もガスも出ない状態、下剤の調整が必要な場合は、リハビリだけで抱え込まず主治医・薬剤師へつなぐことを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
体の状態や生活の状況を一緒に確認しながら、無理なく続けられるリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨や、特定の薬・食品の使用を促すものではありません。便秘への対応や下剤の使用は、個人の状態によって異なります。下剤や市販薬の使用・調整は、必ず主治医・薬剤師に相談してください。強い腹痛・嘔吐・血便・便やガスが出ないなどの場合は、すぐに医療機関を受診してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
脳卒中の後、なぜ便秘になりやすいのですか?
理由は一つではなく、活動量の低下、水分・食物繊維の不足、飲み込みにくさ、トイレでの介助が必要なこと、薬の影響、脳と腸のつながりの乱れなど、複数の要因が重なるためと考えられています。脳卒中後の便秘はおよそ半数に起こるとされ、めずらしいことではありません。
食物繊維や水分をとれば便秘は解消しますか?
水分や食物繊維をとりやすくする工夫は、体に負担をかけずに試せる方法としてよく行われます。ただし、脳卒中の方に絞って効果を厳密に確かめた質の高い研究は限られており、「誰でも確実に解消する」とは言えません。飲み込みにくさがある場合は、とり方を専門職に相談してください。
お腹のマッサージは役立ちますか?
お腹のマッサージは、便秘の症状を中くらい和らげる可能性が報告されていますが、確実性は低いとされています。体への負担が少なく試しやすい方法ではありますが、お腹に強い痛みや張りがあるときは行わず、まず医療機関に相談してください。
市販の下剤を使い続けても大丈夫ですか?
下剤を自己判断で長く使い続けたり、量を強めていったりすることは避けてください。脳卒中後は他の薬との飲み合わせもあるため、下剤の使用や調整は主治医・薬剤師に相談することが大切です。効かない・量が増えていると感じたら、早めに相談しましょう。
どんなときに受診すればよいですか?
数日以上、便もガスも出ずお腹が強く張って痛む、吐き気や嘔吐がある、血便が出る、急に便秘と下痢を繰り返す、体重が急に減る、といったときは、我慢せず医療機関に相談してください。下剤が効かないときも主治医・薬剤師に相談しましょう。
運動やリハビリは便秘に関係しますか?
体を動かすことは腸の動きにも関わると考えられており、活動量の低下は便秘の要因の一つとされています。無理のない範囲で日中の活動量を保つことは、生活リズムを整える助けにもなります。どの程度動いてよいかは、体の状態に合わせて専門職に相談してください。
REFERENCES
参考文献
1. Li J, Yuan M, Liu Y, Zhao Y, Wang J, Guo W. Incidence of constipation in stroke patients: A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2017;96(25):e7225. DOI:10.1097/MD.0000000000007225. PMID:28640117. PMCID:PMC5484225.
2. Todd CL, Johnson EE, Stewart F, Wallace SA, Bryant A, Woodward S, Norton C. Conservative, physical and surgical interventions for managing faecal incontinence and constipation in adults with central neurological diseases. Cochrane Database Syst Rev. 2024;10(10):CD002115. DOI:10.1002/14651858.CD002115.pub6. PMID:39470206. PMCID:PMC11520510.
3. Arita R, Numata T, Takayama S, et al. Responder Analysis of Daikenchuto Treatment for Constipation in Poststroke Patients: A Subanalysis of a Randomized Control Trial. J Evid Based Integr Med. 2019;24:2515690X19889271. DOI:10.1177/2515690X19889271. PMID:31823650. PMCID:PMC6906340.