東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
個別・グループ・在宅型を研究から解説
「転倒予防に運動が良いと聞くけれど、通所のグループ体操と自宅でできる運動、どちらが自分に合っているのか分からない」というご相談をよくいただきます。実際、転倒予防運動には、施設に通うグループ型、専門職が自宅を訪問する個別・在宅型、その組み合わせなど、いくつかの実施形式があります。
この記事では、地域で生活する高齢者を対象に、転倒予防運動そのものの効果、実施形式による違い、そして研究で繰り返し指摘されている「続けられるかどうか(アドヒアランス)」が結果を左右するという点を、研究と現場の両方から整理します。
最終更新日:2026年8月23日
最新レビュー日:2026年8月23日
最近転倒した、めまいや立ちくらみがある、心臓や血圧に不安がある、骨折歴がある、医師から運動を制限されている、という場合は、自己判断で運動を始めず、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。適した運動の内容や実施形式は、体力や生活環境によって個別に異なります。
65歳以上の地域在住高齢者の約3割が、1年間のうちに一度は転倒すると報告されています。転倒は骨折や活動範囲の縮小につながることがあるため、多くの研究で「運動によって転倒を減らせるか」が検証されてきました。
世界的に信頼されているコクランレビュー(複数の研究をまとめた報告の中でも特に質の高い手法によるもの)では、108件のランダム化比較試験・23,407名分のデータを統合し、バランストレーニングを含む機能的な運動で転倒率が24%低下(発生率比0.76)、複数の要素(バランス・筋力など)を組み合わせた運動プログラムで34%低下(発生率比0.66)したと報告されています1。前者は「高確実性」、後者は「中程度の確実性」のエビデンスと評価されており、研究の質としてもかなり信頼度の高い部類に入ります1。
つまり、「運動は転倒予防に役立つか」という大枠の問いについては、現時点でかなり明確な答えが出ています。問題は、その運動を「どんな形で行うか」によって、実際に効果が出るかどうかが変わってくる、という点です。
具体的な自宅でできるバランス・筋力運動の内容については、当施設のブログで高齢者のOtago運動プログラム(オタゴ体操)について解説した記事でも紹介していますので、あわせてご覧ください。
転倒予防運動には、大きく分けて「施設に通って行うグループ型」「専門職が自宅を訪問する、または自分で行う個別・在宅型」「両方を組み合わせた混合型」があります。2026年のシステマティックレビュー・多層メタ分析では、41本の論文・20,202名分をまとめ、複合型運動プログラム全体で転倒件数の減少が報告されました2。個別とグループを組み合わせた形式では継続率が高い傾向も示されましたが、対象者や運動内容が研究ごとに異なるため、形式そのものが継続率を高めたと断定はできません。
在宅型・個別型の効果を具体的に示した研究として、カナダで実施されたランダム化比較試験があります。過去12か月に転倒した70歳以上の345名を対象に、理学療法士が処方する在宅型の筋力・バランス運動(最初の2か月は週1回、その後計4回の訪問で内容を調整)を12か月間続けたグループと、老年医学専門医による通常ケアのみのグループを比較したところ、運動グループの転倒発生率は年1.4件、通常ケアグループは年2.1件で、発生率比0.64(統計的に意味のある差)でした3。運動に関連した重篤な有害事象の報告はありませんでした3。
グループ型については、理学療法士が指導するグループ運動を扱った系統的レビューで、バランス機能や生活の質の指標に改善傾向が報告されています6。ただし、研究間で対象者やプログラム内容が異なるため、効果の大きさを一律に見積もることはできません。
運動全体が転倒予防に役立つという結論は高確実性のエビデンスに支えられていますが、「どの実施形式が一番良いか」という、より細かい問いについては、まだ十分に答えが出ていません。
前述のコクランレビューでも、グループ運動と個別運動を直接比較した研究は108件中わずか4件(1021名)にとどまり、形式間の優劣を明確に結論づけられるほどの研究数ではありません1。多くの研究は「運動あり」対「運動なし」の比較であり、「どの形式が優れているか」を直接比較したデザインではないため、この記事で紹介する形式ごとの傾向は、あくまで参考情報として捉えてください。
認知機能の低下があるフレイル高齢者を対象に、在宅型の多因子運動プログラム(Vivifrail)を検証した多施設ランダム化比較試験では、機能的な指標(座位からの立ち上がりや歩行などをまとめたSPPBスコア)は改善しましたが、実施率は開始1か月目の79%から、2〜3か月目には68%へと低下したと報告されています4。「在宅型だから続けやすい」と単純には言えず、家族や専門職によるフォローがなければアドヒアランスが下がる可能性がある、という点は正直にお伝えする必要があります。
現在の研究でも、どの実施形式がどのような方に最も合うのか、認知機能や身体機能の程度によって最適な形式がどう変わるのか、長期間(数年単位)続けた場合にどうなるのかは、十分に分かっていません。今後、実施形式そのものを比較する質の高い研究が増えることが期待されます。
実施形式そのものよりも重要かもしれない視点として、複数の研究が「アドヒアランス(決められた内容をどれだけ続けられたか)」が結果を大きく左右すると指摘しています。
・ただし、継続率が高い人はもともと健康状態や意欲が異なる可能性があり、継続率だけが結果の差を生んだとは断定できません
Vivifrail試験では、実施率が開始1か月目の79%から2〜3か月目には68%へ低下しており、在宅型でも継続支援が必要になり得ることが分かります4。「どの形式を選ぶか」と同じくらい、「どうすれば無理なく続けられるか」を一緒に考えることが大切です。
研究結果と現場での傾向をふまえると、実施形式の向き・不向きにはおおよその目安があります。ただし、これは断定的なルールではなく、体力・認知機能・生活環境・本人の希望によって個別に判断すべきものです。
在宅・個別型がグループ型より「優れている」という単純な結論は、現時点の研究からは出せません。前述のとおり、両者を直接比較した研究自体がまだ少ないためです。それぞれの利点・欠点を理解したうえで、続けやすい形を選ぶことが現実的な考え方です。
・在宅多因子型(Vivifrail試験):週3日のレジスタンス・バランス・柔軟性運動+週5日の歩行を3か月間4
・転倒予防効果の実感には、数か月単位の継続が前提となることが多いとされています
興味深いのは、Vivifrail試験のようにプログラム自体は科学的根拠に基づいていても、期間が延びるほどアドヒアランスが下がりやすいという点です4。このため、最初から高い頻度・強度を目指すよりも、無理なく続けられる頻度から始めて、専門職と一緒に段階的に調整していく考え方が現実的です。バランス運動と併せて、姿勢が不安定な床面での練習が転倒への不安にどう影響するかについては、当施設のブログで不安定な床面での筋力運動について解説した記事でも取り上げています。
Journey Rehabは訪問型のサービスのため、通所が難しい方でも自宅で専門職と一緒に運動内容を確認できることが特徴です。一方で、この記事で紹介したとおり、在宅型だからといって自動的にアドヒアランスが保たれるわけではないことも研究から分かっています。だからこそ、運動内容だけでなく「どうすれば無理なく続けられるか」を、生活リズムや体調の変化に合わせて一緒に見直すことを大切にしています。
脳卒中の後遺症がある方の転倒対策については、対象や背景が異なるため、当施設のブログで脳卒中後の転倒に関する研究をまとめた記事で別途取り上げています。実際、脳卒中サバイバーを対象とした在宅型・個別化された介入でも転倒率の減少が報告されており、対象は違っても「その人に合わせて内容を調整する」という考え方には共通点があります。
転倒予防運動そのものは、高確実性のエビデンスに支えられた有効な取り組みです。実施形式(個別・在宅型、グループ型、混合型)による優劣は、直接比較した研究がまだ少なく明確な結論は出ていませんが、複数の研究が共通して指摘するのは「続けられるかどうか」が結果を左右するということです。形式選びと同じくらい、続けやすい工夫を専門職と一緒に考えることが大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。適した運動の内容・実施形式は個別に大きく異なります。運動を始める前、特に転倒歴・骨折歴がある方、強い痛みがある方、心臓や血圧に不安がある方は、必ず主治医・リハビリ専門職へ相談してください。研究データは執筆時点のものであり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
