東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
フレイル予防・転倒予防への効果と限界を正直に解説
「親の足腰が弱ってきた」「転ぶのが怖くて外出が減った」というご相談は、訪問リハビリの現場でとても多く聞きます。ニュージーランド発祥のOtago(オタゴ)運動プログラムは、世界的に研究が積み重ねられている転倒予防プログラムの一つです。
この記事では、Otago運動プログラムがフレイル(虚弱)や認知機能にどこまで役立つのか、最新の研究をもとに、できることとまだ分かっていないことを整理します。
最終更新日:2026年8月15日
最新レビュー日:2026年8月15日
めまい・立ちくらみが強い方、心疾患や骨粗しょう症などの持病がある方、最近転倒してけがをした方は、自己判断で運動を始めず、主治医やリハビリ専門職に相談してから進めてください。この記事は一般的な情報提供であり、個別の運動処方を代替するものではありません。
Otago運動プログラム(Otago Exercise Program、以下OEP)は、1990年代にニュージーランド・オタゴ大学で開発された、高齢者向けの自宅でできる運動プログラムです。下肢の筋力運動とバランス運動を段階的に組み合わせ、必要に応じて歩行練習も加える構成になっています。
もともとは理学療法士が個別に指導しながら在宅で行う転倒予防プログラムとして設計されました。近年は施設入所高齢者やデイサービスなど、集団・準集団の形で応用した研究も増えています1。難易度は本人の体力に合わせて段階的に上げていく仕組みで、「今の体力でもできる」ところから始められるのが特徴です。
2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、15件のランダム化比較試験(合計1,278名、60〜92歳)を統合し、OEPの効果が検討されました1。バランス、歩行速度、下肢筋力、移動能力(Timed Up and Goテスト)のいずれにも改善方向の結果が示され、12週間以上・週3回以上・1回30〜45分程度続けることが、転倒リスクの低下と関連すると報告されています。
・歩行速度
・下肢筋力
・立ち座り・方向転換を含む移動能力(TUGテスト)
施設入所高齢者を対象にした2025年の研究では、OEPに抵抗運動を加えたプログラムを週3回・12週間実施したところ、握力や歩行速度、骨格筋量の指標が有意に向上しました2。同じく施設入所の認知的フレイル高齢者を対象にした研究でも、12週間のOEPで立ち座りテストやバランス評価(Berg Balance Scale)、気分の落ち込みの指標に改善が見られています3。
股関節骨折後で軽度認知障害のある高齢者を対象にした研究では、OEPが転倒リスク指標や記憶課題の成績、フレイルの評価スコアを改善したとの報告もあります4。ただしこちらはまだ1件の研究にとどまり、同じ結果が他の研究でも再現されるかは今後の検証を待つ段階のため、参考情報としてご紹介します。
正直にお伝えすると、OEPの研究には無視できない限界があります。まず、先ほどのメタ解析では研究間のばらつき(異質性)がかなり大きく、対象者の健康状態や介入方法の違いによって結果が左右されやすいことが指摘されています1。「OEPをすれば誰でも同じように良くなる」とは言い切れません。
次に、「フレイルという状態そのもの」への効果は、研究によって結果が一致していません。施設入所のプレフレイル高齢者を対象にした研究では、筋力や歩行速度は改善した一方で、フレイルの総合評価スコアそのものには有意な改善が見られませんでした2。著者らは、12週間という短期間の運動だけでなく、栄養面を含めた多角的な取り組みが必要な可能性を指摘しています。
また、「認知機能」という言葉には注意が必要です。認知的フレイルを対象にした研究の多くは、認知機能そのものを測定しているわけではなく、対象者を選ぶ際のスクリーニングとして認知検査を使っているにとどまります3。気分の落ち込みやメンタルヘルスの指標が改善したという報告はありますが、記憶力や注意力といった認知機能そのものへの効果は、まだ十分に検証されていません。
・最適な頻度・強度・期間(12週間で十分か、より長く必要か)は研究間で幅がある
・認知機能そのものへの効果は研究数が少なく結論が出ていない
・在宅・訪問という形で行った場合の効果は、施設や集団形式の研究ほど蓄積が多くない
研究全体としては前向きな傾向がある一方で、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。「運動をすれば必ずフレイルが治る」という保証はできない、というのが現時点で誠実な言い方だと考えています。
研究の対象者を見ると、OEPは健康な高齢者から、プレフレイル・フレイル、施設入所者、軽度認知障害がある方まで、幅広い対象で検討されています123。フレイルや認知機能低下があるからといって一律に「運動は無理」と決めつける必要はない、というのが研究から言えることです。
当施設のような訪問型のリハビリでは、少し歩くのに不安がある方、外出頻度が減ってきた方、転倒歴がある方などが対象になりやすい印象があります。フレイルと脳卒中の後遺症が重なっているケースも珍しくなく、その場合は麻痺側の状態や高次脳機能面も考慮しながらOEPの要素を個別に調整して取り入れることが多いです(高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください)。
一方で、転ぶこと自体への強い不安があり、活動範囲が狭くなっている方には、運動プログラム単体だけでなく、不安への向き合い方まで含めた関わりが役立つ場合があります。高齢者の転倒不安と認知行動療法について解説した記事や、軽度認知障害と運動療法について解説した記事もあわせてご参照ください。
研究で多く採用されているのは、週3回・1回30分前後・12週間以上という設定です123。ただしこれは研究デザイン上の設定であり、「これより少ないと意味がない」という意味ではありません。実施頻度が少ない場合は、効果が出るまでに時間がかかる、または効果の大きさが小さくなる可能性がある、という理解が現実的です。
・時間:1回30〜45分程度
・期間:12週間以上
・強度:本人の体力に合わせて段階的に上げる
訪問リハビリでは、専門職の訪問がこの頻度に届かないことも多くあります。その場合は、訪問時に指導した内容を、ご本人やご家族が自主トレとして安全に続けられる形に落とし込むことが、実際の頻度を補う鍵になります。
転倒歴、歩行補助具、立ちくらみ、痛み、心肺疾患、骨粗しょう症、認知面、住環境、家族の支援状況を確認します。Otago運動プログラムの名称だけで一律のメニューにせず、安定した支持物を使えるか、本人が手順を再現できるか、運動後に過度の疲労が残らないかを見ながら調整します。運動中の胸痛、強い息切れ、失神しそうな感覚、新しい麻痺や言葉の出にくさがあれば中止し、必要に応じて救急要請を含む医療相談を優先します。
Otago運動プログラムは、バランス・歩行・下肢筋力への改善が複数の研究で報告されている一方、フレイルという状態そのものや、記憶力などの認知機能そのものへの効果はまだ十分に確立していません。「体は少し動きやすくなるが、虚弱さ全体は短期間では変わりにくい」という現実も含めて理解しておくことが大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。運動の可否・内容は持病や体力によって個別に異なります。めまい・立ちくらみ・心疾患・骨粗しょう症などがある方、最近転倒した方は、自己判断で始めず医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
