パーキンソン病のロボット歩行リハビリ|効果・すくみ足への研究と限界

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病のロボット支援歩行トレーニング(歩行練習支援ロボット)とは?歩行・バランス・すくみ足への研究と限界を正直に解説
公開日:2026年9月6日/最終更新:2026年9月6日

「歩くスピードが落ちてきた」「一歩目が出にくい(すくみ足)」「歩いていると身体が前のめりになって止まれない」。パーキンソン病では、こうした歩行やバランスの困りごとが少しずつ大きくなっていきます。その練習方法のひとつとして、脚の動きを機械が助けてくれる「ロボット支援歩行トレーニング(Robot-Assisted Gait Training、以下RAGT)」があります。結論から先にお伝えします。RAGTを行った研究では、歩く速さ・歩く距離・バランスの点数が練習前より上がったという報告が複数あります4,5,6。一方で、トレッドミル(ルームランナー)を使った歩行練習や、通常の理学療法・バランス練習と比べて、RAGTのほうが明らかに優れているとまでは言えないとする研究が多く1,2,7,9,10、研究の質もまだ高くありません1。この記事では、研究で分かっていることと分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。

SECTION 01
ロボット支援歩行トレーニング(RAGT)とは何か

RAGTは、歩く動作を機械(ロボット)が補助しながら、繰り返し歩行練習を行う方法です。大きく2つのタイプがあります。ひとつは脚全体に外骨格(がいこっかく:脚に沿わせて装着する枠組み)を取り付けて股関節・膝関節の動きを助けるタイプ(外骨格型。代表的な機器にLokomatなど)、もうひとつは足を乗せる台(フットプレート)が動いて足の運びを作るタイプ(エンドエフェクター型。Gait TrainerやG-EO Systemなど)です2,3。多くの機器は、身体を吊り具(ハーネス)で支えて転倒の不安を減らしながら、一定のリズムで歩数をたくさん稼げるように作られています。

パーキンソン病の歩行練習では、トレッドミル歩行や、音・光を手がかりにする外的キューイング(合図を使った練習)もよく使われます。RAGTはこれらと比べられることが多く、この記事でも「トレッドミルや通常の練習と比べてどうか」という視点で研究を整理します。トレッドミルを使った練習そのものについてはパーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事もご覧ください。すくみ足に対する音のリズムを使った練習はパーキンソン病のリズム聴覚刺激(RAS)について解説した記事で扱っています。

ロボット支援歩行トレーニングを行う高齢者と療法士
身体を安全に支えながら、歩く動作を反復するロボット支援歩行トレーニングのイメージ
SECTION 02
研究では効果があるとされているのか

RAGTについては、複数のシステマティックレビュー(多くの研究を集めてまとめた論文)とメタアナリシス(結果を数量的に統合した解析)が出ています。まず「練習前と後」を比べると、多くの研究で数値が上向きになっています。ただし「他の練習と比べて優れているか」という比較になると、はっきりしなくなります。

システマティックレビュー・メタアナリシス(2018年・7試験)

ランダム化比較試験(くじ引きのように2群に分けて比べる研究)7件を統合した解析では、RAGTを行った後に運動症状の重症度スケール(UPDRS運動パート、点数が高いほど症状が重い)が平均3.3点下がり(つまり軽くなり)、1か月後にも5.5点下がった状態が保たれていました。歩幅・歩行速度・バランス(Berg Balance Scale)も練習後に上向きになりました。ただし著者らは「RAGTが対照の練習より優れているとは言えない」とし、エビデンスの確実性(結果の信頼度)は高い〜低いまでばらついたと述べています4

システマティックレビュー・メタアナリシス(2024年・17試験670人)

17件・670人を統合した解析では、対照群と比べてRAGT群で、バランス(Berg Balance Scale 平均2.8点高い)、バランスへの自信(ABCスケール 7.3点高い)、10m歩行の速さ、歩行速度、歩幅、歩調(ケイデンス)、運動症状スケール(UPDRS運動パート 2.2点軽い)、6分間歩行距離(約14m長い)で有意な差がみられました。一方で、立ち上がって歩いて戻る動作の時間(Timed Up and Go)には有意な差がありませんでした。重大な有害事象(練習によるけがなど)は報告されていません。著者らは「バランスや歩行のいくつかの面では良い結果が出ているが、下肢の運動機能のすべての側面を良くすると言えるだけの説得力ある根拠は、現時点では不十分」とまとめています5

メタアナリシス(2025年・22試験819人)

22件・819人を統合したより新しい解析でも、6分間歩行距離、Timed Up and Go、運動症状スケール(UPDRS運動パート)、バランス(Berg Balance Scale)、歩行速度、歩幅で有意な改善が示されました。ただし研究間のばらつき(異質性)が大きい項目が多く、著者らは結果を慎重に読む必要があると述べつつ、リハビリの選択肢のひとつとして取り入れる余地はあるとしています6

システマティックレビュー(2021年・すくみ足とバランスに注目)

姿勢の不安定さ(転びやすさ)に的をしぼったレビューでは、RAGTがパーキンソン病のバランスとすくみ足に与える効果について「高いレベルの根拠がある」と評価されました。一方で、機器のタイプや練習量と、患者さんの状態との最適な組み合わせははっきりしていない、とも述べられています3。別の専門家グループのレビュー(2022年・20論文)も、RAGTは歩行に良い結果をもたらし有害事象の報告はなかったとしつつ、「他の練習より優れているようには見えず、優位性がありそうなのは症状がより重い・進行した患者さんに限られる」と結論づけています2

「比べると差がない」という研究もあります

同じ強度(回数・時間)のトレッドミル練習とRAGTを比べた60人の研究では、10m歩行・6分間歩行のいずれも2群に差はなく、どちらも通常の理学療法より良い結果でした10。44人を対象にした研究でも、RAGTはトレッドミル練習より歩行機能で優れてはいませんでした(ただし、頭を使いながら歩く「二重課題」の条件では良い面がみられました)9。66人でRAGTとバランス練習を比べた研究では、バランスの点数に差はありませんでした7。一方、症状がより重い段階(ホーエン・ヤール分類3〜4)の患者さんや、すくみ足が強い患者さんでは、RAGTのほうが有利だったとする報告もあります8。同じ「RAGT」でも、対象者の重症度や比べる相手によって結果が変わることが分かります。

全体をまとめると、RAGTは歩行速度・歩行距離・バランスなどで練習前より良くなる傾向が繰り返し報告される一方、トレッドミルや通常の練習と比べた優位性ははっきりせず、最も新しいメタアナリシス(15試験629人)では「どのタイプのRAGTについても、効果は非常に不確実」と評価されています1

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

研究の質にはいくつか共通した限界があります。2024年のシステマティックレビュー・メタアナリシス(15試験629人)は、GRADE(エビデンスの確実性を評価する方法)で「RAGTの効果はどの比較でも非常に不確実」と判定しました。理由は、研究の偏り(バイアス)のリスク、個々の研究で結果がばらついていること、そして各比較に含まれる人数が少ない(多くが200人未満)ことです1。多くの研究で参加者や評価者に「どちらの群か」を伏せる盲検化ができておらず、機器のタイプ・練習量・対象者の重症度も研究ごとに大きく異なります1,2

まだ分かっていないこと

1. どの人に最も向くのか。重症度が高い・すくみ足が強い・介助が必要な段階の方でRAGTが有利だったという報告はありますが2,8、条件を分けた十分な比較はまだ足りません。
2. 機器のタイプ(外骨格型かエンドエフェクター型か)による違い。どちらが良いかは体系的に比較されていません2
3. 最適な練習量・頻度・期間。研究では週2〜3回・4週前後が多いものの、統一されたプロトコルはありません2,3
4. 効果がどのくらい続くか。多くの研究の追跡は1か月前後までで、半年・1年先の変化を追った研究は限られます4
5. トレッドミルや通常の練習に対する明確な上乗せがあるか。研究間で結果が一致しておらず1,7,9,10、現時点でRAGTが他の練習より優れているとまでは言えません。

研究全体では前向きな報告が多い一方、対象者の重症度、機器、練習の内容、評価の方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
比較的変わりやすいと報告されているもの
・歩行速度・歩幅(練習前と比べて)4,5,6
・6分間歩行距離(歩き続けられる距離)5,6
・バランスの点数(Berg Balance Scale)とバランスへの自信3,5,6
・すくみ足(とくに症状が重い・進んだ段階の方で)2,3,8
変わりにくい・はっきりしないもの
・トレッドミル練習や通常の練習に対する上乗せ効果1,9,10
・立ち上がって歩いて戻る動作の時間(Timed Up and Go。改善した解析もあるが一致しない)5
・長期的な症状の進行そのもの(RAGTで進行が止まるという根拠はありません)1
自宅の廊下で外的キューを使った歩行練習を行う様子
自宅では床の目印など、生活場面に合う外的キューを安全に試します
SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

研究の傾向からは、歩行の介助が必要な段階の方、すくみ足が強い方、転倒への不安からたくさん歩く練習がしにくい方などで、検討される場面があると考えられます2,8。逆に、自分で問題なく歩ける軽症〜中等症の方では、トレッドミルや通常の歩行練習と差がつきにくいという結果が出ています7,10。バランスや転倒への備えを主な目的にする場合の考え方はパーキンソン病のバランス運動と転倒対策について解説した記事も参考になります。

⚠ 次のような場合は、自己判断で進めず主治医・リハビリ専門職に相談してください
・起立性低血圧(立ちくらみ)や心臓・呼吸の持病があり、一定時間の歩行が負担になりやすい
・重い骨粗鬆症、関節の変形、皮膚のトラブルがあり、装具やハーネスの圧迫が心配
・強い姿勢異常(腰曲がり・体の傾き)や重度のすくみ・突進があり、機器への装着自体が難しい
・薬が効いている時間帯(オン)と効きにくい時間帯(オフ)の差が大きく、練習中に急に動きにくくなる
・認知機能や見当識の低下があり、機器の指示に沿った練習が難しい

研究では重大な有害事象の報告は少ないものの5、有害事象をていねいに記録した研究自体が多くありません。装着時の圧迫感や疲労、練習後の筋肉痛などが出ることはあり、体調や薬の効き方に合わせた調整が欠かせません。

SECTION 06
頻度・期間の目安と他の練習との関係

研究で使われた練習の量や、他の方法との関係から、実施を考える際のヒントが得られます。

・多くの研究で「1回40〜45分・週2〜3回・4週間(合計12回前後)」という設定が使われています3,7
・より重症の方を対象にした研究では、20回(週数回×5週前後)行ったものもあります8
・同じ回数・時間のトレッドミル練習と比べると、歩行機能の伸びはほぼ同じでした10
・音や光の外的キュー(合図)を組み合わせた研究もあり、すくみ足対策では併用が検討されます2

RAGTは大型の据え置き機器が必要なため、多くは病院や専門施設で行われます。訪問リハビリのような在宅の場では機器を使えないことがほとんどですが、そこで得られた「歩幅を大きく」「一定のリズムで」という感覚を、自宅の廊下や屋外の歩行練習、外的キューの使い方に置きかえて続けることはできます。歩く量や強度そのものを増やす練習の考え方はパーキンソン病のトレッドミル歩行練習について解説した記事でも整理しています。

療法士と自宅での歩行練習計画を確認する様子
機器での練習結果を日常生活につなげるには、個別の歩行計画と振り返りが重要です
SECTION 07
訪問リハビリの現場で大切にしていること
現場で確認している視点

当施設のような訪問リハビリでは、ロボット機器そのものは使えません。そのぶん、病院でRAGTを経験された方には「そこで身についた歩き方(歩幅・リズム・姿勢)を、自宅の生活動線でどう再現するか」を一緒に確認します。玄関の上がり框や廊下の曲がり角など、すくみ足が出やすい場所を具体的に洗い出し、視覚的な目印や声かけのリズムなど、機械の代わりになる手がかりを生活の中に置くことを心がけています。薬が効いている時間帯に合わせて練習の時間を決めること、疲れやすさや立ちくらみを見ながら量を調整することも大切にしています。RAGTを受けられる環境にあるかどうかにかかわらず、「今できている歩行を、生活の場面で保つ・活かす」ことを中心に据えています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。歩行練習の内容や機器の適応は、担当のリハビリ専門職・主治医が評価のうえで判断します。症状や治療方針は個人差が大きいため、リハビリの内容を変えるときは担当の専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. ロボットを使えば、普通の歩行練習より早く良くなりますか?
A. 研究では、同じ量のトレッドミル練習や通常の練習と比べて、RAGTのほうが明らかに優れているという結果は得られていません1,10。練習前と比べれば歩行やバランスの点数が上がる報告は多いですが、機械であること自体が近道になるとは言えません。
Q. すくみ足には役立ちますか?
A. 症状がより重い・進んだ段階の方では、トレッドミル練習よりRAGTのほうがすくみに関する指標が良かったという報告があります8。ただし全員に当てはまるわけではなく、音や光の合図(外的キュー)との組み合わせを含めて担当の専門職と相談することがすすめられます。
Q. どのくらいの回数・期間で行うのですか?
A. 研究では「1回40〜45分・週2〜3回・4週間(合計12回前後)」という設定が多く使われています3,7。統一された決まりはなく、実際の回数・期間は本人の疲労感や薬の効き方を見ながら担当のリハビリ専門職が調整します。
Q. 訪問リハビリでもロボットを使えますか?
A. RAGTの機器は大型で据え置き型のため、在宅で使えることはほとんどありません。病院で経験した歩き方の感覚を、自宅の歩行練習や外的キューの使い方に置きかえて続けることが現実的です。
Q. 効果はどのくらい続きますか?
A. 練習の1か月後まで効果が保たれていたとする研究はありますが4、半年・1年先まで追った研究は限られます。歩く習慣を生活の中で続けることが、変化を保つうえで大切だと考えられます。
Q. 危険はありませんか?
A. 研究では重大な有害事象の報告は少ないとされています5。ただし立ちくらみ、装着部の圧迫感、疲労などが出ることはあります。心臓・呼吸・骨の持病がある方は、必ず主治医とリハビリ専門職に相談してください。
Q. パーキンソン病の進行そのものを遅らせられますか?
A. RAGTが病気の進行を止める・遅らせるという根拠はありません1。目的は、今ある歩行やバランスの力をできるだけ保ち、生活のしやすさにつなげることです。
REFERENCES
参考文献
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