アキレス腱症の運動療法|遠心性トレーニングの効果・負荷・注意点

· 整形疾患情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
アキレス腱症(アキレス腱障害)の運動療法とは?遠心性トレーニングの効果と限界を正直に解説
公開日:2026年9月6日/最終更新:2026年9月6日

「かかとの少し上(アキレス腱)が朝いちばんに痛い」「歩き始めや階段でつっぱる」「走ると痛むので運動を控えている」。こうしたアキレス腱の痛み(アキレス腱症、アキレス腱障害)に対して、まず勧められることが多いのが運動療法、とくに「遠心性トレーニング(かかとをゆっくり下ろす運動)」です。結論から先にお伝えします。運動療法を行った研究では、痛みと機能の点数(VISA-A)が数週間で上向き、12週前後で大きく良くなる傾向が報告されています4。ネットワークメタアナリシス(複数の治療を横並びで比べる解析)では、様子見よりどの積極的な治療も良い一方、運動療法と注射などの他の治療の間に「臨床的に意味のある差はない」とされています1。ただし研究の質は全体に低く、この記事では分かっていることと分かっていないことを正直に整理します。

SECTION 01
アキレス腱症(アキレス腱障害)とは何か

アキレス腱症とは、ふくらはぎとかかとの骨をつなぐアキレス腱に、使いすぎなどをきっかけとした痛み・こわばり・腱の腫れが続く状態です。腱の「炎症」というより、腱の組織そのものの変化(腱の細胞・コラーゲン・血管の並びの乱れ)が主体と考えられており、英語では「テンディノパチー(tendinopathy)」と呼ばれます。痛む場所によって、腱の中間部(かかとから2〜6cm上)に起こる「中間部(ミッドポーション)型」と、かかとの骨への付着部に起こる「付着部(インサーショナル)型」に分けられます。研究の多く(約86%)は中間部型を対象にしています1

重症度や経過の評価には、痛みと日常・スポーツ活動を点数化する「VISA-A質問票(0〜100点、100点が症状なし)」がよく使われます。研究では「15点の変化」が、患者さんが意味を感じられる目安とされています1。腱の痛みに対して運動で立ち向かうという考え方は、肩の腱の痛みでも同じで、腱板断裂の保存療法とリハビリについて解説した記事五十肩(肩関節周囲炎)の運動療法について解説した記事も参考になります。

段差でゆっくりかかとを下ろす遠心性トレーニング
遠心性トレーニングは、安全な支持物を使ってかかとをゆっくり下ろします
SECTION 02
研究では運動療法に効果があるとされているのか
リビング・システマティックレビュー・ネットワークメタアナリシス(2021年・29試験)

アキレス腱症の29のランダム化比較試験(42種類の治療、合計約1,640人)を横並びで比べた解析です。中間部型では、3か月の時点で「どの積極的な治療も、様子見(wait-and-see)より良い」と評価されました(エビデンスの確実性は非常に低い〜低い)。12か月の時点では、運動療法、運動療法+注射、運動療法+夜間装具のいずれも、注射療法と同じくらいの結果でした。著者らは「異なる積極的な治療の間に、臨床的に意味のある効果の差はなさそう」と結論し、「運動療法は処方しやすく、費用が抑えられ、害が少ないため、まずふくらはぎの運動プログラムから始めることを検討してよい」と述べています1

システマティックレビュー・縦断的メタアナリシス(2018年・24研究)

中間部型アキレス腱症に対する負荷(ローディング)プログラムの「良くなり方のペース」を調べた解析では、痛みと機能(VISA-A)は運動開始から2週間という早い時期から良くなり始め、12週間ごろにピークとなって、平均で約21点の改善がみられました。著者らは「腱の構造は2週間では変わらず、筋肉の肥大も少なくとも4週間はみられないため、早い時期の症状改善は構造の変化以外の仕組みによる可能性がある」と述べています4

ランダム化比較試験(2015年・遠心性 vs ヘビースローレジスタンス)

中間部型の58人を、遠心性トレーニング(ECC。かかとをゆっくり下ろす運動)と、ヘビースローレジスタンス(HSR。重い負荷でゆっくり上げ下げする運動)に分けて12週間行った研究では、どちらもVISA-Aと活動時の痛みが有意に良くなり、52週間後まで維持されました。2つの方法の間に差はありませんでしたが、12週時点での満足度と、練習の実施率(HSR 92%、ECC 78%)はHSRのほうが高い傾向がありました5。遠心性運動とストレッチを比べた45人の研究でも、両群とも症状が良くなり、群間差はありませんでした8

運動の「負荷のかけ方」を調べたメタアナリシス(腱障害全体・110研究)では、体重だけの運動より外部の重り(追加負荷)を使うほうが効果量が大きく、毎日より頻度を抑えた(週数回など)ほうが効果量が大きい傾向がありました。運動量(ボリューム)と効果の関係ははっきりしませんでした3。腱障害全体を扱った英国の大規模な検証(HTA・204研究)でも、運動療法は安全で有益であり、求心性(縮める動き)と遠心性(伸ばす動き)を組み合わせる方法や、運動を他の保存療法(注射や物理療法)と組み合わせる方法が有利かもしれないとされていますが、エビデンスの質は「低い〜非常に低い」とされています2

全体をまとめると、運動療法はアキレス腱症の痛みと機能を良くする報告が繰り返しあり、まず試す価値のある方法とされています1,4。一方で、遠心性・ヘビースローレジスタンス・ストレッチなど方法の違いや、注射など他の治療との優劣は、研究では明確な差として示されていません1,5,8

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

研究の質にはいくつか共通した限界があります。2021年のネットワークメタアナリシスでは、29試験のうち76%が「バイアスのリスクが高い」、残りも「懸念あり」で、「バイアスのリスクが低い試験はひとつもなかった」とされ、比較の推定値には大きな不確実性があります。各治療を直接つなぐ研究が少なく、GRADE(エビデンスの確実性)は「非常に低い〜低い」でした。また、この解析は主に中間部型が対象で、付着部型については十分な解析ができませんでした1。腱障害全体のレビューでも、用語・定義・アウトカムの報告がばらばらで、質の高い研究が不足していると指摘されています2,3

まだ分かっていないこと

1. どの運動法が最も良いのか。遠心性・ヘビースローレジスタンス・遠心性+求心性・ストレッチのいずれも、はっきりした優劣は示されていません1,5,8
2. 付着部型(かかとの骨への付着部)への最適な方法。中間部型より研究が少なく、同じやり方が当てはまるとは限りません1
3. 最適な負荷・頻度・期間。追加の重りを使う・頻度を抑えるほうが良いかもしれないという傾向はありますが、確立していません3
4. 運動を続けても痛みが残る人への対応。運動療法後も2〜5割の人に痛みが残るという報告があり、痛みの捉え方に働きかける教育を加えても、短期の結果に明確な上乗せは示されていません7
5. 長期的な経過。多くの研究の追跡は3か月〜1年で、数年先の再発や再燃を追った研究は限られます1

研究全体では前向きな報告が多い一方、対象者(活動量・年齢・症状の長さ)や運動の内容、評価の方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
比較的変わりやすいと報告されているもの
・痛みと機能の点数(VISA-A)。2週ごろから動き始め、12週ごろにピーク(平均約21点)4
・活動時の痛み(VAS)と、その状態の維持(52週まで)5
・様子見と比べたときの3か月時点の改善1
変わりにくい・はっきりしないもの
・運動法どうしの優劣(遠心性・ヘビースローレジスタンス・ストレッチで差なし)1,5,8
・注射など他の治療に対する明確な優位性(12か月時点で同等)1
・運動療法後に残る痛み(2〜5割に残るとの報告)7
・腱の見た目(画像上の厚み・血管)の短期での変化(数週間では変わりにくい)4
アキレス腱症の運動記録と負荷調整を行う様子
症状と翌朝の反応を記録しながら、負荷を段階的に調整します
SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

一般に、画像や診察で中間部型のアキレス腱症と確認され、症状が数か月続いている方は、まず運動療法から始めることが多い方法です1。ふくらはぎの運動を、多少の痛み(許容できる範囲)を伴っても継続できる環境がある方に向いています。

⚠ 次のような場合は、自己判断で進めず整形外科・リハビリ専門職に相談してください
・急にかかと上で「ブチッ」という音や強い脱力があった(アキレス腱断裂の可能性。すぐ受診)
・安静時やじっとしていても強く痛む、腫れや熱感が強い、発赤がある
・付着部型で、段差を使った深いストレッチでかえって痛みが強くなる
・関節リウマチ、糖尿病、腎機能障害、キノロン系抗菌薬の使用歴など、腱が弱くなりやすい要因がある
・数か月きちんと運動しても痛みが変わらない、または悪化している

運動療法は重い有害事象の報告が少ない方法ですが2、負荷のかけ方を誤ると痛みが強まることがあります。とくに付着部型では、かかとより下に踏み込む深いストレッチを避け、床面での運動から始めることが推奨される場合があります。

SECTION 06
頻度・期間・負荷の目安

研究で使われたプロトコルから、実施を考える際のヒントが得られます。あくまで目安で、実際の内容は診察のうえで専門職が調整します。

・古典的な遠心性プロトコルは「1日2回・週7日・12週間」、膝を伸ばした運動と曲げた運動を組み合わせて行う設定が多い1,4
・ヘビースローレジスタンスは「週3回・12週間」、重い負荷でゆっくり上げ下げする設定で、遠心性と同等の結果が報告されている5
・良くなり方は2週ごろから始まり、12週ごろにピークになる傾向がある4
・負荷の調整では、体重だけより追加の重りを使うほうが、また毎日より頻度を抑えるほうが効果量が大きい傾向がある3
・「痛み0」を目指すより、翌朝に強く痛みが残らない範囲(許容できる痛み)で続けることが一般的

運動療法でいちばん難しいのは「続けること」です。数か月単位のプログラムでは、途中で運動をやめてしまう人が一定数います5。続け方の工夫については運動を続けるための工夫について解説した記事も参考になります。

療法士と歩行や運動への復帰計画を確認する様子
痛みだけでなく、歩行量や活動目標に合わせて復帰計画を組み立てます
SECTION 07
自費リハビリの現場で大切にしていること
現場で確認している視点

当施設は脳卒中・脳神経系のリハビリが中心ですが、歩く量が増えてきた利用者さんや、活動量が戻ってきた方で、ふくらはぎ〜かかとの痛みの相談を受けることがあります。その場合、まず整形外科での診断(断裂やほかの原因の除外)をお願いしたうえで、運動療法を行うときは「翌朝の痛みの残り方」を毎回の目安にして負荷を調整します。段差を使う運動が難しい環境では、床の上でのかかと上げから始め、慣れてきたら台や重りで負荷を足していきます。何より、12週間という長い期間を見据えて「無理なく続けられる回数・タイミング」を一緒に決めることを大切にしています。数か月続けても痛みが変わらないときは、整形外科での再評価をおすすめしています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。アキレス腱の痛みには断裂やほかの原因が隠れていることがあるため、まず整形外科で診断を受けてください。運動の内容・負荷・頻度は、担当の医師・リハビリ専門職が評価のうえで判断します。症状や経過は個人差が大きいため、運動を始めるとき・変えるときは専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
歩く量の増やし方や運動の続け方について、今の状態を一緒に確認しながらリハビリの進め方を相談できます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 遠心性トレーニング(かかとを下ろす運動)は必ず必要ですか?
A. 遠心性運動はよく研究されてきた方法ですが、ヘビースローレジスタンスやストレッチと比べて明確に優れているとは示されていません1,5,8。続けやすい方法を専門職と選ぶことが大切です。
Q. どのくらいで良くなりますか?
A. 研究では2週間ごろから痛みと機能が動き始め、12週間ごろにピークになる傾向があり、平均で約21点(VISA-A)の改善が報告されています4。ただし個人差が大きく、良くならない人もいます。
Q. 運動中に少し痛くても続けてよいですか?
A. 研究では、翌朝に強く痛みが残らない範囲(許容できる痛み)で続ける方法が一般的です。安静時にも強く痛む、腫れや熱感が強い場合は中止して受診してください。
Q. ステロイド注射や体外衝撃波と、どちらがよいですか?
A. 12か月時点では運動療法と注射療法は同じくらいの結果でした1。運動療法に加えてステロイド注射を行うと6か月時点でVISA-Aが17.7点多く改善したという研究もありますが6、進め方は医師と相談して決めてください。
Q. かかとの骨のきわ(付着部型)でも同じ運動でよいですか?
A. 研究の多くは中間部型が対象で、付着部型は十分に検証されていません1。段差で深く踏み込むストレッチは避け、床面での運動から始めることが推奨される場合があります。担当の専門職に相談してください。
Q. 走るのはいつから再開できますか?
A. 一律の基準はありません。痛みの落ち着き方や運動への耐え方を見ながら、少しずつ量を戻していきます。再開の時期は担当の医師・リハビリ専門職と相談してください。
Q. 何か月続けても痛みが変わりません。どうすればよいですか?
A. 運動療法後も痛みが残る人は2〜5割いるとされています7。数か月きちんと続けても変わらない・悪化する場合は、整形外科での再評価をおすすめします。
REFERENCES
参考文献
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