東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「膝の変形性関節症には筋トレがよいと聞くけれど、きつくやるほど効くの?」「週に何回、何セットやればいいの?」。これは外来でも訪問でもよく聞かれる質問です。結論から正直にお伝えします。変形性膝関節症に対する筋力トレーニングは、痛み・生活動作・筋力に対して小さめのプラスの可能性があると多くの研究で示されています1,7,8。ただし「高強度のほうが低〜中強度より優れている」とは、現時点ではっきり示されていません3,4,5。むしろ「無理のない強さで続けられること」が大切だとする結果が増えています2。この記事では、患者さん・ご家族に向けて、強さと量について研究で分かっていることと分かっていないことを整理します。
変形性膝関節症は、膝の軟骨がすり減り、痛み・こわばり・動かしにくさが出てくる状態です。痛みで動かさないでいると、太ももの筋肉(とくに大腿四頭筋)が落ち、膝を支える力が弱くなって、さらに動きにくくなる悪循環が起こりやすいとされています。国内外のガイドラインでは、運動療法(筋力トレーニング・有酸素運動)が、手術以外の中心的な選択肢の一つとして位置づけられています7,8。
58件のシステマティックレビューをまとめた2025年の総説では、約64%のレビューで運動療法が痛み・身体機能などの改善と関連していたと報告され、著者らは「運動療法は変形性膝関節症の保存的治療として検討されるべきだ」と述べています。ただし、含まれたレビューの約88%は方法論的な質が「非常に低い」と評価され、運動の回数・時間・強度といった設定の報告がそろっていないため、最適な処方は決められなかったとしています8。減量と運動の組み合わせについては、変形性膝関節症と体重管理・運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。

股関節または膝の変形性関節症を対象に、高強度の運動と低強度の運動を直接比べた6件のランダム化比較試験(合計656人・大半が膝)をまとめたコクランレビューでは、痛み(WOMAC 0〜20点で平均差 −0.84、約4%の差)と身体機能(WOMAC 0〜68点で平均差 −2.65、約4%の差)に、臨床的に意味のある差は見られませんでした。エビデンスの質は「低い」と評価されています。重い有害事象の報告はありませんでした3。
膝の変形性関節症を対象に、高強度筋トレと低強度筋トレまたは通常ケアを比べた10件の研究(合計892人)をまとめた解析では、痛み・機能・生活の質・有害事象の頻度に、群間で有意な差はありませんでした。著者らは「高強度筋トレは、低強度筋トレや通常ケアと同じくらいの効果で、安全性も同程度と考えられる」と結論づけています4。
膝の変形性関節症の177人(平均67.6歳)を、12週間の高強度筋トレ(1回で最大挙上できる重さの70〜80%)と低強度筋トレ(同40〜50%)に分けた試験では、等速性の筋力、痛み、身体機能のいずれも群間で差がありませんでした。どちらの強度もよく耐えられており、著者らは「変形性膝関節症の運動プログラムでは、どちらの強度も使える」としています5。
等張性(動きのある)下肢筋トレだけを行った20件のランダム化比較試験(合計791人)を対象に、強度と量の用量反応を調べた研究では、痛みの軽減は「ごく軽い〜中等度」の強度で最も大きく、機能の向上は「中等度」の強度で最も大きく、筋力は「中等度〜高強度」で同程度に増えると推定されました。家でも施設でも効果はみられましたが、施設で行うほうがやや大きい傾向でした。エビデンスの確実性は「低い〜非常に低い」とされています1。
まとめると、痛みや生活動作を目的にするなら「中くらいまでの強さ」で十分に検討でき、高強度が明らかに優れているという根拠は今のところありません1,3,4,5。安定しない床の上で行う筋トレなど、負荷のかけ方の工夫については変形性膝関節症と不安定な床面での筋力トレーニングについて解説した記事もご参照ください。
膝と股関節の変形性関節症を対象に、筋トレだけの介入を調べた研究では、期間で見ると「3〜6か月」の介入が痛み・身体機能に中くらいのプラスと関連していました(膝では6〜12か月未満でも機能にプラス)。ところが、総運動量(頻度×時間×期間)のデータがある151件では、運動量と効果の大きさに関連は見られず、実施率(アドヒアランス)のデータがある74件でも、実施率と効果の大きさに関連はありませんでした。著者らは「改善は運動量や実施率に依存せず、決まった量を厳密に守る必要はないことを示唆する」と述べています2。
先の用量反応の研究では、介入期間中に積み上げた反復回数と効果の関係は直線的ではなく、痛みの軽減はおよそ6,000回、機能の向上は中等度の強度で約2,600回、筋力の増加は約1,600回のあたりで最大になると推定されました。つまり「増やせば増やすほど良い」わけではなく、一定量を超えると頭打ちになる可能性があります。ただし確実性は低〜非常に低いとされています1。
これらを合わせると、「数か月単位で続けること」は共通して重要ですが、1回あたりの回数やセット数を細かく守ることよりも、生活の中で無理なく継続できる量にすることのほうが現実的だといえます1,2。
この分野の研究には共通した限界があります。多くの試験は参加人数が少なく、参加者や評価者を盲検化しにくいため、痛みや機能の自己申告の結果は「低い〜非常に低い確実性」に格下げされています1,3。運動の強度・回数・頻度・期間の記録がそろっていないレビューが多く、最適な設定を割り出すのが難しい状態です8。研究間で介入内容や評価尺度がばらばらで、結果をまとめて比べにくいという指摘もあります2,4。
1. 誰に、どの強さ・量が最も合うのか。重症度、年齢、体力、併存疾患ごとの違いは十分に検証されていません。
2. 最適な回数・頻度・期間。用量反応の推定はありますが確実性は低く、直接比べた質の高い試験は限られます1。
3. 筋力がどれだけ増えると痛みや生活動作が変わるのか。ある解析では、膝を伸ばす筋力が30〜40%増えて初めて、痛みや生活動作にプラスが出やすいと推定されています6。
4. 長期的な経過。半年〜数年でどうなるか、軟骨の進行に影響するかは十分に分かっていません。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や運動の内容、評価方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。

筋力トレーニングは、痛みで活動を控えて筋力の低下が気になり始めた方、立ち座りや階段でつらさがある方などで広く検討されます。強度は「軽め〜中くらい」から始め、痛みと相談しながら少しずつ調整するのが一般的です1,5。等尺性(関節を動かさず力を入れる)、等張性(動きのある)、等速性など、やり方の種類はいくつかあり、いずれも通常のリハビリより痛み・機能にプラスと報告されています7。
・膝がガクッと崩れる、急に強い痛みが出た、変形が急に進んだと感じる
・関節リウマチや感染、外傷後など、変形性関節症以外の原因が疑われるとき
・人工関節の手術を受けたあと、または手術を検討しているとき(人工膝関節全置換術後のリハビリについて解説した記事)
・心臓・血圧などで運動制限を受けているとき
研究でよく使われている設定を整理すると、おおよそ次のとおりです1,2,5。あくまで平均的な目安で、個別の調整が前提です。
・頻度:週2〜3回が多い
・期間:数か月単位(3〜6か月の介入が痛み・機能のプラスと関連)
・量:1回あたりの回数・セット数を厳密に守るより、無理なく続けられる範囲にする
・場所:自宅でも施設でも効果はみられる(監督つきだとやや大きい傾向)
・目安の感覚:運動中〜翌日に軽い張りが出ても、翌々日までに戻る範囲にとどめる
大切なのは「正しい1回」を追い求めることより、痛みの波に合わせて強さと量を調整しながら、数か月続けられる形にすることです。迷うときは主治医やリハビリ専門職と、今の膝に合った強さ・量を相談してください。

当施設のような訪問リハビリでは、器具のそろったジムではなく、椅子・階段・ペットボトル・チューブなど自宅にあるもので続けられる形に落とし込むことを重視しています。強さは「翌々日に痛みを持ち越さない」範囲を目安に、生活で困っている動作(立ち座り、階段、しゃがみ、歩行)に近い運動を選びます。回数やセット数は固定せず、その日の膝の状態に合わせて増減し、数か月単位で見直します。痛みや腫れが強い時期は量を落とし、医療的な確認が必要な変化は主治医と連携して対応します。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Marriott KA, Hall M, Maciukiewicz JM, Almaw RD, Wiebenga EG, Ivanochko NK, Rinaldi D, Tung EV, Bennell KL, Maly MR. Are the Effects of Resistance Exercise on Pain and Function in Knee and Hip Osteoarthritis Dependent on Exercise Volume, Duration, and Adherence? A Systematic Review and Meta-Analysis. Arthritis care & research. 2024;76(6):821-830. PMID: 38317328. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38317328/
3. Regnaux JP, Lefevre-Colau MM, Trinquart L, Nguyen C, Boutron I, Brosseau L, Ravaud P. High-intensity versus low-intensity physical activity or exercise in people with hip or knee osteoarthritis. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2015;(10):CD010203. PMID: 26513223/PMCID: PMC9270723. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9270723/
4. Hua J, Sun L, Teng Y. Effects of High-Intensity Strength Training in Adults With Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. American journal of physical medicine & rehabilitation. 2023;102(4):292-299. PMID: 36111896. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36111896/
5. de Zwart AH, Dekker J, Roorda LD, van der Esch M, Lips P, van Schoor NM, Heijboer AC, Turkstra F, Gerritsen M, Häkkinen A, Bennell K, Steultjens MP, Lems WF, van der Leeden M. High-intensity versus low-intensity resistance training in patients with knee osteoarthritis: A randomized controlled trial. Clinical rehabilitation. 2022;36(7):952-967. PMID: 35331018. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35331018/
6. Bartholdy C, Juhl C, Christensen R, Lund H, Zhang W, Henriksen M. The role of muscle strengthening in exercise therapy for knee osteoarthritis: A systematic review and meta-regression analysis of randomized trials. Seminars in arthritis and rheumatism. 2017;47(1):9-21. PMID: 28438380. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28438380/
7. Jiang Y, Tan Y, Cheng L, Wang J. Effects of three types of resistance training on knee osteoarthritis: A systematic review and network meta-analysis. PloS one. 2024;19(12):e0309950. PMID: 39636953/PMCID: PMC11620422. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11620422/
8. Kitagawa T, Isaji Y, Sasaki D, Onishi K, Hayashi M, Okuyama W. Effectiveness of exercise therapy in patients with knee osteoarthritis: an overview of systematic reviews. BMJ open. 2025;15(7):e093163. PMID: 40669904/PMCID: PMC12273085. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12273085/
