東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
筋のこわばり・バランスへの影響を、安定した床面と比較した研究から解説
膝の変形性関節症(膝OA)があると、「膝まわりの筋肉が硬くこわばる感じがする」「片足に体重をかけたときにグラつく」といった感覚を持つ方が少なくありません。近年、バランスパッドやクッションのような不安定な床面の上でスクワットや片脚立ちなどのレジスタンス運動(筋力に抵抗をかける運動)を行う方法が、通常の安定した床面での筋力トレーニングと比べてどのような違いを生むのか、研究で調べられ始めています。
この記事では、膝OAのある方を対象に、不安定な床面での筋力トレーニングが筋のこわばり・左右の筋肉の働き方(co-activation:共収縮)・バランス機能にどのような影響を与えるかを、研究と現場経験の両方から整理します。高齢者全般を対象にした「不安定な床面での運動と転倒不安」というテーマとは少し切り口が異なり、この記事では膝OAのある方に対象を絞って解説します。
最終更新日:2026年8月25日
最新レビュー日:2026年8月25日
膝の強い腫れ、急激な痛みの悪化、膝が急にガクッと崩れる感覚(膝崩れ)、発熱を伴う場合は、自己判断で不安定な床面での運動を始めず、まずは医療機関で確認してください。不安定な床面での運動は、転倒のリスクを伴う運動でもあります。バランスに不安がある方、一人で歩くことに不安がある方は、必ず主治医・リハビリ専門職と相談のうえで、見守りのある環境から始めることが大切です。
不安定な床面での筋力トレーニング(unstable surface training)は、バランスパッドやクッション、バランスディスクなど、足元が沈んだり揺れたりする道具の上でスクワットや片脚立ち、ステップ動作などの筋力運動を行う方法です。通常の床(安定した床面)で同じ運動を行う場合と比べて、姿勢を保つために膝・股関節まわりの複数の筋肉を同時に細かく調整する必要があり、バランス機能や神経と筋肉の連携(神経筋コントロール)への刺激が加わりやすいと考えられています2。
膝OAのリハビリでは、筋力そのものを強くする運動(レジスタンストレーニング)に加えて、バランス訓練や神経筋トレーニング(proprioceptive/neuromuscular exercise)を組み合わせることが、国際的な診療ガイドラインでも推奨されています4。不安定な床面での筋力トレーニングは、この「筋力運動」と「バランス・神経筋の要素」を1つの運動の中に組み込む方法の1つとして注目されています。なお、高齢者全般を対象にした不安定な床面での運動と転倒不安の関係については、高齢者全般を対象にした不安定な床面での運動と転倒不安の関係を解説した記事で扱っています。この記事では対象を膝OAのある方に絞り、膝まわりの筋のこわばりや左右の筋肉の働き方への影響を中心に見ていきます。

2026年に発表されたランダム化比較試験では、膝OAのある高齢の患者50名を、不安定な床面での筋力トレーニング群(25名)と、安定した床面での筋力トレーニング群(25名)に分け、どちらも週3回・12週間、下肢の筋力運動10種目を行うプログラムを実施しました。脱落を除く46名(各群23名)が最終的な解析対象です1。
・不安定な床面グループでは、大腿四頭筋(太もも前)のこわばりが、安定した床面グループより大きく減った
・ハムストリングス(太もも裏)の一部のこわばりの指標でも、同様の傾向が見られた
・大腿四頭筋とハムストリングスの共収縮(co-activation:拮抗する筋肉が同時に力を入れてしまう働き方)が、不安定な床面グループでより大きく減った
・動的バランス・静的バランスのいずれも、不安定な床面グループでより大きく変化した
筋のこわばり(筋スティフネス)とは、筋肉や腱が硬く、伸び縮みしにくい状態を指す言葉です。膝OAでは、痛みをかばう動きや使い方の偏りによって、特定の筋肉が硬くなりやすいと考えられています。また共収縮とは、本来は交互に働くはずの表側と裏側の筋肉(例えば太ももの前と裏)が同時に強く力を入れてしまう状態で、膝関節に余計な負担がかかりやすくなる要因の1つとして研究されています。この研究では、不安定な床面での筋力トレーニングの方が、こうした筋の使い方やバランス機能により大きな変化をもたらす可能性が示されました1。
別のシステマティックレビュー・ネットワークメタアナリシス(複数の研究を統合し、運動方法どうしを比較する手法)では、膝OAに対するさまざまな種類のレジスタンストレーニングのうち、高速(できるだけ素早く力を出す)レジスタンストレーニングが痛み・こわばり・機能のいずれにも比較的大きな変化と関連し、こわばりについては1回最大挙上重量(1RM)の目安43%程度、12週間前後、週あたり合計1200回程度の反復回数が1つの目安として報告されています3。この研究には不安定な床面での運動そのものは含まれていませんが、膝OAへの筋力運動全体でどの程度の期間・強度が検討されているかを知る参考になります。
膝OAに対する運動療法の研究は、不安定な床面での筋力トレーニング以外にも広がっています。たとえば、変形性膝関節症に対するVRを使ったリハビリについて解説した記事や、変形性膝関節症と八段錦(バドゥアンジン)に関する研究を解説した記事でも、痛みやバランス、転倒への不安への影響を研究ごとに整理しています。共通して言えるのは、どの方法も万能ではなく、対象者や実施条件によって向き不向きがあるという点です。
不安定な床面での筋力トレーニングと膝OAに関する研究は、まだ数が非常に限られています。今回中心的に紹介した研究は、46名を対象にした1件のランダム化比較試験であり、まだ他のグループによる追試や、より大規模な研究での確認が行われていません1。運動療法全体を見渡した国際ガイドラインでも、筋力運動・神経筋運動・バランス運動などさまざまな運動の種類どうしを直接比較したときに、どれが優れているかはまだはっきりしないと述べられています4。運動療法が膝OAの症状にどのような仕組みで働くのか自体、研究途上の部分が残っているとも指摘されています2。
評価期間も12週間までのデータが中心で、効果が半年後・1年後にも続くか、日常生活での転倒回数のような実際の生活場面のアウトカムにつながるかは、今回の研究だけでは分かりません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者の重症度、膝の変形の程度、運動プログラムの内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
・最適な頻度・強度・期間はまだ研究間で一致していない
・効果が12週間より先も続くかどうかの長期データが少ない
・実際の転倒回数や日常生活動作への影響までは、現時点の研究からは確認できない
・研究数・参加人数がまだ少なく、性別や膝の変形の左右差などによる違いも十分に検証されていない
紹介した研究の結果を整理すると、不安定な床面での運動と安定した床面での運動で「差がつきやすかったもの」と「両方とも同じように変化したもの」があります1。
大腿四頭筋のこわばり、ハムストリングスの一部のこわばり、大腿四頭筋とハムストリングスの共収縮、動的バランス、静的バランス。いずれも、安定した床面での運動より大きな変化が報告されています。
痛みの強さは、不安定な床面グループ・安定した床面グループのどちらも12週間後に軽くなっており、床面の違いによる痛みの減り方の差ははっきり示されていません。「痛みを軽くしたいから不安定な床面を選ぶ」という考え方は、現時点の研究とは合いにくい可能性があります。
つまり現時点の研究からは、「痛みを軽くする力」そのものというより、「バランスの取りにくさ」「筋肉の硬さ」「膝を支える筋肉どうしの連携」といった、動作の質・神経筋機能に関わる部分で、不安定な床面での運動に上乗せの変化が見られやすい、という整理になります1。
なお、不安定な床面に限らず、膝OAに対してバランス・固有感覚(関節や筋肉の位置感覚)を意識した運動プログラムを行った別の小規模な研究でも、痛みだけでなく静止立位でのバランスや位置感覚のテストで変化が報告されており、膝OAの運動療法ではバランス・神経筋機能に関わる項目が変化しやすい領域として研究されている傾向がうかがえます7。ただしこの研究は4週間・30名という小規模なもので、詳しい内容の確認はまだ十分でないため、参考程度の情報として捉えてください。
診療ガイドラインでは、膝OAのある方への運動療法は、痛みがあることを理由に一律に避けるものではなく、多くの方に強く推奨されるとされています。特に、理学療法士など専門職の見守りのもとで行う運動プログラムの方が、自己流で行うよりも変化につながりやすいと述べられています6。国際ガイドラインでも、筋力・有酸素・柔軟性・神経筋運動を組み合わせた、段階的に負荷を上げていく運動プログラムが、幅広い膝OA患者に対して高い推奨度で位置づけられています4。
・膝まわりの筋肉が硬くこわばる感覚があり、日常の動作がぎこちなく感じる方
・見守りのある環境で、段階的に運動負荷を上げていくことに抵抗がない方
・専門職による評価のもと、安全に配慮しながら運動を進められる方
・膝が急にガクッと崩れる感覚(膝崩れ)を繰り返している方、重度の靱帯不安定性がある方
・転倒への不安が非常に強い方、過去に転倒によるけがを経験している方
・認知機能の低下や注意障害があり、不安定な道具の上での安全確認が難しい方
・一人で立位バランスを保つこと自体に不安がある方
紹介した研究でも、参加者は事前に膝OAの診断と歩行能力が確認されたうえで、見守りのある環境で12週間のプログラムに取り組んでいます1。同じ膝OAに対する転倒予防のための運動プログラムの研究でも、認知機能の低下やコントロールできない合併症がある方は対象から外されており、安全確認ができる状態であることが前提になっています5。自己判断で不安定な道具を使い始めるのではなく、まずは安定した床面での筋力運動から始め、専門職と相談しながら段階的に不安定な要素を加えていく進め方が現実的です。

今回紹介した研究で報告されているプログラムの目安は、以下の通りです1。
別のシステマティックレビューでは、膝OAへのレジスタンストレーニング全体を見渡すと、こわばりの変化については1RMの43%程度の負荷で12週間前後、痛みや機能の変化については47%程度の負荷で35〜37週間程度が、これまでの研究に共通して見られた目安として報告されています3。不安定な床面での運動に特化した頻度・期間の最適値はまだ確立されていないため、これらは「目安」として捉え、実際にはその方の痛みの状態、バランス能力、膝の変形の程度に応じて調整することが前提になります。
不安定な床面での運動を安全に取り入れるには、いきなり高い不安定性の道具を使うのではなく、支えを使える環境や、見守りのある環境から始め、痛みやふらつきが強く出ないかを確認しながら段階的に進めることが大切です。
Journey Rehabでは、膝の痛みや腫れ、膝崩れの有無、立位バランス、住環境を確認し、まず安定した床面と支持物のある条件から始めます。不安定な道具を使うこと自体を目的にせず、日常の立ち座りや歩行に必要な課題へつながるかを見ながら、負荷を個別に調整します。
膝OAのある方の在宅リハビリでは、痛みの強さだけでなく、片脚立ちのときの不安定さや、階段の上り下りでの膝の「グラつく感じ」を訴える方が少なくありません。安定した床面での筋力運動から始め、痛みやふらつきの様子を見ながら、クッションや不安定なマットなど身近な道具を使ったバランス要素を少しずつ加えていく進め方は、訪問リハビリの現場でも取り入れやすい考え方です。ただし、全員に同じように合うわけではなく、膝の変形が強い方や転倒への不安が強い方では、無理に不安定な道具を使わず、安定した環境での運動を優先することもあります。

膝OAのある方を対象にした研究では、不安定な床面での筋力トレーニングが、安定した床面での筋力トレーニングと比べて、膝まわりの筋のこわばり・筋肉どうしの共収縮・バランス機能により大きな変化と関連することが報告されています。一方で、痛みそのものの変化には床面による明確な差は見られておらず、まだ1件のランダム化比較試験を中心とした限られたデータです。転倒のリスクを伴う運動でもあるため、専門職と相談しながら、安定した床面から段階的に取り入れていくことが基本になります。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。膝の状態や安全に行える運動の内容は個別に異なります。強い痛み、腫れ、膝崩れ、発熱、転倒への強い不安がある場合は、自己判断で不安定な床面での運動を行わず、医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
