東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「腰痛には運動がよいと言われて始めたけれど、いつの間にかやらなくなってしまう」。これはとてもよく聞かれる悩みです。じつは、処方された自宅運動を続けられない人は最大で7割にのぼるという報告もあります4。結論から正直にお伝えします。運動をよく続けられている人ほど、痛みや生活のしづらさが小さくなる傾向が研究で示されています2。ただし、その差は思ったより小さく、「完璧に続けないと意味がない」わけではありません2。また、続ける工夫(リマインダー、行動の後押し、面談など)を足しても、運動量そのものが必ず増えるとは限らないことも分かってきました1。この記事では、患者さん・ご家族に向けて、続けるための工夫と、続けることの意味を整理します。
2. 続けると痛み・生活のしづらさは変わるのか
3. 「続ける工夫」を足すと運動量は増えるのか
4. エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
5. どんな人に工夫が必要か・注意点
6. 続けるための工夫の具体例
7. 訪問リハビリの現場で大切にしていること
8. よくある質問
9. 参考文献
慢性的な腰痛に対しては、運動療法が中心的な選択肢の一つとされています。ただし運動には多くの種類があり、どれが誰に一番合うかは決まっていません5,6。そして「効くかどうか」以前に、「続けられるかどうか」で結果が変わってきます。仕事や家事で時間がない、やり方に自信がない、少し良くなるとやめてしまう、痛みへの不安で動くのが怖い、といった理由で中断が起こりやすいことが知られています4。
自宅運動の続けやすさに関わる要因を調べた11件のランダム化比較試験(合計1,088人)のレビューでは、「自分の行動が結果につながるという感覚(健康の自己コントロール感)が強いこと」「専門職の指導・監督があること」「運動プログラムに参加していること」「動機づけを含む行動変容プログラムに参加していること」が、続けやすさと関連する要因として中等度の根拠で挙げられています4。対面が難しい場合の選択肢として、慢性腰痛の遠隔リハビリ(オンライン運動指導)について解説した記事もあわせてご覧ください。

慢性の非特異的腰痛を対象にした運動療法のコクランレビューをもとに、運動の実施率(アドヒアランス)とアウトカムの関係を調べた解析(46試験・56の運動グループ)では、実施率が高い(80〜100%)グループは、痛みの強さ(0〜100の尺度で平均差 −14.32、95%信頼区間 −18.61〜−10.03、確実性は低い)と生活のしづらさ(同 平均差 −8.08、95%信頼区間 −10.68〜−5.49、確実性は低い)で、より大きな変化と関連していました。ただし著者らは、実施率が低いグループとの差は全体としては小さいこと、中くらいの実施率は低い実施率と比べて明確な上乗せがなかったことを指摘しています2。
慢性腰痛に対する運動療法の43試験をまとめた解析では、「一人ひとりに合わせて設計されたプログラム」「専門職の監督(自宅・グループ・個別いずれか)」「運動量が多いこと」「他の保存的ケアを組み合わせること」が、痛みのより大きな変化と関連していました。ストレッチと筋力強化を含むものが最も大きな変化を示しました。著者らは結論の中で「アドヒアランスを促す工夫を用いるべきだ」と明記しています5。
整理すると、「続けられているほど結果は良い傾向」はありますが、差は小さく、続けること自体が目的ではありません2,5。どの運動を選ぶかについては、腰部脊柱管狭窄症の運動療法について解説した記事のように、状態によって向き不向きがある点にも注意が必要です6。
非特異的腰痛の成人を対象に、「運動+アドヒアランスを高める工夫」を「運動のみ、または通常ケア」と比べた14件のランダム化比較試験(合計1,233人)をまとめた解析では、機器で測った身体活動量(標準化平均差 0.21、95%信頼区間 −0.01〜0.43、確実性は中程度)も、質問紙で測ったアドヒアランス(同 0.33、95%信頼区間 −0.23〜0.89、確実性は非常に低い)も、はっきりした差は示されませんでした。一方、痛みと生活機能では、中期的に工夫を加えた群でわずかなプラスがみられました(確実性は中程度)。著者らは「アドヒアランスを高める工夫は、アドヒアランスそのものへの効果は不確かだが、中期的な臨床アウトカムにわずかなプラスをもたらすかもしれない。より質の高い試験が必要だ」と結論づけています1。
45歳以上で慢性腰痛や変形性股・膝関節症のある人を対象に、アドヒアランスを高める工夫を調べた9件の試験(合計1,045人)のレビューでは、変形性関節症の人では「理学療法士による追加の面談(ブースターセッション)」が、続けやすさを小〜中程度に高めることが示されました(標準化平均差 0.39、95%信頼区間 0.05〜0.72、中等度の質)。慢性腰痛では、動機づけを高める戦略を用いた個別の質の高い試験で続けやすさが良くなった一方、行動カウンセリング、対処計画づくり、音声・動画の運動キューだけでは、続けやすさは有意には改善しませんでした3。
つまり、「工夫を足せば必ず続く」わけではなく、動機づけや定期的な人の関わりを含む工夫のほうが、単なるリマインダーより有望だという段階です1,3。
この分野の研究にはいくつかの限界があります。まず、アドヒアランスの測り方が研究ごとにばらばらで、標準化された指標がありません4。介入の中身(どんな行動変容の技法を、どれくらいの頻度で使ったか)の記述が不足しているレビューが多く、比較が難しい状態です4。実施率とアウトカムの関係を示した解析も、あくまで「関連」であって「続ければ必ず良くなる」という因果を証明したものではなく、確実性は低いと評価されています2。
1. どの工夫が誰に効くのか。動機づけ面談、目標設定、フィードバック、ブースター面談などの要素のうち、どれがどんな人に役立つのかは十分に分かっていません1,3。
2. どのくらいの実施率を目指せばよいのか。高い実施率ほど結果は良い傾向ですが、差は小さく、目標値は定まっていません2。
3. 効果がどのくらい続くか。工夫による臨床アウトカムのプラスは「中期」までの報告が中心で、長期は不明です1。
4. 遠隔(アプリ・オンライン)と対面の使い分け。有望な報告はありますが、確実性はまだ低い段階です1。
研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や工夫の内容、評価方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。数値は集団の平均的な変化であり、個人の結果を保証するものではありません。

過去に運動が続かなかった経験がある方、痛みへの不安で動くのを避けがちな方、仕事の負担が大きく休職・復職の課題がある方などでは、続ける工夫を最初から組み込む意味があります。腰痛で仕事を休んでいる場合の多職種での関わりは、腰痛で仕事を休んでいる方向けの集学的リハビリと職場連携について解説した記事もご参照ください。
・発熱をともなう腰痛、安静にしても夜間に強くなる痛み
・がんの既往、原因のはっきりしない体重減少
・転倒・事故のあとの腰痛、骨粗鬆症がある方の急な強い痛み
これらは運動より先に原因の確認が必要なサインです。
研究で続けやすさや結果と関連が示された要素をもとにした、現実的な工夫です1,3,4,5。すべてをやる必要はなく、合うものを選んでください。
・生活に紐づける:歯みがきの後、入浴前など、既にある習慣にくっつける
・記録する:カレンダーやアプリに丸をつけるだけでも可視化になる
・小さな目標にする:「10分」ではなく「1種目だけ」から。できた日を数える
・専門職の定期チェックを入れる:数週ごとに内容と量を見直す面談を予定に組む
・自分で決める:やらされる運動ではなく、目的(例:孫と歩く)と種目を自分で選ぶ
・調子の悪い日の代替案を用意する:痛みが強い日は「回数を半分」「ストレッチだけ」に切り替える
工夫を足しても運動量が必ず増えるとは限らないため1、「続かない自分が悪い」と考える必要はありません。やり方や量が合っているか、主治医やリハビリ専門職と一緒に見直すことが第一歩です。

当施設のような訪問リハビリでは、生活の場で「いつ・どこで・何をきっかけに運動するか」を一緒に決めることを重視しています。種目は最初から絞り、その人の生活動線(洗面所、寝室、台所)に合わせて置き場所や姿勢を決めます。訪問のたびに前回からの実施状況を一緒に振り返り、できなかった日を責めるのではなく「どこでつまずいたか」を確認して、量や時間帯、代替案を調整します。定期的に人が確認に来ること自体が続けやすさにつながる可能性があるため、面談の間隔も相談しながら決めます。痛みの性質が変わったときは、運動を進める前に主治医へ相談します。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Jones MD, Hansford HJ, Bastianon A, Gibbs MT, Gilanyi YL, Foster NE, Dean SG, Ogilvie R, Hayden JA, Wood L. Exercise adherence is associated with improvements in pain intensity and functional limitations in adults with chronic non-specific low back pain: a secondary analysis of a Cochrane review. Journal of physiotherapy. 2025;71(2):91-99. PMID: 40175237. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40175237/
3. Nicolson PJA, Bennell KL, Dobson FL, Van Ginckel A, Holden MA, Hinman RS. Interventions to increase adherence to therapeutic exercise in older adults with low back pain and/or hip/knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. British journal of sports medicine. 2017;51(10):791-799. PMID: 28087567. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28087567/
4. Beinart NA, Goodchild CE, Weinman JA, Ayis S, Godfrey EL. Individual and intervention-related factors associated with adherence to home exercise in chronic low back pain: a systematic review. The spine journal : official journal of the North American Spine Society. 2013;13(12):1940-1950. PMID: 24169445. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24169445/
5. Hayden JA, van Tulder MW, Tomlinson G. Systematic review: strategies for using exercise therapy to improve outcomes in chronic low back pain. Annals of internal medicine. 2005;142(9):776-785. PMID: 15867410. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15867410/
6. Hayden JA, Ellis J, Ogilvie R, Stewart SA, Bagg MK, Stanojevic S, Yamato TP, Saragiotto BT. Some types of exercise are more effective than others in people with chronic low back pain: a network meta-analysis. Journal of physiotherapy. 2021;67(4):252-262. PMID: 34538747. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34538747/
