変形性膝関節症の徒手療法(マニュアルセラピー)とは?研究と限界を正直に解説

· 整形疾患情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
変形性膝関節症の徒手療法(マニュアルセラピー)とは?研究と限界を正直に解説
公開日:2026年9月11日/最終更新:2026年9月11日

「膝が痛くて、セラピストに関節を動かしてもらうと楽になる」——変形性膝関節症(膝OA)のリハビリでは、こうした「徒手療法(マニュアルセラピー)」がよく行われます。結論から先にお伝えします。徒手療法は、運動療法と組み合わせることで、短期的には痛みの軽減に一定の効果を示す研究が複数ありますが1,2,4、長期的な上乗せ効果ははっきりしないとされています1。あるシステマティックレビューでは「長期では、運動療法に徒手療法を追加しても利益はない」という高い確実性の結果も示されています1。この記事では、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを、できるだけ正直に整理します。

SECTION 01
徒手療法(マニュアルセラピー)とは何か

徒手療法とは、セラピストが手を使って関節を動かしたり、周囲の筋肉・筋膜に働きかけたりする治療手技の総称です。膝OAでは、膝のお皿(膝蓋骨)を滑らせるように動かす「モビライゼーション」、関節の遊び(アクセサリー運動)を引き出す手技、周囲筋のストレッチやマッサージなどが組み合わせて用いられます。単独で行われることは少なく、多くの研究では、通常の運動療法に徒手療法を追加する形で効果が検討されています1,3。徒手療法は膝以外の部位でも研究されており、慢性的な首の痛みへの徒手療法について解説した記事もあわせてご覧ください。

変形性膝関節症の膝の動きを専門職が穏やかに評価する場面
徒手療法は、膝の状態を確認した上で専門職が実施する手段の一つです。
SECTION 02
研究では痛み・機能への効果はどう報告されているか

おおまかにまとめると、「運動療法に徒手療法を追加すると、短期的には痛みの軽減が期待できる研究が複数あるが、長期的な上乗せ効果はメタアナリシスではっきり示されていない」という内容です。

システマティックレビュー・メタアナリシス(2022年・19試験、GRADE評価あり)

膝・股OAを対象に、運動療法単独と、運動療法+徒手療法を比較した19試験を統合しています。短期では、痛みと「痛み・機能・こわばり」を合わせたWOMAC総合スコアで、非常に低い〜中程度の確実性ながら徒手療法の上乗せ効果が示されました。ただし、動作で測る機能や自己申告の機能には上乗せ効果がみられませんでした。中期では、動作で測る機能とWOMAC総合スコアに低い〜非常に低い確実性の効果がみられましたが、痛みには効果がありませんでした。そして長期では、痛みにも機能にも「上乗せの利益はない」という高い確実性の結果が示されています1

システマティックレビュー・メタアナリシス(2024年・25試験・2376人)

徒手療法の痛み軽減効果と安全性を検討しています。徒手療法は、通常ケア(統合効果量2.04)や運動療法(統合効果量1.56)と比べて、痛みの軽減で優れているという結果でしたが、いずれもエビデンスの質は低いと評価されています。4週間を超える治療のほうが、4週間以下の治療より効果が大きい傾向がみられました。一方でWOMAC痛みスコアでは、明確な差は示されませんでした。有害事象は14件の研究で報告があり、最も多かったのは施術後の筋肉痛で、重い有害事象はありませんでした。含まれた研究の多くは中国で行われたもので、22/25件が高いバイアスリスクと評価されています2

システマティックレビュー・メタアナリシス(2018年・11試験・494人)

整形外科的徒手療法(OMT)を、対照群または運動療法単独と比較した11試験を統合しています。対照群との比較では痛みの軽減に統計的な意味のある差はありませんでしたが、運動療法単独との比較では、痛み(VAS・WOMAC痛みスコア)、機能(WOMAC機能スコア)、階段昇降時間のいずれにも統計的に意味のある改善がみられました。ただし、WOMAC総合スコアには明確な差がありませんでした。著者は「運動療法単独と比べて短期的な利益がある」と結論づけています3

システマティックレビュー(2021年・6試験)

徒手療法単独での短期・長期効果を検討した6件のランダム化比較試験・クロスオーバー研究をまとめています。短期的には痛みの軽減、可動域・機能の改善が報告されていますが、長期効果については「安全で信頼できる結論を出すには研究が不十分」と明記されています4

SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

前向きな結果はありますが、根拠の質にはいくつかの弱点があります。2024年のメタアナリシスでは、含まれた25試験のうち22試験が高いバイアスリスクと評価され、施術者・参加者を盲検化できない徒手療法特有の限界も指摘されています2。研究の多くが特定の地域(中国)に集中しており、他地域での再現性は十分に検証されていません2。最も質の高いGRADE評価を行った2022年のレビューでは、短期の効果自体が「非常に低い〜中程度の確実性」にとどまり、長期については「上乗せ効果はない」という逆向きの高確実性の結果が出ています1。研究間で、徒手療法の具体的な手技・強度・回数・比較対照が大きく異なる点も、結果のばらつきの一因です1,2,3

まだ分かっていないこと

1. どのタイプの膝OA(重症度・変形の程度)に向くか。研究対象の多くは軽〜中等度で、重度変形や末期のOAでの効果は十分に検証されていません。
2. 最適な「量」。手技の種類、1回の時間、頻度、期間の最適な組み合わせは定まっていません1,2
3. 長期効果が本当にないのか、それとも研究デザイン(追跡期間・アドヒアランスなど)の限界で見えていないだけなのかは、はっきりしていません1
4. どのような方に相対的に効果が出やすいか(年齢・痛みの程度・心理社会的要因など)は十分に検証されていません。

研究の数値は集団の平均的な変化です。対象者の重症度・年齢、施術の内容や量が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではなく、個人の結果を保証するものではありません。

SECTION 04
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
研究で前向きな変化が報告されているもの
・短期的な痛みの軽減(運動療法単独や通常ケアとの比較)1,2,3,4
・短期的な機能・階段昇降などの動作パフォーマンス(運動療法単独との比較)1,3,4
・可動域(短期)4
変わりにくい・はっきりしないもの
・長期的な痛み・機能への上乗せ効果(高確実性で「利益なし」との報告あり)1
・WOMAC総合スコアでの一貫した改善1,3
・重度変形・進行期のOAでの効果
・対照群(無治療)と比べたときの明確な痛み軽減効果3

徒手療法は「運動療法の効果を短期的に後押しする一つの手段」であり、膝OAの問題をまとめて解決するものではありません。長期的には、筋力トレーニングや生活動作の見直しなど、ご自身で続けられる運動療法が土台になります。膝OAの筋力トレーニングの強さ・量については、変形性膝関節症の筋トレの強さ・量について解説した記事もご覧ください。

変形性膝関節症の方が見守りのもとで膝伸展運動を行う場面
短期的に動きやすくなった時間を、自分で続けられる運動につなげます。
膝のリハビリを玄関の段差動作につなげる練習場面
運動と生活動作の練習を組み合わせ、日常の動きへ段階的につなげます。
SECTION 05
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要か

研究では、軽〜中等度の膝OAで、痛みやこわばりが強く、運動療法だけでは動きにくさを感じている方が主な対象です1,2,3。徒手療法は理学療法士・作業療法士など専門職が評価に基づいて行う手技で、自己判断で強い力をかけて自分の膝を操作することは想定されていません。

⚠ 次のような場合は、自己判断で行わず、主治医・専門職に相談してください
・急な激しい痛みや腫れ、熱感がある(感染症・急性の炎症の可能性)
・骨粗鬆症が進んでいる、または最近骨折した
・膝周囲に人工関節が入っている、または手術直後である
・血液をさらさらにする薬を服用しており、内出血しやすい
・原因不明の急激な体重減少や強い夜間痛がある(他の疾患の可能性)

研究では重い有害事象の報告は多くなく、最も多かったのは施術後の一時的な筋肉痛です2。まれに痛みが一時的に強まった例も報告されているため2、施術後の体調変化は専門職に伝えることが大切です。

SECTION 06
頻度・期間の目安

下記は「研究でよく使われた設定」であって、「これが唯一の正解」という意味ではありません。実際の設定は、痛みの程度や生活状況に合わせて調整します。

・治療期間:4週間を超える治療のほうが、4週間以下より効果が大きい傾向2
・組み合わせ:単独ではなく運動療法との併用で検討されることが多い1,3
・効果が出やすい時期:短期(数週間〜数か月)が中心で、長期の上乗せ効果は不明確1
・施術者:理学療法士・作業療法士など専門職が評価に基づいて実施

大切なのは「徒手療法だけに頼ること」ではなく、「痛みが落ち着いている間に、自分で続けられる運動や生活動作の工夫につなげること」です。減量や日常の活動量の見直しも、膝OAの土台になる取り組みです。詳しくは変形性膝関節症と体重管理について解説した記事もご覧ください。

SECTION 07
訪問リハビリで検討するときの視点
臨床判断で確認する視点

徒手療法を検討するときは、「短期的に痛みが楽になる可能性はあるが、長期的な上乗せ効果は明確ではない」という要点を共有することが大切です。痛み、可動域、筋力、生活動作を評価し、一時的に動きやすくなった時間を運動療法や自主トレーニングにつなげます。「施術を受け続けること」自体を目的にせず、施術の効果が薄れても続けられる運動を増やすことが基本です。改善の実感には個人差があるため、定期的に目標と反応を見直します。

本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、診断・治療を推奨するものではありません。徒手療法の可否や内容は、膝の状態や持病によって異なります。実施を検討する際は、必ず担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
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執筆・確認と運営上の立場

本記事は、株式会社Journey Rehab代表の作業療法士・田中 光が執筆し、文献内容を2026年9月11日に確認しました。当社の訪問自費リハビリの案内を含みますが、特定の医療機器・治療メーカーから本記事作成に関する資金提供は受けていません。外部の医師による個別監修は受けていないため、診断や治療方針は主治医へご相談ください。

田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ
よくある質問
Q. 徒手療法だけ受けていれば、運動しなくても大丈夫ですか?
A. そうとは言えません。研究の多くは運動療法に徒手療法を追加した効果を検討したもので、徒手療法単独に置き換わるものではありません1,3。運動療法は続けることが前提です。
Q. 何回くらい受ければ効果が出ますか?
A. 研究では、4週間を超える治療のほうが、4週間以下より効果が大きい傾向が報告されていますが2、最適な回数は定まっていません。痛みの経過をみながら調整します。
Q. 長く続ければずっと楽になりますか?
A. 長期的な上乗せ効果は、質の高いレビューでは「ない」という高い確実性の結果が示されています1。長期的には、ご自身で続けられる運動療法が土台になります。
Q. 施術中や施術後に痛みが強くなることはありますか?
A. まれに一時的に痛みが強まった例が報告されています2。多くの場合は施術後の一時的な筋肉痛にとどまりますが、痛みが続く場合は担当者に伝えてください。
Q. 人工膝関節を入れていても受けられますか?
A. 手術直後や人工関節の状態によっては注意が必要です。今回ご紹介した研究は主に手術前の膝OAを対象としているため、術後の方は主治医・担当のリハビリ専門職にご相談ください。
Q. 重度の変形があっても効果はありますか?
A. 研究の対象は軽〜中等度の方が中心で、重度変形での効果は十分に検証されていません。ご自身の状態に合うかは、評価をしたうえで専門職が判断します。
Q. 自分でセルフマッサージをしても同じ効果がありますか?
A. 今回ご紹介した研究は専門職による手技を対象としたもので、セルフマッサージの効果を直接検証したものではありません。自主トレーニングとしてできることは、専門職と相談しながら決めることをおすすめします。
REFERENCES
参考文献
1. Runge N, Aina A, May S. The Benefits of Adding Manual Therapy to Exercise Therapy for Improving Pain and Function in Patients With Knee or Hip Osteoarthritis: A Systematic Review With Meta-analysis. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy (J Orthop Sports Phys Ther). 2022. doi:10.2519/jospt.2022.11062. PMID: 35881705. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35881705/

2. Zhu B, Ba H, Kong L, Fu Y, Ren J, Zhu Q, Fang M. The effects of manual therapy in pain and safety of patients with knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Systematic Reviews. 2024. doi:10.1186/s13643-024-02467-7. PMID: 38504373. PMCID: PMC10949788. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38504373/

3. Anwer S, Alghadir A, Zafar H, Brismée JM. Effects of orthopaedic manual therapy in knee osteoarthritis: a systematic review and meta-analysis. Physiotherapy. 2018. doi:10.1016/j.physio.2018.05.003. PMID: 30030035. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30030035/

4. Tsokanos A, Livieratou E, Billis E, Tsekoura M, Tatsios P, Tsepis E, Fousekis K. The Efficacy of Manual Therapy in Patients with Knee Osteoarthritis: A Systematic Review. Medicina (Kaunas). 2021. doi:10.3390/medicina57070696. PMID: 34356977. PMCID: PMC8304320. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34356977/