東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
痛み・機能への研究と、脳への影響という新しい視点を正直に解説
「首のこりや痛みが何ヶ月も続いている」「マッサージや施術を受けたときは楽になるが、またすぐ戻ってしまう」というご相談は少なくありません。首への徒手療法(モビライゼーションや軟部組織へのアプローチ)は、そうした慢性的な首の痛みに対して広く使われている方法の一つです。
この記事では、慢性的な非特異的頸部痛(原因がはっきりしない首の痛み)に対する徒手療法の効果を研究から整理するとともに、近年注目されている「脳の活動への影響」という視点についても、できることとまだ分かっていないことを正直にお伝えします。
最終更新日:2026年8月15日
最新レビュー日:2026年8月15日
手足のしびれ・筋力低下、めまい、頭痛が急に強くなった場合、事故やけがのあとの首の痛み、発熱を伴う場合は、自己判断でマッサージや運動を始めず、医療機関で診断を受けてください。神経の圧迫や、まれに緊急性のある病気が隠れていることがあります。
徒手療法(マニュアルセラピー)は、施術者が手を使って関節や軟部組織に働きかける治療法の総称です。頸部への徒手療法には、関節を動かす「モビライゼーション」、より強い力で瞬間的に動かす「マニピュレーション」、筋肉や筋膜にアプローチする軟部組織へのアプローチなどが含まれます1。
単独で行われることもありますが、近年の研究の多くは「徒手療法+運動療法」という組み合わせで効果を検討しています12。この記事でも、主に組み合わせた場合の研究を中心に紹介します。
2025年に発表されたアンブレラレビュー(35件のシステマティックレビュー、原著研究701件を統合した大規模なまとめ)では、非特異的頸部痛・頸椎症性神経根症・頸原性頭痛のいずれにおいても、「徒手療法+運動療法」が、どちらか単独の治療より優れているという確信度の高い所見が示されました1。慢性の非特異的頸部痛では、マニピュレーション+運動が単独治療を上回り、胸椎へのマニピュレーションはモビライゼーションより優れる傾向も報告されています。
2025年に更新されたコクランレビューでは、9件のランダム化比較試験(694名)を統合し、より詳細な数値が示されています2。「徒手療法+運動」を無治療と比べると、痛みは10段階で平均2.44点の大きな改善、機能も中等度の改善が見られました。一方、プラセボ(見せかけの治療)と比べた場合は、痛みの差ははっきりせず、機能のみ中等度の改善が見られています。
・効果は治療開始から数週間程度の短期で最も明確
・無治療と比べた場合の効果は比較的大きいが、プラセボと比べた場合の疼痛への効果ははっきりしない
・重い有害事象の報告は少なく、一時的な痛みの増強やめまいなど軽い症状が中心
慢性的な首の痛みには、首そのものの問題だけでなく、脳が痛みの信号をどう処理するかという「中枢性の変化」も関わっていると考えられています。2026年に発表された小規模なパイロット研究では、fNIRS(脳の血流変化を調べる装置)を使い、徒手療法+運動と運動単独で、脳の活動にどのような違いが出るかが調べられました3。
この研究では、痛みの強さや首の機能障害の指標は、徒手療法+運動群でも運動単独群でも同じように改善し、両群の間に明確な差は見られませんでした。一方で、脳の活動を見ると、徒手療法+運動群でのみ、前頭葉と頭頂葉のネットワークのつながりが回復し、前頭前野の働きが効率化する変化が確認されたと報告されています3。
・言えないこと:脳の活動が変わることが、本人の体感や長期的な経過の違いに直接つながるかどうか
・言えないこと:この結果が、より大規模な集団でも同じように再現されるかどうか
「徒手療法は脳にも働きかける」という考え方自体は興味深いものですが、まだ1件の小規模な研究の段階です。今後、より大きな集団での検証が必要な、発展途上の分野だと理解しておくのが正直なところです。
正直にお伝えすると、コクランレビューが示した効果の確実性は「低い」〜「非常に低い」にとどまっています2。研究のデザイン上、施術者や参加者を治療内容について盲検化することが難しく、痛みの評価も本人の申告に頼らざるを得ないため、こうした評価になっています。
アンブレラレビューでも、統合された35件のレビューのうち、AMSTAR2という評価基準で「高い確信度」とされたのは10件にとどまり、13件は「低い」〜「非常に低い」確信度と評価されています1。研究間で介入内容・追跡期間のばらつきが大きいことも指摘されています。
・長期(数ヶ月〜年単位)にわたる効果の持続性は十分に検証されていない
・脳活動への影響が、実際の症状の経過や再発率にどう関わるかは分かっていない
・どのタイプの首の痛み(非特異的・神経根症・頭痛関連)に、どの徒手療法がより向いているかは、まだ研究間で結論が一致していない
全体としては、「無治療より徒手療法+運動の方が良い方向に働きやすい」という傾向は見えていますが、「徒手療法そのものが痛みの根本原因を取り除く」という強い主張はできません。運動と組み合わせて、生活の中での対処法として位置づけることが、現時点で誠実な理解だと考えています。
研究の対象は、原因がはっきりしない非特異的な首の痛みが中心で、平均年齢40代、女性が多い傾向があります2。神経根症や頸原性頭痛を伴う場合も一定の研究がありますが、脊髄症(myelopathy)がある方は多くの研究で除外されており、対象外と考える必要があります2。
首以外の慢性的な痛みでも、保存的なアプローチを選びながら経過を見ていく考え方は共通しています。変形性股関節症の運動療法について解説した記事や、手根管症候群の手術以外の選択肢について解説した記事、慢性腰痛のオンライン運動指導について解説した記事もあわせてご参照ください。
コクランレビューで統合された研究では、効果の判定は「短期」(治療終了から4週間前後)に行われたものが中心です2。つまり現時点の根拠は、数週間という比較的短い期間の変化についてのものが多く、数ヶ月〜年単位の長期効果は、まだ十分な研究の積み重ねがありません。
・効果判定は治療終了後おおむね4週間前後(短期)が主流
・数ヶ月以上続く長期効果の検証はまだ少ない
「施術を受けたときは楽になるが、また戻ってしまう」という感覚がある場合、施術そのものの頻度を増やすことだけでなく、自主的に続けられる運動や姿勢の工夫を並行して行うことが、研究の傾向とも合いやすい考え方です。
首の痛みが始まった経緯、しびれや筋力低下の有無、仕事・家事・睡眠への影響、これまで受けた診断や治療、本人が目指す生活動作を確認します。徒手療法を行う場合も、反応を確かめながら穏やかな方法を選び、自分で続けられる運動や作業環境の調整と組み合わせます。強い頭痛、進行するしびれ・筋力低下、歩きにくさ、発熱、外傷後の痛みがある場合は、施術より医療機関での評価を優先します。
徒手療法(特に運動療法との組み合わせ)は、無治療と比べて痛み・機能の改善が期待できる方向の根拠がありますが、プラセボとの比較や長期効果についてはまだ確実性が高くありません。脳の活動への影響という新しい視点も研究され始めていますが、まだ小規模な段階です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。首の痛みの原因や適した対応は個別に異なります。しびれ・筋力低下・めまい・強い頭痛、事故やけがのあとの痛み、発熱を伴う場合は、自己判断で対応せず医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
