東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
アプリ・ウェアラブルを使った運動は何がどこまで有効か
「サルコペニア(加齢に伴う筋肉量・筋力の低下)には運動が良いと分かっていても、通院や通所が難しい」「スマートフォンのアプリやスマートウォッチで運動管理をしても意味があるのか」というご相談が増えています。近年、スマートフォンアプリやウェアラブルデバイスを使った運動プログラム(デジタルヘルス運動)の研究が増えてきました。
この記事では、サルコペニアのある高齢者、または筋力低下が気になる高齢者を対象に、アプリ型・ウェアラブル型のデジタルヘルス運動プログラムがどの程度筋量・筋力・バランスに関係すると報告されているか、対面での運動と比べてどうか、そしてまだ分かっていない点を、研究と現場の両方から整理します。
最終更新日:2026年8月23日
最新レビュー日:2026年8月23日
心臓や血圧に不安がある、めまいや立ちくらみが起きやすい、関節に強い痛みがある、医師から運動を制限されている、という場合は、アプリやウェアラブルを使う場合でも自己判断で運動を始めず、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。デジタル機器はあくまで運動を補助するツールであり、体調の判断そのものは代わりにできません。
サルコペニアは、加齢に伴って筋肉量と筋力が低下し、歩行や立ち上がりなどの日常生活動作に影響が出やすくなる状態です。レジスタンス運動(筋力トレーニング)を中心とした運動が対策として重要とされていますが、通院・通所の負担、指導者の不足、モチベーションの維持が課題になることも少なくありません。
こうした課題に対応する手段として、スマートフォンアプリで運動の指示・記録を行う「アプリ型」、スマートウォッチや活動量計で歩数・運動量を測定しフィードバックする「ウェアラブル型」、ゲーム機を使って楽しみながら運動する「エクサゲーム型」など、デジタル技術を活用した運動プログラムの研究が増えています。筋力トレーニング自体の基本的な考え方については、当施設のブログでサルコペニアへの運動とたんぱく質の組み合わせについて解説した記事も公開していますので、あわせてご覧ください。
サルコペニア診断のある60〜80歳の高齢者58名を、スマートフォンアプリで6種類の抵抗運動(週3回、3セット×10回)を自宅で行うグループと、理学療法士による対面で同じ内容を行うグループに分け、4週間比較したランダム化比較試験があります。握力はアプリ群で18.1kgから19.9kgへ、対面群で18.6kgから19.6kgへ変化し、バランスや日常生活動作の指標も両グループ内で改善しました1。群間で統計的に意味のある差は検出されませんでしたが、この小規模・短期間の試験だけで両者の効果が同等と確定したわけではありません。
ただし、この研究は単一施設・58名という比較的小規模な研究で、追跡期間も4週間と短いことには注意が必要です1。「アプリだけで十分」と結論づけるにはまだ研究の蓄積が必要な段階です。
スマートウォッチや活動量計を使った歩行プログラムを検証した研究もあります。65歳以上の健康な高齢者80名を対象に、ウェアラブルデバイス(Garmin社製・Apple Watch)を使い、週5日・1回30分以上、目標歩数に届かないときに音や振動で知らせるフィードバックつきの歩行プログラムを12週間行ったところ、介入グループでは骨格筋量が5.5%増加、握力が13.1%改善、下肢機能(5回立ち上がりテスト)が10.5%改善したと報告されています2。日常の歩行にリアルタイムの目標管理を組み合わせることで、筋肉量や機能にも一定の関連がみられた、という報告です。
また、ゲーム機の体感型ソフト(Ring Fit Adventureなど)を使った「エクサゲーム」を、台湾の高齢者施設利用者を対象に週2回・30分・12週間実施した研究では、フレイル指標、筋量指標、握力、歩行速度のいずれも、通常ケアのみのグループと比べて有意な改善が報告されています3。この研究は施設に入所している高齢者が対象であり、在宅で生活する高齢者とは前提が異なる点には注意が必要ですが、「継続の工夫としてゲーム性を取り入れる」という考え方自体は参考になります。
これらの研究に共通するのは、デジタル技術そのものが筋肉を強くするわけではなく、「決められた運動を、決められた頻度で続けられるようにする仕組み」として機能している、という点です。
個別の研究では前向きな結果が報告されていますが、分野全体を見渡すと、まだ研究の蓄積が十分とはいえません。
サルコペニアのある高齢者へのデジタルヘルス運動介入をまとめたシステマティックレビュー(14件・927名)では、筋量・筋力・バランス・歩行・身体機能で改善の可能性が報告された一方、生活の質では統計的に意味のある差が確認されませんでした。著者らは、アウトカムごとのエビデンスの確実性を非常に低い〜中程度と評価しており、実際の効果が推定値と異なる可能性を指摘しています。
現在の研究でも、どのくらいの重症度のサルコペニアまでデジタルヘルス運動が適用できるのか、対面での運動と比べて長期的(数か月〜年単位)にも同程度の効果が続くのか、高齢者自身がどこまで機器の操作に慣れる必要があるのかは、十分に分かっていません。今後、大規模かつ長期の追跡研究が必要とされています。
今回紹介した研究の多くは、最初に専門職による対面での指導・評価を行ったうえで、その後の運動をデジタル機器で補う、という組み合わせで実施されています。「アプリやウェアラブルだけで自己流に始める」のではなく、専門職の評価と組み合わせることが安全につながると考えられます。
・ウェアラブル型の歩行プログラム:週5日、1回30分以上を12週間継続2
・エクサゲーム型:週2回、1回30分を12週間継続3
紹介した研究の追跡期間はいずれも4〜12週間程度と、それほど長くありません。数か月単位の短期間でも筋力や歩行機能に関連する変化が報告される一方、長期間続けた場合にどうなるかは今後の研究課題です。まずは専門職の初期評価を受け、無理のない頻度から始めて、体調や機器への慣れに応じて調整していくことをおすすめします。
Journey Rehabでは、まず訪問での対面評価を通じて筋力・バランス・持病の状況を確認したうえで、必要に応じてご自身で続けやすい記録方法や目標設定について一緒に考えます。アプリやウェアラブル機器の活用そのものを目的にするのではなく、その方にとって「続けやすい形」を見つけることを大切にしています。
運動を続けるうえでの工夫という観点では、高齢者の転倒予防運動でも「続けやすさ」が結果を左右することが分かっています。当施設のブログで高齢者のOtago運動プログラムについて解説した記事もあわせてご覧いただくと、自宅でできる運動の具体例がイメージしやすいかと思います。
アプリ型・ウェアラブル型・エクサゲーム型の運動では、筋量・筋力・バランスなどの変化が報告されています。ただし研究は小規模・短期間のものが多く、対面指導との同等性や長期的な効果、適した対象者の範囲は確定していません。デジタル機器を単独の治療と考えず、専門職による初期評価や安全確認と組み合わせることが大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。適した運動の内容・機器の活用方法は個別に大きく異なります。運動を始める前、特に持病がある方、強い痛みがある方、心臓や血圧に不安がある方は、必ず主治医・リハビリ専門職へ相談してください。研究データは執筆時点のものであり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
