東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
安定した床面との比較研究を正直に解説
クッションやバランスパッドの上に立って行う運動を見たことがある方も多いと思います。「グラグラする場所で運動をすると、より効果が高いのでは」というイメージがある一方、「高齢者には危ないのでは」という不安の声もよく聞きます。
この記事では、不安定な床面(バランスパッドなど)での筋力運動が、安定した床面での筋力運動と比べて、下肢筋力・移動能力・転倒への不安にどのような違いをもたらすのか、研究をもとに整理します。
最終更新日:2026年8月15日
最新レビュー日:2026年8月15日
不安定な床面での運動には転倒リスクが伴います。持病がある方、すでに転倒への不安が強い方、一人で立位保持が不安定な方は、支持物のない状態で自己流に行わず、必ず見守りができる環境か、専門職の指導のもとで行ってください。
研究の世界では「不安定面抵抗運動(unstable/instability resistance training)」と呼ばれる方法です。BOSUボール、バランスパッド、フォームクッション、揺れる台(wobble board)などの上でスクワットやランジ、脚の運動を行い、筋力運動とバランス課題を同時に行う点が特徴です12。
通常の床(安定面)で行う筋力運動と比べて、体幹や下肢の細かい筋肉をより多く使う可能性があるとされ、高齢者の転倒予防プログラムに応用する研究が増えています。ただし「不安定=より効果的」と単純に言えるかどうかは、研究を丁寧に見ていく必要があります。
2026年に発表されたメタ解析では、不安定面での抵抗運動(URT)と安定面での抵抗運動(SRT)を直接比較した研究7件が統合されました3。10〜12週間の短期間では、下肢筋力や移動能力にURTとSRTの間で明確な差は見られませんでした。むしろ椅子からの立ち座りテストでは、SRTの方がやや良い傾向(有意差はなし)も報告されています。
一方で、「転倒への不安」を測る指標では、短期間の介入でもURTがSRTより有意に改善したと報告されています。さらに24週間という長期の介入では、立ち座りや方向転換を含む移動能力(TUGテスト)でもURTがSRTを上回ったとされています3。
正直にお伝えすると、この分野の研究はまだ発展途上です。中心となるメタ解析は、統合された研究が7件(8論文)にとどまり、対象者も比較的元気な地域在住高齢者が中心で、フレイルや持病のある高齢者への一般化はまだ確認されていません3。
個別の研究を見ても、対象人数は数十名規模と大きくなく、対照群を設けていない研究、評価者の盲検化が不完全な研究もあります12。「不安定面での運動の方が優れている」と結論づけるには、まだ研究の積み重ねが必要な段階です。
・どのくらいの不安定さ(クッションの硬さ・BOSUの空気圧など)が最も適切かは統一されていない
・短期間で得られた転倒への不安の改善が、長期間続くかどうかは分かっていない
・在宅・訪問という限られた道具の中で行った場合の効果は、研究環境ほど確認されていない
研究全体としては、不安定な床面での運動が転倒への不安や長期的な移動能力に良い方向で働く可能性を示していますが、対象者や介入内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
短期間(10〜12週間)での下肢筋力そのものの伸びは、安定面での運動と比べて明確な優位性が示されていません3。「不安定面を使えば筋力が早く付く」というわけではない、という理解が現実的です。
研究の対象者は、65〜83歳前後の比較的健康な地域在住高齢者が中心です124。すでに転ぶことへの不安が強い方や、フレイル(虚弱)が進んでいる方への効果は、まだ十分に確認されていません。詳しくは高齢者のフレイルと運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
転倒そのものよりも「転ぶのが怖くて動けない」という不安の強さが生活を狭めているケースでは、運動プログラムだけでなく、不安との向き合い方を含めた関わりが役立つ場合があります。高齢者の転倒不安と認知行動療法について解説した記事もご参照ください。
足のしびれやふらつきがある方では、不安定な床面での運動を始める前に、感覚の状態を確認しておくことが安全につながります。足のしびれと運動・バランス訓練について解説した記事も参考にしてください。
研究で多く採用されているのは、週2〜3回・10〜24週間という設定です124。特に転倒への不安の改善は短期間でも報告されている一方、移動能力の向上は24週間という長期の研究でより明確に示されており、続ける期間によって現れやすい変化が異なる可能性があります。
・強度:50〜60%1RM相当(中等度)
・期間:短期は10〜12週間、長期は24週間
・不安定面の例:バランスパッド、フォームクッション、BOSUボール、揺れる台
在宅で行う場合、専用の器具がなくても、厚みのあるクッションや畳んだバスタオルなど、身近な物で不安定な状況を作ることは可能です。ただし転倒リスクが上がるため、壁や手すり、椅子の背もたれなど、いつでもつかまれる支持物を近くに置いておくことが安全上重要です。
直近の転倒歴、立ちくらみ、服薬、足の痛みや感覚低下、普段使う杖・手すり、床材、本人の転倒への不安を確認します。不安定面は必須ではなく、まず安定した床で安全に行えることを確かめます。導入する場合は、固定した支持物と近接見守りを確保し、広く低いパッドから始め、疲労やふらつきが増えれば中止します。自宅で本人だけが再現できない課題は自主練習にしません。
不安定な床面での筋力運動は、短期間での筋力そのものの伸びは安定面と大きく変わらない一方、転倒への不安や長期的な移動能力の面で、安定面よりも良い方向の結果が報告されています。ただし研究の数はまだ多くなく、フレイルや持病のある方への一般化は今後の課題です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。不安定な床面での運動には転倒リスクが伴います。持病がある方、立位が不安定な方、転倒への不安が強い方は、自己判断で行わず医師やリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
