認知症の睡眠障害|薬に頼らない工夫と研究の限界

· 自費リハビリ情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立

認知症のある方の睡眠トラブルと、薬に頼らない工夫|研究と限界を正直に解説

夜中に何度も起きてしまう。夕方から落ち着かなくなり、夜になると外に出ようとする。昼間はうとうとして、夜は目が冴えている。認知症のあるご家族と暮らす方から、睡眠についてのご相談を受けることは本当に多いです。介護されている方自身が眠れなくなり、限界に近づいてしまうことも少なくありません。

薬に頼らない方法として、高照度の光を浴びる「光療法」がよく知られています。ただ、最新のレビューを読むと、光療法の結果は思ったほど一貫していません。むしろ身体を動かすことのほうが、現時点では比較的良い材料がそろっています。この記事では、2023年と2025年のシステマティックレビューをもとに、何が分かっていて何が分かっていないのかを整理します。

SECTION 01

認知症のある方に起こる睡眠の変化

認知症では、脳のなかで体内時計を調整している部分にも変化が起こると考えられています。その結果、夜まとまって眠りにくくなり、昼と夜の区切りがあいまいになっていきます。

よくみられる変化
夜中に何度も目が覚める、寝つくまでに時間がかかる、早朝に目が覚める、昼間の居眠りが増える、夜と昼が逆転する。
夕方から夜にかけての落ち着かなさ
日が暮れる頃からそわそわする、帰宅しようとする、繰り返し同じことを訴える。睡眠の乱れと重なって起こることが多く、ご家族の負担が最も大きくなりやすい時間帯です。行動・心理症状(BPSD)への向き合い方は認知症のBPSDと非薬物的アプローチについて解説した記事でも整理しています。
先に医療機関で確認していただきたいこと:
睡眠の乱れの背景に、痛み、かゆみ、頻尿、便秘、薬の影響、うつ、そして睡眠時無呼吸が隠れていることがあります。大きないびきや、寝ている間に呼吸が止まる様子がある場合は、生活の工夫の前に医療機関でご相談ください。急に眠れなくなった、急に混乱が強くなった場合は、感染症や脱水など別の原因のことがあり、早めの受診が必要です。
認知症のある高齢者と家族が朝にカーテンを開けて光を取り入れる様子
朝の光と毎日の起床時刻をそろえることは、生活リズムを整える基本です。
SECTION 02

薬に頼らない方法にはどんなものがあるか

1. 光療法(高照度光療法)
朝や日中に強い光を一定時間浴びて、体内時計に働きかける方法。専用の照明器具を使う研究が多く、施設で実施されたものが大半です。
2. 身体活動・運動
歩行、椅子に座ったままの運動、立ち座りの繰り返し、園芸などの屋外活動、有酸素・柔軟性・筋力・バランスを組み合わせたプログラムなど、幅広い内容が研究されています。
3. 不眠に対する認知行動療法(CBT-I)
睡眠に関する考え方や生活習慣を整えるプログラム。認知機能の状態によって実施の工夫が必要になります。
4. 音楽・アロマ・マッサージなど
夜間の落ち着かなさに対して用いられることがあります。音楽を用いた関わりは認知症の音楽療法について解説した記事で詳しく扱っています。
5. CPAP(持続陽圧呼吸療法)
睡眠時無呼吸を合併している場合の治療。医師の診断のもとで行われます。
SECTION 03

研究でわかっていること

2025年のシステマティックレビュー(144試験・13,471人)

軽度認知障害と認知症のある方の睡眠に対して、薬と薬以外の方法を幅広くまとめた大規模なレビューです。著者らは、薬以外の方法のなかでは身体活動と、睡眠時無呼吸のある方へのCPAPについて比較的良い材料があると述べています。身体活動を検討した11試験のうち7試験で、睡眠の指標に統計的に有意な変化が報告されました。一方で、研究ごとに測り方も期間もばらばらで、多くの介入についてはデータをまとめること自体ができなかったとされています1

同じレビューが示した光療法の実際

光療法だけを検討した23試験のうち、18試験は病院や施設で行われたものでした。9試験では睡眠の指標に有意な変化がみられず、3試験では介入した側で睡眠の指標がかえって悪化しています。有意な変化がみられた11試験のうち、機器で客観的に測って変化が確認できたのは4試験にとどまりました。在宅で生活している方を対象にした5試験では、1試験を除いて客観的な睡眠指標に有意な変化はみられていません1

2023年のメタアナリシス(11試験・648人)

光療法をまとめて解析した研究です。夜間に目が覚める回数については、小さいながら有意な変化が示されました(標準化平均差 −0.31、95%信頼区間 −0.56〜−0.05、研究間のばらつきは小さい)。一方、眠っている間の覚醒時間(0.23、−0.14〜0.59)、興奮・落ち着かなさ(−0.28、−1.02〜0.45)、抑うつ(−0.20、−0.80〜0.40)では、はっきりした差は示されませんでした。追跡期間は最長でも4か月で、長期の影響は不明とされています2

整理すると、光療法は「夜中に目が覚める回数」という限られた指標では小さな変化が報告されているものの、全体としては結果が一定しません。身体活動のほうが今のところ比較的良い材料があり、しかも睡眠以外の面(歩く力、生活動作、気分)にも関わるという点で取り組む価値があります。運動そのものの位置づけについては認知症の運動療法について解説した記事で詳しく扱っています。

認知症のある高齢者が家族と洗濯物をたたみ日中活動に取り組む様子
家事や散歩など、その人に合う日中活動を無理のない範囲で組み込みます。
SECTION 04

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

エビデンスの質と限界
144試験を集めたレビューでも、1試験あたりの参加人数は中央値で50人と小規模でした。睡眠の測り方も、本人やご家族の主観的な評価だけのもの、機器で測ったもの、両方を使ったものが混在しています。評価するタイミングもばらばらで、著者らは「多くの介入についてデータをまとめられなかった」「臨床判断の根拠にするには十分でない」と述べています1。光療法のメタアナリシスでも、興奮や抑うつの解析では研究間のばらつきが大きく(それぞれ87%、85%)、出版バイアスの可能性も指摘されています2
まだ分かっていないこと
運動をどのくらいの強さで、いつの時間帯に、どのくらいの期間続けるとよいのかは確立していません。光療法についても、必要な明るさ、浴びる時間、時間帯、認知症の型(アルツハイマー型、レビー小体型など)による違いは十分に検証されていません。研究の多くは施設で行われており、ご自宅で生活している方にそのまま当てはめられるかも分かっていません。数か月を超えて続けたときにどうなるかも、ほとんど分かっていない部分です。

正直に申し上げると、「これをすれば夜眠れるようになる」と言える方法は、現時点ではありません。ただし、生活の組み立てを見直すこと自体には負担が少なく、睡眠以外の面にもつながる可能性があります。

SECTION 05

家庭でできる整え方

1. まず1週間、記録をとる
就寝・起床の時刻、夜中に起きた回数、昼寝の時間帯と長さ、日中の活動、夕方の様子。何が起きているかが見えると、どこを変えるか決めやすくなります。
2. 朝、明るい場所で過ごす時間をつくる
特別な機器がなくても、朝食を窓辺でとる、洗濯物を一緒に干す、玄関先に出るといった形で光を浴びる時間を確保できます。研究の結果は一定しませんが1,2、負担の少ない工夫として取り入れやすい部分です。
3. 日中の活動量を、できる範囲で増やす
散歩、掃除や洗濯などの家事、椅子に座ったままの体操、庭仕事。研究で用いられた内容も幅広く、大がかりな運動でなくても検討されています1。本人が「やらされている」と感じにくい活動を選ぶことが続けるコツです。
4. 昼寝は時間と長さを決める
昼寝そのものを禁止する必要はありませんが、夕方の長い居眠りは夜に響きやすくなります。午後の早い時間に短くとる形へ移せないか検討します。
5. 夕方以降の環境を整える
強い明かりやテレビの音量、来客、慌ただしい動きは落ち着かなさにつながることがあります。照明を少し落とす、決まった手順で夜の支度に入るなど、流れを一定にします。
6. 夜中に起きたときの対応を決めておく
足元の明かり、トイレまでの動線、滑りにくい床。転倒は夜間に起こりやすいため、環境の準備は睡眠対策と同じくらい大切です。
7. 介護しているご家族自身の睡眠を守る
すべてをご家族だけで抱えると続きません。ショートステイやデイサービス、訪問サービスの利用を含めて、担当のケアマネジャーに相談してください。認知症の介護者支援プログラムについて解説した記事もあわせてご覧ください。
⚠ 気をつけていただきたいこと:
眠らせようとして日中の活動を無理に増やすと、疲労や混乱が強まることがあります。変えるのは一度にひとつずつ、1〜2週間ようすを見てから次を検討してください。市販の睡眠改善薬やサプリメントを自己判断で使うことは避け、必ず主治医・薬剤師にご相談ください。
認知症のある高齢者が足元灯のある安全な夜間動線を歩く様子
夜間は足元灯とトイレまでの動線を整え、転倒しにくい環境を優先します。
SECTION 06

個別支援で確認する視点

個別支援で確認する視点

支援では、就床・起床・昼寝・夜間覚醒の時刻、痛みや頻尿、服薬、日中活動、夕方の落ち着かなさを記録し、変える項目を一度に一つに絞ります。本人の疲労や混乱が増えないか、ご家族の睡眠が保てているかも同じ重さで確認します。急な睡眠変化や意識・行動の変化がある場合は、環境調整だけで様子を見ず、せん妄や身体疾患、薬の影響について医療機関へ相談します。

免責事項
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療を代替するものではありません。睡眠の乱れには身体疾患や薬の影響が関わることがあります。自己判断で薬を調整したり中止したりせず、主治医・薬剤師・専門職へご相談ください。掲載した研究データは執筆時点のもので、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
日中の過ごし方や生活動作の組み立てを、ご本人・ご家族と一緒に確認します。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ

よくある質問

Q. 光療法の機器を購入したほうがいいですか?
現時点の研究では結果が一定していません。研究の多くは施設で行われたもので、ご自宅で生活している方を対象にした試験では客観的な睡眠の指標にはっきりした変化がみられていません1。購入を検討される場合は、まず主治医に相談し、朝の明るい場所で過ごす時間を増やす工夫から試すことをおすすめします。
Q. 昼寝はさせないほうがいいのでしょうか?
一律に禁止する必要はありません。ただし夕方の長い居眠りは夜に響きやすいため、午後の早い時間に短くとる形へ移せないか検討します。無理に起こし続けると本人の負担になるため、様子を見ながら調整してください。
Q. どのくらいの運動をすれば眠りにつながりますか?
最適な量や時間帯は分かっていません。研究では、椅子に座ったままの運動から歩行、屋外活動まで幅広い内容が用いられています1。まずは日中に身体を起こして動く時間を少し増やすところから始め、ご本人の疲れ方を見ながら調整するのが現実的です。
Q. 夜中に起きて動き回ります。どう対応すればいいですか?
強く止めようとすると混乱が強まることがあります。安全を確保したうえで、トイレや喉の渇き、痛みなど理由がないか確認する対応が基本です。転倒の危険が高い場合は、足元の照明や動線の整理を先に行ってください。頻度が高く生活が成り立たない場合は、主治医とケアマネジャーに早めにご相談ください。
Q. 睡眠薬を使うのはよくないことですか?
一概に良い悪いとは言えません。認知症のある方では転倒やふらつきなどのリスクに配慮が必要で、薬の種類や量は医師が慎重に判断します。自己判断で増やしたり中止したりせず、困っている症状を具体的に伝えて相談してください。
Q. いびきが大きく、呼吸が止まっているようです。
睡眠時無呼吸の可能性があります。研究のレビューでも、睡眠時無呼吸のある方へのCPAPは比較的良い材料があるとされています1。生活の工夫より先に、医療機関でご相談ください。
Q. 訪問リハビリで睡眠の相談もできますか?
睡眠そのものを治療するものではありませんが、日中の活動の組み立て、夜間の動線や環境、ご家族の負担のかかり方については一緒に確認できます。医療的な判断が必要な部分は主治医へおつなぎします。
REFERENCES

参考文献

1. Crowley P, et al. Pharmacological and Non-Pharmacological Interventions to Improve Sleep in People with Cognitive Impairment: A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2025. PMID: 40566383. PMCID: PMC12192850.

2. Fong KN, et al. The Effects of Light Therapy on Sleep, Agitation and Depression in People With Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2023. PMID: 36924042. PMCID: PMC10578524.

3. Tan JSI, et al. Light therapy for sleep disturbances in older adults with dementia: a systematic review, meta-analysis and meta-regression. Sleep Med. 2022. PMID: 35180479.

4. O'Caoimh R, et al. Non-pharmacological treatments for sleep disturbance in mild cognitive impairment and dementia: A systematic review and meta-analysis. Maturitas. 2019. PMID: 31351523.
公開日:2026年8月29日/最終更新:2026年8月29日