東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
介護者向けの支援プログラムは何をもたらすのか、研究と限界を正直に解説
「気が休まる時間がない」「イライラして強く言ってしまい、あとで自分を責める」「相談していいものか分からない」——認知症のある方を介護しているご家族から、こうした声をうかがうことがあります。介護を担うご本人の心身の負担は、本人の状態と同じくらい大切な問題です。
この記事では、介護しているご家族自身に向けた支援プログラム(心理教育、マインドフルネス、行動対応の学習、支援グループなど)について、研究で分かっていることと分かっていないことを整理します。結論を先に言えば、こうしたプログラムには介護負担や気分の落ち込みに対する小さめから中くらいの差が報告されている一方、効果の大きさは限られ、どの人にどの方法が合うのかまでは分かっていない、というのが正直なところです。
最終更新日:2026年8月19日
最新レビュー日:2026年8月19日
眠れない状態が続いている、食事や身の回りのことが手につかない、死にたい気持ちがある——こうした状態は、プログラムで対応する前に医療の助けが必要な段階です。かかりつけ医、地域包括支援センター、精神科・心療内科にご相談ください。介護保険サービス(デイサービス、ショートステイ)の利用も、担当ケアマネジャーに相談できます。
介護者支援プログラムとは、認知症のある方ではなく、介護しているご家族自身に働きかける取り組みの総称です。研究の世界では30年以上前から検証が続けられており、282件の対照研究をまとめた解析も報告されています3。
2. 行動対応の学習:困った行動が起きる状況を整理し、対応を組み立てる
3. マインドフルネス:今の感覚に注意を向ける練習を繰り返す
4. 支援グループ:同じ立場の人どうしで話す場に定期的に参加する
5. セルフケア技術:介護者自身の体調・生活を整える方法を学ぶ
6. 在宅作業療法:本人と家族の両方に、生活場面の中で関わる
7. 複数を組み合わせた多要素プログラム
これらは介護保険サービスとは別に、専門職が期間を決めて行う形で研究されてきました。日本の現場でそのまま同じ形が使えるとは限りませんが、考え方は参考になります。ご本人への関わりについては認知症の在宅作業療法について解説した記事で扱っています。
介護者支援については、大規模な解析と、近年のランダム化比較試験の両方が報告されています。ここでは3件を紹介します。
香港で行われた、介護によって強い負担を感じているご家族250名を対象とした試験です。1年以上・週20時間以上の介護をしており、抑うつ症状または介護負担の指標が一定以上の方が対象でした。全員が認知症についての教育を受けたうえで、セルフケア・行動対応・行動活性化・マインドフルネス・支援グループの5つの要素をそれぞれ受けるか受けないかで割り付け、どの要素が何に働くのかを分けて検証しています。12か月時点で、マインドフルネスを受けた群では抑うつ症状の指標が下がり(β=−2.13、95%信頼区間 −2.85〜−1.38)、周囲からの支えの実感が上がりました(β=4.76、95%信頼区間 1.28〜8.15)。支援グループでも支えの実感が上がっています。一方、行動対応の要素は6か月時点で不安の指標がむしろ上がり(β=1.43、95%信頼区間 0.43〜2.42)、12か月時点で心理的な良好さが上がるという、時間差のある結果でした。
自宅で行う作業療法について、認知症のある方とご家族の両方を対象にした15件のランダム化比較試験(2,063名)をまとめたレビューです。介入は中央値8回、5週間〜6か月にわたって行われました。ご家族側の結果を見ると、生活の質は大きく上がり(標準化平均差0.99、95%信頼区間0.66〜1.33、中等度の質)、困った行動に対する苦痛は小さく下がり(標準化平均差−0.23、95%信頼区間−0.42〜−0.05、中等度の質)、介護に費やす時間も減りました(標準化平均差−0.33、95%信頼区間−0.58〜−0.07)。一方で、介護負担そのものの指標には統計的な差が確認されず(標準化平均差−0.06、95%信頼区間−0.31〜0.18)、抑うつにも介入直後の差は確認されませんでした。
282件の対照研究を統合した大規模な解析です。介護者支援プログラム全体として、知識や対応力、主観的な良好さ、介護負担、抑うつ、不安、そして本人の症状に対して、小さめから中くらいの差が報告されています。一方、施設入所に至るリスクを下げることについては、平均としての差が確認されませんでした。心理教育と多要素プログラムが幅広い項目に働き、他の種類は特定の項目に限って働く傾向があると述べられています。著者らは、差の大きさが総じて小さいため改善の余地が残ると結論づけています。
3件を並べると、「介護者への働きかけには一定の裏づけがあるが、差の大きさは小さめ」「どの要素が何に働くかは項目ごとに違う」「介護負担という総合的な指標は動きにくい」という構図が見えます。認知症のある方本人への非薬物的な関わりについては認知症のBPSDへの非薬物的アプローチについて解説した記事もあわせてご覧ください。
まず、どの方にどのプログラムが合うのかが分かっていません。2025年の試験は、要素ごとに分けて検証した点で貴重ですが、対象は香港の中国系の方に限られており、日本の家族関係や制度にそのまま当てはめられるかは不明です1。
次に、短期には負担感が増す場面があることが見落とされがちです。2025年の試験では、行動対応の要素を受けた群で6か月時点の不安の指標が上がりました1。学び始めの時期は、かえって「できていないこと」に目が向くことがあり、継続的な支えが必要だと著者らは述べています。
また、施設入所に至るかどうかについては、平均として差が確認されていません3。プログラムは在宅介護を無理に長引かせるためのものではありません。
そして、どのくらいの回数・期間が適切かも定まっていません。在宅作業療法のレビューでは、介入回数の中央値が8回、期間は5週間から2年までと大きくばらついていました2。長期的にどうなるかを追跡した研究も限られています。
2025年の試験は、評価者と統計担当者を盲検化し、12か月時点で94%の方を追跡できています。デザインとしては信頼性が高い部類です。一方で著者らは、統計モデルの選択に制約があったこと、受けたプログラムの量に個人差があったこと、マインドフルネスと支援グループだけ専門家が担当していたためその差が結果に影響した可能性を挙げています1。
在宅作業療法のレビューでは、全ての研究で参加者と療法士の盲検化ができておらず、この点で高いバイアスリスクがあると評価されています。研究間のばらつきも大きく、全体のエビデンスの質は非常に低いものから中等度までと幅があります。介護者の抑うつなど、質が「非常に低い」と評価された項目もあります2。
大規模解析についても、差の大きさが総じて小さいこと、長期的な効果・不安・施設入所・レスパイト(休息)の効果に関する研究がまだ足りないことが著者ら自身によって指摘されています3。
介護の状況は、認知症の種類と進み方、同居かどうか、介護者の年齢や仕事、頼れる人の数によって大きく異なります。これらの研究結果を、すべてのご家庭に同じように当てはめることはできません。
以下は、研究で実際に行われた内容の紹介であり、個別の指導ではありません。ご自身の状況に合うかどうかは、担当ケアマネジャーや専門職とご相談ください。
2. 行動対応:1時間+30分の電話2回
3. 行動活性化:1時間の電話を5回
4. マインドフルネス:ビデオ会議で2時間を7回(認定講師が担当)
5. 支援グループ:ビデオ会議で1時間を6回(社会福祉士が進行)
2. 1回1〜1.5時間が最も一般的
3. 回数は中央値8回(1〜12回、最も多い研究で24回)
4. 期間は5週間から6か月(2年に及ぶ研究も1件)
5. 生活場面での活動、環境の調整、対応方法の学習などを組み合わせる
共通しているのは、一度きりの説明ではなく、複数回にわたって関わり続けている点です。認知症のある方への運動の関わりについては認知症の運動療法について解説した記事もご覧ください。
研究からは細かい生活指導の根拠までは得られません。ここでは、上記の研究の範囲を超えない形で、実務上おさえておきたい点を整理します。
2. 学び始めの時期にしんどくなることがある。行動対応を学んだ群で、途中の時点で不安の指標が上がった報告があります1。そこでやめてしまわないよう、相談できる相手を先に決めておくことが大切です
3. 一人で全部を担わない。周囲からの支えの実感が上がった要素として、マインドフルネスと支援グループが挙げられています1
4. 介護保険サービスの利用をためらわない。デイサービスやショートステイの調整は担当ケアマネジャーに相談できます
5. 記録を残す。困った場面の状況(時間帯、直前に何があったか、どう対応したか)をメモしておくと、専門職と一緒に整理しやすくなります
眠れない日が続く、食事が取れない、何をしても気持ちが晴れない、死にたい気持ちがあるといった状態は、プログラムで対応する段階ではありません。かかりつけ医、地域包括支援センター、精神科・心療内科にご相談ください。また、介護の中で手が出そうになる、強い言葉が止まらないと感じたときも、我慢せず第三者に相談してください。相談することは、介護から降りることではありません。
ご家族から相談を受けたときは、①いちばんつらい場面が具体的にどれか、②その場面が起きる時間帯と前後の状況、③今使っているサービスと担当ケアマネジャーとの連携状況、④介護者ご自身の睡眠・食事・通院の状態、⑤頼れる人が他にいるかを確認します。そのうえで、医療の助けが必要な段階かどうかを見極め、必要なら受診や相談先へつなぐことを優先します。
Journey Rehabは訪問型の自費リハビリを提供しており、介護者向けの支援プログラムそのものを提供しているわけではありません。ただ、訪問の場ではご本人だけでなくご家族の状態も見えます。研究が示すように、ご家族への関わりは本人への関わりと切り離せません。
そのため訪問時には、ご本人の練習内容を組み立てるだけでなく、ご家族が困っている具体的な場面を一緒に整理し、担当ケアマネジャーや主治医と共有すべき情報を切り分けることを大切にしています。介護のやり方を一方的に指導するのではなく、続けられる形を一緒に探す姿勢を基本方針としています。
介護方法を一方的に増やすのではなく、介護者が特につらい時間帯や場面、睡眠、食事、仕事との両立、頼れる人やサービスを確認します。必要に応じて、かかりつけ医、ケアマネジャー、地域包括支援センターなど地域の窓口につなぐ視点を大切にします。
認知症のご家族に向けた支援プログラムには、抑うつ症状や周囲からの支えの実感、生活の質などに対する差が研究で報告されています。ただし差の大きさは小さめから中くらいにとどまり、介護負担という総合的な指標は動きにくく、施設入所に至るリスクを下げることは示されていません。学び始めの時期にかえって不安が強まる場面があることも報告されています。どの方にどの方法が合うかは分かっておらず、研究の多くは日本以外で行われたものです。まずは「何がいちばんつらいのか」を言葉にし、担当ケアマネジャーや主治医に相談することをおすすめします。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。介護者ご自身の心身の不調については、かかりつけ医、地域包括支援センター、精神科・心療内科にご相談ください。認知症の治療方針や薬剤の調整に関する判断は、必ず主治医が行うものです。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
