認知症の方への運動療法・リハビリとは?認知機能・日常生活動作への研究と限界を正直に解説

· 神経難病情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
認知症の方への運動療法・リハビリとは?認知機能・日常生活動作への研究と限界を正直に解説
最終確認日:2026年7月22日

ご家族が認知症と診断されたあと、「運動をすれば物忘れの進み方はゆるやかになるのか」「歩く練習に意味はあるのか」は、よくある疑問です。インターネットには期待をあおる情報も多く、何を信じてよいか分かりにくいと感じている方も多いはずです。この記事では、認知症のある方への運動・リハビリについて、研究で分かってきたこと、そして「まだ分かっていないこと」を、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。

自宅で椅子から立ち上がる練習を行う高齢者と支援するリハビリ専門職
体調と環境に合わせ、安全を確かめながら生活動作につながる運動を行います。
この記事の要点
・国際的なレビュー(コクラン、17件の試験・合計1,067名)では、運動プログラムによって日常生活動作の自立度が良い方向に変化したと報告されています(標準化平均差0.68、95%信頼区間0.08〜1.27)1
・一方で、記憶や見当識などの認知機能そのものについては、はっきりした差は確認されませんでした(標準化平均差0.43、95%信頼区間−0.05〜0.92)1
・別の解析(8件・367名)では、有酸素運動を含む複数要素の運動を行った場合にかぎり、全般的な認知機能にごく小さな変化がみられました(効果量0.34、95%信頼区間0.08〜0.60)2
・研究どうしのばらつきが大きく、証拠の確からしさは「非常に低い〜低い」と評価されています1。数字をそのまま一人ひとりに当てはめることはできません。
・重い有害事象の報告はなく、安全に配慮すれば取り組みやすい方法と考えられています1
・研究の多くは施設で行われており、ご自宅で暮らす方に同じ結果が当てはまるかは、まだ十分に検証されていません1
SECTION 01
認知症の方への運動療法とは

認知症は、記憶・判断・言葉・段取りといった認知の働きが少しずつ変化し、生活に支障が出てくる状態の総称です。アルツハイマー型、血管性、レビー小体型など原因はさまざまで、進み方も一人ひとり違います。ここでいう「運動療法・リハビリ」とは、歩く練習、椅子からの立ち上がり、体操やストレッチ、筋力づくり、バランスの練習、そして家事や身支度といった生活動作の練習などを、専門職が状態に合わせて組み立てて行うものを指します。

大切な前提として、運動は認知症そのものを治す手段ではありません。研究の場で主に検討されてきたのは、「認知機能の指標がどう変わるか」よりもむしろ、「着替えや移動といった日常生活動作をどれだけ保てるか」「気分や行動の様子がどう変わるか」といった、生活に近い部分です。なお、脳卒中のあとに運動と記憶・注意の関係を扱った研究もあり、脳卒中後の運動と認知機能について解説した記事もあわせて読むと、全体像がつかみやすくなります。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「日常生活動作については良い方向の変化が期待できそうだが、認知機能そのものについてははっきりしない」というのが、現時点でのまとめ方になります。順にみていきます。

研究から読み取れること
この分野でもっとも広く参照されているのが、国際的な研究レビュー団体であるコクランのレビューです。認知症のある方を対象とした17件のランダム化比較試験(合計1,067名)をまとめたところ、運動プログラムを行った群では、着替え・移動・トイレなどの日常生活動作の自立度が良い方向に変化したと報告されました(6件・289名、標準化平均差0.68、95%信頼区間0.08〜1.27)1。一方で、認知機能の指標では、運動群のほうがやや良い傾向はあったものの、統計的にはっきりした差とはいえませんでした(9件・409名、標準化平均差0.43、95%信頼区間−0.05〜0.92)1。うつの指標でも差はみられていません(5件・341名、標準化平均差−0.14、95%信頼区間−0.36〜0.07)1

もう少し新しい解析として、持久力・筋力・バランス・柔軟性のうち2つ以上を組み合わせた「多要素運動」を扱った2022年のレビューがあります。8件の試験(合計367名、平均年齢約78歳)をまとめたところ、全般的な認知機能の指標にごく小さな変化がみられました(効果量0.34、95%信頼区間0.08〜0.60)。ただしこれは、有酸素運動が含まれていた場合にかぎられ、含まれない研究だけを取り出すとはっきりした差は出ませんでした2

アルツハイマー型認知症にしぼった2021年の解析(28件・合計1,337名)では、日常生活の自立度を測るバーセルインデックス(平均差8.36点、95%信頼区間0.63〜16.09)や、6分間で歩ける距離(平均差84m、95%信頼区間44〜133)に良い方向の変化が報告されています3。また、施設で暮らす高齢者全般を対象にした2023年の大規模な解析では、週110〜225分の運動でもっとも良い傾向がみられ、週170分あたりが目安として示されています4
エビデンスの質と限界
数字だけを見ると心強く感じますが、正直に言うと、この分野の証拠はまだ弱いものです。コクランのレビューでは、認知機能の結果は「非常に低い」、日常生活動作の結果は「低い」と、証拠の確からしさが低く評価されています1。理由は主に3つで、研究ごとの結果のばらつきが非常に大きいこと(認知機能でI²=80%、日常生活動作でI²=77%)、参加人数が少なく結果の幅が広いこと、そして研究の進め方(参加者の割り付け方法など)が十分に説明されていない試験が17件中12件あったことです1

また、対象となった方の認知症のタイプや重さ、運動の内容・時間・期間も研究ごとに大きく異なります。同じ「運動」といっても、2週間のものから18か月に及ぶものまで幅があり、これらを平均した数字が、そのまま目の前のご本人に当てはまるわけではありません1,2
まだ分かっていないこと
まず、どのくらいの量をどのくらいの期間続けるのがよいのか、認知症のタイプや重さごとの最適な進め方は、まだ確立していません1。次に、研究の多くが施設や病院で行われており、ご自宅で暮らしている方を対象にした試験はコクランのレビューでもわずか2件でした1。ご家庭で行う運動に同じ結果が当てはまるかは、これから検証されるべき部分です。

さらに、長期的にどうなるのかもよく分かっていません。生活の質(QOL)、施設入所までの期間、医療費といった「暮らしの先」に関わるアウトカムを調べた試験は、レビューの時点では見つかっていませんでした1。ご家族の介護負担については、家族が運動を見守る形で行った1件の試験(40名)で負担感が軽くなる方向の結果が示されていますが、たった1件であり、今後の確認が必要です1
屋外を家族とリハビリ専門職に見守られながら歩く認知症のある高齢者
続けやすさを優先し、本人にとって意味のある日常の活動へつなげます。
SECTION 03
何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究をていねいに読むと、比較的期待しやすいのは「体を使ってできる生活動作」の部分です。着替え・移動・トイレといった日常生活動作の自立度1、歩ける距離3、立ち上がりや歩く速さといった体の力4には、良い方向の変化が報告されています。これらは介護のしやすさや、ご本人が「自分でできた」と感じられる場面に直結するため、生活のうえでの意味は小さくありません。

一方で、変わりにくい・はっきりしないのが、記憶や見当識といった認知機能そのものです1。有酸素運動を含む場合にごく小さな変化が示された解析はありますが、認知症のある方だけを取り出すと統計的にはっきりした差とはいえませんでした2。気分の落ち込みについても、まとめた解析では差がみられていません1。「運動をすれば物忘れが元に戻る」という期待は、現時点の研究からは支えられていない、と正直にお伝えする必要があります。記憶そのものへの向き合い方は、脳卒中後の記憶障害とリハビリについて解説した記事で扱っている、覚え方の工夫や環境調整の考え方も参考になります。

SECTION 04
どんな人に向いているか・注意したい人

研究で対象になったのは、多くが施設で暮らす、軽度から中等度の認知症のある高齢の方でした1。見守りや声かけがあれば、椅子からの立ち上がりや歩行、体操などに取り組める段階の方が想定されます。すでに歩くことが難しい段階の方でも、座って行う運動や、着替え・食事といった生活動作そのものを練習の場として使うことはできますが、内容は一人ひとり大きく変わります。

⚠ 注意したい人・気をつけたいこと
認知症のある方では、ご自身で「疲れた」「痛い」と伝えることが難しい場合があります。表情や動きの変化、その日の様子をよく見ながら進めてください。転倒への備えも欠かせません。手すりや壁のそば、見守りのある環境で行い、床の物や滑りやすい場所を事前に片づけておくと安心です。心臓や呼吸の病気、強い痛み、骨や関節の問題がある方は、行ってよい運動の範囲が変わりますので、必ず主治医に確認してください。

また、その日の気分や体調によってできることが変わるのは自然なことです。前の日にできたことができなくても、それはご本人の努力不足ではありません。無理に同じ内容をやり通そうとせず、その日にできる形へ切り替える柔軟さが、結果的に続けやすさにつながります。
SECTION 05
回数・頻度・進め方の目安

研究で用いられた運動の量は、試験ごとにかなり幅があります。2022年の解析に含まれた試験では、8週間から52週間、週1〜7回、1回30〜90分と、まちまちでした2。施設で暮らす高齢者全般を対象にした2023年の大規模な解析では、週110〜225分の範囲でもっとも良い傾向がみられ、その中でも週170分あたりが目安として示されています4。これを1回30分に換算すると、週5回前後という計算になります。

ただし、「これだけやれば必ずこうなる」という決まった正解はまだありません1,2。現実的なのは、専門職の評価をもとに、安全に行える内容から始め、生活の中に自然に組み込める形にしていくことです。散歩、洗濯物をたたむ、食事の準備を一緒に行うといった、もともとの生活動作をそのまま練習の場にすると、本人にとって意味が分かりやすく、続けやすくなります。ご家族が見守り役になる場合は、どこまで手を出すか、どんなときに中止するかを、事前に専門職と決めておくと安心です。ご家族側の負担も無視できないため、介護される側とご家族の支援について解説した記事もあわせて確認しておくとよいでしょう。

SECTION 06
Journey Rehabが重視する考え方
支援方針
Journey Rehabでは、「運動で認知症が治る」といった過度な期待は示しません。研究で比較的示されているのは日常生活動作の部分であり、認知機能そのものへの結果ははっきりしていないためです1,2。訪問の場では、ご本人が意味を感じられる生活動作を練習の中心に置き、転倒を避ける環境づくり、その日の体調や気分に合わせた内容の切り替えを重視します。ご家族には、見守りの範囲と中止の目安をお伝えし、ご家族自身の負担にも目を向けます。主治医やケアマネジャー、通所サービスなど、すでに関わっている方々との連携も前提です。研究知見は施設で行われた小規模な試験が中心であり、すべての方に同じ結果を保証するものではありません。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
生活動作や歩行の不安について、身体の状態とご自宅の環境を一緒に確認しながら、続けやすい運動を相談できます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨ではありません。認知症は原因や進み方が人によって大きく異なり、安全に運動できる状態かどうかも違います。運動を始める前に、行ってよい状態かどうかややり方を含め、主治医や担当専門職に相談しながら進めてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
運動をすれば物忘れは元に戻りますか?
現時点の研究では、記憶などの認知機能そのものについて、はっきりした差は確認されていません1。一方で、着替えや移動といった日常生活動作については良い方向の変化が報告されています1。「物忘れを元に戻す」ことではなく、「今できている生活動作を保つ」ことを目標に置くほうが現実的です。
どんな運動がよいですか?
研究では、歩行や自転車こぎなどの有酸素運動を含み、筋力やバランスの練習を組み合わせた形で良い傾向がみられました2。特別な器具は必ずしも必要ありません。散歩や、家事の一部を一緒に行うといった生活動作も練習の場になります。何が向いているかは状態によって異なるため、専門職に相談してください。
週に何回、どのくらい続ければよいですか?
施設で暮らす高齢者を対象にした解析では、週110〜225分の範囲で良い傾向がみられ、週170分前後が目安として示されています4。1回30分なら週5回ほどの計算です。ただし決まった正解はありません。安全に行える範囲で、無理なく続けられる量から始めてください。
運動を嫌がるときはどうすればよいですか?
「運動」として提案すると身構えてしまう方でも、洗濯物をたたむ、庭を見に行く、買い物に付き添うといった形なら受け入れやすいことがあります。無理に同じ内容を続けようとせず、その日にできる形へ切り替えるほうが、結果的に長く続きます。関わり方に迷うときは、担当の専門職に具体的な場面を伝えて相談してください。
転んでしまわないか心配です。
運動そのものによる重い有害事象は、レビューの中では報告されていません1。ただし転倒の心配は現実的です。手すりや壁のそば、見守りのある環境で行い、床の物を片づけておくことが基本です。一人で行ってよい範囲は人によって異なるため、事前に専門職に確認してください。
家族が付き添うと何か違いますか?
ご家族が見守る形で運動を行った1件の試験では、ご家族の負担感が軽くなる方向の結果が報告されています1。ただし1件のみで、確かなことはまだ言えません。ご家族が抱え込みすぎないよう、どこまで関わるかを専門職と一緒に決めておくことをおすすめします。
自宅で暮らしていても同じ結果が期待できますか?
研究の多くは施設や病院で行われており、ご自宅で暮らす方を対象にした試験はごくわずかでした1。そのため、自宅での運動に同じ結果が当てはまるかは、まだ十分に検証されていません。ご自宅の環境や生活リズムに合わせた内容にすることが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Forbes D, Forbes SC, Blake CM, Thiessen EJ, Forbes S. Exercise programs for people with dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015(4):CD006489. DOI:10.1002/14651858.CD006489.pub4. PMID:25874613. PMCID:PMC9426996.
2. Venegas-Sanabria LC, Cavero-Redondo I, Martínez-Vizcaino V, Cano-Gutierrez CA, Álvarez-Bueno C. Effect of multicomponent exercise in cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2022;22(1):617. DOI:10.1186/s12877-022-03302-1. PMID:35879665. PMCID:PMC9316334.
3. López-Ortiz S, Valenzuela PL, Seisdedos MM, Morales JS, Vega T, Castillo-García A, et al. Exercise interventions in Alzheimer's disease: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Ageing Res Rev. 2021;72:101479. DOI:10.1016/j.arr.2021.101479. PMID:34601135.
4. Valenzuela PL, Saco-Ledo G, Morales JS, Gallardo-Gómez D, Morales-Palomo F, López-Ortiz S, et al. Effects of physical exercise on physical function in older adults in residential care: a systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials. Lancet Healthy Longev. 2023;4(6):e247-e256. DOI:10.1016/S2666-7568(23)00057-0. PMID:37182530.