
この記事の結論
「デイサービスで頭の体操をしているけれど、意味はあるの?」「認知症と診断された家族に、何かできることはないか」と考えるご家族もいるでしょう。薬以外の関わりとして、世界的に研究されてきた方法の一つが「認知刺激療法(CST)」です。
この記事では、認知症の方への認知刺激療法について、ランダム化比較試験(RCT)と、複数の研究をまとめたメタ分析をもとに、分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて整理します。
目次
認知刺激療法(CST)とは?
認知刺激療法(Cognitive Stimulation Therapy:CST)とは、少人数のグループで、言葉遊びや昔と今の話題、お金の使い方、有名人の顔などをテーマに会話や活動を楽しみながら、考える・思い出す・話す機会を増やす取り組みです2。
代表的なプログラムでは、1回45分のグループを週2回、7週間(合計14回)行います2。毎回、日付や場所などを確認するボード(現実見当識ボード)を使い、子どもの頃や食べ物といったテーマで思い出を語りながら、「今日」の話題にもつなげていくのが特徴です2。
よく似た言葉に「認知トレーニング(特定の課題を反復する練習)」や「認知リハビリテーション(生活の中の具体的な目標に向けた支援)」がありますが、認知刺激療法は「楽しみながら全体的に頭を使う」ことに重点を置いている点が異なります1。思い出を語る関わりについては、認知症の回想法について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、グループでの認知刺激療法は、軽度〜中等度の認知症の方の認知機能の検査や生活の質で良い結果が報告されていますが、日常生活動作の変化ははっきりしていません。
イギリスの高齢者施設やデイセンター23か所で、軽度〜中等度の認知症の方201人(MMSE 10〜24点)を、認知刺激療法を受ける群(115人)と通常のケアの群(86人)に分けた研究です2。
1回45分・週2回・7週間のプログラムのあと、認知刺激療法の群では、認知機能の検査(MMSE、ADAS-Cog)と、ご本人が答える生活の質(QoL-AD)で、通常のケアの群より良い結果でした2。一方、日常の行動や身の回りの動作、不安、気分の落ち込みでは群の差はみられませんでした2。
イタリアの認知症診療ガイドライン作成の一環として行われたメタ分析では、認知刺激(CS)の研究30件などが整理されました。ここにはCSTだけでなく現実見当識訓練やその他のプログラムも含まれ、以下の統合値はCSTだけの効果ではありません1。
グループでの認知刺激(CS)では、開始時から追跡時までのMMSEの変化について、軽度の認知症の方(10件・408人)で平均2.61点(95%信頼区間1.45〜3.77点)、中等度の方(9件・639人)で平均1.31点(同0.59〜2.04点)、通常のケアより良い結果で、いずれも根拠の確実性は「中程度」でした1。中等度の方では生活の質でも良い結果(7件・595人)がみられました1。
一方、日常生活動作(着替え・食事などの自立度)では、軽度・中等度ともに差がみられませんでした(確実性は「低い」)1。また、1対1で行う認知刺激(CS)では、軽度の認知症の方のMMSEに明確な差はみられませんでした(確実性は「非常に低い」)。一方、軽度〜中等度を含む小規模な2研究では良い結果もあり、個別の方法が一律に無効という意味ではありません1。
音楽を使った関わりについては、認知症の方への音楽療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
認知刺激療法で認知症が治る、進行が止まると保証できる研究結果はありません。研究で示されているのは、検査の点数などの変化で、長期に効果が続くか、進行を抑えるかは十分に確かめられていません。急に混乱する、場所や人が分からなくなるなど普段と明らかに違う場合は、救急受診を優先してください3。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
認知刺激療法の研究30件のうち、バイアスのリスクが低いと判定されたのは14件で、13件は中程度、3件は高いと判定されています1。参加者は自分がどの群かを知ったうえで参加するため、盲検化には限界があります。
レビューの著者らは、研究ごとにプログラムの期間や頻度が大きく異なり、短期間・低頻度の研究が多いことを限界として挙げています1。2003年のRCTも、施設やデイセンターに通う、ある程度会話ができる方が対象でした2。すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
研究からは、「認知機能の検査」や「生活の質」では良い結果が報告されやすく、「日常生活動作」や「気分」では差がはっきりしない、という傾向があります。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
研究の対象は、軽度〜中等度の認知症で、ある程度会話ができ、グループ活動に参加できる程度の視力・聴力がある方が中心でした2。
・家にいる時間が長く、話す・考える機会が減っている方
・デイサービスなどでグループ活動に参加する機会がある方
・できないことを指摘される場面で、強い不安やいらだちが出やすい方
・急に混乱する、場所や人が分からなくなるなど普段と明らかに違う場合は、練習より救急受診を優先してください。感染症や脳卒中など急な病気の可能性があります。徐々に物忘れが進む場合も診療を受けて確認します3
特定の課題をくり返す認知トレーニングについては、MCIの認知トレーニングについて解説した記事で紹介しています。
どのくらいの頻度で行う?
代表的なプログラムは「1回45分・週2回・7週間(合計14回)」で、これより長く続ける方法や、短期間で行う研究もあり、最適な量はまだ分かっていません1,2。

作業療法士の視点
グループでの認知刺激療法は、軽度〜中等度の認知症の方の認知機能の検査や生活の質で、比較的まとまった研究結果がある方法です1,2。一方で、日常生活動作の変化ははっきりせず、長期的な経過も十分には分かっていません1。
大切なのは、点数を上げることだけを目的にするのではなく、ご本人が楽しみながら人と関わり、役割や会話の機会を保てる形を、ご家族と一緒に考えていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 認知刺激療法で認知症は治りますか?
A. 認知刺激療法で認知症が治る、進行が止まると保証できる研究結果はありません。研究で示されているのは、認知機能の検査や生活の質の変化で、長期の持続や進行を抑える効果は十分に確かめられていません1,2。
Q. 認知刺激療法と脳トレ(認知トレーニング)は何が違いますか?
A. 認知刺激療法はグループで会話や活動を楽しみながら全体的に頭を使う方法で、認知トレーニングは特定の課題をくり返し練習する方法です1。研究では両者を分けて結果が整理されています。
Q. どのくらいの期間続ければよいですか?
A. 代表的なプログラムは1回45分・週2回・7週間(合計14回)ですが、最適な期間はまだ分かっていません1,2。終了後に続けるかどうかは、ご本人の楽しみ方や体調を見ながら決めるのがよいでしょう。
Q. 自宅で家族と一緒に行っても意味がありますか?
A. 研究の多くはグループで行われています。個別の認知刺激では、軽度の方のMMSEに明確な差がなく根拠の確実性も非常に低い一方、軽度〜中等度を含む少数研究で良い結果もあり、結果は一様ではありません1。ご家庭では、会話を楽しむ機会として取り入れるのが現実的です。
Q. 日常生活の動作もできるようになりますか?
A. メタ分析では、着替えや食事などの日常生活動作に、通常のケアとの差はみられませんでした1。生活動作の練習は、作業療法など別の関わりと組み合わせて考えることが大切です。
Q. どんな人が対象になりますか?
A. 研究の対象は、軽度〜中等度の認知症で、ある程度会話ができ、グループ活動に参加できる視力・聴力がある方が中心でした2。重度の認知症の方での結果は、十分に分かっていません。
参考文献
3. NHS. Sudden confusion(急な混乱と緊急受診) 公式資料