
先に結論
10件の研究をまとめたコクランレビューでは、ピラティスは「ほとんど何もしない場合」と比べて痛みや生活の支障を軽くする方向の結果でしたが、ほかの運動より優れているという確かな根拠はありませんでした1。
「腰痛にはピラティスが良いと聞いたけれど、本当?」「ほかの体操やストレッチと何が違うの?」――3か月以上続く腰の痛み(慢性腰痛)のある方に向けて整理します。ピラティスは、呼吸に合わせて体幹(お腹や背中まわり)を意識しながら、ゆっくり体を動かしていく運動です。この記事では、慢性腰痛に対するピラティスについて、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、10件の研究をまとめたコクランレビューでは、ピラティスは「ほとんど何もしない場合」と比べて痛みや生活の支障を軽くする方向の結果でしたが、ほかの運動より優れているという確かな根拠はありませんでした1。
この記事でわかること
ピラティスとはどんな運動か
ピラティスは、20世紀前半に考案された運動法で、呼吸、体幹の安定、姿勢、ゆっくりとした正確な動きを大切にします。床にマットを敷いて行う「マットピラティス」と、ばねのついた専用の器具(リフォーマーなど)を使う方法があります1。
慢性腰痛では、もともと運動そのものが勧められており、249件の研究をまとめたレビューでも、運動は「何もしない・通常のケア」と比べて痛みを軽くする方向の結果が報告されています2。ピラティスは、そうした運動の選択肢の一つと考えると分かりやすいと思います。運動の頻度や強さの考え方については、慢性腰痛の運動の頻度・強度・時間の考え方を解説した記事で詳しく整理しています。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、ピラティスは「何もしない・ほとんど何もしない」よりは痛みや生活の支障を軽くする方向の結果が出ていますが、「ほかの運動と比べて特別に優れている」とまでは言えない、というのが現時点での全体像です。
腰痛のある成人を対象にしたランダム化比較試験10件(参加者510名)をまとめた研究です1。ピラティスとほとんど何もしない場合を比べると、3か月未満の時点で痛みが0〜100点の尺度で平均14点ほど低く(質の低いエビデンス)、3か月〜1年未満の時点でも平均10.5点ほど低い結果でした(中程度の質のエビデンス)1。生活の支障(障害の程度)も、3か月〜1年未満の時点で平均11点ほど軽い結果でした1。一方、ピラティスとほかの運動を比べると、生活の支障には差がありませんでした(中程度の質のエビデンス)1。
慢性腰痛に対する運動療法全体について、249件の研究をまとめた大規模なレビューです2。運動は、何もしない・通常のケア・偽の治療と比べて、痛みを0〜100点の尺度で平均15点ほど軽くする結果でした(中程度の確からしさ)2。副作用を体系的に記録した研究では、運動グループで報告されたものの多くは筋肉痛などの軽いものでした2。
慢性腰痛に対するピラティスのランダム化比較試験19件(1,108名)をまとめた研究です4。比較対象と比べて、痛みや生活の支障を表す点数で良い結果が報告されました4。一方、生活の質の多くの項目でははっきりした差がみられず、安全性を報告した研究は1件だけでした4。
18〜50歳の慢性腰痛のある方145名を、マットピラティスのグループと、自宅での体操(姿勢の体操、ストレッチ、筋力トレーニングなど)のグループに分け、どちらも週2回・6週間行った研究です3。終了直後はピラティスのグループで痛みが0〜10点の尺度で約1.1点低く、生活の支障も少ない結果でしたが、著者らはこの差を「臨床的に意味のある大きさではない」と判断しています3。6か月後には、痛みと生活の支障に差はなく、生活の質だけがピラティスのグループで良い結果でした3。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
腰痛の中には、運動で様子をみるのではなく、すぐに医療機関で確認が必要なものがあります。足の強いしびれや力が入りにくい、発熱を伴う、転倒などのあとに急に痛くなった、安静にしていても夜間に強く痛むといった場合は、運動を始める前に医療機関へ相談してください。腰痛とともに新たに尿が出なくなる、尿や便が漏れる、お尻や陰部の周りの感覚が鈍くなる場合は、運動を中止し、通常の診察を待たず、直ちに救急外来を受診してください6。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
ピラティスの研究には、次のような限界があります。
どのような方にピラティスが最も合うのか、1回あたりの時間や週の回数、続ける期間の最適な組み合わせは、まだ分かっていません1。また、運動をやめたあとも結果が続くのかについても、十分に調べられていません13。
コクランレビューの著者らは「ピラティスがほかの運動より優れているという確かな根拠はない」とし、ピラティスを選ぶかどうかは、本人の好みや費用で決めてよいとまとめています1。運動の種類を比べた研究のまとめでは、ピラティスが上位に挙がったという報告もありますが5、直接比べていない研究同士を組み合わせた分析を含むため、結果の解釈には注意が必要です。研究全体では一定の傾向がありますが、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
ほとんど何もしない場合と比べると、痛みと生活の支障は、数か月の時点で軽くなる方向の結果が報告されています1。自宅での体操と比べた研究では、生活の質で良い結果が6か月後まで続いていました3。
ほかの運動と比べた場合、生活の支障には差がみられませんでした1。自宅での体操との比較でも、6か月後には痛みと生活の支障に差がありませんでした3。生活の質の多くの項目も、はっきりした差がみられていません4。
つまり、ピラティスは「特別な腰痛の治し方」ではなく、「続けやすければ選んでよい、運動の選択肢の一つ」と考えるのが実際に近いと思います。慢性腰痛では、どの運動を選ぶかと同じくらい、続けられるかどうかが大切です。続けるための工夫は、腰痛の運動を続けるための工夫について解説した記事でも紹介しています。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で主に対象になってきたのは、原因がはっきり特定できない慢性腰痛(非特異的腰痛)のある成人です1。「ゆっくりした動きのほうが取り組みやすい」「呼吸や姿勢を意識する運動が好き」という方や、ほかの運動が続かなかった方では、選択肢の一つとして検討する意味があります。教室に通うのが難しい場合は、慢性腰痛のオンライン運動指導について解説した記事も参考になります。
骨粗しょう症による骨折の心配がある方、背骨の手術を受けたばかりの方、強いしびれや筋力低下がある方は、体を大きく丸める・ひねる動きが合わないことがあります。紹介した研究には18〜50歳3や18〜65歳5を対象にしたものがあり、高齢の方や持病のある方は、動きの内容や強さを専門職と相談しながら調整する必要があります。運動中に痛みが強くなる、足にしびれが広がる場合は中止して相談してください。

回数・頻度・期間の目安
コクランレビューに含まれた研究では、1回およそ1時間の練習が行われ、頻度は週1回から毎日まで研究によって異なり、合計の回数は平均15回(6〜30回)でした1。多くの研究で、ピラティスの訓練を受けた指導者や理学療法士が指導していました1。2024年の研究では、週2回・6週間の形が使われていました3。
ただし、最適な量はまだ分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です1。実際には、痛みの出方や体力、生活のリズムに合わせて、無理なく続けられる回数と内容を専門職と相談しながら決めていくことになります。
作業療法士の視点
ピラティスは、慢性腰痛の運動として研究がある程度そろっている方法です。一方で、研究からは、ほかの運動と比べて特別に優れているとは言えないことも分かります。大切なのは「何の運動か」よりも「その方が安全に続けられるか」だと考えています。ピラティスが合う方もいれば、散歩や筋力トレーニングのほうが続けやすい方もいます。
