記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
先に結論
アメリカのリウマチ学会の診療ガイドラインでは、親指の付け根の変形性関節症に対して手の装具が強く推奨されています1 。複数の方法を組み合わせた研究では手の使いやすさに小〜中程度の差がみられましたが、痛みへの効き方は時期や研究によって異なります2 3 。
「ペットボトルのふたを開けると親指の付け根が痛い」「洗濯ばさみをつまむのがつらい」「手術しかないと言われたらどうしよう」――親指の付け根の関節(母指CM関節)の変形性関節症は、中高年の女性に多い手の悩みの一つです。この記事では、手術以外の治療(保存療法)のうち、装具(サポーター・スプリント)と運動を中心に、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、アメリカのリウマチ学会の診療ガイドラインでは、親指の付け根の変形性関節症に対して手の装具が強く推奨されています1 。複数の方法を組み合わせた研究では手の使いやすさに小〜中程度の差がみられましたが、痛みへの効き方は時期や研究によって異なります2 3 。
目次
母指CM関節症と保存療法の基本
研究では何が分かっているか
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
回数・頻度・期間の目安
作業療法士の視点
よくある質問
参考文献
母指CM関節症と保存療法の基本
母指CM関節は、手首に近い親指の付け根にある関節で、物をつまむ・握る・ひねるといった動作のたびに大きな力がかかります。この関節の軟骨がすり減って痛みや腫れ、変形が生じるのが母指CM関節症です。つまむ・握る動作での痛みやつまむ力の低下により、日常生活に影響が出やすくなります3 。
保存療法には、関節に負担をかけない動作の工夫(関節保護)、手の装具、手の運動、塗り薬や飲み薬、関節への注射などがあります1 3 。ヨーロッパのリウマチ学会などの推奨では、まず装具や運動、関節保護の指導などの負担の少ない方法から始める、段階的な考え方がとられています3 。
手のしびれや痛みには、ほかの病気が隠れていることもあります。親指から中指にかけてしびれがある場合については、手根管症候群の手術以外の選択肢について解説した記事 で紹介しています。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
研究では何が分かっているか
先にまとめると、装具については診療ガイドラインで強く推奨されており、複数の方法の組み合わせや手の運動でも良い結果が報告されています。ただし、差の大きさは小〜中程度で、痛みについては研究による違いもあります。
診療ガイドライン 2019年(アメリカリウマチ学会)
手・股関節・膝の変形性関節症の診療ガイドラインでは、親指の付け根(第1CM関節)の変形性関節症に対して、手の装具が「強く推奨」されています1 。運動も手の変形性関節症を含めて強く推奨されていますが、手については膝や股関節に比べて研究が少ないと述べられています1 。装具の種類については、どれが優れているかを推奨できるだけのデータはないとされています1 。
ランダム化比較試験 2021年(オーストラリア)
親指の付け根の変形性関節症で痛みのある204名(平均65.6歳、76%が女性)を、「関節保護などの説明+装具+手の運動+塗り薬」の組み合わせと、「説明のみ」に分けた研究では、6週後の手の使いやすさで組み合わせのほうが良い結果でした(差は小さい〜中程度)2 。痛みは6週後には差がありませんでしたが、12週後には組み合わせのほうが良い結果でした2 。
ネットワークメタ分析 2025年
手術以外の治療を比べた22件の研究をまとめた報告では、3か月以内の短い期間では、複数の方法の組み合わせと手の運動で痛みが軽い結果でした3 。3か月〜1年の期間では、親指の付け根から指の付け根の関節までを固定する硬い装具で、痛みと手の使いやすさに良い結果が報告されています3 。
手の変形性関節症全体(親指の付け根以外も含む)で運動を調べたコクランレビューでは、運動によって痛み・手の使いやすさ・指のこわばりにわずかな良い変化がみられましたが、その差は小さく、根拠の確かさは「低い」と評価されています4 。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと: 組み合わせの研究では、装具による皮膚のかぶれや、運動によって一時的に痛みが強くなることが報告されていました(いずれも重いものではありませんでした)2 。装具が合わずに痛みやしびれが出る、運動で痛みが続くといった場合は、自己判断で続けず、医師やリハビリ専門職に相談してください。急に強く腫れた、赤く熱をもったといった場合は受診してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
母指CM関節症の保存療法の研究には、次のような限界があります。
1. 装具や運動は参加者に内容を伏せられず、痛みや使いやすさの自己評価に偏りが入りやすいこと2 4
2. 研究数や参加者数が少なく、装具の種類・運動の内容が研究ごとに大きく異なること3 4
3. 手の使いやすさの評価方法が研究ごとにばらばらで、比べにくいこと3
4. 追跡期間が短く、1年を超える長い期間の結果がほとんど分かっていないこと2 3
まだ分かっていないこと
どの種類の装具が、どのような方に最も合うのかは、まだはっきりしていません1 。運動についても、最適な種類・回数・期間は分かっておらず1 、長い期間続けたときの影響を調べた研究も不足しています3 。また、組み合わせの研究は痛みがある程度強い方を対象にしており、痛みが軽い方に同じ結果が当てはまるかは分かっていません2 。
研究全体では一定の傾向がありますが、症状の程度や使われた装具・運動の内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
変わりやすいと報告されているもの
装具を含む組み合わせで、手の使いやすさに小〜中程度の差が報告されています2 。短い期間では組み合わせや運動で痛みが軽くなり3 、組み合わせの研究では握る力にも差がみられました2 。
変わりにくい・研究ごとに差があるもの
痛みは時期によって差が出たり出なかったりします2 。関節位置の感覚を練習する方法を加えた研究では、関節の位置を合わせる感覚には差が出た一方、痛みの差は小さく、手の使いやすさには差がみられませんでした5 。手の運動のレビューでは、レントゲンでの関節の変化を調べた研究はありませんでした4 。
つまり、保存療法は「関節の形を元に戻す」ものではなく、痛みと付き合いながら手を使い続けるための方法と考えるのが実際に近いと思います。変形性関節症と運動の考え方は、ほかの関節でも共通する部分があります。股関節の場合については、変形性股関節症の運動療法について解説した記事 で紹介しています。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
検討する場面があるケース
つまむ・握る・ひねる動作で親指の付け根が痛む方、瓶のふたやペットボトル、洗濯ばさみ、包丁の使用などで困っている方です。研究では、診察やレントゲンで診断され、日常生活で痛みがある方が対象になっていました2 3 。
注意が必要なケース
関節リウマチなどの炎症性の関節炎や、けがの後の関節炎は、研究の対象から外れていました3 。皮膚が弱い方は装具でかぶれやすいことがあります2 。また、塗り薬や注射などの薬の使用については、必ず医師の判断が必要です1 。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
回数・頻度・期間の目安
2021年の研究では、親指を他の指に合わせる運動、紙をちぎる、ボールの上の線をなぞる、箸で物をつまむ、ボールを握るという5つの運動を、自宅で週3回行っていました2 。装具と運動は6週間続け、その後は本人の判断で継続していました2 。6か月後も装具を使っていた方は4人に1人未満でした2 。
メタ分析に含まれた研究では、装具を日中の作業中に使うもの、夜間に使うもの、運動を週3回・1回20分以上行うものなど、方法に幅がありました3 。最適な装着時間や運動量は分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です1 3 。
作業療法士の視点
親指の付け根の痛みは、つまむ・握るといった毎日の動作のたびに起こるため、生活への影響が大きい悩みです。研究では装具や運動に一定の根拠がある一方、差は小〜中程度で、「装具をつければ痛みがなくなる」とは言えません。どの動作で痛むのかを一緒に確認し、装具・運動・道具や持ち方の工夫を組み合わせていくことが大切だと考えています。
記事のテーマを表した生成イメージです。実在の利用者様や施術実績、個別の練習手順を示すものではありません。
まとめ
・ 母指CM関節症は、親指の付け根の関節の軟骨がすり減り、つまむ・握る動作で痛みが出る病気です
・ アメリカの診療ガイドラインでは、親指の付け根の変形性関節症に手の装具が強く推奨されています1
・ 装具・運動・関節保護などの組み合わせで、手の使いやすさに小〜中程度の差が報告されています2
・ 痛みへの効き方は時期や研究で異なり、長期的な結果はまだ分かっていません2 3
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。装具や運動、薬の使用については、必ず主治医またはリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のものであり、今後の研究により内容が更新される可能性があります。
田中 光(株式会社Journey Rehab代表、認定作業療法士、修士〈作業療法学〉、東京都立大学大学院博士後期課程在籍)
本記事は一般的な医療情報と当社サービスの案内を含みます。個別の診断や治療方針は医療機関にご相談ください。
よくある質問
Q. 母指CM関節症は手術しないと良くならないのですか?
まずは装具や運動、動作の工夫などの保存療法から始めるのが一般的な考え方です。保存療法で痛みが続く場合に手術が検討されます。治療方針は主治医と相談してください。
Q. 装具(サポーター)はどれを選べばよいですか?
親指の付け根から指の付け根の関節まで固定する硬い装具で良い結果を示した研究がありますが、ガイドラインでは種類ごとの優劣を推奨できるデータはないとされています。手の大きさや使う場面によっても合うものが異なるため、専門職に相談してください。
Q. 装具は一日中つけていたほうがよいですか?
研究では、痛む作業のときだけつける、夜間につけるなど方法に幅があり、最適な装着時間は分かっていません。かぶれや痛み、しびれが出る場合は使い方を見直す必要があります。
Q. 痛いときに運動しても大丈夫ですか?
研究では、運動で一時的に痛みが強くなった例も報告されています。痛みが強いときは無理をせず、運動の種類や回数を専門職と相談しながら調整してください。
Q. 日常生活で気をつけることはありますか?
強くつまむ動作やひねる動作を減らす、太めのグリップの道具を使う、両手で持つといった関節保護の工夫が、保存療法の一つとして行われています。
Q. どのくらいで変化が出ますか?
研究では6〜12週ごろに手の使いやすさや痛みの差がみられましたが、個人差が大きく、長期的な経過はまだ十分に分かっていません。
参考文献
1. Sharon L Kolasinski, Tuhina Neogi, Marc C Hochberg, Carol Oatisほか. 2019 American College of Rheumatology/Arthritis Foundation Guideline for the Management of Osteoarthritis of the Hand, Hip, and Knee. Arthritis care & research. 2020.
PubMed DOI 公開本文
2. Leticia A Deveza, Sarah R Robbins, Vicky Duong, Kim L Bennellほか. Efficacy of a Combination of Conservative Therapies vs an Education Comparator on Clinical Outcomes in Thumb Base Osteoarthritis: A Randomized Clinical Trial. JAMA internal medicine. 2021.
PubMed DOI 公開本文
3. Arjuna Thakker, Jai Parkash Ramchandani, Pip Divall, Alex Suttonほか. What Are the Most Clinically Effective Nonoperative Interventions for Thumb Carpometacarpal Osteoarthritis? An Up-to-date Systematic Review and Network Meta-analysis. Clinical orthopaedics and related research. 2025.
PubMed DOI 公開本文
4. Nina Østerås, Ingvild Kjeken, Geir Smedslund, Rikke H Moeほか. Exercise for hand osteoarthritis. The Cochrane database of systematic reviews. 2017.
PubMed DOI 公開本文
5. Raquel Cantero-Téllez, David Pérez-Cruzado, Jorge Hugo Villafañe, Santiago García-Orzaほか. The Effect of Proprioception Training on Pain Intensity in Thumb Basal Joint Osteoarthritis: A Randomized Controlled Trial. International journal of environmental research and public health. 2022.
PubMed DOI 公開本文