
先に結論
27件の研究をまとめたコクランレビューでは、首・肩甲骨まわり・腕の筋力トレーニングが痛みを軽くする方向の結果を示した一方、ストレッチだけでは痛みや機能がはっきり変わらない可能性が示されています1。
「首のこりや痛みが何か月も続いている」「マッサージに行くとその日は楽だけれど、すぐ戻ってしまう」――3か月以上続く首の痛み(慢性頸部痛)のある方に向けて整理します。首の痛みの多くは、骨折や神経の病気など特定の原因が見つからない「非特異的頸部痛」と呼ばれるもので、運動療法は治療の中心の一つとされています3。この記事では、首の痛みに対する運動について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、27件の研究をまとめたコクランレビューでは、首・肩甲骨まわり・腕の筋力トレーニングが痛みを軽くする方向の結果を示した一方、ストレッチだけでは痛みや機能がはっきり変わらない可能性が示されています1。
この記事でわかること
首の痛みと運動療法の基本
首の痛みは、続く期間によって、急性(0〜3週間)、亜急性(4〜12週間)、慢性(12週間以上)に分けて考えることが一般的です3。2025年に公表されたドイツの診療ガイドラインでは、問診や診察で手足の麻痺、夜間の強い痛み、きっかけとなるけがなど「構造的な原因」を疑う所見がない首の痛みでは、体を動かして自分で対処していく「活動的な対応」を治療の中心にすることが勧められています3。
首の痛みに使われる運動には、主に次のような種類があります。
運動以外の方法として、徒手療法(手技)については、慢性的な首の痛みへの徒手療法について解説した記事で研究と限界を整理しています。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、運動は「運動をしない場合」と比べて首の痛みや生活の支障を軽くする方向の結果が多く報告されていますが、「どの運動が一番よいか」はまだはっきりしていない、というのが現時点での全体像です。
首の痛みに対する運動療法のランダム化比較試験27件(解析2,485名)をまとめた研究です1。慢性の首の痛みでは、首・肩甲骨まわり・腕の筋力トレーニングで、終了直後の痛みが中〜大程度軽くなる結果でした(標準化平均差−0.71、中程度の質のエビデンス)1。筋力トレーニングとストレッチを組み合わせた運動でも、痛みと機能に良い結果がみられました1。一方、ストレッチだけ、一般的な体力づくりの運動だけ、呼吸の練習だけでは、痛みや機能がはっきり変わらない可能性がある(質の低いエビデンス)とされています1。
慢性の首の痛みに対する運動について、25件のシステマティックレビュー(延べ17,321名)をまとめた研究です2。モーターコントロール運動、ピラティス、筋力トレーニング、太極拳などの中国の伝統的な運動、ヨガのいずれも、運動をしない場合と比べて短期間では痛みを軽くする方向の結果でした2。一方、運動の種類同士を比べると結果が一致せず、著者らは「特定の運動を最適とは勧められない」と結論づけています2。
非特異的頸部痛についてのガイドラインでは、12週間以上続く慢性の首の痛みに対して運動療法が勧められています3。また、首を固定して動かさないことは勧められていません3。牽引、レーザー、電気刺激などの物理療法や、テーピングは勧めない方向とされています3。
デスクワークの方を対象にした研究のまとめでも、首・肩・肩甲骨まわりの筋力トレーニングで痛みと生活の支障が軽くなる方向の結果が報告されていますが、研究の質は低いとされています4。職場でできる短い運動については、職場の短い運動と首・肩の痛みについて解説した記事でも紹介しています。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
首の痛みの中には、運動で様子をみるのではなく、医療機関での確認が必要なものがあります。手や腕に力が入りにくい・しびれが広がる、歩きにくくなった、夜間に強く痛む、転倒や事故のあとから痛む、発熱を伴うといった場合は、運動を始める前に主治医に相談してください。ガイドラインでも、手足の麻痺、夜間の強い痛み、きっかけとなるけがは、構造的な原因を疑う手がかりとして挙げられています3。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
首の痛みに対する運動の研究には、次のような限界があります。
最適な運動の量(1回の時間、週の回数、続ける期間)は、まだ分かっていません1。どの運動がどのような方に合うのかも、はっきりしていません2。
コクランレビューの著者らは「質の高いエビデンスは見つからず、首の痛みに対する運動の効果にはまだ不確かさがある」としたうえで、筋力トレーニングを日常の診療に取り入れることは有益かもしれないとまとめています1。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や運動の内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
首・肩甲骨まわり・腕の筋力トレーニングや、筋力トレーニングとストレッチを組み合わせた運動では、痛みや首の機能が軽くなる方向の結果が報告されています1。いろいろな種類の運動で、短い期間では痛みが軽くなる方向の結果がみられています2。
ストレッチだけ、一般的な体力づくりだけでは、痛みや機能がはっきり変わらない可能性があります1。運動の種類同士を比べた場合や、長い期間での結果は、研究ごとに一致していません2。
つまり、首の痛みへの運動は「ストレッチでほぐす」だけでなく、「首や肩まわりを支える筋肉を少しずつ使っていく」ことも含めて考えるのが、研究の内容に近いと思います。運動の種類は、続けやすさや生活の場面に合わせて選んでよいと考えられます2。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で主に対象になってきたのは、骨折や神経の病気など特定の原因がない、3か月以上続く首の痛みのある成人です12。「首を動かすのが怖くて、なるべく動かさないようにしている」「マッサージなどの受け身の方法だけでは物足りない」という方では、自分でできる運動を取り入れる意味があります。首の痛みにふらつきや目の疲れを伴う場合は、首の痛みと視覚・前庭覚の運動について解説した記事も参考になります。
手や腕のしびれ・力の入りにくさがある方、首の手術を受けたことがある方、関節リウマチなどで首の骨が不安定になりやすい方は、運動の内容に注意が必要です。めまい、ふらつき、強い頭痛を伴う場合も、まず主治医に相談してください。運動中に痛みやしびれが強くなる場合は中止して相談しましょう。

回数・頻度・期間の目安
首の痛みに対する運動の最適な量は、まだ分かっていません1。研究ごとに、運動の種類、回数、期間がさまざまで、「この量なら確実」という目安は示されていません12。
実際には、軽い負荷の筋力トレーニングから始め、痛みが強くならない範囲で少しずつ回数や負荷を増やしていく形が現実的です。ガイドラインでは、体を動かしながら自分で対処していくことと、そのための説明(患者さんへの教育)を組み合わせることが大切とされています3。痛みの経過を見ながら、続けやすい内容を専門職と相談していくことになります。
作業療法士の視点
首の痛みが続くと、「動かすと悪くなるのでは」と心配になり、つい動かさないようにしてしまう方も少なくありません。研究からは、首や肩まわりの筋力トレーニングを中心とした運動が痛みを軽くする方向の結果を示す一方、どの運動が最も良いか、どのくらいの量がよいかはまだ分からないことも分かります。安全を確認したうえで、その方が続けやすい形を一緒に探していくことが大切だと考えています。
