
先に結論
手術で金属のプレートで固定した方では、早めに手首を動かし始めたほうが術後6週ごろの手の使いやすさが良かったという研究が多い一方、1年後などの長い目で見ると差はほとんどなくなります23。リハビリの方法ごとの研究は全体に小規模で、根拠の確かさは「低い〜非常に低い」と評価されています1。
「転んで手をついたら手首を骨折した」「ギプスが外れたのに手首が固くて動かない」「リハビリは通った方がいいの?自分で練習すれば十分?」――手首の骨折(橈骨遠位端骨折)は、高齢の方、特に女性に多いけがの一つです。この記事では、骨折後のリハビリについて、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、手術で金属のプレートで固定した方では、早めに手首を動かし始めたほうが術後6週ごろの手の使いやすさが良かったという研究が多い一方、1年後などの長い目で見ると差はほとんどなくなります23。リハビリの方法ごとの研究は全体に小規模で、根拠の確かさは「低い〜非常に低い」と評価されています1。
この記事でわかること
手首の骨折とリハビリの基本
橈骨遠位端骨折は、前腕の親指側の骨(橈骨)の手首に近い部分が折れるけがです。転んで手をついたときに起こりやすく、骨がもろくなった高齢の方に多くみられます2。治療は、ギプスで固定する方法(保存療法)と、手術で金属のプレートなどを使って骨を固定する方法に分かれます1。
骨がつながるまでの間、手首を動かさない期間があるため、ギプスや装具が外れた後には、手首や指の固さ、むくみ、握る力の低下などが残りやすくなります1。リハビリでは、指・手首・前腕を動かす練習、むくみへの対処、握る力をつける練習、そして食事や着替え、家事などで手を使う練習を行います1。
骨折の背景には骨の弱さがあることも多いため、骨そのものの健康にも目を向けることが大切です。骨粗鬆症と運動については、高齢者の骨粗鬆症と運動療法について解説した記事で紹介しています。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、手術後は「早めに動かし始めると、はじめの数週間の手の使いやすさが良い」という結果が複数の研究でみられます。一方、リハビリのやり方の違い(通院で指導を受けるか、自宅で自主練習するか)については、研究によって結果が分かれています。
26件の研究(1,269名、主に高齢の女性)をまとめた報告では、ギプス固定中から始める手の練習や、ギプスを外した後の運動指導について、短い期間の手の使いやすさに良い結果を示す研究がありました1。ただし、ほとんどの研究が小規模で方法上の問題があり、根拠の確かさはすべての比較で「低い」または「非常に低い」と評価されています1。自宅での練習の指導に加えて通院のリハビリを行っても、自宅練習の指導だけと比べて臨床的に意味のある差はみられなかった、という比較もありました1。
手術(プレート固定)を受けた方で、術後2週以内に手首を動かし始めるグループと、それより長く固定するグループを比べた9件の研究(計596名)をまとめた報告では、術後6週の腕の使いにくさの評価(DASH)が、早く動かし始めたほうで約10点良い結果でした2。握る力や手首の動く範囲も6週時点では早期のほうが良い一方、12週以降は差がほとんどなくなりました2。また、プレートのゆるみや骨のずれの発生は、早く動かし始めたほうで多い傾向(約3倍)がみられました2。
70歳以上で手術を受けた50名を、術後4週間の装具固定と、固定せずに早めに動かすグループに分けた研究では、術後6週の手首の機能の評価が、早めに動かしたグループで良い結果でした(100点満点で中央値65点と55点)3。その後の経過では差はみられず、握る力やレントゲンでの骨の位置にも差はありませんでした3。
通院で専門職の指導を受けるリハビリと、自宅での運動プログラムを比べた研究については、先ほどのコクランレビューでは差がはっきりしないとされる一方1、近年の研究では、60歳以上の方で通院リハビリのほうが短期的に手の使いやすさが良く、その差は2年後には小さくなったという報告もあります4。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
早く動かし始めるかどうかは、骨折の型、手術の方法、骨の強さなどによって主治医が判断します。研究でも、早期に動かしたグループでプレートのゆるみや骨のずれが多い傾向が報告されています2。ギプスや装具を自己判断で外したり、痛みを我慢して強く動かしたりせず、必ず主治医の指示に従ってください。指の強いしびれ、急な腫れや痛みの悪化があるときは、すぐに受診してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
手首の骨折後のリハビリの研究には、次のような限界があります。
どのような骨折の型・骨の強さの方に、いつから・どのくらい動かし始めるのが最も適しているのかは、まだ分かっていません2。通院のリハビリがどのような方に特に必要なのかも、研究によって結果が異なります14。持病があって体の機能が低い高齢の方は研究の対象になりにくく、こうした方にそのまま当てはまるかは分かっていません1。
研究全体では一定の傾向がありますが、骨折の状態や治療方法、年齢が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
手術後に早めに動かし始めた場合、術後6週ごろの手の使いやすさ、握る力、手首の動く範囲で良い結果が報告されています23。
3か月〜1年後の手の使いやすさや痛みは、早期に動かしたかどうかで差がほとんどなくなります23。氷で冷やす、電磁波をあてるといった単独の物理療法では、臨床的に意味のある差ははっきりしていません1。
つまり、早めのリハビリは「はじめの数週間を過ごしやすくする」点で意味がある一方、最終的な手の状態は、骨折の程度や骨のつき方の影響も大きいと考えられます。はじめの時期に家事や身の回りのことをどう続けるかも、生活上は大切なポイントです。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
ギプスや装具が外れた後も手首や指が固い、握りにくい、瓶のふたが開けられない、ペットボトルが持ちにくいといった困りごとがある方です。研究では、主治医の指示のもと、指を動かす練習はギプス固定中から始められていました1。手術を受けた方では、主治医の判断で術後早期から手首を動かし始めることもあります23。
骨折の型が複雑な方、骨がもろく固定が不安定な方は、動かし始める時期を慎重に決める必要があります2。また、手首の骨折は転倒がきっかけになることが多いため、次の転倒を防ぐ視点も欠かせません。住まいの危険箇所の見直しについては、高齢者の自宅の転倒対策(危険評価と環境調整)について解説した記事が参考になります。

回数・頻度・期間の目安
2020年のドイツの研究では、手術後に装具を使わないグループは痛みに合わせて自分のペースで手首を動かし、両グループとも週2〜3回の理学療法を受けていました3。メタ分析に含まれた研究では、早期のグループは術後すぐ〜2週以内、遅いグループは2〜6週の固定の後に練習を始めるなど、時期に幅がありました2。
通院と自宅練習を比べた研究では、6週間のプログラムが用いられていました4。最適な開始時期・回数・期間は分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です12。股関節の骨折など、ほかの骨折後のリハビリについては、大腿骨近位部骨折後のリハビリについて解説した記事で紹介しています。
作業療法士の視点
手首の骨折後のリハビリは、「どれだけ早く、どれだけ強く動かすか」だけでなく、骨折の状態に合わせて安全に進めることが大切です。研究では、はじめの数週間の差はあっても、長い目で見ると差が小さくなることが多く、「この方法なら必ず元どおりになる」とは言えません。主治医の指示を確認しながら、生活の中で手を使う場面を少しずつ増やしていくことが大切だと考えています。
