東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
注射との比較を含む研究と限界を正直に解説
「腕が上がらず、洗濯物を干すのがつらい」「夜、肩が痛くて目が覚める」「背中に手が回らず、下着の着脱に苦労する」——五十肩でお困りの方から、こうした声をよく聞きます。そして次に必ず出てくるのが、「動かしたほうがいいのか、安静にしたほうがいいのか」「注射とリハビリはどちらがいいのか」というご質問です。
この記事では、五十肩(医学的には肩関節周囲炎、凍結肩、癒着性関節包炎などと呼ばれます)に対する運動療法や徒手療法について、コクランレビューを含む複数の研究をもとに整理します。結論を先に言えば、この領域の研究の質は決して高くなく、「運動さえすれば良くなる」とも「注射のほうが常に優れている」とも言い切れないのが実情です。
最終更新日:2026年8月17日
最新レビュー日:2026年8月17日
肩が上がらない原因は五十肩だけではありません。腱板断裂、石灰沈着、頸椎の問題、まれに腫瘍や感染が背景にあることもあります。転倒などのけがのあとに動かなくなった場合、発熱を伴う場合、夜間の痛みが急激に強くなった場合、しびれや力の入らなさを伴う場合は、自己判断で運動を始めず、まず整形外科を受診してください。
五十肩は、肩関節を包む関節包という袋に炎症が起き、その後に袋が硬く縮んでしまうことで、痛みと動きの制限が生じる状態です。特徴的なのは、自分で動かしたときだけでなく、他人に動かしてもらったときにも肩が動かない(他動的な可動域も制限される)という点で、これが腱板の問題との区別の手がかりになります。
2. 手を後ろに回す(背中を洗う、下着やベルトの操作)
3. 腕を外にひねる(髪を結ぶ、シートベルトを引く)
4. 横向きで寝る(痛む側を下にできない、夜間に目が覚める)
経過としては、痛みが強い時期、動きの硬さが目立つ時期、少しずつ動く範囲が戻る時期という段階を追うとされ、全体では年単位の時間がかかることも珍しくありません。研究に参加している方の症状の期間も、中央値で6か月ほどというデータがあります1。
なお、麻痺のある方の肩の痛みは、五十肩とは原因も対応も異なります。脳卒中後に肩が痛む場合については脳卒中後の肩の痛みと亜脱臼・CRPSについて解説した記事をご覧ください。
正直にお伝えすると、「徒手療法と運動が単独で有効である」ことをきれいに示した研究は、実はほとんどありません。コクランレビューの著者は「徒手療法と運動の組み合わせを、プラセボや無治療と比較した試験は1件もなかった」と明記しています1。分かっているのは主に「他の治療と比べてどうか」という相対的な位置づけです。
32件の試験(1,836名、年齢中央値55歳、症状の期間中央値6か月、介入期間中央値4週間)をまとめたレビューです。最も情報量のあった比較では、徒手療法と運動の組み合わせは、関節内へのステロイド注射と比べて7週時点の成績が下回りました(痛みの変化 100点満点で平均差 −26、95%信頼区間 −37〜−15。機能の変化 平均差 −25、95%信頼区間 −35〜−15。治療成功割合 46% 対 77%、相対リスク 0.60、95%信頼区間 0.44〜0.83)。エビデンスの質は中等度と評価されています。一方、関節腔内に水を注入して袋を広げる処置(関節腔拡張術)を行ったあとに徒手療法と運動を加えた場合は、見せかけの超音波治療と比べて痛みや機能に差はなかったものの、治療成功割合(75% 対 56%、相対リスク 1.33、95%信頼区間 1.04〜1.69)と外転可動域(平均差 13度、95%信頼区間 4.2〜22)で上回り、この比較のエビデンスの質は高いと評価されました1。
34〜39件のRCT(2,402〜2,736名)を統合したレビューです。関節内ステロイド注射は無治療・プラセボと比べて短期(2〜6週)の痛み(平均差 −1.4、95%信頼区間 −1.8〜−0.9)や機能で上回りました。理学療法との比較では、8〜12週時点の痛みで注射が上回るという結果でした(平均差 −1.1、95%信頼区間 −1.7〜−0.5)。注目すべきは組み合わせで、注射に理学療法を加えると注射単独より外旋可動域が大きくなり(平均差 11.6度、95%信頼区間 3.7〜19.4)、中期(4〜6か月)のネットワーク解析では「注射+理学療法」が最も上位に位置しました。また、自宅での可動域運動とストレッチのみのプログラムでも、プラセボとの比較では短期の痛みで意味のある差が示されています(平均差 −1.4、95%信頼区間 −1.8〜−1.1)。著者らの結論は「発症1年以内では早期の関節内ステロイド注射が良い結果と関連し、自宅運動プログラムを併用すべき」というものでした2。
1984年から2021年までの16件の試験(745名、女性58%)をまとめ、うち8件をメタアナリシスした比較的新しいレビューです。「運動に徒手療法を加える」ことの上乗せを検討した結果、短期の痛み(標準化平均差 −0.54、95%信頼区間 −1.16〜0.08)、短期の障害度(同 −0.48、−1.01〜0.05)、長期の障害度(同 −0.45、−1.61〜0.72)、短期の外旋可動域(同 0.21、−0.43〜0.84)のいずれも統計的な差はありませんでした。エビデンスの質は「非常に低」〜「低」で、著者らは「研究の設計・手技・量・期間が一貫しておらず、最適な量について強い推奨を行うことは難しい」と結論しています3。
3件を並べると見えてくるのは、「注射は短期の痛みに対して比較的はっきりした利点がある」「運動は単独で劇的な差を生むわけではないが、注射などと組み合わせたときに可動域の面で上乗せが期待される」「徒手療法を運動に足す部分の根拠は弱い」という構図です。
まず、運動そのものの純粋な効き目が検証されていません。前述のとおり、徒手療法と運動の組み合わせをプラセボや無治療と比べた試験は存在しないと、コクランレビューが明記しています1。私たちが知っているのは「他の治療と比べたときの位置関係」だけで、「何もしない場合と比べてどうか」は分かっていないのです。
次に、適切な量が確立していません。週何回、何分、何週間続けるのがよいのか、どの程度の強さで伸ばすのがよいのかについて、研究ごとの設定がばらばらで比較ができないと指摘されています3。
また、どの時期の方に何が適しているかも分かっていません。五十肩には痛みが強い時期と硬さが目立つ時期がありますが、研究では異なる段階の方がまとめて解析されており、段階別の検討ができていないという限界があります3。「痛みの強い時期に無理に伸ばすとかえって長引く」という臨床上よく言われる考え方も、質の高い比較試験で確認されたものではありません。
そして、長期の見通しも不明です。12か月を超える追跡データは量的に解析できるほど揃っておらず2、16件のうち6か月以上追跡した研究は4件のみでした3。
紹介した3件は、コクランレビューを含むシステマティックレビュー・メタアナリシスであり、研究デザインとしては上位に位置します。特に2020年のレビューは、多くの比較で中等度から高い確実性の評価が得られています2。
一方で弱点も明確です。コクランレビューでは、主要な比較以外の多くが低い質の根拠にとどまり、参加者を盲検化できていない試験が大半でした。また、臨床的な内容が研究ごとに大きく異なるため、統合できた比較そのものが限られています1。2023年のレビューにいたっては、すべての統合結果が「非常に低」〜「低」の質で、かつ統計的な差が確認されませんでした3。
数字の読み方でも注意が必要です。2020年のレビューでは、注射に運動を足したときの短期の痛みの差(平均差 −0.5)について、統計的には差があっても臨床的に意味のある大きさではないと著者らが区別して記述しています2。また、同レビューでは、注射が理学療法より優れているという後期短期の結果について、追加の統計解析では確定的な推奨に足る確からしさが得られなかったとも述べられています2。
五十肩は自然経過でも時間とともに変化していく状態であるため、「治療のおかげ」なのか「時間の経過」なのかを分けることが、そもそも難しい領域です。この研究結果を、すべての方に同じように当てはめることはできません。
研究で用いられている運動プログラムは、特別な機械を使うものではなく、多くが自宅でも行える範囲の内容です。以下は研究で採用されている要素であり、個別の処方ではありません。
・ストレッチ(前・横・後ろへの伸ばし、外にひねる方向の伸ばし)
・肩甲骨まわりの安定化運動
・筋力運動(ゴムバンドや軽い重りを用いる)
・徒手療法(関節を動かす手技、軟部組織へのアプローチ)
介入期間は中央値で4週間程度1、追跡は短期(12週以内)が中心です2。強さについては明確な基準が示されていませんが、2020年のレビューでは「単純な可動域運動とストレッチによる自宅プログラム」でも短期の痛みで意味のある差が示された点が、実務上は重要だと考えています2。強くやることが良いという根拠は示されていません。
なお、手や腕の症状に対して、手術以外の選択肢をどう考えるかという視点は、他の疾患でも共通します。関心のある方は手根管症候群の手術以外の選択肢について解説した記事もあわせてご覧ください。
研究からは細かい生活指導の根拠までは得られません。ここでは、上記の研究の範囲を超えない形で、実務上おさえておきたい点を整理します。
糖尿病のある方は五十肩を生じやすく、経過が長引きやすいことが知られています。また、注射の可否や回数の判断は医師が行うものです。運動と注射のどちらを選ぶかは、痛みの強さ、症状が出てからの期間、生活での困りごと、持病によって変わります。この記事の内容をそのまま自己判断の材料にせず、整形外科医とリハビリ専門職に相談しながら決めてください。
Journey Rehabでは、まず「本当に五十肩なのか」「医療機関での評価が済んでいるか」を確認するところから始めます。肩が上がらない原因は複数あり、リハビリの前に整形外科での確認が必要な状態も含まれるためです。すでに注射などの治療を受けている場合は、その内容と時期をうかがったうえで、生活の中で続けられる運動の設計に軸足を置きます。
可動域の角度だけを目標にせず、「洗濯物を干す」「背中に手を回す」「痛む側を下にして眠れる」といった、ご本人が困っている具体的な場面を出発点にします。研究上、強い刺激が良いという根拠は示されていないため、翌日に痛みを持ち越さない範囲を一緒に見つけることを重視しています。
五十肩に対する運動療法は、「何もしない場合と比べてどうか」という最も基本的な比較が行われておらず、根拠は思われているほど強固ではありません。分かっているのは、短期の痛みについては関節内ステロイド注射のほうが上回るという報告があること、注射に運動を組み合わせると可動域の面で上乗せが示されていること、自宅での可動域運動とストレッチにも短期の痛みで意味のある差が示されていること、そして徒手療法を運動に足す部分の根拠は弱いことです。エビデンスの確実性は比較によって幅があり、適切な量や時期別の使い分け、長期の見通しは分かっていません。痛みの強さや生活での困りごとに応じて、整形外科医とリハビリ専門職に相談しながら進めることをおすすめします。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。肩の痛みや動かしにくさの原因は複数あり、適切な対応は個別に異なります。けがのあと、発熱を伴う場合、しびれや脱力を伴う場合、夜間痛が急激に強まる場合は、まず整形外科を受診してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
