脳卒中後の地域・社会参加とは?外出や生活の広がりを取り戻す考え方

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の地域・社会参加とは?外出や生活の広がりについて研究と限界を正直に解説

「退院はしたけれど、外出が減ってしまった」「前のように買い物や趣味に出かけられない」——これは、脳卒中の後、多くの方とご家族が感じる悩みです。体の機能だけでなく、地域での外出や、人との交わり、役割のある活動へどう戻っていくか(地域・社会参加)は、生活の質に大きく関わります。この記事では、脳卒中後の地域・社会参加について、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、脳卒中の後は外出や社会参加が減りやすいことが分かっており、支援には一定の役割が期待できますが、「これをすれば必ず参加が広がる」という決定的な方法はまだ確立していません。

脳卒中後に地域での外出や社会参加を少しずつ広げるイメージ
この記事の要点
・地域・社会参加とは、外出、買い物、通院、趣味、人との交わり、役割のある活動など、生活の広がり全体を指します。
・14件の研究をまとめた分析では、脳卒中の方の地域での移動(外出のしやすさ)は、脳卒中でない人の約30〜83%にとどまり、時間が経ってもわずかしか広がらないと報告されています1
・外出のしやすさには、運動機能、バランス、持久力、日常生活動作の自立、運転の可否、気分などが関わるとされています1
・看護師や地域の支援者による在宅・地域での支援をまとめた総説(18件)では、生活の質や自己効力感、知識、服薬の継続、介護者の負担などに良い傾向がみられましたが、結果は一定せず、機能面への効果は限定的でした2
・185名を対象にした試験では、退院後の住環境の工夫と目標設定の支援で、活動の満足度や環境の障壁が改善しましたが、参加の総合指標では対照群と差がありませんでした3
SECTION 01
地域・社会参加とは

地域・社会参加とは、家の中の生活だけでなく、外出、買い物、通院、趣味、地域の集まり、人との交わり、仕事や家庭での役割など、生活の広がり全体を指します。リハビリでは、体の機能や日常生活動作(ADL)を整えることと同じくらい、「その方が地域でどんな暮らしや活動へ戻りたいか」を大切にします。脳卒中の後は、体の動きにくさや疲れやすさ、気分の落ち込みなどが重なり、こうした参加が少しずつ狭まってしまうことが少なくありません。

参加の広がりは、一人だけで進めるものではなく、ご家族や周囲の支え、地域の環境とも関わります。ご自身で体調や生活を整えていく取り組みについては脳卒中後のセルフマネジメントについて解説した記事、ご家族の関わりについては脳卒中後の家族・介護者支援について解説した記事もあわせてご覧ください。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「脳卒中の後は外出や社会参加が減りやすい」ことははっきりしていますが、「どんな支援をすれば最も参加が広がるか」については、質の高い証拠がまだ乏しいのが現状です。代表的な研究をみていきます。

研究から読み取れること
まず、外出や地域での移動がどのくらい狭まるかについてです。脳卒中後の地域での移動を調べた14件の研究をまとめた系統的レビューでは、脳卒中の方の地域での移動は、脳卒中でない人の約30〜83%にとどまり、時間が経ってもわずかしか広がらないと報告されました1。外出のしやすさには、年齢や運動機能、バランス、持久力、日常生活動作の自立、運転の可否、気分などが関わるとされています1

次に、支援の効果についてです。看護師や地域の支援者による在宅・地域での支援をまとめた総説(18件・9か国)では、生活の質、自己効力感、脳卒中に関する知識、服薬の継続、介護者の負担軽減などに良い傾向がみられました2。ただし、効果は研究によって一定せず、体の機能面への効果は限定的でした2。また、退院後に住環境の工夫と目標設定の支援を行うプログラムを185名で調べたランダム化比較試験では、日常活動の遂行に対する満足度や、生活環境の障壁の改善がみられた一方、参加の総合指標そのものは、脳卒中に関する教育を受けた対照群と差がありませんでした3。外出のしやすさに関わる運転については脳卒中後の運転再開について解説した記事もあわせて参考にしてください。
エビデンスの質と限界
これらの研究には共通した限界があります。地域での移動を調べたレビューでは、比較的動ける方が多く含まれていたこと、メタ解析ができなかったこと、地域での移動を正確に測る指標がそろっていなかったことが指摘されています1。支援をまとめた総説でも、40種類を超える多様な評価指標が使われ、研究のデザインや人数の幅が大きく、まとまった結論を出しにくいとされています2。参加を主要な指標にした試験でも、新型コロナの影響で外出そのものが制限された時期があったことなどが限界として挙げられています3。良い傾向を示した支援も、すべての方に同じように当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、地域・社会参加を広げるために、どんな支援を・どのような方に・どのくらいの期間続けると最も役立つのかは、十分に分かっていません1,2,3。参加のかたちは一人ひとり違い、「何を大切にしたいか」も人によって異なるため、共通の物差しで測りにくい面もあります。長期的に参加がどう変化するか、地域の資源や環境の違いがどう影響するかも、まだ検証が足りません2。今後、参加を丁寧に測る指標を用いた、質の高い研究が必要とされています。
小さな外出から生活の広がりを取り戻す脳卒中リハビリのイメージ
SECTION 03
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、地域・社会参加への取り組みは「一つの決め手」ではなく、「本人が大切にしたい活動に向けて、体づくり・環境の工夫・周囲の支えを組み合わせること」が現実的です。外出のしやすさには、運動機能、バランス、持久力、日常生活動作の自立などが関わるため、これらを整えることは参加の土台になります1。あわせて、住環境の工夫や目標設定の支援は、活動の満足感や環境の障壁の面で役立つ可能性が示されています3。看護師や地域の支援者による関わりも、生活の質や自己効力感、介護者の負担の面で良い傾向が報告されています2

一方で、「この支援をすれば誰でも確実に参加が広がる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません2,3。効果には個人差が大きく、その方が何を大切にしたいか、地域にどんな資源があるかによっても変わります。焦らず、小さな外出や活動から一つずつ広げていくことが、無理のない進め方です。

SECTION 04
どんな人に支援が役立ちやすいか

退院後に外出が減った方、やりたい活動があるのに一歩が踏み出しにくい方、ご家族が関わり方に悩んでいる方などは、参加に向けた支援が役立ちやすいと考えられます。参加は体の機能だけで決まるものではなく、環境の工夫や周囲の支えでも変わります。

⚠ 無理をしすぎないために
参加を広げようとするあまり、体調や気分に無理をかけてしまうと、かえって外出がつらくなることがあります。強い疲れが続く、気分の落ち込みが強い、転倒が心配、といったときは、無理に外出を増やす前に主治医・リハビリ専門職に相談してください。とくに、気分の落ち込みが続く場合は、専門的な支援が役立つことがあります。また、外出には転倒や体調変化のリスクもあるため、一人での無理な行動は避け、必要に応じて付き添いや環境の工夫を取り入れましょう。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、効果を保証するものではありません。
SECTION 05
生活での工夫の目安

研究では「これをすれば確実」という決まった方法は定まっていません1,2,3。そのうえで、無理なく試しやすい工夫としては、次のようなものがあります。まず、「どこへ行きたいか」「何をしたいか」という具体的な目標を、一つ小さく決めること。次に、その目標に向けて、体づくり(歩く・バランス・持久力)と、道具や環境の工夫(手すり、休憩場所、交通手段の確認)を組み合わせること。そして、いきなり遠出をせず、近所への短い外出から少しずつ距離や時間を広げていくことです。うまくいった工夫を記録し、続けられるものを残していきます。

一人で抱え込まず、ご家族や、地域の相談窓口・専門職と一緒に進めることも大切です。仕事への復帰を考えている方は、体調や業務内容に合わせた準備が必要になります。焦らず、その方のペースで、大切にしたい活動へ少しずつ近づいていくことを目安にしてください。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当院での経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、生活の広がりは、体の機能だけでは決まらないと感じています。私たちがまず大切にしているのは、「どんな活動へ戻りたいか」「何をしているときが一番その方らしいか」を一緒に言葉にすることです。たとえば「近所のスーパーまで自分で買い物に行きたい」という目標があれば、そこまでの道のり、休める場所、荷物の持ち方、転びやすい段差などを一つずつ確認し、まずは家の周りの短い距離から練習を始めます。実際に、小さな外出が一つ叶うと、次の一歩への意欲につながる方が多い印象があります。一方で、体調や気分の波で外出がつらい時期もあり、その場合は無理に距離を伸ばさず、家の中でできる活動や休息を優先します。ご本人だけでなくご家族とも相談しながら、その方のペースで生活の広がりを取り戻していくことを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
体の状態や生活の状況を一緒に確認しながら、無理なく続けられるリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨や、特定の支援・サービスの利用を促すものではありません。外出や活動の進め方は、個人の状態によって異なります。体調や気分の変化、転倒などが心配な場合は、無理をせず主治医・リハビリ専門職に相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
退院後、外出が減ってしまいました。よくあることですか?
はい、脳卒中の後は外出や社会参加が減りやすいことが研究でも報告されています。体の動きにくさや疲れやすさ、気分の変化などが重なるためです。めずらしいことではないので、一人で抱え込まず、専門職に相談してよいことです。
どうすれば外出しやすくなりますか?
研究では、外出のしやすさに運動機能、バランス、持久力、日常生活動作の自立などが関わるとされています。体づくりと、手すりや休憩場所などの環境の工夫を組み合わせ、近所の短い外出から少しずつ広げていくのが無理のない進め方です。具体的な方法は専門職に相談してください。
支援を受ければ必ず参加が広がりますか?
支援には生活の質や自己効力感などの面で良い傾向が報告されていますが、効果には個人差が大きく、「必ず広がる」とは言えません。その方が何を大切にしたいか、地域にどんな資源があるかによっても変わります。焦らず続けることが大切です。
家族はどう関わればよいですか?
ご家族の支えは参加の広がりに関わりますが、抱え込みすぎるとご家族の負担も大きくなります。ご本人の「したいこと」を一緒に確認し、無理のない範囲で見守ることが大切です。関わり方に悩むときは、専門職や地域の相談窓口を活用してください。
仕事や運転には戻れますか?
復職や運転の再開は、体調や後遺症の状態によって個別に判断が必要です。とくに運転は、医学的な評価や手続きが関わります。自己判断せず、主治医やリハビリ専門職に相談しながら準備を進めてください。
気分が落ち込んで外に出る気になれません。
気分の落ち込みは、脳卒中の後によくみられ、外出のしにくさとも関わります。無理に外出を増やそうとせず、まずは主治医・リハビリ専門職に気持ちを伝えてください。気分の落ち込みが続く場合は、専門的な支援が役立つことがあります。
REFERENCES
参考文献
1. Wesselhoff S, Hanke TA, Evans CC. Community mobility after stroke: a systematic review. Top Stroke Rehabil. 2018;25(3):224-238. DOI:10.1080/10749357.2017.1419617. PMID:29322861.
2. Magwood GS, Nichols M, Jenkins C, Logan A, Qunango S, Zigbuo-Wenzler E, Ellis C. Community-Based Interventions for Stroke Provided by Nurses and Community Health Workers: A Review of the Literature. J Neurosci Nurs. 2020;52(4):152-159. DOI:10.1097/JNN.0000000000000512. PMID:32341258. PMCID:PMC7337158.
3. Bollinger RM, Krauss MJ, Somerville EK, et al. Rehabilitation Transition Program to Improve Community Participation Among Stroke Survivors: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2024;7(10):e2437758. DOI:10.1001/jamanetworkopen.2024.37758. PMID:39374016. PMCID:PMC11581659.