脳卒中後の反復末梢磁気刺激(rPMS)とは?研究で分かっていることと限界

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後の反復末梢磁気刺激(rPMS)とは?研究で分かっていることと限界を正直に解説

「手や腕の動きを取り戻すために、磁気で筋肉を刺激する方法があると聞いた」——リハビリを続けるなかで、こうした新しい方法を耳にすることが増えてきました。反復末梢磁気刺激(はんぷくまっしょうじきしげき、rPMS)は、麻痺した腕や手の筋肉・神経に、体の外から磁気で繰り返し刺激を与える方法です。この記事では、脳卒中後のrPMSについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、rPMSは上肢の動き(運動機能)や日常生活動作の練習を後押しする可能性が研究で示されつつありますが、まだ研究の数が限られ、最適なやり方も定まっていない発展途上の方法です。

脳卒中後の反復末梢磁気刺激rPMSと上肢リハビリのイメージ
この記事の要点
・rPMSは、麻痺した腕や手の筋肉・神経に、体の外から磁気で繰り返し刺激を与える方法です。針を刺したり手術をしたりする必要はありません。
・17件の研究をまとめた分析(メタ解析には12件・657名)では、rPMS単独で上肢の運動機能(Fugl-Meyer評価)や日常生活動作に中等度の良い傾向がみられました(運動機能の効果量g=0.703、日常生活動作g=0.923)1
・rPMSに反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)を組み合わせても、rTMS単独と比べて上乗せの効果ははっきりしませんでした1
・34件の研究(1,476名)を比べたネットワーク分析では、電気刺激(NMES)とrPMSの組み合わせが上肢機能でもっとも高く位置づけられましたが、エビデンスの質は低いと評価されています2
・rPMSはまだ研究が限られる発展途上の方法です。受けられる施設や適応は限られ、体内に金属や医療機器(ペースメーカー等)がある方などは受けられないことがあります。必ず主治医に相談してください。
SECTION 01
反復末梢磁気刺激(rPMS)とは

反復末梢磁気刺激(rPMS)は、コイルから発生する磁気を使って、麻痺した腕や手の筋肉・末梢神経に、体の外から繰り返し刺激を与える方法です。磁気が体の中で電流を生み、筋肉が収縮したり、動きの感覚(固有感覚)が脳に伝わったりします。針を刺す鍼治療や、手術とは違い、皮膚の上からコイルを当てて行うため、体を傷つけない方法です。似た名前の「反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)」が頭(脳)を刺激するのに対して、rPMSは手足の側(末梢)を刺激するのが違いです。頭への磁気刺激については反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)について解説した記事もあわせてご覧ください。

磁気で筋肉を動かしたり感覚を送り込んだりすることで、動かしにくい腕や手を「使う準備」を整え、そのあとの運動練習につなげるねらいがあります。考え方としては、皮膚の上から電気を流す神経筋電気刺激(NMES)と近い部分もあります。電気を使う方法については上肢への神経筋電気刺激(NMES)について解説した記事も参考になります。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「rPMSは上肢のリハビリを後押しする可能性がある」ことは複数の研究で示されつつありますが、「誰に・どのくらい行えば最も良いか」はまだはっきりしていません。代表的な研究をみていきます。

研究から読み取れること
2024年に報告された、rPMSに関する17件の研究をまとめた系統的レビュー・メタ解析があります(統計的なまとめには12件・657名が含まれました)1。ここでは、rPMS単独でも、比較対照(見せかけの刺激など)と比べて、上肢の運動機能(Fugl-Meyer上肢評価)に中等度の良い傾向(効果量g=0.703)と、日常生活動作にも良い傾向(g=0.923)がみられました1。さらに、1回あたりの刺激の回数(パルス数)が多いほど、日常生活動作の伸びと関連していたと報告されています1。一方で、rPMSに頭への磁気刺激(rTMS)を組み合わせても、rTMS単独と比べて明らかな上乗せ効果は確認されませんでした1

もう一つ、2025年に報告された、電気刺激や磁気刺激どうしを比べたネットワークメタ解析(34件のランダム化比較試験・1,476名)では、電気刺激(NMES)とrPMSを組み合わせた方法が、上肢の運動機能を高める確率がもっとも高いと位置づけられました2。ただし、この分析でも「エビデンスの質は低い」とされ、つっぱり(痙縮)については、どの方法でもはっきりした改善は示されませんでした2
エビデンスの質と限界
これらの研究には共通した限界があります。rPMS単独の分析では、研究どうしのばらつき(異質性)が大きく(I²=85%)、都合のよい結果が出やすい傾向(出版バイアス)も指摘されました1。刺激の強さや回数が研究ごとにバラバラで、「この設定が最適」という目安はまだ定められていません1。ネットワーク分析でも、全体としてエビデンスの質は低いと評価されています2。つまり、良い傾向は見えているものの、「確実に効く」と言い切れる段階ではありません。研究の多くは限られた人数で行われており、結果をすべての方に同じように当てはめることはできません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、rPMSが・どのような方に・発症からどの時期に・どのくらいの強さと回数で行うと最も役立つのかは、十分に分かっていません1,2。効果が長く続くのか、生活動作の質にどこまで結びつくのかを、長期間追いかけた研究もまだ限られます。また、rPMS単独よりも、運動練習や電気刺激と組み合わせたほうがよいのかどうかも、研究によって結果が分かれています1,2。今後、設定をそろえた大きく質の高い研究が必要とされています。
磁気刺激と運動練習を組み合わせる脳卒中リハビリのイメージ
SECTION 03
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、rPMSは「これ一つで麻痺が元どおりになる方法」ではなく、「運動練習を後押しする補助的な選択肢の一つ」と考えるのが現実的です。磁気で筋肉が動いたり、動きの感覚が脳に伝わったりすることで、そのあとの運動練習に取り組みやすくなる可能性が示されています1。特に、電気刺激や課題に沿った運動練習と組み合わせる形で研究が進められています2。ロボットを使った上肢の反復練習と考え方が近い部分もあり、ロボットを用いた上肢リハビリについて解説した記事もあわせて参考にしてください。

一方で、「rPMSを受ければ誰でも確実に手が動くようになる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません1,2。効果には個人差が大きく、つっぱり(痙縮)を和らげる効果もはっきりしていません2。また、rPMSは限られた施設でしか受けられず、機器や適応の条件もあります。受けるかどうかは、今の体の状態や目標に合わせて、主治医やリハビリ専門職と相談して判断することが大切です。

SECTION 04
どんな人に向くか・受けるときの注意

rPMSは、上肢の麻痺があり、運動練習と組み合わせて新しい方法を試してみたい方の選択肢の一つになりえます。ただし、磁気を使う方法のため、受けられない・注意が必要な場合があります。

⚠ 受ける前に必ず確認したいこと
心臓のペースメーカーや体内埋め込み型の医療機器がある方、刺激する部位の近くに金属が入っている方、てんかんや発作の既往がある方、妊娠中の方などは、rPMSを受けられない、または慎重な判断が必要なことがあります。また、rPMSはどこの施設でも受けられるわけではなく、扱っている医療機関・施設は限られます。刺激中に痛みや強い不快感、体調の変化があれば、がまんせずすぐに伝えてください。rPMSを受けるかどうか、受けてよい体の状態かどうかは、必ず主治医に確認してください。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、効果や安全性をお約束するものではありません。
SECTION 05
回数・受け方の目安

研究では「これが最適」という回数や強さは、まだ定まっていません1。用いられている方法は研究ごとに幅がありますが、共通しているのは、rPMS単独で終わりにするのではなく、そのあとに腕や手を実際に使う運動練習をセットで行う点です1,2。1回あたりの刺激回数が多いほど日常生活動作の伸びと関連していたという報告もありますが、多ければ多いほど良いと確定したわけではありません1

大切なのは、rPMSだけに期待をかけすぎず、日々の運動練習や生活での手の使い方と組み合わせて、無理のない範囲で続けることです。どのくらいの頻度で、どの方法と組み合わせるのがよいかは、体の状態や目標によって異なります。関心がある方は、まず主治医やリハビリ専門職に「自分に合うか」を相談することをおすすめします。

SECTION 06
Journey Rehabでの現場経験
当院での経験
訪問リハビリでご一緒するなかでも、rPMSのような機器を使う方法に関心をお持ちの方は少なくありません。私たちがまず大切にしているのは、「どの機器を使うか」よりも、「その方が生活のどの場面で腕や手を使いたいのか」を一緒に整理することです。機器による刺激はあくまで運動練習の後押しであり、刺激だけで生活動作が変わるわけではない、という点は正直にお伝えしています。実際に、機器の有無にかかわらず、日々の生活のなかで手を使う機会を丁寧に増やしていった方のほうが、変化を感じやすい印象があります。一方で、時間をかけても動きの変化が乏しいこともあり、その場合は代わりの手の使い方や生活の工夫へ切り替えます。rPMSなどの新しい方法を検討する際は、受けられる体の状態かどうかを含め、主治医と連携しながら進めることを大切にしています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
体の状態や生活の状況を一緒に確認しながら、無理なく続けられるリハビリの内容を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨や、特定の機器・治療の利用を促すものではありません。rPMSを受けられるかどうかや適応は、個人の状態によって異なります。実施の可否は、必ず主治医・リハビリ専門職に相談してください。刺激中に痛みや体調の変化がある場合は、すぐに中止して医療者に伝えてください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
rPMSは痛いですか?
磁気で筋肉が収縮するため、トントンと叩かれるような感覚や、筋肉がピクッと動く感覚があります。痛みの感じ方には個人差があり、不快に感じる方もいます。刺激中に強い痛みや不快感があれば、がまんせずすぐに伝えてください。
rPMSを受ければ手の麻痺は元どおりになりますか?
現時点の研究では、rPMSで上肢の運動機能や日常生活動作に良い傾向がみられていますが、効果には個人差が大きく、「誰でも確実に元どおりになる」とは言えません。運動練習と組み合わせる補助的な方法の一つと考えるのが現実的です。
rTMS(頭への磁気刺激)とは何が違いますか?
rTMSは頭(脳)に磁気刺激を与えるのに対し、rPMSは手足の筋肉や末梢神経に刺激を与えます。研究では、rPMSにrTMSを組み合わせても、rTMS単独と比べて明らかな上乗せ効果は確認されていません。どちらが向くかは体の状態によって異なります。
つっぱり(痙縮)にも効きますか?
刺激療法どうしを比べた研究では、つっぱり(痙縮)についてはどの方法でもはっきりした改善は示されていません。痙縮への対応は、ストレッチや薬物療法など他の方法も含めて主治医・専門職と相談することが大切です。
どこで受けられますか?費用はかかりますか?
rPMSを扱っている医療機関・施設は限られます。費用や受けられる条件も施設によって異なります。まずは主治医に、rPMSが自分に向くか、どこで受けられるかを相談することをおすすめします。
ペースメーカーが入っていても受けられますか?
心臓のペースメーカーや体内埋め込み型の医療機器がある方は、磁気の影響を受ける可能性があるため、原則として受けられない、または慎重な判断が必要です。体内に金属がある方も含め、必ず事前に主治医へ確認してください。
REFERENCES
参考文献
1. Wang Y, Fong KNK, Sui Y, Bai Z, Zhang JJ. Repetitive peripheral magnetic stimulation alone or in combination with repetitive transcranial magnetic stimulation in poststroke rehabilitation: a systematic review and meta-analysis. J Neuroeng Rehabil. 2024;21(1):181. DOI:10.1186/s12984-024-01486-8. PMID:39407278. PMCID:PMC11481378.
2. Keesukphan A, Suntipap M, Thadanipon K, Boonmanunt S, Numthavaj P, McKay GJ, Attia J, Thakkinstian A. Effects of electrical and magnetic stimulation on upper extremity function after stroke: A systematic review and network meta-analysis. PM R. 2025;17(8):978-993. DOI:10.1002/pmrj.13356. PMID:40396624. PMCID:PMC12345400.