脳卒中後のピラティスとは?バランス・体幹・生活の質への研究と限界を正直に解説

· 脳卒中下肢関連情報
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
脳卒中後のピラティスとは?バランス・体幹・生活の質への研究と限界を正直に解説

「ピラティスは脳卒中のリハビリにも役立つの?」——これは、体幹(お腹や背中まわり)の弱さやバランスの不安を感じている方から、よく聞かれる質問です。ピラティス(呼吸を意識しながら体幹を中心にゆっくり体を動かす運動)は、もともと姿勢やしなやかな動きづくりを目的に広まりましたが、近年は脳卒中後のリハビリでも研究されています。この記事では、脳卒中後のピラティスについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、通常のリハビリに「加える」形でバランスに良い変化を示した研究はありますが、研究の数が少なく規模も小さいため、単独で行う方法ではなく補助的な位置づけとして考えるのが現実的です。

脳卒中後に座位で呼吸と体幹を意識するピラティス練習
安全を確認しながら、呼吸と体幹を意識する練習から始めます。
この記事の要点
・ピラティスとは、呼吸を意識しながら体幹(コア)を中心にゆっくり体を動かす運動で、脳卒中後は主に姿勢の安定やバランスに対して研究されています1
・5件の研究(122人)をまとめた分析では、通常のケアなどと比べてバランスの指標に良い変化が示され、生活の質や歩行の指標でも一部で良い方向の結果が報告されました1
・複数の運動法を比べた別のレビューでも、ピラティスを行った方でバランスや生活の質に良い変化がみられたと報告されています2
・小規模な最近の研究では、3週間のピラティスで立ち座りや歩く速さの指標に良い変化がみられましたが、参加者はわずか20人でした3
・一方で、研究の数が少なく規模も小さいこと、方法にばらつきがあることから、証拠はまだ限られます。単独ではなく補助的な運動として、まずはリハビリ専門職に相談することをおすすめします1,2
SECTION 01
脳卒中後のピラティスとは

ピラティスは、呼吸を意識しながら、体幹(お腹や背中まわりの「コア」と呼ばれる部分)を中心に、ゆっくりとていねいに体を動かす運動です1。マット(床)の上で行う方法と、専用の器具(リフォーマーなど)を使う方法があります。もともとは姿勢づくりやしなやかな動きを目的に広まりましたが、体幹の安定や姿勢のコントロールに関わるため、近年は脳卒中後のリハビリでも取り入れられるようになりました1

脳卒中の後は、体幹の筋肉の働きが弱くなり、座る・立つ・歩くといった動作の土台となる姿勢の安定が損なわれることがあります。ピラティスは、こうした体幹やバランスに働きかけることがねらいと考えられています1。体幹の安定は立ち座りや歩行の基礎にもなります。体幹そのものを鍛える運動については脳卒中後の体幹トレーニングについて解説した記事で詳しく紹介しています。

SECTION 02
研究で分かっていること

結論から正直にお伝えすると、「通常のリハビリにピラティスを加えると、バランスの指標に良い変化を示した研究がある」一方で、「研究の数が少なく規模も小さいため、証拠はまだ限られる」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。

バランス・生活の質についての研究
脳卒中後のピラティスについて、5件の研究・122人をまとめた系統的レビュー・メタアナリシス(2023年)があります。この分析では、ピラティスを行った群で、バランスの指標(統計的に有意な差、p<0.00001)、生活の質(p=0.0002)、歩行に関する指標(p=0.001)で、良い方向の結果が示されました。ただし著者らは、バランスについては「一定の(中程度の)根拠」、生活の質や歩行については「限られた根拠」と慎重にまとめています1。ここでの「有意な差」は統計上の傾向であり、全員に同じ変化が起こるという意味ではありません。
ほかの運動法とあわせて調べた研究
ピラティス・太極拳・ヨガなど、心と体を合わせて動かす運動をまとめて調べたレビュー(2022年)では、ピラティスを行った方でバランスや生活の質に良い変化が報告されました。ただしこのレビューでは、根拠が最も強いのは太極拳で、その次にピラティスとヨガという評価でした2。生活習慣病などを対象にした別のレビューでも、ピラティスは運動の続けやすさ(運動耐容能)には比較的しっかりした根拠がある一方、バランスや体の機能への効果はまだはっきりしないと整理されています4。心と体を合わせて動かす運動という点では、ヨガも近い考え方です。脳卒中後のヨガについて解説した記事もあわせてご覧ください。
最近の小規模な試験
慢性期(発症から時間が経った時期)の方20人を対象に、3週間のマットピラティスを通常の理学療法に加えた小規模な試験(2025年)では、立ち上がりや歩く速さ、立ち座りの指標(Timed Up and Go、10m歩行、5回立ち座り)で、通常の理学療法だけの群より良い変化が報告されました3。ピラティスに脳への電気刺激(tDCS)を組み合わせて、体幹の安定や気分の指標を調べた試験もあります5。いずれも参加人数が少ない小さな研究であり、結果の受け止めには注意が必要です。
療法士の見守りで行う脳卒中後のマットピラティス
運動の姿勢や難しさは、麻痺やバランスの状態に合わせて調整します。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
脳卒中後のピラティスの研究には、共通した限界があります。まとめて分析された研究はわずか5件・122人と少なく、一つひとつの規模も小さいものでした1。ピラティスのやり方(マットか器具か、姿勢の種類、難しさ)が研究ごとに異なり、比較の相手(通常のリハビリ、別の運動、何もしない)もばらばらでした1,2。著者らは、バランス以外の生活の質や歩行については根拠が限られるとし、長期的にどうなるか、自宅での運動として続けたときにどうかは今後の課題としています1。良い結果を示した研究があっても、すべての方に同じ変化が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
現在の研究では、脳卒中後のピラティスについて、どんな姿勢や難しさの運動が最も役立つのか、週に何回・何分・どのくらいの期間続けるとよいのかは、十分に定まっていません1,3。また、どの時期(急性期・回復期・生活期)の、どんな重症度・麻痺の程度の方に最も向いているのか、バランスの指標が良くなったことが実生活での転倒の少なさや外出のしやすさにどこまでつながるのかも、まだはっきりしていません1,2。体幹やバランスを扱う運動は複数あり、ピラティスがそれらより優れているかどうかも、今後の比較研究を待つ必要があります。
SECTION 04
何が期待でき、何ははっきりしないか

研究をふまえると、ピラティスは「通常のリハビリに組み合わせる補助的な運動として、体幹の安定やバランスの指標に良い変化を示しうる選択肢」と考えるのが現実的です1,2。呼吸や体幹を意識しながらゆっくり動くため、運動に不安がある方でも取り組みやすく、姿勢への意識が高まりやすい点は利点です。バランスの土台づくりを通じて、日常の動作に取り組みやすくなる可能性も考えられます1

一方で、「ピラティスだけで麻痺そのものが軽くなる」「ピラティスをすれば転ばなくなる」ことは、現時点の研究でははっきり示されていません1。反応には個人差があり、変化を感じにくい方もいます。ピラティスは単独の決め手ではなく、歩行や立ち座りの練習、筋力づくり、必要に応じた装具などと組み合わせる「一部」として位置づけるのが現実的です。バランスを整える取り組み全体については脳卒中後のバランス訓練について解説した記事もご覧ください。

SECTION 05
どんな人に向いているか

研究の対象を見ると、座る・立つ姿勢はある程度とれて、体幹の安定やバランスに課題があり、通常のリハビリに何か加えたい方が想定されています1,3。ゆっくりした動きが中心のため、比較的取り入れやすい運動ですが、立位が不安定な方や重い麻痺のある方では、安全のために座って行う・支えを使うなどの工夫が必要です。

⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと
ピラティスは比較的おだやかな運動ですが、注意点があります。バランスを崩しやすい方が立って行うと、転倒の危険があります。息を止めて力むと血圧が上がりやすいため、呼吸を止めないことも大切です。高血圧や心臓の病気がある方、めまいが出やすい方、痛みが強い方は、始める前に主治医やリハビリ専門職に相談してください。動画や教室の一般的なピラティスは、必ずしも脳卒中後の体の状態に合わせて作られていません。自己流で無理に進めるより、まずはリハビリ専門職に、自分の姿勢やバランス、麻痺の状態に合う運動や難しさを相談することをおすすめします。ここで紹介した内容は一般的な情報であり、成果をすべての方に保証するものではありません。
SECTION 06
回数・頻度の目安

研究で用いられた方法には幅がありますが、たとえば1回60分ほどのマットピラティスを、週2〜3回、3週間から数週間ほど続ける形などが報告されています3。準備運動から始め、呼吸を意識しながら体幹を使う姿勢を数種類行い、整理運動で終える流れが一般的です3。これはあくまで研究の目安であり、実際の回数や運動の種類は一人ひとりの状態に合わせて調整します。

大切なのは、ピラティスを単独で行うのではなく、歩行や立ち座りの練習、筋力づくりなど、生活に直結する練習と組み合わせることです。運動中に痛み・強いめまい・息苦しさが出たときは中止し、無理のない範囲で続けます。体調や体力に波があるときは、回数や強さを控えめにして安全を優先します。

体幹の安定を立ち上がり動作につなげる練習
体幹を意識する運動は、立ち座りなど生活動作の練習と組み合わせます。
SECTION 07
Journey Rehabでの現場経験
当施設でのリアルな経験
訪問リハビリでご一緒するなかで、「ピラティスは家でも続けられますか」というご質問はよくいただきます。私たちがピラティスの要素を取り入れるときにまず大切にしているのは、ピラティスを主役にしないことです。呼吸と体幹を意識した動きは、姿勢を整える練習の入り口として役立つことがありますが、まずは座る・立つ・歩くといった生活動作の土台づくりを中心に据え、必要に応じて補助的に組み合わせます。始める前には姿勢やバランス、血圧の状態を確認し、立って行うのが不安な方には座って行う形に調整します。実際に、体幹を意識しやすくなったと話される方もいれば、あまり変化を感じない方もいらっしゃいました。ピラティスは万能ではなく、生活のなかで安全に体を動かしていくための一つの手段として、ていねいに選んでいくことを心がけています。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
姿勢やバランスの状態を一緒に確認しながら、生活に合ったリハビリの進め方を考えます。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断、治療、医療行為の推奨を目的とするものではありません。ピラティスの適応や運動の種類・強さは、麻痺やバランス、体力、併存する病気の状態によって向き・不向きや工夫が異なります。実施を検討する際は、まず主治医・リハビリ専門職に相談してください。運動中に痛み・強いめまい・息苦しさが出た場合は中止してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍

経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中

研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表

論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
FAQ
よくある質問
ピラティスは脳卒中のリハビリに使えますか?
主に体幹の安定やバランスに対して研究されています。通常のリハビリに加える形でバランスの指標に良い変化を示した研究がありますが、研究の数が少なく規模も小さいため、単独ではなく補助的な運動として考えるのが現実的です。まずは専門職に相談してください。
一般のピラティス教室に通っても大丈夫ですか?
一般のピラティスは必ずしも脳卒中後の体に合わせて作られていません。立位が不安定な方は転倒の危険もあります。参加を考えるときは、事前に主治医・リハビリ専門職に相談し、麻痺やバランスの状態に合う内容かを確認すると安心です。
週に何回くらい行えばよいですか?
研究では週2〜3回、数週間ほど続けた報告があります。ただしこれは目安で、適切な回数や運動の種類は状態によって異なります。無理のない範囲で、専門職と相談しながら進めてください。
ピラティスをすれば麻痺そのものが軽くなりますか?
ピラティスで麻痺そのものが変わることは、現時点の研究でははっきり示されていません。あくまで体幹の安定やバランスを補助する目的の一つと考え、歩行や立ち座りの練習などと組み合わせるのが現実的です。
ヨガや太極拳とどちらがよいですか?
ピラティス・ヨガ・太極拳はいずれも心と体を合わせて動かす運動で、あるレビューでは太極拳の根拠が比較的強いと評価されています。どれが合うかは体の状態や好みによって異なるため、専門職と一緒に選ぶとよいでしょう。
立って行うのが不安です。座ってでもできますか?
はい、姿勢や安全に合わせて、座って行う・支えを使うなどの調整ができます。バランスに不安がある場合は、無理に立って行わず、専門職と一緒に安全な方法を選ぶことが大切です。
REFERENCES
参考文献
1. Cronin E, Broderick P, Clark H, Monaghan K. What are the effects of pilates in the post stroke population? A systematic literature review & meta-analysis of randomised controlled trials. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2023. DOI:10.1016/j.jbmt.2022.09.028. PMID:36775522. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36775522/
2. Walter AA, Van Puymbroeck M, Bosch P, Schmid AA. Complementary and integrative health interventions in post-stroke rehabilitation: a systematic PRISMA review. Disability and Rehabilitation. 2022. DOI:10.1080/09638288.2020.1830440. PMID:33044872. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33044872/
3. Promkeaw D, Pumpho A, Nanbancha W, et al. The Effects of Pilates Exercise on Balance Control, Muscle Strength and Walking Ability in Patients with Stroke: A Randomized Controlled Trial. NeuroRehabilitation. 2025. DOI:10.1177/10538135251382908. PMID:41032650. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41032650/
4. Miranda S, Marques A. Pilates in noncommunicable diseases: A systematic review of its effects. Complementary Therapies in Medicine. 2018. DOI:10.1016/j.ctim.2018.05.018. PMID:30012382. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30012382/
5. Lee H, Yim J. Pilates and Transcranial Direct Current Stimulation for Stability, Balance, and Depression in Patients with Stroke. Journal of Motor Behavior. 2025. DOI:10.1080/00222895.2025.2522134. PMID:40590375. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40590375/