脳卒中後の園芸療法とは?植物を育てる活動の研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立

脳卒中後の園芸療法とは?植物を育てる活動の研究と限界を正直に解説

「庭いじりや家庭菜園が好きだった。脳卒中のあと、また植物の世話をしながらリハビリにならないか」。ご本人やご家族から、こうしたご相談をいただくことがあります。植物を種まき・水やり・植え替え・収穫といった作業を通して育て、心身の状態を支えようとする取り組みは、園芸療法(ホルティカルチャーセラピー)と呼ばれます。

結論から正直にお伝えします。脳卒中の方だけを対象にした質の高い研究はごくわずかで、園芸療法の効果を強く言い切れる段階ではありません。慢性の病気をもつ幅広い人を対象にした研究をまとめると、気分や心の健康の面で小さめの良い変化が示唆される一方、身体機能や全体的な健康への効果ははっきりしていません。この記事では、システマティックレビューと脳卒中の方を含む研究をもとに、分かっていることと限界を整理します。

SECTION 01

園芸療法とは

園芸療法は、植物や園芸作業を用いて、心身の状態や生活の質を支えようとする活動です。土づくり、種まき、水やり、剪定、寄せ植え、収穫、飾りつけなど、目的に合わせて作業を選びます。屋外の畑や庭で行うこともあれば、室内やベランダ、プランターや高さのある花壇(レイズドベッド)を使って座って行うこともあります。

園芸療法で期待されている要素
・手や腕を使う作業、立ち座りやしゃがみ込みなど、体を動かす機会になる
・「世話をする対象」ができ、役割や生活のはりにつながりうる
・外の光や緑にふれる時間になる
・家族や仲間と一緒に取り組む場になりうる

植物を育てる活動は、その人にとって意味のある作業(趣味・役割)の一つとして、作業療法でも取り上げられることがあります。趣味や余暇の再開全般については脳卒中後の趣味・余暇活動の再開について解説した記事もご覧ください。

脳卒中後の本人が座って鉢植え作業を行い、作業療法士が安全を見守る場面
座位や机上の鉢植えから始めると、姿勢と疲れを確認しながら活動量を調整しやすくなります。
SECTION 02

研究でわかっていること

園芸療法のランダム化比較試験をまとめたレビュー(2014年)

園芸療法のランダム化比較試験を集めたレビューです。条件を満たした試験は4件で、対象は認知症、統合失調症や双極性障害・重度のうつなどの精神疾患、施設で暮らす虚弱な高齢者、そして脳卒中後の片麻痺の方でした。これらの研究では、心の健康や行動に関する指標の一つ以上で有意な結果が報告されています。ただし、割り付けの方法や盲検化、解析の記載に不備があり、研究の質は相対的に低いこと、対象がばらばらであることから、著者らは「証拠は不十分」と結論づけています1

自然を用いたリハビリの脳卒中ランダム化比較試験(NASTRU・2020年・101人)

脳卒中後の方101人を、通常ケアに自然環境を使ったリハビリを加える群と、通常ケアのみの群に割り付けた試験です。8か月後・14か月後に、脳卒中後の疲労、日常の活動の価値の感じ方、障害度、生活の質、不安、抑うつを評価しました。両群とも改善しましたが、いずれの指標でも群間に統計的に意味のある差は見られませんでした。介入群では疲労のスコアが目安の基準値を下回りましたが、対照群では下回りませんでした。著者らは「実施可能で受け入れられやすい。より大規模な試験が必要」としています2

グループでの園芸活動のシステマティックレビュー・メタアナリシス(2023年)

地域で暮らす成人を対象にした、グループでの園芸活動のランダム化比較試験24件(完了20件・実施中4件)をまとめた研究です。メタアナリシスでは、園芸活動がウェルビーイング(心地よさ・満足感)を高め、抑うつの症状を減らす可能性が示されました。ただし、研究間のばらつきが大きく、多くの研究で偏りのリスクがはっきりしないため、統合した効果には不確かさが残ると述べられています3

園芸活動と健康領域のシステマティックレビュー・メタアナリシス(2025年)

慢性の病気をもつ成人を対象に、園芸活動や園芸療法の健康への効果を調べた研究23件(ランダム化比較試験13件・準実験10件、計4535人)をまとめたものです。統合した効果は、心の健康(標準化平均差−0.31、95%信頼区間−0.97〜0.34)、全体的な健康(−0.25、−0.62〜0.11)、身体の健康(−0.08、−0.20〜0.05)で、いずれも信頼区間が「差なし」をまたいでいます。一方、非常に質の低い研究を除いた感度分析では心の健康に差がみられました。研究間のばらつきは非常に大きく、GRADEは心の健康が中等度、全体的な健康が低、身体の健康が非常に低と評価されているため、脳卒中の方にそのまま当てはめることはできません4

関連する考え方:環境エンリッチメント
園芸療法と近い発想に「環境エンリッチメント(活動や刺激の多い環境を整える)」があります。脳卒中などの非進行性の脳損傷を対象にしたコクランレビュー(2021年)では、研究数が少なく、身体活動量が増える可能性は示唆されるものの、生活動作や気分への効果ははっきりしないとされています5

これらをまとめると、「園芸療法・園芸活動は、幅広い対象で気分やウェルビーイングの面で小さめの良い変化が示唆される。ただし脳卒中の方に限った質の高い研究はごくわずかで、身体機能や生活動作への効果は確かめられていない」というのが現時点の姿です。

SECTION 03

エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと

エビデンスの質と限界
この分野の研究は数が少なく、対象者(認知症、精神疾患、高齢者、脳卒中など)も、介入の内容・時間・期間もばらばらです1,4。2025年レビューでも、心の健康の統合解析は異質性I²=100%で、全体的・身体的健康もI²=89%以上でした4。割り付けや盲検化、解析方法の記載に不備がある研究が多く、偏りのリスクが残ります1,3,4。プラセボ(見せかけの活動)を用意しにくいため、「植物の作業そのものの効果」なのか、「人と関わる時間」「外に出る機会」「期待」の効果なのかを切り分けにくい面もあります。脳卒中の方だけを対象にした試験はごく少数です1,2
まだ分かっていないこと
脳卒中後のどの時期・どの状態の方に向くのか、1回の時間・頻度・続ける期間の目安、屋外作業と室内作業やプランター作業で差があるのか、通常のリハビリに上乗せする意味がどの程度あるのか、いずれもはっきりしていません。効果がどのくらい持続するか、歩行・上肢機能・生活動作といった身体面の指標にどう影響するかも、十分な検証がありません。

つまり、園芸療法は「これをすれば身体機能が良くなる」と言える治療ではありません。研究で示されているのは、主に気分やウェルビーイングの面での小さめの手応えです。植物を育てる活動が本人にとって意味のある作業であれば、通常のリハビリや運動と併せて、生活のはりや活動の機会として取り入れる、という位置づけが現実的です。気分の落ち込みについては脳卒中後の気分の落ち込みとうつについて解説した記事も参考になります。

SECTION 04

何が変わりやすく、何は変わりにくいか

研究で良い変化が示唆されているもの
・ウェルビーイング(心地よさ・満足感)3
・抑うつの症状(不確かさは残る)3,4
・日々の活動に価値を感じる感覚、生活のはり(脳卒中を含む小規模研究で示唆)2
変わりにくい・はっきりしないもの
・歩行、上肢機能、生活動作といった身体面の指標2,4,5
・障害度や生活の質の全体的なスコア2
・効果がどのくらい持続するか、脳卒中の方に限ったときの大きさ1,2
SECTION 05

どんな人に向いているか・注意が必要な人

取り入れやすい方
・もともと園芸や家庭菜園に親しみがあり、また関わりたい気持ちがある方
・座ったり立ったりしながら、短時間の手作業に取り組める方
・屋外やベランダに出る機会を増やしたい方
・家族や仲間と一緒に取り組める環境がある場合
⚠ 注意が必要な方・確認したいこと:
・屋外の土や芝生、傾斜や段差はバランスを崩しやすく、転倒に注意が必要です。まずは平らな場所や座位での作業から始めます
・しゃがみ込み・中腰・力を入れる作業は血圧が上がりやすく、高血圧や心臓の病気がある方は主治医に相談してください
・はさみやスコップなど刃物・とがった道具でのけがに注意します。感覚が鈍い側の手では特に気をつけます
・夏場の暑さと日射、水分不足に注意します。疲れやすい時期は短時間にとどめます
・土や肥料には細菌が含まれます。手袋を使い、傷がある場合は避け、破傷風の予防接種歴が不明なときや免疫を抑える治療中の場合は主治医に相談してください
進め方は主治医・リハビリ専門職と相談し、作業内容と時間を一緒に決めてください。
SECTION 06

生活への取り入れ方の目安

研究で「最適な時間・頻度・期間」は定まっていません1,4。無理のない範囲で、続けられる形にすることが優先です。

取り入れ方の工夫
・高さのある花壇やテーブル、プランターを使い、座ったままでも作業できるようにする
・柄が太い・軽い・片手で扱える道具を選ぶ。滑り止めや自助具も活用する
・1回は短時間から始め、疲れ・ふらつき・痛みが出たら休む。作業を細かく区切る
・水やりや観察など負担の軽い作業を日課に組み込み、力のいる作業は体調の良い時間に行う
・できた作業と体調を記録し、リハビリ専門職と内容を見直す

体を動かす機会という点では、園芸だけに頼らず、歩行や有酸素運動などと組み合わせる考え方が現実的です。運動と認知機能の関係については脳卒中後の運動と認知機能について解説した記事で扱っています。

脳卒中後の本人が高さのある花壇へ水やりを行い、作業療法士が安全を確認する場面
高さのある花壇や椅子を使い、しゃがみ込みや長時間の中腰を避けます。
SECTION 07

個別支援で確認する視点

個別支援で確認する視点

当施設のような作業療法士による訪問リハビリでは、園芸を「その人にとって意味のある作業」の一つとして、生活動作や趣味の再獲得の文脈で取り上げます。具体的には、自宅の庭やベランダの安全(動線、段差、しゃがむ場所、日陰、水道までの経路)を一緒に確認し、片手でも扱える道具や高さのある花壇などの環境を整え、作業を本人の体力に合わせて細かく分けます。園芸そのものを通常のリハビリや運動の代わりにはせず、活動の機会・生活のはりとして位置づけ、疲労・血圧・転倒などの安全面は主治医・リハビリ専門職と連携して確認します。

脳卒中後の本人が家族と一緒に卓上のハーブを手入れする場面
園芸は身体機能を変える治療の代わりではなく、本人にとって意味のある活動や交流の機会として考えます。
免責事項
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療、リハビリテーションを代替するものではありません。園芸活動を取り入れる際は、体調やリスクに応じて、担当の医師・リハビリ専門職に相談してください。掲載した研究データは執筆時点のもので、今後の研究によって解釈が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
園芸など、大切にしてきた活動の再開について、身体の状態を一緒に確認しながら相談できます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
FAQ

よくある質問

Q. 園芸療法で麻痺や歩行は良くなりますか?
現時点の研究では、歩行や上肢機能、生活動作といった身体面への効果ははっきり示されていません2,4,5。園芸は身体機能へのリハビリの代わりにはならず、通常の運動やリハビリと併せて考える活動です。
Q. 気分の面では役立ちますか?
幅広い対象の研究をまとめると、ウェルビーイングを高め、抑うつの症状を減らす可能性が示唆されています3,4。ただし研究間のばらつきが大きく、不確かさが残ります。強い落ち込みが続く場合は主治医に相談してください。
Q. 脳卒中の人向けの研究はありますか?
ごく少数です。園芸療法のレビューに片麻痺の方を対象にした研究が1件含まれ1、自然を用いたリハビリの脳卒中試験(NASTRU)では群間に有意差はありませんでした2。脳卒中に限った結論を出せる段階ではありません。
Q. 家でやるとき、まず気をつけることは?
転倒と血圧、暑さ、道具でのけが、土からの感染です。平らな場所や座位で、短時間から始め、手袋を使い、傷があるときや免疫を抑える治療中は主治医に相談してください。
Q. どのくらいの時間・頻度がよいですか?
研究で最適な時間・頻度は定まっていません1,4。1回は短時間から、疲れやふらつきが出たら休む、続けられる形にする、というのが目安です。
Q. 訪問リハビリで園芸を取り入れてもらえますか?
園芸がその人にとって大切な活動であれば、生活動作や趣味の再獲得の一環として、安全確認と道具・環境の調整をしながら取り入れることがあります。通常のリハビリの代わりではなく、活動の機会として位置づけます。
REFERENCES

参考文献

1. Kamioka H, et al. Effectiveness of horticultural therapy: a systematic review of randomized controlled trials. Complement Ther Med. 2014. PMID: 25440385.

2. Pálsdóttir AM, et al. The nature stroke study; NASTRU: A randomized controlled trial of nature-based post-stroke fatigue rehabilitation. J Rehabil Med. 2020. PMID: 32105334.

3. Briggs R, et al. The effectiveness of group-based gardening interventions for improving wellbeing and reducing symptoms of mental ill-health in adults: a systematic review and meta-analysis. J Ment Health. 2023. PMID: 36151719.

4. Wang F, et al. Effect of gardening activities on domains of health: a systematic review and meta-analysis. BMC Public Health. 2025. PMID: 40121431. PMCID: PMC11929992.

5. Qin H, et al. Environmental enrichment for stroke and other non-progressive brain injury. Cochrane Database Syst Rev. 2021. PMID: 34811724. PMCID: PMC8609277.
公開日:2026年9月1日/最終更新:2026年9月1日