
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「重い負荷はまだ怖いけれど、麻痺した脚の力をつけたい」「軽い運動でも筋力アップにつながる方法はないか」——これは、脳卒中後のリハビリでよく聞かれる願いです。近年、専用のカフ(帯)で手足のつけ根を軽く締めながら、軽い負荷で運動する「血流制限トレーニング(BFR、いわゆる加圧トレーニング)」が、脳卒中リハビリの分野でも研究されるようになってきました。この記事では、脳卒中後のBFRについて、研究で分かってきたことと、まだはっきりしないことを、患者さんとご家族に向けて正直に整理します。結論から言うと、軽い負荷でも筋力や歩行の指標に良い変化が示された研究は増えていますが、脳卒中の方に絞った質の高い証拠はまだ限られ、必ず専門職の管理のもとで安全に行うことが前提の方法です。

・神経疾患のリハビリを対象に37件の研究(963人、うち脳卒中639人)をまとめた分析では、BFRを加えることで筋力の指標が高まり(効果量SMD 0.75)、下肢の運動機能(Fugl-Meyer)・バランス・日常生活動作(ADL)の指標も良い変化を示しました1。
・脳卒中の下肢に絞って11件の研究(522人)をまとめた分析でも、バランス(Berg Balance Scale)と6分間歩行距離で、通常のリハビリに上乗せしたBFR群が良い結果を示しました2。
・重大な有害事象(血栓など)は報告されていませんが、軽い皮下出血や筋肉痛などが一部で見られ、質の高い研究はまだ少ないのが現状です1,3。
・BFRは締め方や圧の管理を誤ると負担になりうるため、必ずリハビリ専門職の管理のもとで行い、自己流では実施しないでください。
血流制限トレーニング(BFR:Blood Flow Restriction)は、専用のカフや帯を手足のつけ根(太ももや腕のつけ根)に巻き、動脈は完全には止めずに静脈の戻りを適度に制限した状態で、軽い負荷の運動を行う方法です。一般には最大筋力(1RM)の20〜40%程度という、通常の筋トレより軽い負荷が使われます1。「加圧トレーニング」という言葉で知られている方法も、この考え方の一つです。
なぜ軽い負荷でも筋肉に働きかけられると考えられているかというと、血流を適度に制限することで筋肉が疲れやすい状態になり、重い負荷をかけたときに近い刺激が得られるためだと説明されています1。脳卒中の後は、麻痺や痛み、体力の低下などから重い負荷の筋トレが難しいことも多く、「軽い負荷で筋肉に働きかけられるなら」という点で注目されています。麻痺した脚に負荷をかける運動としては、脳卒中後の筋力トレーニングについて解説した記事もあわせて参考にしてください。
結論から正直にお伝えすると、「軽い負荷のBFRでも、筋力や歩行の指標に良い変化を示した研究が増えている」一方で、「脳卒中の方だけを対象にした質の高い証拠はまだ限られる」というのが現状です。代表的な研究をみていきます。
脳卒中の下肢の問題に絞った系統的レビュー・メタアナリシス(2026年)では、11件の研究・522人が分析されました。通常のリハビリに加えてBFRを行った群は、バランス(Berg Balance Scale、平均差4.52)と6分間歩行距離(平均差9.73m)で、通常リハビリのみの群より良い結果を示しました。さらに、4週間を超えて続けた場合には、下肢の運動機能(Fugl-Meyer下肢、平均差4.38)や日常生活動作(改訂Barthel指数、平均差10.50)でも差がみられました2。立ち上がりや歩行の土台となる下肢の力については、脳卒中後の立ち上がり練習について解説した記事もあわせて参考になります。

研究をふまえると、BFRは「軽い負荷でも下肢の筋力やバランス、歩行の指標に良い変化を示しうる、選択肢の一つ」と考えるのが現実的です1,2。重い負荷の筋トレが難しい方にとって、軽い負荷で筋肉に働きかけられる可能性は魅力的です。とくに通常のリハビリに「上乗せ」する形で研究されている点は、日々の練習に組み込みやすいという意味があります2。
一方で、「BFRをすれば誰でも確実に力が戻る」ことは、現時点の質の高い研究でははっきり示されていません2。効果には個人差があり、どのくらいの圧や負荷が適切かは、血圧・血管の状態・持病などによって変わります。カフの圧が強すぎたり、締める時間が長すぎたりすると、しびれや痛み、循環への負担につながる可能性があるため、自己判断で行う運動ではなく、専門職が状態を確認しながら管理することが前提です。
研究の対象を見ると、重い負荷の運動が難しく、下肢の筋力やバランス、歩く力を保ちたい脳卒中の方が想定されています1,2。ただし、BFRは血流を一時的に制限する方法のため、向き・不向きの見極めがとても大切です。
研究で用いられた方法には幅がありますが、目安としては、最大筋力の20〜40%程度という軽い負荷で、1回あたり20分前後、週に複数回、数週間から12週間ほど続ける、という形が多く報告されています1。カフの圧は研究によって大きく異なり(およそ70〜250mmHg程度の報告が多い)、一人ひとりの体格や血圧、血管の状態に合わせて専門職が調整します2。これはあくまで研究の目安であり、実際にどの圧・負荷・回数が適切かは個別に決める必要があります。
大切なのは、いきなり強い圧や長い時間で行わず、体調や麻痺の状態、血圧などを確認しながら、無理のない範囲から始めることです。運動中にしびれや強い痛み、気分不良があればすぐに中止します。BFRは単独で行うより、通常のリハビリや歩行練習と組み合わせて考えられている方法です2。有酸素運動や体力づくりとの組み合わせについては脳卒中後の有酸素運動について解説した記事も参考になります。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Effects of blood flow restriction therapy for lower limb dysfunction in stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Frontiers in Neurology. 2026. DOI:10.3389/fneur.2026.1814592. PMID:42180217. PMCID:PMC13193809. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42180217/
3. Safety and efficacy of blood flow restriction exercise in individuals with neurological disorders: A systematic review. Scandinavian Journal of Medicine and Science in Sports. 2024. DOI:10.1111/sms.14561. PMID:38268066. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38268066/
4. The effects of low-intensity resistance training with blood flow restriction versus traditional resistance exercise on lower extremity muscle strength and motor function in ischemic stroke survivors: a randomized controlled trial. Topics in Stroke Rehabilitation. 2024. DOI:10.1080/10749357.2023.2259170. PMID:37724785. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37724785/
