
この記事の結論
「父は家に帰れるのだろうか」「施設を考えるように言われたが、どう判断すればいいか分からない」。退院後の生活の場について不安を感じているご家族に向けて、研究を整理します。
この記事では、特定のリハビリ方法の紹介ではなく、「脳卒中のあと、自宅に戻れるか、施設入所になるかは何と関係しているのか」に焦点を当て、研究で分かっていることと限界を整理します。
目次
脳卒中後の「退院先」とは?
退院先とは、脳卒中で入院していた病院を退院したあとに生活する場所のことで、ご自宅のほか、介護施設などの長期入所の施設があります1。
研究では、急性期の病院やリハビリ病院から退院するときに、発症前は自宅で暮らしていた方が新たに長期入所の施設(ケアホーム・ナーシングホームなど)へ移ったかどうかが調べられています1,2。施設で受けられるケアの内容は国や地域によって大きく異なるため、研究結果をそのまま日本の施設に当てはめることはできません1。

どのくらいの人が施設に移る?
結論から言うと、研究によって大きな幅がありますが、退院した方のうち施設へ移った割合は中央値で約6人に1人(17%)でした1。
脳卒中で入院した成人を対象に、退院時に新たに長期入所の施設へ移ることと関係する要因を調べた18件の研究をまとめた分析です1。研究はヨーロッパ10件、北米6件、東アジア2件(日本の研究を含む)で行われていました1。
生きて退院した方のうち、新たに施設へ移った割合は研究によって7〜39%と幅があり、中央値は17%でした1。
ロンドン南部の地域で脳卒中を経験した方を24年間にわたって登録した研究です2。退院先が分かった生存者4,172人のうち484人(12%)が介護施設群に分類されました。この研究では退院時に加え、発症3か月時点での介護施設居住も分類に含みます2。
施設へ移った方の割合は、1995〜2000年の24%から、2013〜2018年には5%まで、約80%減っていました2。研究者らは、脳卒中後に重い障害が残る方の割合が減ったことや、専門病棟での治療、退院後の地域での支援が広がったことなどが関係している可能性を挙げています。ただし同時期の施設の受入床数の減少も考えられ、治療や支援の効果だけで説明できるとは限りません2。
施設入所と関係していた要因は?
複数の研究で一貫して関係していたのは、年齢が高いことと、脳卒中が重いことでした1,2。
・一人暮らし:2件の研究では関係なし1、ロンドンの研究では関係あり2
・入院期間の長さ(脳卒中の重さを考慮した研究では関係なし)1
リハビリ病院の入院時の状態に注目した45件の研究(約20万人)のまとめでも、入院時に身の回りの動作や座る・移る・歩くといった動作の自立度が高いほど、自宅へ退院しやすいことが報告されています3。生活動作の評価については、FIMとバーセルインデックスについて解説した記事で詳しく紹介しています。
入院中に起こりやすい急な混乱(せん妄)と、その時期のケアについては脳卒中後のせん妄と入院中のケアについて解説した記事でまとめています。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないことは?
18件の研究の分析では、8件に対象者の選び方による偏りのリスクがあり、まとめた結果の質は「中等度〜非常に低い」と評価されています1。特に、施設へ移る可能性が高い「以前にも脳卒中を経験した方」などを対象から除いた研究があったことが、偏りの主な原因として挙げられています1。また、所得の低い国・中所得の国の研究は含まれていませんでした1。
ロンドンの研究は1つの地域のデータで、9.4%の方は退院先の記録がなく、認知症などの情報も十分に分析できなかったことが限界とされています2。いずれも観察研究のため、ここで挙げた要因が退院先を決める原因かどうかまでは分かりません1,2。
退院先を考えるとき、何を確認すればいい?
退院先は検査の点数だけで決まるものではなく、本人の体の状態、ご家族の状況、住まいの環境、利用できる支援を合わせて考えることが大切です1。研究で関係していた要因も参考に、次のような点を医療者と一緒に確認しておくと話し合いが進めやすくなります。
住まいの環境の整え方は脳卒中後の住宅改修と環境調整について解説した記事で、退院後の生活への移り方は脳卒中後の退院支援と在宅移行について解説した記事で紹介しています。

退院先はいつ頃までに決まる?
研究では、発症後早い時期の状態が退院先の手がかりとして使われていますが、その後の回復によって状態が変わることもあります2。
ロンドンの研究でも、生活動作の自立度は発症から5〜10日の時点で測られており、退院までに変化した可能性があることが限界として挙げられています2。早い時期の点数だけで決めつけず、入院中の変化を見ながら、医療者と何度か話し合っていくことが現実的です。
施設への入所は「リハビリがうまくいかなかった」という意味ではありません。ご本人の安全や、ご家族の生活を守るための選択肢の一つです。退院後も、生活の場に合わせて体の状態や過ごし方を見直していくことができます。
作業療法士の視点
研究のまとめからは、脳卒中で入院し退院した方のうち施設へ移る割合は中央値17%で、年齢が高いこと、脳卒中が重いこと、発症後早い時期の生活動作の自立度が低いことなどが関係していました1,2。一方で、本人や家族の希望、介護の体制といった大切な要因は、ほとんど研究されていません1。
大切なのは、点数や年齢だけで判断せず、ご本人の体の状態、ご家族の思い、住まいの環境、使える支援を合わせて、医療者・介護の専門職と一緒に考えていくことだと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。退院先や介護サービスの利用については、入院中の病院の医師・医療ソーシャルワーカー・ケアマネジャーなどにご相談ください。治療や運動の内容を始める・変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点(2026年10月)のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. 脳卒中のあと、施設に入る人はどのくらいいますか?
A. 18件の研究のまとめでは、退院した方のうち新たに施設へ移った割合は7〜39%で、中央値は17%でした1。国や地域、病院の種類によって大きく異なるため、あくまで目安です。
Q. 自宅に戻れるかどうかは、何で決まりますか?
A. 研究では、年齢が高いこと、脳卒中が重いこと、発症後早い時期の生活動作の自立度が低いことなどが関係していました1,2。ただし本人や家族の希望、介護の体制も大切な要素で、研究ではほとんど調べられていません1。
Q. 一人暮らしだと自宅に戻るのは難しいですか?
A. 一人暮らしと施設入所の関係は、研究によって結果が分かれています1,2。一人暮らしかどうかだけで決まるわけではなく、体の状態や使える支援を含めて医療者と相談することが大切です。
Q. 入院中の点数が低いと、自宅には戻れませんか?
A. 発症後早い時期の生活動作の点数は手がかりの一つですが、その後の回復で変わることもあります2。早い時期の点数だけで決めつけず、入院中の変化を見ながら医療者と話し合いましょう。
Q. 認知症があると施設入所になりやすいですか?
A. 認知症やせん妄を調べた4件の研究では、いずれも施設へ移る割合が高い方向でした1。ただし研究数が少なく、認知機能の程度による違いまでは十分に分かっていません1。
Q. 施設に入ったあとも、リハビリは続けられますか?
A. 施設でも、体の状態に合わせて動作の練習や過ごし方の工夫を続けることはできます。受けられるリハビリの内容は施設によって異なるため、入所前に施設の担当者やケアマネジャーに確認しておくと安心です。