
先に結論
脳卒中後の小規模な研究では、練習した活動だけでなく練習していない活動の出来ばえにも良い変化が報告されています1。ただし、研究数が少なく参加者も限られており、確かな結論を出すには至っていません3。
「リハビリで練習した動作はできるようになったけれど、家に帰ると別のことで困る」「練習していないことにも応用できる力をつけたい」――脳卒中のあと、こうした疑問をもつ方に向けて整理します。この記事では、本人が自分で目標を決め、うまくいかない原因と解決策を自分で見つけていく作業療法の方法「CO-OP(コーアップ)アプローチ」について、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを作業療法士の立場から整理します。結論から言うと、脳卒中後の小規模な研究では、練習した活動だけでなく練習していない活動の出来ばえにも良い変化が報告されています1。ただし、研究数が少なく参加者も限られており、確かな結論を出すには至っていません3。
この記事でわかること
CO-OPアプローチとはどんな方法か
CO-OP(Cognitive Orientation to daily Occupational Performance)は、もともと発達性協調運動障害のある子どもたちのために作られた作業療法の方法で、その後、脳卒中や頭部外傷のある大人にも使われるようになりました1。「本人が大切だと思う日常の活動を、本人が考えた方法で、できるようにしていく」ことを目指します1。
中心になるのは「目標(GOAL)→計画(PLAN)→実行(DO)→確認(CHECK)」という4つのステップです1。たとえば「シャツのボタンを留めたい」という目標なら、どこでつまずいているかを一緒に観察し、「鏡の前で下から留める」「ボタンの穴を先に広げておく」などの計画を本人が考え、やってみて、うまくいったかを自分で確かめます。うまくいかなければ計画を変えて、もう一度試します。
セラピストは答えを先に教えるのではなく、質問やヒントで本人が解決策に気づけるよう手助けします。これを「ガイド付き発見」と呼びます1。練習した活動だけでなく、この考え方そのものを身につけることで、練習していない活動にも応用できるようになることを狙っています1。目標の立て方については、脳卒中後の協働的な目標設定について解説した記事もあわせてご覧ください。

研究では何が分かっているか
先にまとめると、脳卒中後のCO-OPの研究は小規模なものが中心ですが、通常の作業療法と比べて、本人が選んだ活動の出来ばえに良い変化が報告されています。一方で、研究数が少ないため、結果はまだ一貫していません。
発症から3か月以内の脳卒中の方35名(26名が最後まで参加)を、通常の外来作業療法を受けるグループと、作業療法をCO-OPに置き換えるグループに分けた研究では、本人が選んだ活動の出来ばえを動画で評価したところ、練習した活動で中程度、練習していない活動で大きな差がCO-OPに有利にみられました(効果量0.5と1.2)1。3か月後の追跡でも、練習した活動・練習していない活動ともに大きな差が報告されています(効果量1.6と1.1)1。一方、本人が感じる出来ばえや満足度(COPM)の差は小さいものでした1。
同じ参加者で、腕の動き・注意の切り替えなどの認知機能・脳卒中の影響の感じ方を調べた分析では、練習直後の手の機能の自己評価や注意の切り替えの検査で、CO-OPに中程度有利な結果が報告されました2。腕の動きの検査(ARAT)での差は小〜中程度でした2。ただし、少人数で統計的な検証を目的としていない研究であり、著者ら自身も今後の研究で確かめる必要があると述べています2。
CO-OPと同じように「自分で目標を決めて解決策を考える」練習を、認知機能の低下がある入院中の脳卒中の方に行った予備的な研究(各群5名、ランダム化なし)では、6か月後の日常生活動作の評価(FIM)が、比較グループより良い結果でした4。ただし、参加者はごく少数で、グループ間で年齢にも差があったため、結果は慎重に受け止める必要があります4。
脳卒中の方を対象としたランダム化比較試験を集めたシステマティックレビューでは、7件(ランダム化比較試験4件、予備的な試験3件)が見つかりましたが、練習した目標・練習していない目標への結果は一貫せず、研究数と方法上の限界から確かな結論は出せないとされています3。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
CO-OPは「頭で考えるだけ」の練習ではなく、実際に活動を行いながら進めます。歩く、台所に立つといった転倒の危険がある活動を目標にする場合は、安全を確保できる環境で、専門職と一緒に練習することが大切です。また、研究の多くは中等度以上の失語症や認知機能の低下がある方を対象から外していました1。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
CO-OPの研究には、次のような限界があります。
どのような方に最も合うのか、何回・どのくらいの期間行うのがよいのかは、まだ分かっていません13。練習していない活動にまで良い変化が広がるかどうかは、この方法の大切な狙いですが、この点を調べた研究はまだ少ないと指摘されています3。長期的に生活や社会参加がどう変わるのかも、1年以上の追跡を行う研究が必要とされています1。
研究全体では一定の傾向がありますが、参加者の状態や比較の方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくいか
本人が選んだ活動を実際に行ったときの出来ばえ(練習した活動・練習していない活動)で、良い変化が報告されています1。自分にもできるという感覚(自己効力感)でも中程度の差がみられました1。
本人が感じる出来ばえや満足度の差は小さく1、腕の動きの検査での差は小さく、3か月後には小さな差にとどまりました2。社会参加の実際の広がりは、短い追跡期間では十分に確かめられていません1。
つまり、CO-OPは筋力や腕の動きを直接きたえる方法というより、「困っている活動を自分で工夫してできるようにする力」を育てる方法と考えるのが実際に近いと思います。作業療法全体の考え方については、脳卒中後の作業療法について解説した記事で紹介しています。
どんな人に検討され、どんな人は注意が必要か
研究で対象になってきたのは、脳卒中のあと、日常生活で「できるようになりたい具体的な活動」があり、会話で目標や計画を話し合える方です1。退院後、自宅や地域での生活に戻っていく時期の方が多く含まれていました1。パーキンソン病の方を対象にした小規模な研究でも、自宅で行う形で実施できたと報告されています5。
中等度以上の失語症がある方や、認知機能の検査で低下が大きい方は、研究の対象から外れていました1。計画を立てたり振り返ったりすることが難しい場合は、ご家族と一緒に取り組む、手順を紙に書いて残すなどの工夫が必要になります。段取りや注意の切り替えの難しさについては、脳卒中後の遂行機能障害と認知リハビリについて解説した記事も参考になります。

回数・頻度・期間の目安
2015年の研究では、CO-OPは1回45分、おおむね週2回、最大10回まで行われていました12。最初の回で「目標→計画→実行→確認」の考え方を学び、本人が選んだ目標の中から3つに絞って練習しています1。
パーキンソン病の方の研究では、自宅で週2回・10週間(計20回)行い、宿題の実施率は平均91%でした5。入院中の脳卒中の方の予備的な研究では、1回30〜40分を週5日、入院期間中に行っていました4。最適な回数や期間は分かっておらず、上記はあくまで研究での一例です3。
作業療法士の視点
CO-OPの考え方は、訪問リハビリのように「実際の生活の場」で練習できる環境と相性が良いと感じています。ただ、研究はまだ小規模で、「この方法を行えば生活が大きく変わる」とは言えません。本人が大切にしている活動を一緒に確認し、その方に合った練習方法を組み合わせていくことが大切だと考えています。


