
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「歩幅が小さくなってきた気がする」「すくみ足が心配」「スマートウォッチや活動量計で歩行の様子を見える化できないか」——パーキンソン病のご本人やご家族から、こうしたご相談を受けることが増えています。加速度計やジャイロセンサーを使ったウェアラブルデバイスは、歩行状態の記録や、その場でのリズム提示(キューイング)に使われる技術として研究が進んでいます。この記事では、パーキンソン病におけるウェアラブルデバイスの「モニタリング用途」と「フィードバック用途」について、研究で分かっていることと、まだはっきりしないことを正直に整理します。結論から言うと、歩幅など一部の指標にはわずかな変化が示唆される一方、歩く速さ全体やすくみ足そのものへのはっきりした変化を示す段階には至っておらず、過度な期待は禁物というのが現時点の研究状況です。

・すくみ足の質問票の点数や運動症状全体の重症度(UPDRS-III)にも、はっきりした差は示されていません1。
・バランス指標(Berg Balance Scaleなど)ではわずかに良い傾向がみられましたが、信頼区間がゼロをまたぐ境界的な結果でした1。
・すくみ足や転倒の検知に使うセンサーは、研究によって感度・特異度に幅があり、多くは実験室的な環境で確かめられています2,3。
・ウェアラブルデバイスは診断や治療の代わりにはなりません。転倒を繰り返している方、すくみ足が強い方は、自己判断で使用を続けず、主治医・リハビリ専門職に相談してください。
ウェアラブルデバイスとは、体に装着する小型のセンサー機器のことです。パーキンソン病の分野では、加速度計やジャイロスコープ(傾きや回転を感知するセンサー)を組み合わせたものが多く使われます。大きく分けると、使われ方には二つの方向性があります。一つは、歩行速度や歩幅、すくみ足の回数などを記録し、日常生活の中での変化を「見える化」する「モニタリング用途」です。もう一つは、振動・音・光などでリズムやタイミングを伝え、その場で歩き出しや歩行を助ける「フィードバック用途(キューイング機器)」です1。
フィードバック用途の考え方は、音楽やメトロノームのリズムに合わせて歩く「リズム聴覚刺激(RAS)」と近い部分があります。RASの詳しい研究や進め方については、パーキンソン病のリズム聴覚刺激(RAS)について解説した記事もあわせてご覧ください。ウェアラブルデバイスは、こうしたリズム提示を体に装着した機器で行う点が特徴です。
結論から正直にお伝えすると、「ウェアラブルデバイスを使えば歩行が大きく変わる」というほどはっきりした証拠は、現時点ではまだ確立していません。国際生活機能分類(ICF)の枠組みで整理された2026年のシステマティックレビュー・メタ分析(9件のランダム化比較試験・合計260名が対象)をみていきます1。
すくみ足の質問票(FOG-Q・New FOG-Q)の点数にも、統計的に意味のある差は示されず(標準化平均差-0.24、95%信頼区間-0.72〜0.24)、運動症状全体の重症度を表すUPDRS-III(パーキンソン病統一評価尺度運動項目)も、わずかに良い方向の傾向はあるものの信頼区間がゼロをまたぎました(平均差-2.16点、95%信頼区間-4.39〜0.07)1。バランス指標(Berg Balance Scale、Mini-BESTest、POMAバランス項目)をまとめた結果では、標準化平均差0.48(95%信頼区間-0.02〜0.98)と、良い方向の傾向はみられるものの、境界的な結果にとどまりました1。生活の質に関するパーキンソン病質問票(PDQ)、EQ-5D効用値、転倒への不安を測るFES-I(転倒に対する自己効力感尺度)についても、意味のある改善は示されませんでした1。
研究をまとめると、歩幅のような細かい指標や、静止立位でのふらつき(重心動揺)といった特定の項目には、わずかな変化が示唆される一方、歩く速さ全体やすくみ足そのもの、生活の質といった「まとまった変化」までは、現時点の研究では裏付けが弱いという傾向がみえてきます。
ウェアラブルデバイスのもう一つの使い方が、すくみ足や転倒を検知する「モニタリング」です。この分野では2つの時期のシステマティックレビューがあり、傾向の変化がみえます。
2017年のシステマティックレビュー(27件、すくみ足関連23件・転倒関連4件)では、すくみ足検出の感度は73〜100%、特異度は67〜100%と、研究によって大きな幅がありました。転倒検出については報告している研究自体が少なく、十分なデータがそろっていません。著者らは、多くの研究が比較的小規模で、実験室的な環境で行われている点を限界として挙げています2。
2023年のシステマティックレビュー(75件、すくみ足検出72件・転倒検出3件)では、感度の中央値は86%、特異度の中央値は92.9%と報告されました。センサーの装着部位は大腿部と足首が最も多く、機械学習を使った検出アルゴリズムの採用が近年増加している傾向が示されています。一方で、すくみ足を誘発する条件の統一基準がないこと、実験室ではなく自由な生活環境での検証がまだ少ないことが、今後の課題として指摘されています3。
つまり、数値としての検出精度は決して低くありませんが、その多くは実験室的な条件や、あらかじめ決められた課題の中で確かめられたものです。ご自宅や地域での日常生活のなかで、同じ精度がそのまま得られるとは限らない、という点は正直にお伝えしておきたいところです。

これまでの研究の対象者は、Hoehn&Yahr重症度分類でおおむね1〜3程度、つまり自立して歩ける段階の方が中心です1。歩行速度の低下やすくみ足を自覚し始めている方、日々の歩行状況を数値として専門職と共有したい方などで、検討される場面があります。ウェアラブルデバイスは単独で使うより、歩行練習や二重課題トレーニングなど、他の運動療法と組み合わせて使われることが多く、二重課題トレーニングの考え方についてはパーキンソン病の二重課題トレーニングについて解説した記事で詳しく整理しています。
これまでの研究では、病院・自宅・地域など、さまざまな場面でウェアラブルデバイスが使われており、理学療法士や研究者の指導のもとで数週間単位の訓練プログラムに組み込まれる例が多くみられます1。ただし、研究ごとに使用頻度・1回あたりの時間・トレーニング期間には幅があり、「これが最適な使い方」と断定できる決まった型は、現時点では定まっていません。
また、「モニタリング目的」と「その場でのフィードバック目的」では、使い方そのものが異なります。モニタリング目的では日常生活の中で継続的に装着して記録を蓄積することが多く、フィードバック目的では歩行練習中など特定の場面で使うことが多くなります。フィードバック機器の代表的な使い方であるリズム提示については、先にご紹介したパーキンソン病のリズム聴覚刺激(RAS)について解説した記事もあわせて参考にしてください。目的や生活スタイルに合わせて、専門職とすり合わせながら使い方を決めていくことが現実的です。
機器の記録は会話のきっかけの一つであり、数値そのものを目標にしすぎないことが大切です。歩行は服薬のオン・オフ、疲労、睡眠、環境によって日ごとに変わるため、単発の値ではなく、測定条件をそろえた数週間単位の傾向として捉えます。

修士(作業療法学)/作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表/第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1).
2. Silva de Lima AL, Evers LJW, Hahn T, Bataille L, Hamilton JL, Little MA, Okuma Y, Bloem BR, Faber MJ. Freezing of gait and fall detection in Parkinson's disease using wearable sensors: a systematic review. J Neurol. 2017;264(8):1642-1654. DOI:10.1007/s00415-017-8424-0. PMID:28251357. PMCID:PMC5533840.
3. Huang T, Li M, Huang J. Recent trends in wearable device used to detect freezing of gait and falls in people with Parkinson's disease: A systematic review. Front Aging Neurosci. 2023;15:1119956. DOI:10.3389/fnagi.2023.1119956. PMID:36875701. PMCID:PMC9975590.
4. Zhang T, Meng DT, Lyu DY, Fang BY. The Efficacy of Wearable Cueing Devices on Gait and Motor Function in Parkinson Disease: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Arch Phys Med Rehabil. 2024;105(2):369-380. DOI:10.1016/j.apmr.2023.07.007. PMID:37532166.
5. Gordt K, Gerhardy T, Najafi B, Schwenk M. Effects of Wearable Sensor-Based Balance and Gait Training on Balance, Gait, and Functional Performance in Healthy and Patient Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Gerontology. 2018;64(1):74-89. DOI:10.1159/000481454. PMID:29130977.
