
パーキンソン病(PD)の治療では薬物療法が中心ですが、近年では運動療法(リハビリテーション)の重要性が強調されています。実際、日本の「パーキンソン病治療ガイドライン2011」では、運動療法が身体機能、健康関連QOL、筋力、バランス、歩行速度の改善に有効であることが示され、**グレードA(強い推奨)**の推奨が付与されています。PD患者自身が積極的に参加できる運動療法を早期から併用することで、薬物治療の効果を最大限に引き出し、ADL(日常生活動作)やQOLの向上につながると考えられています。
本記事ではPD患者に対して有効性が示されているトレーニングを5種類、論文と一緒にご紹介していきます。
1. 有酸素運動(Aerobic Exercise)

有酸素運動はKai Zhenらの2022年の研究で効果が示唆されています。
これらの研究では有酸素運動を実施した群 vs 通常のケア(ストレッチや軽い運動)を比較した研究を複数取り込み、どちらが効果が高いか比べたものとなります。
推奨されている頻度と内容:
週3回程度、30分以上の早歩きやサイクリング、水中歩行など中等度以上の強度。(本論文では具体的心拍数基準は明記されていないが、一般的な運動指導基準では最大心拍数の64〜95%とおおよそ心拍数が1分間に100から120回となる程度が中等度〜高強度に相当すると言われています。少し息が弾むけど会話はできるくらいの強さがちょうど良いとされてます)
効果について:
こちらの有酸素運動を行うことによって
・バランス能力の改善(BBSやTUGといったバランスを評価するテスト)
・歩行速度の改善
・パーキンソン病の運動症状の改善(UPDRSーⅢというパーキンソン病の運動症状をみるテスト)
・持久力(6分間歩行テストという6分間にどの程度の距離が歩けるかを測るテスト)
上記の改善が期待できると言われています。
つまり、有酸素運動をすることは、ストレッチや軽い運動を行うことよりも上記のアウトカムについて効果が高いということが言えます。
2. トレッドミル訓練(Treadmill Training)

トレッドミル訓練はElisa Boccaliらの2025年の研究で効果が示唆されています。
この研究ではトレッドミル歩行を行った群 vs 通常の歩行訓練(従来型歩行訓練やロボット歩行訓練)を行った群を比較し、効果を検討しました。
推奨されている頻度と内容:
・ 週3回程度、トレッドミル歩行訓練を20分〜40分(多くは30分前後の研究が多いです)実施。
・楽〜ややきついという自覚的運動強度(Borgスケールというもの)または最大心拍数の60%から80%(脈拍がおよそ1分間に100〜120回)
効果について:
トレッドミル訓練を行うことで
・パーキンソン病の運動症状の改善(UPDRSーⅢというパーキンソン病の運動症状をみるテスト)
・バランス能力の改善(TUGといったバランスを評価するテスト)
といった効果が認められています。
一方、持久力(6分間歩行テストという6分間でどのくらいの距離を歩けるか測定するもの)では効果が認められませんでした。
つまり、トレッドミルを使用した歩行訓練は通常の歩行訓練やロボットを使用する歩行訓練よりも上記のアウトカムについて効果が高いということが言えます。
3. 筋力訓練(Resistance Training)

筋力訓練はXiaoxia Yangらの2023年の研究で効果が示唆されています。
この研究ではレジスタンストレーニングを行った群 vs 通常ケア群を比較して効果を検討しました。
推奨されている頻度と内容:
週2〜3回、大筋群に対して10〜15回反復できる負荷で複数セット。
効果について;
筋力訓練を行うことで
・筋力の増強
・すくみ足の軽減
・QOLの改善
が認められています。 つまり、筋力訓練は通常のケアと比較して、筋力や生活の質を向上させる効果があると言えます。
4. デュアルタスク訓練(Dual-Task Training)
デュアルタスク訓練はZhenlan Liらの2020年の研究で効果が示唆されています。
この研究では歩行+認知課題を組み合わせた群 vs 通常歩行訓練を行った群を比較し、効果を検討しました。
推奨されている頻度と内容:
週2〜5回、1回あたり30分から60分
方法としてはトレッドミル場で歩行しながら
①認知機能課題(数字の逆唱、計算、単語想起など)
②二次運動課題(ボール遊び、ものを持つなど)を同時に実施しています。
効果について: デュアルタスク訓練を行うことで
・歩行速度の改善
・ケイデンス(歩行率)の改善
・パーキンソン病の運動症状の改善(UPDRSーⅢというパーキンソン病の運動症状をみるテスト)
・バランス能力の改善
といった効果が認められています。 つまり、デュアルタスク訓練は単独の歩行訓練よりも、複合的に運動機能を高める有効な方法といえます。
おわりに
パーキンソン病は進行性の神経疾患であり、その治療の中心は薬物療法ですが、運動療法の重要性も数多くの研究で示されています。運動にはさまざまな種類があり、それぞれに効果が報告されています。例えば、歩行速度の改善を目指すのか、バランス能力の向上なのか、あるいは持久力を高めたいのか――目的を明確にすることで、最適なトレーニング方法を選択できるようになります。
Journey Rehabでは、科学的根拠に基づいた訓練を実施しており、一人ひとりの状態や目的に合わせたパーソナライズされた運動プログラムを提供しています。パーキンソン病は進行性であるため、できるだけ早期に運動を取り入れることが重要です。
特に有効性が報告されているのは、単にウォーキングや軽いストレッチだけではなく、複数の要素を組み合わせた複合的なトレーニングです。週2~3回程度、一定の強度でしっかりと運動を行うことで、多くの研究で改善効果が認められています。早期から適切な運動を継続することが、生活の質を維持し、より自分らしい日常を送るための大切な一歩となります。
パーキンソン病でお悩みの方は、まずはお気軽にお問合せをしてみてください。
※本記事は作業療法士による知見や学術的エビデンスに基づき執筆しておりますが、すべての方に当てはまるものではありません。掲載している情報は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療を代替するものではありません。
論文情報
日本神経学会 (2018). 「パーキンソン病診療ガイドライン2018」第11章 リハビリテーション
Kai Zhen, et al. (2022). “A systematic review and meta-analysis on effects of aerobic exercise in people with Parkinson’s disease.” NPJ Parkinson’s Disease, 8:146. DOI: 10.1038/s41531-022-00418-4
Fuzhong Li, et al. (2012). “Tai Chi and Postural Stability in Patients with Parkinson’s Disease.” New England Journal of Medicine, 366(6):511-519. DOI: 10.1056/NEJMoa1107911
Elisa Boccali, et al. (2025). “Treadmill Training in Patients with Parkinson’s Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis on Rehabilitation Outcomes.” Brain Sciences, 15(8):788. DOI: 10.3390/brainsci15080788
Xiaoxia Yang, et al. (2023). “Effectiveness of Progressive Resistance Training in Parkinson’s Disease: A Systematic Review and Meta-Analysis.” European Neurology, 86(1):25-33. DOI: 10.1159/000527029
Zhenlan Li, et al. (2020). “Dual-task training on gait, motor symptoms, and balance in patients with Parkinson’s disease: a systematic review and meta-analysis.” Clinical Rehabilitation, 34(11):1355-1367. DOI: 10.1177/0269215520941142
執筆者情報

株式会社Journey Rehab 代表|田中 光
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士前期課程 在籍
▪️経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:自費訪問リハビリ分野に活動を広げ、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
▪️ 研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表