
この記事の結論
「声が小さくなってきたので、カラオケや合唱を続けたほうがいい?」「歌うことはパーキンソン病のリハビリになるの?」と疑問を持つ方もいるでしょう。歌は楽しみながら続けやすい活動の一つで、パーキンソン病の方向けの合唱グループも海外を中心に広がっています。
この記事では、パーキンソン病の方の歌唱(歌うこと)について、研究をまとめたメタ分析とシステマティックレビューをもとに、分かっていることと、まだ分かっていないことを分けて整理します。
目次
パーキンソン病の歌唱プログラムとは?
パーキンソン病の歌唱プログラム(歌唱介入:singing intervention)とは、呼吸の練習・発声のウォーミングアップ・好きな歌を歌うことなどを組み合わせ、声と呼吸の働きを使う機会を増やす取り組みです1。研究の多くは、音楽療法士などの専門職が進行するグループ形式で行われています1,2。
パーキンソン病では、声が小さくなる、声がかすれる、話し方が単調になるといった「運動低下性構音障害」が起こりやすく、会話のしづらさにつながることがあります。話すことと歌うことは、どちらも呼吸と声帯、口の動きを細かく協調させる必要があるため、歌うことが声の練習になるのではないかと考えられています1。
声を大きくすることに特化した発声練習としては、LSVT LOUDについて解説した記事もあわせてご覧ください。

研究では何が分かっている?
結論から言うと、歌唱は「声の大きさ」や「声をのばせる時間」などの一部で良い結果が報告されていますが、比較対照のある研究が少なく、確実なことはまだ言えない段階です。
2025年4月までの研究を調べたメタ分析では、23件の研究(RCT 3件、それ以外が20件)・合計540人が対象になりました1。多くの研究は1つのグループが4〜28人と小規模で、期間は2週間〜6か月が中心でした1。
RCTなどの比較研究をまとめると、良い結果がみられたのは「母音をのばすときの声の大きさ」の1項目のみでした(3件・72人で、RCTは1件、非ランダム化比較研究が2件)。声に関する生活の質(3件・79人)や、会話中の声の大きさでは、比較した群との差ははっきりしませんでした1。
比較対照のない研究も含めて前後の変化をみると、声をのばせる時間(最長発声持続時間、11件・157人)、母音の声の大きさ(8件・99人)、息を吸う力(最大吸気圧、4件・65人)で良い変化がみられました。ただしこれらは対照群のない研究が中心で、根拠の質は非常に低いとされています1。
ダンス・歌唱・音楽療法・演劇などのグループ活動を調べた94件の研究(合計2,453人)を整理したレビューでは、歌唱の研究20件のうち17件(85%)で、話し方・声に関する何らかの良い結果が報告されていました。この85%は研究の件数の割合であり、参加者の85%が改善するという意味ではありません2。
生活の質についても、歌唱の研究8件のうち6件で良い結果が報告されています。ただし一部の尺度のみで差がみられた研究も含まれており、このレビューでは研究ごとの結果を文章で整理した評価で、根拠の確かさを「中程度」と判定しています。歌唱の効果量をまとめた数値ではなく、前のメタ分析とは評価する方法・指標が異なります2。
グループで声を出す練習には、歌唱以外の方法もあります。パーキンソン病のグループ言語・コミュニケーション訓練について解説した記事で紹介しています。
歌うことで声が元に戻る、症状が進まなくなると保証できる研究結果はありません。また、歌唱が言語聴覚士による発声・発話の練習の代わりになるという根拠もありません。声やむせが気になる場合は、まず主治医や言語聴覚士に相談してください。
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
歌唱の研究は、23件中RCTが3件のみで、多くは対照群のない前後比較の研究です1。参加者は歌唱の内容を知ったうえで参加するため盲検化が難しく、研究ごとに比較の方法や評価の時期も異なります1。
レビューでは、英語で発表された研究のみが対象とされ、芸術活動全体のレビューでは男性の参加者が実際の患者さんの割合より少ないことも限界として挙げられています1,2。研究全体では一定の傾向がありますが、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
何が変わりやすく、何は変わりにくい?
研究からは、「母音をのばす声の大きさ」や「声をのばせる時間」など、声そのものの指標で良い結果が報告されやすく、生活の質や会話の声の大きさははっきりしない、という傾向があります。
どんな人に向いていて、どんな人は注意が必要?
歌唱は、歌うことが好きな方や、人と一緒に活動することを楽しめる方にとって、声を使う機会を増やす選択肢の一つになりえます。レビューでは歌唱による有害な出来事は報告されていませんでしたが、報告がないことだけで安全性が保証されるわけではありません1。
・家で声を出す機会が減っている方
・楽しみながら続けられる活動を探している方
・立ったまま歌うと、ふらつきや立ちくらみが出やすい方
・声の変化が急に起きた場合(ほかの原因の確認が必要)
息を吐く力や呼吸の筋肉に注目した練習は、パーキンソン病の呼吸筋トレーニングについて解説した記事で紹介しています。
どのくらいの頻度で行う?
研究では「グループで2週間〜6か月」行うものが中心で、最適な頻度や期間は分かっていません1。
これらは研究で用いられた内容の例で、すべての方に最適な量ではありません。体の状態や目標に合わせて調整してください。

作業療法士の視点
歌唱は、声の大きさなど一部で良い結果が報告されている一方、比較対照のある研究は少なく、生活の質や会話への影響はまだはっきりしません1。
私たちは、歌うことを「治療の代わり」としてではなく、ご本人が楽しみながら声を使う機会を増やす活動の一つとして、生活の中にどう取り入れるかを一緒に考えることが大切だと考えています。

まとめ
この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、医療行為・診断・治療を推奨するものではありません。運動や練習を始める前、また内容を変える前には、担当の医師・リハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究により変わる可能性があります。
よくある質問
Q. パーキンソン病で歌うと声は大きくなりますか?
A. 比較研究をまとめた分析では、母音をのばすときの声の大きさに良い結果がみられましたが、根拠の確実性は非常に低いとされています1。会話中の声の大きさについては、差がはっきりしていません。
Q. カラオケでも研究と同じような意味がありますか?
A. 研究の多くは、音楽療法士などの専門職が呼吸練習や発声のウォーミングアップを含めて進行するグループ形式でした1。カラオケで同じ結果が得られるかは確かめられていません。
Q. 歌うことで病気の進行を遅らせることはできますか?
A. 歌唱で病気の進行が遅くなることを示した研究はありません。研究で調べられているのは、主に声・呼吸・生活の質などの変化です1,2。
Q. どのくらいの頻度で歌えばよいですか?
A. 研究では2週間〜6か月行うものが中心で、最適な頻度や期間はまだ分かっていません1。無理のない範囲で続けられる頻度を、専門職と相談して決めるのがよいでしょう。
Q. LSVT LOUDなどの発声訓練とどちらがよいですか?
A. 歌唱と専門的な発声訓練を直接比べた質の高い研究は少なく、どちらがよいとは言えません1。歌唱は発声訓練の代わりではなく、声を使う機会を増やす活動の一つとして考えるのが現実的です。
Q. むせがある場合も歌ってよいですか?
A. 食事中のむせや飲み込みにくさがある場合は、まず主治医や言語聴覚士に飲み込みの状態を確認してもらうことをおすすめします。歌うときも、座った姿勢で休憩をはさむなど安全に配慮してください。