パーキンソン病の呼吸筋トレーニングとは?息を吐く力・むせ・声への研究と限界を正直に解説

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田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の呼吸筋トレーニングとは?息を吐く力・むせ・声への研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月27日
「声が小さくなってきた」「むせることが増えた」「咳がうまく出せない」——こうした変化は、パーキンソン病で呼吸や飲み込みに関わる機能を確認するきっかけになります。呼吸の筋肉に負荷をかける練習(呼吸筋トレーニング)では、息を吐く力や飲み込みの安全性を測る検査指標に良い方向の変化が報告されています。一方で、研究の数はまだ少なく、それが肺炎の減少といった最終的な結果につながるかまでは分かっていません。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
SECTION 01
呼吸筋トレーニングとは何か
呼吸筋トレーニングとは、息を吸う・吐くときに使う筋肉に、あえて負荷(抵抗)をかけて行う練習のことです。手のひらに収まるくらいの小さな器具を口にくわえ、決められた強さの抵抗に逆らって息を吸ったり吐いたりします。負荷をかけて筋肉を鍛えるという意味では、腕や脚の筋力トレーニングと考え方は同じです。
大きく二種類あります。ひとつは息を吸う筋肉(主に横隔膜)を鍛える吸気筋トレーニング(IMT)、もうひとつは息を吐く筋肉(腹筋など)を鍛える呼気筋トレーニング(EMST)です。パーキンソン病の研究では、とくに後者の呼気筋トレーニングが、飲み込みや咳との関わりから注目されてきました。
なぜパーキンソン病で呼吸の筋肉が問題になるのでしょうか。パーキンソン病では、体幹の動きが小さくなり、姿勢が前かがみになりやすく、胸郭(肋骨のかご)が広がりにくくなることがあります。その結果、息を深く吸ったり、勢いよく吐いたりする力が落ちやすくなります。息を強く吐く力は、声の大きさ、咳で異物を出す力、そして飲み込みの安全性とも関わっています。声の問題については、パーキンソン病のLSVT LOUD(発声リハビリ)について解説した記事でも詳しく扱っています。
専門職の指導を受けながら座位で呼吸筋トレーニング器具を使う高齢者
器具を使う練習は、姿勢と体調を確認しながら進めます。
SECTION 02
研究で分かっていること
研究紹介|ランダム化比較試験(2010年・パーキンソン病60名)
Trocheらの研究1では、飲み込みにくさを自覚しているパーキンソン病のある60名(ホーン・ヤール分類II〜IV)を、本物の負荷をかけた呼気筋トレーニング群と、負荷のない見せかけ(sham)の器具を使う群にランダムに分けました。負荷は、その方が最大限に息を吐いたときの圧力の75%に設定し、5回×5セットを週5日、4週間続けています。その結果、飲み込みの安全性を表す指標(誤嚥・喉頭侵入のスケール)が良くなった方は、本物の群で33%(11名)、見せかけの群で14%(5名)でした。のどの奥にある舌骨という骨の動きも、本物の群では保たれていました。この試験はクラスIのエビデンスとされています。重い有害な出来事は報告されていません。
複数の研究をまとめた検討もあります。McMahonらのシステマティックレビュー・メタアナリシス2では、パーキンソン病に対する薬以外の方法(呼吸筋トレーニング、筋力トレーニング、有酸素運動、気功、ヨガ、歌唱など)を集めて解析し、息を吸う筋肉の力(平均差 19.68、95%信頼区間 8.49〜30.87)、息を吐く筋肉の力(18.97、7.79〜30.14)、勢いよく吐いたときの最大の流量(72.21、31.19〜113.24)のいずれにも、良い方向の差が示されました。研究間のばらつきは小さめでした。また、咳の勢いや息苦しさの感じ方についても、支持する根拠があるとしています。
呼吸筋トレーニングに絞ったシステマティックレビュー3では、ランダム化比較試験3件(合計111名)が対象となりました。息を吸う力(効果量 d=0.76)、息を吐く力(d=1.40)、息苦しさの感じ方、飲み込みの機能(d=0.55)、声に関する指標で良い方向の結果が示された一方、肺活量などの呼吸機能検査(スパイロメトリー)の数値には明らかな差がありませんでした。研究者らは「有望だが、元になる研究の数が少なく、確固たるエビデンスとは言えない」と率直に述べています。
むせや飲み込みにくさへの対応全般については、パーキンソン病の嚥下障害について解説した記事もあわせてご覧ください。呼気筋トレーニングは、その中の選択肢のひとつという位置づけです。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
もっとも大きな限界は、研究の数そのものが少ないことです。呼吸筋トレーニングに絞ったレビューで集まったランダム化比較試験は3件・111名にとどまり、方法の質を点数化した評価でも平均的な水準でした3。先に紹介したTrocheらの試験1は質の高い研究ですが、対象は飲み込みにくさが軽度から中等度の方が中心で、重度の方への効果は分かっていません。また、複数の方法をまとめたメタアナリシス2では、呼吸筋トレーニング以外の運動(筋力トレーニング、歌唱など)も一緒に解析されているため、呼吸筋トレーニング単独の効果とは切り分けて読む必要があります。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・筋肉の力や飲み込みの指標が良くなったとして、それが誤嚥性肺炎の減少や寿命につながるかは、まだ検証されていません1,2
・病気の進行段階や飲み込みの重症度によって、どの方に最も向いているかは十分に確立していません1,3
・最適な負荷の強さ、回数、頻度、続ける期間ははっきり決まっていません3
・練習をやめた後に効果がどのくらい続くのかは、まだ十分に分かっていません1
・肺活量などの呼吸機能検査の数値は変わりにくいことが示されており、なぜ筋力は上がっても検査値が動かないのかは十分に説明されていません3
専門職が測定器を使って高齢者の呼気圧を評価する場面
負荷は呼気圧などを測定し、専門職と個別に決めます。
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
正直に整理します。研究で比較的はっきり良い方向の変化が示されているのは、練習した機能そのものに近い部分です。つまり、息を吸う力・吐く力といった呼吸の筋肉の強さ2,3、勢いよく息を吐いたときの流量2、そして飲み込みの安全性を検査で測った指標1です。息苦しさの感じ方や、声に関する指標にも良い方向の報告があります3
一方で、変わりにくい・はっきりしない部分もあります。肺活量など呼吸機能検査の数値は、明らかな差が示されていません3。またパーキンソン病そのものの進行や、動きの症状全般が呼吸筋トレーニングで変わるわけではありません。そして最も大切な点として、「検査の数値が良くなること」と「誤嚥性肺炎が減ること」は別の話であり、後者はまだ検証されていません1,2。ここは期待しすぎないようにお伝えしています。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究で対象になってきたのは、飲み込みにくさが軽度から中等度のパーキンソン病の方が中心です1。むせることが増えてきた、声が小さくなってきた、咳の勢いが弱くなってきたと感じている段階の方は、専門職と相談しながら取り入れやすい方法だと考えられます。器具を使うため、口をしっかり閉じて息を吐けること、指示を理解して安全に続けられることが前提になります。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
呼吸筋トレーニングは、強く息を吐いたり吸ったりする練習です。心臓や肺に持病のある方、血圧が不安定な方、最近の手術や胸部・腹部にご病気のある方、めまいや立ちくらみが出やすい方は注意が必要で、開始する前に必ず医師の確認を受けてください。練習中にめまい、頭痛、強い息切れ、胸の違和感が出たときはすぐに中止してください。また、むせが増えた、体重が減ってきた、熱を繰り返すといった変化があるときは、練習だけに頼らず、まず担当の医師・言語聴覚士・リハビリ専門職にご相談ください。飲み込みの検査が必要な場合もあります。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
Trocheらの試験1で用いられたのは、その方の最大呼気圧の75%という負荷で、5回×5セットを週5日、4週間続ける形でした。1日にかかる時間はおよそ20分程度です。他の研究でも、数週間から2か月程度の期間が用いられることが多いようです。
ただし、これらは研究の一例であり、最適な負荷や期間ははっきり決まっていません3。負荷の設定は、その方の最大の力を測ったうえで決めるものです。自己流で強く行うと、めまいやふらつき、疲れの持ち越しにつながることがあります。器具の選び方、負荷の設定、回数の進め方は、必ず専門職と一緒に決めてください。パーキンソン病では動きやすい時間帯とそうでない時間帯があるため、練習する時間帯もあわせて相談しておくと続けやすくなります。運動全般を続ける工夫については、パーキンソン病のリハビリを続けるための支援について解説した記事も参考になります。
家族が見守るなか自宅で座って呼吸筋トレーニングを行う高齢者
自宅でも無理な負荷を避け、体調変化があれば中止します。
SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
まず、いま安全に食べられているか(むせ方、食事にかかる時間、体重の変化、発熱の有無)と、声の出しにくさ、咳の勢いを確認します。そのうえで、医師の許可を前提に、最大の呼気圧を測って負荷を決め、練習中の血圧やめまい、疲労を見ながら進めます。あわせて、姿勢(前かがみになっていないか)、胸郭や体幹の動き、座り方など、呼吸のしやすさに関わる要素も一緒に整えます。器具の衛生管理や、負荷の見直しのタイミングも確認しておくと安心です。
まとめると、パーキンソン病の呼吸筋トレーニングは、息を吐く力や飲み込みの安全性に良い方向の変化が報告されている方法です。ただし研究の数はまだ少なく、肺炎の減少といった最終的な結果につながるかは分かっていません。負荷をかける練習である以上、安全確認と個別の設定が欠かせません。取り入れるかどうかは、担当の医師やリハビリ専門職と相談しながら判断されることをおすすめします。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。呼吸筋トレーニングは負荷をかける練習であり、体調によってはめまい・血圧変動などのリスクを伴う場合があります。実施の前には、必ず担当の医師やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
むせやすさや声の出しにくさについて、今の状態を一緒に確認しながら生活での工夫を考えます。
田中 光 作業療法士 Journey Rehab代表
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 呼吸の筋肉を鍛えると、むせにくくなりますか?
研究では、呼気筋トレーニングを4週間行った群で、飲み込みの安全性を測る検査の指標に良い方向の変化が報告されています1。ただし全員に同じ結果が出るわけではなく、変化の程度には個人差があります。むせが続くときは、まず担当の医師や言語聴覚士にご相談ください。
Q. 器具がなくても、深呼吸や息を吐く練習で代わりになりますか?
研究で用いられているのは、負荷を数値で設定できる器具を使う方法です1,3。深呼吸自体は姿勢や呼吸のしやすさを整えるうえで役立ちますが、筋力への負荷という点では同じ扱いにはなりません。どちらが合うかは専門職にご相談ください。
Q. 声が小さいことにも役立ちますか?
レビューでは、声に関する指標にも良い方向の結果が報告されています3。息を吐く力は発声の土台になるためです。ただし声そのものを扱う専門的な方法もあるため、言語聴覚士に相談して組み合わせを検討されるとよいと思います。
Q. どのくらいの強さで行えばよいですか?
研究では、最大限に息を吐いたときの圧力の75%という設定が用いられています1。これは実際に測定して決めるものです。自己判断で強くしすぎると、めまいや疲れにつながることがあるため、必ず専門職と一緒に設定してください。
Q. 肺活量は増えますか?
レビューでは、肺活量などの呼吸機能検査の数値には明らかな差が示されていません3。良い方向の変化が報告されているのは、主に筋肉の力や息を吐く勢いに関する指標です2。目的を整理してから取り入れることが大切です。
Q. どのくらい続ければよいですか?
研究では週5日・4週間という形が用いられていますが、最適な期間ははっきり決まっていません1,3。また練習をやめた後にどのくらい続くかも分かっていません。体調に合わせて、専門職と相談しながら進めることをおすすめします。
Q. 誤嚥性肺炎の心配が減りますか?
検査で測る飲み込みの安全性に良い方向の変化は報告されていますが、それが肺炎の減少につながるかは、まだ研究で確かめられていません1,2。肺炎が心配なときは、練習だけに頼らず、必ず主治医にご相談ください。
REFERENCES
参考文献
1. Troche MS, Okun MS, Rosenbek JC, et al. Aspiration and swallowing in Parkinson disease and rehabilitation with EMST: a randomized trial. Neurology. 2010;75(21):1912-1919. PMID: 21098406.
2. McMahon L, Blake C, Lennon O. Nonpharmacological interventions for respiratory health in Parkinson's disease: A systematic review and meta-analysis. Eur J Neurol. 2021;28(3):1022-1040. PMID: 33098349.
3. Rodríguez MÁ, Crespo I, Del Valle M, Olmedillas H. Should respiratory muscle training be part of the treatment of Parkinson's disease? A systematic review of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2020;34(4):429-437. PMID: 31875689.