東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
声の大きさ・会話のしやすさへの研究と、個別発声訓練との違い
パーキンソン病になると、声が小さくなる、聞き返されることが増える、会話のテンポについていきにくいといった変化を感じる方が少なくありません。「発声の練習は聞いたことがあるけれど、グループで行う練習もあるらしい」「1対1の訓練と何が違うのか」という疑問を持つ方もいるはずです。
この記事では、少人数のグループで行う言語・コミュニケーション訓練について、どのような内容で、研究では何が分かっていて何がまだ分かっていないのかを、個別の発声訓練との違いを意識しながら整理します。
最終更新日:2026年8月25日
最新レビュー日:2026年8月25日
この記事で紹介する内容は、あくまで研究で報告されている傾向であり、効果を保証するものではありません。声や会話の変化は、パーキンソン病そのものだけでなく、聴力、認知機能、うつ、他の病気の影響を受けることもあります。気になる変化があるときは、自己判断せず、まず主治医・言語聴覚士に相談してください。
パーキンソン病では、声帯や口・舌を動かす筋肉の動きが小さくなりやすいことから、声が小さくなる、単調な話し方になる、発音が不明瞭になるといった変化が起こりやすいとされています。こうした話し方の変化は「構音障害(うまく発音できない状態)」の一種として扱われます。
発声・構音の練習というと、言語聴覚士と1対1で声の大きさに集中して行う個別訓練(LSVT LOUDなど)を思い浮かべる方が多いかもしれません。当施設の別記事でも、個別の発声訓練であるLSVT LOUDについて解説した記事を公開しています。
一方でこの記事が取り上げるのは、少人数(6〜8人程度)のグループで行う言語・コミュニケーション訓練です。声を大きく・はっきり出す練習に加えて、質問への受け答え、記憶や連想を使った課題など、実際の会話に近い場面を他の参加者とのやり取りの中で練習する点が特徴です。海外で研究されている代表的なプログラムに「HiCommunication」があり、国内外の臨床現場で知られる「SPEAK OUT!+LOUD Crowd」というプログラムも、個別練習のあとにグループでの継続練習を組み合わせた形をとっています。

グループ形式の言語・コミュニケーション訓練を対象にした研究は、個別訓練に比べるとまだ数が少ないのが実情です。そのなかで、比較的規模の大きいランダム化比較試験(RCT、参加者をくじ引きのように無作為に分けて比較する研究デザイン)として、スウェーデンで行われたHiCommunicationの試験があります。
パーキンソン病の方95名を、グループでの言語・コミュニケーション訓練(HiCommunication)を受ける群と、内容の異なるグループ運動(バランス・歩行練習)を受ける対照群に無作為に分けて比較した試験です。対象者は平均年齢約71歳、発症から平均4〜5年程度、認知機能は比較的保たれている方が中心でした。訓練後、声の大きさ(音圧レベル)は対照群より統計的に有意に増加し(群間差 約2.3dB、p=0.003)、対照群で臨床的に意味のある改善(2dB以上)が見られたのは13%だったのに対し、訓練群では59%で見られたと報告されています1。声質を表す指標(AVQI)でも、対照群より有意な改善が示されました1。
同じ研究グループが行った別の分析では、この訓練に対する反応のしやすさを、訓練前の状態から予測できるかを調べています。訓練前の時点で「声の小ささ」「話し方全体の聞き取りにくさ」が強いと自覚・評価されていた方や、レボドパ(パーキンソン病の主要な薬)の1日あたりの使用量が少ない方ほど、訓練後に声の大きさが改善しやすい傾向があったと報告されています2。ただし、この分析の対象は35名と少なく、著者ら自身も「今後の研究での再現確認が必要」としています2。
グループ形式の言語療法全体を見渡した系統的レビューでは、パーキンソン病を中心とした21件の研究(参加者330名、うち97%がパーキンソン病)が対象になりました。声の大きさに焦点を当てた訓練で比較的一貫した改善が報告される一方、レビュー全体としては「中等度の質の予備的な根拠」と評価されており、質の高い研究の積み重ねはまだ十分ではないとされています3。
なお、パーキンソン病における言語療法全般の研究は、長らく規模の小さい試験が中心でした。2012年のコクランレビューでは、対象となったRCTはわずか3件・63名にとどまり、方法論的な限界や研究間のばらつきから「効果を明確に支持することも否定することもできない」と結論づけられています4。HiCommunicationのRCTはこれよりも規模の大きい試験ですが、それでも1件の研究にとどまる点は押さえておく必要があります。
研究結果を、変わりやすかった項目・変わりにくかった項目に分けて整理します。
音読・会話中の声の音圧レベル、声質を表すAVQIという指標では、対照群と比べて統計的に有意な改善が見られました1。
滑舌の速さや正確さ、声の抑揚(プロソディ)といった項目では、対照群との間に統計的な差は見られなかったと報告されています1。
パーキンソン病専用の生活の質の質問票(PDQ-39)や、運動症状全体を評価する指標(MDS-UPDRS)では、訓練群と対照群の間に明確な差は報告されていません1。声の変化が、日常生活全体の満足度にそのまま直結するとは言い切れません。
訓練終了直後には見られた声の大きさ・声質の改善が、6か月後の追跡調査では対照群との差として維持されていなかったと報告されています1。研究者らは、追跡時点の参加者数が少なかったことも結果に影響した可能性があるとしています1。
HiCommunicationのRCTは、これまでの言語療法研究の中では比較的規模が大きく、無作為化・盲検化された評価を行っている点で質の高い研究といえます。それでも、次のような限界があります。
・訓練後にデータが得られなかった参加者が一定数おり、統計処理で補った部分があるため、結果はやや慎重に解釈する必要があります1。
・6か月後の解析対象者は43名と少なく、本当は差があるのに検出できなかった可能性も否定できません1。
・グループ形式の言語療法全体を見た系統的レビューでも、根拠の質は「中等度の予備的なもの」にとどまるとされています3。
研究全体では声の大きさ・声質に一定の傾向が見られますが、対象者の重症度や訓練内容が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
・レボドパの使用量や運動症状のタイプによって反応しやすさに違いがある可能性が示されていますが、少人数での探索的な分析であり、再現性の確認が必要です2。
・声が変わることで、日常の会話や社会的な参加がどこまで変わるかは、今回のRCTでは明確に示されていません1。
・重い認知機能の低下がある方や、進行した時期の方への効果は、今回の研究の対象外のため十分に分かっていません1。
現在の研究でも、どのような方に最も合うのか、どのくらいの頻度・期間続ければよいのかは十分に分かっていません。今後は、重症度や認知機能、生活環境をふまえたさらなる検討が必要です。
HiCommunicationの研究に参加していたのは、Hoehn-Yahr重症度2〜3(軽度〜中等度)、認知機能の簡易検査(MoCA)で一定の基準を満たす方でした。この対象範囲を踏まえて、向いている可能性がある人・注意が必要な人を整理します。
・軽度〜中等度のパーキンソン病で、認知機能が比較的保たれている方
・他の参加者と一緒に練習することに抵抗が少ない方
・声の大きさだけでなく、会話でのやり取りも一緒に練習したい方
・進行した時期で、重度の構音障害や嚥下(飲み込み)の問題を伴う方
・強い抑うつ・不安があり、人前での発話に強い苦手意識がある方
・難聴など、グループでのやり取り自体が難しくなる要因がある方
HiCommunicationの練習内容には、記憶や連想を使う課題も含まれており、パーキンソン病の認知機能と認知トレーニングについて解説した記事で紹介している認知面の課題とも重なる部分があります。認知機能の状態は、グループ訓練が向いているかどうかを考えるうえでの一つの目安になります。

研究で使われたプログラムの内容を比べると、グループ形式の訓練と個別訓練とでは、練習の組み方に違いがあります。
個別のLSVT LOUDが「1対1で声の大きさに集中して短期間・高頻度に行う」ことを重視しているのに対し、グループ形式の訓練は「他者とのやり取りを含む会話に近い練習」と「継続しやすい集団の場」を重視している点が異なります。どちらが向いているかは、症状の内容、グループでの練習への抵抗感、通いやすさなどによって変わるため、言語聴覚士と相談しながら選ぶことをおすすめします。会話のしにくさは、ご本人だけでなくパーキンソン病の家族・介護者支援について解説した記事で触れているように、ご家族との日常会話にも影響することがあります。
当施設は訪問型の自費リハビリのため、複数人が同じ場に集まるグループ訓練そのものは提供していませんが、声の大きさや会話のしにくさに関するご相談をいただくことがあります。研究の傾向を踏まえると、声の大きさだけを切り離して練習するのではなく、実際の会話の中でどう使うかまで含めて考える視点は大切だと感じています。
グループでの練習に興味があるものの一人で通うのが不安な方、まず自宅で個別に取り組んでから集団の場を検討したい方など、状況はさまざまです。ご本人の希望と生活の状況を一緒に確認しながら、どのような形の練習が合っているかを考えるお手伝いをしています。

グループ形式の言語・コミュニケーション訓練は、声の大きさ・声質の改善を報告する研究がある一方、構音の精密さや生活の質全体への効果、長期的な維持については、まだ十分な根拠がそろっていません。個別訓練とグループ訓練は目的や進め方が異なるため、どちらか一方を選ぶというより、症状や生活状況に合わせて専門職と相談しながら組み合わせを考えることが現実的です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、診断・治療・医療行為を推奨するものではありません。パーキンソン病の症状や適した訓練内容は個別に異なります。声や会話に気になる変化がある場合は、自己判断で始める前に、主治医・言語聴覚士などのリハビリ専門職へ相談してください。研究知見は執筆時点の情報であり、今後変わる可能性があります。
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
