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田中 光(作業療法士)|株式会社Journey Rehab 代表
認定作業療法士/修士(作業療法学)
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
パーキンソン病の嚥下障害(むせ・飲み込みにくさ)とは?リハビリの研究と限界を正直に解説
内容確認日:2026年7月24日
「食事のときにむせるようになった」「薬が飲み込みにくい」——パーキンソン病のご本人やご家族から、よくいただくご相談です。結論から正直にお伝えすると、飲み込み(嚥下)に対するリハビリのなかには、研究で良い方向の変化が示されている方法があります。一方で、研究の数はまだ限られ、どなたにどの方法が最も合うのかは十分に分かっていません。この記事では、作業療法士の立場から、研究で分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
この記事の内容
SECTION 01
パーキンソン病の嚥下障害とは何か
嚥下障害とは、食べ物や飲み物、唾液をうまく飲み込めなくなる状態のことです。パーキンソン病では、のど(咽頭)の筋肉の動きや、飲み込みのタイミングが乱れやすくなり、むせ・飲み込みにくさ・食事に時間がかかるといった形で現れます。ご本人が自覚しにくいこともあり、気づかないうちに食べ物や唾液が気管に入ってしまう「不顕性誤嚥(むせない誤嚥)」が起こることもあります。
嚥下障害が続くと、栄養がとりにくくなったり、誤嚥性肺炎につながったりすることがあり、パーキンソン病の生活の質に関わる大切なテーマです。飲み込みと口の中の状態は深く関わっているため、口腔ケアの視点もあわせて大切になります(考え方の共通点は、脳卒中後の口腔ケアと誤嚥性肺炎について解説した記事でも整理しています)。
むせや飲み込みにくさがあるときは、食事の様子を含めて専門職に相談します。
SECTION 02
研究で分かっていること
飲み込みに対するリハビリのなかで、比較的よく研究されているのが「呼気筋トレーニング(EMST)」です。これは、専用の器具に向かって強く息を吐く練習で、息を吐く力とともに、飲み込みに関わるのどの筋肉の働きを高めることをねらいとします。
研究紹介|ランダム化比較試験(2010年・パーキンソン病60名)
Trocheらの研究1では、パーキンソン病のある60名を、器具に負荷をかけた本物のEMST群と、負荷のない見せかけ(sham)群に分け、4週間(週5日・1日20分)練習しました。その結果、本物のEMST群では、飲み込みの安全性を表す指標(誤嚥・喉頭侵入の評価スケール)に良い方向の変化がみられ、見せかけ群では明らかな変化はありませんでした(群間差 p=0.001)。のどの奥にある舌骨という骨の動きも保たれていました。研究者は、これは飲み込みに関わる筋肉の働きが高まったためと考えられる、と述べています。
別の二重盲検ランダム化比較試験2でも、のどの嚥下障害が確認された50名にEMSTを4週間行ったところ、内視鏡で評価した飲み込みの指標に、練習直後だけでなく3か月後にも良い方向の変化が報告されています。のどに食べ物が残る量(残留)が減った点も示されました。
飲み込み以外の症状に対する運動やリハビリの考え方については、パーキンソン病のLSVT LOUD(発声リハビリ)について解説した記事もあわせてご覧ください。声を出す力と息を吐く力は、飲み込みとも関わる部分があります。
SECTION 03
エビデンスの質と限界・まだ分かっていないこと
エビデンスの質と限界
パーキンソン病の飲み込みに対するリハビリを検討したシステマティックレビュー3では、15の研究(523名)で、呼気筋トレーニング・姿勢の工夫・映像を用いた嚥下練習など複数の方法が調べられていますが、質の高いランダム化比較試験の数はまだ少なく、一部の研究にはバイアス(偏り)のリスクがあると指摘されています。先に紹介したEMSTの研究1も、対象は軽度から中等度の飲み込みにくさの方が中心で、重度の方への効果は分かっていません。研究全体では一定の傾向がありますが、対象者や方法が研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。
まだ分かっていないこと
・飲み込みの重症度や病気の進行段階によって、どの方が最も向いているのかは十分に確立していません1,3。
・最適な負荷の設定、1回の時間、頻度、続ける期間ははっきり決まっていません3。
・練習で得られた変化が、実際の食事の楽しみや誤嚥性肺炎の減少にどこまでつながるかは、まだ検証が必要です3。
・効果がどれくらい長く続くのか、練習をやめた後の変化については、まだ十分に分かっていません1。
・最適な負荷の設定、1回の時間、頻度、続ける期間ははっきり決まっていません3。
・練習で得られた変化が、実際の食事の楽しみや誤嚥性肺炎の減少にどこまでつながるかは、まだ検証が必要です3。
・効果がどれくらい長く続くのか、練習をやめた後の変化については、まだ十分に分かっていません1。
呼気筋トレーニングは、評価を受けたうえで負荷や回数を個別に設定します。
SECTION 04
何が期待でき、何は変わりにくいか
正直に整理します。研究で良い方向の変化が示されているのは、主に「飲み込みの安全性(むせ・誤嚥のしにくさ)」や「のどの筋肉の働き」といった、検査でとらえられる部分です1,2。息を吐く力や、のどを動かす力といった、練習した機能に近い部分ほど変化がみられやすい傾向があります。
一方で、変わりにくい・はっきりしないのは、病気そのものの進行や、飲み込みに関わるすべての症状です。嚥下のリハビリは病気を治すものではなく、いまの飲み込みの力を活かし、むせや誤嚥のリスクを少しでも下げることを目指す関わりとして研究されている点は、誤解のないようお伝えしています。姿勢や食べ物のとろみ・形態の工夫といった代償的な方法も、安全に食べるためには大切です。
SECTION 05
どんな人に向いているか
研究では、軽度から中等度の飲み込みにくさがあるパーキンソン病の方が主な対象でした1。むせが増えてきた、食事に時間がかかる、薬が飲みにくいといった段階の方は、専門職と相談しながら取り入れやすい方法があります。ただし、呼気筋トレーニングは強く息を吐く練習のため、心臓や肺に持病のある方、血圧が不安定な方などは注意が必要で、始める前に必ず医師の確認が必要です。
⚠ ただし、忘れてはいけない大切なこと:
飲み込みの問題は、誤嚥性肺炎や窒息、栄養不足につながることがある大切なサインです。むせが増えた、体重が減ってきた、熱を繰り返すといった変化があるときは、自己判断で練習だけに頼らず、まず担当の医師・言語聴覚士・リハビリ専門職にご相談ください。嚥下の評価(内視鏡やレントゲンによる検査など)が必要な場合もあります。
飲み込みの問題は、誤嚥性肺炎や窒息、栄養不足につながることがある大切なサインです。むせが増えた、体重が減ってきた、熱を繰り返すといった変化があるときは、自己判断で練習だけに頼らず、まず担当の医師・言語聴覚士・リハビリ専門職にご相談ください。嚥下の評価(内視鏡やレントゲンによる検査など)が必要な場合もあります。
SECTION 06
回数・頻度・期間の目安
研究では、呼気筋トレーニングを週5日、1日20分程度、4週間続ける形が用いられてきました1。ただし、これは研究の一例であり、最適な負荷や期間ははっきり決まっていません3。負荷の設定を誤ると、かえって疲れやふらつきにつながることもあるため、器具の使い方や強さは専門職と一緒に決めることが大切です。目安として捉え、ご本人の体調や飲み込みの状態に合わせて調整していくことをおすすめします。
姿勢や食形態など、日々の食事環境も安全性を支える大切な要素です。
SECTION 07
専門職と確認したい実践上のポイント
専門職が確認する主な項目
まず、いま安全に食べられているか(むせ方、食事の時間、体重、発熱の有無)を確認します。練習を行う場合も、飲み込みの評価や医師の許可を前提に、負荷・回数・疲労を見ながら進めます。あわせて、姿勢の工夫、食べ物のとろみや形態、薬を飲むタイミング(動きの良い時間帯に合わせる)など、練習以外の安全策も一緒に考えます。
まとめると、パーキンソン病の飲み込みに対しては、呼気筋トレーニングなど研究で良い方向の変化が示された方法があります。ただし、研究の数はまだ限られ、どなたにどの方法が最も合うかは分かっていません。飲み込みの問題は安全に関わるため、練習だけに頼らず、評価と安全策をあわせて、専門職と一緒に進めることが大切だと考えています。
本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の治療・診断を推奨したり、医療行為に代わるものではありません。飲み込みの状態には個人差があり、誤嚥や窒息のリスクを伴う場合があります。実施の前には、必ず担当の医師・言語聴覚士やリハビリ専門職にご相談ください。紹介した研究データは執筆時点のもので、今後の研究で評価が変わる可能性があります。
Journey Rehabの訪問自費リハビリについて知りたい方へ
食事や飲み込みの不安について、今の状態を一緒に確認しながら生活での工夫を考えます。
執筆者:株式会社Journey Rehab 代表取締役|田中 光
保有資格
修士(作業療法学)
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
経歴
・2016年:初台リハビリテーション病院に入職。脳卒中後遺症の回復期リハに従事
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
研究活動
・第57回日本作業療法学会(2023)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
論文執筆
・田中 光, 石橋 裕, 佐々木 智也, 坂本 泰平. (2025). 本邦における介護予防・日常生活支援総合事業におけるスコーピングレビュー. 日本老年療法学会誌, 4(1). 日本老年療法学会.
Q & A
よくある質問
Q. 最近むせやすくなりました。リハビリで何とかなりますか?
研究では、呼気筋トレーニングなどで飲み込みの安全性に良い方向の変化が報告されています1。ただし効果には個人差があり、まずは飲み込みの状態を評価してもらうことが大切です。むせが続くときは担当の医師や言語聴覚士にご相談ください。
Q. 呼気筋トレーニングは自宅でもできますか?
研究では専用の器具を使い、負荷を設定して行われています1。自己流で強く行うと疲れやふらつきにつながることもあるため、始める前に医師の確認を受け、専門職と一緒に負荷や回数を決めることをおすすめします。
Q. むせないのに肺炎になりました。なぜですか?
パーキンソン病では、むせずに食べ物や唾液が気管に入る「不顕性誤嚥」が起こることがあります。むせの有無だけで安全を判断できないため、気になるときは飲み込みの検査を含めて医師にご相談ください。
Q. とろみをつけたり刻んだりする工夫も必要ですか?
飲み込みの状態によっては、食べ物の形態やとろみの調整、姿勢の工夫が安全につながります。どの程度が適切かは個別に異なるため、言語聴覚士や管理栄養士と相談しながら決めるのが安心です。
Q. 練習はどのくらい続ければいいですか?
研究では4週間程度の練習が用いられていますが、最適な期間ははっきり決まっていません1,3。飲み込みの状態や体調に合わせて、専門職と相談しながら続けることをおすすめします。
Q. 薬が飲みにくいときはどうすればいいですか?
動きが良くなる時間帯に食事や服薬を合わせる、姿勢を整えるなどの工夫が役立つことがあります。ただし薬の飲み方の変更は自己判断せず、必ず主治医や薬剤師にご相談ください。
REFERENCES
参考文献
1. Troche MS, Okun MS, Rosenbek JC, et al. Aspiration and swallowing in Parkinson disease and rehabilitation with EMST: a randomized trial. Neurology. 2010;75(21):1912-1919. PMID: 21098406.
2. Claus I, Muhle P, Czechowski J, et al. Expiratory Muscle Strength Training for Therapy of Pharyngeal Dysphagia in Parkinson's Disease. Mov Disord. 2021;36(8):1815-1824. PMID: 33650729.
3. Ning F, Lv S, Liu W, et al. The Effects of Non-Pharmacological Therapies for Dysphagia in Parkinson's Disease: A Systematic Review. J Integr Neurosci. 2024;23(11):204. PMID: 39613473.
2. Claus I, Muhle P, Czechowski J, et al. Expiratory Muscle Strength Training for Therapy of Pharyngeal Dysphagia in Parkinson's Disease. Mov Disord. 2021;36(8):1815-1824. PMID: 33650729.
3. Ning F, Lv S, Liu W, et al. The Effects of Non-Pharmacological Therapies for Dysphagia in Parkinson's Disease: A Systematic Review. J Integr Neurosci. 2024;23(11):204. PMID: 39613473.
