東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「歩いていると、だんだん腰が曲がってきて前が見えなくなります」「家族に『体が横に傾いているよ』と言われますが、自分では真っ直ぐのつもりです」。パーキンソン病の外来や訪問でよくお聞きする訴えです。
この「腰曲がり」や「体の傾き」は、体軸性姿勢異常と呼ばれ、パーキンソン病の方の2割を超える方に経過のどこかで現れると報告されています1。薬だけでは変わりにくいことが多く、痛み、バランスの崩れ、転倒、そして「見た目が気になって外出しづらい」という生活面の困りごとにつながります。
結論から正直にお伝えすると、運動療法についてはいくつかのランダム化比較試験で前向きな結果が出ている一方、研究の数も規模も小さく、「これをやれば必ず」と言える段階ではありません1,2。この記事では、何がどこまで示されているのかを整理します。
「腰が曲がってきた」とひとことで言っても、専門的には曲がる向きと支点の位置で分類されます。国際的な学会の作業部会が示した基準では、次のように整理されています1,2。
支点:第1腰椎から仙骨・股関節のあたり
基準:前屈が30度を超える
軽度型:15〜30度1,2
支点:第7頸椎から第12胸椎・第1腰椎のあたり
基準:前屈が45度を超える
軽度型:25〜45度1,2
基準:側方への傾きが10度以上
軽度型:5〜10度
補足:横になると傾きが戻る(可逆性がある)のが特徴です1,2,6
基準:頸部の前屈が45度以上
補足:研究がとくに少なく、分かっていることが限られています1,2
分類にこだわる理由は、診察のときに「どの種類か」「何度くらいか」が伝わると、対応の検討がしやすくなるからです。ご家族が横と正面から立位の写真を撮っておくと、受診時の説明に役立ちます。
正直にお伝えすると、原因はまだ完全には解明されていません。国際的な検証報告でも、「発症の仕組みについての理解が不足していること」が、根拠にもとづく治療法の開発を長く妨げてきたと述べられています1。
現在は、いくつかの要素が重なって起きると考えられています。筋肉自体の変化(筋の萎縮や線維化)、体幹の筋肉の緊張のかたより(ジストニアと呼ばれる状態)、そして自分の体がどこを向いているかを感じ取る感覚のずれです。3つめは臨床でとくに実感しやすい部分で、傾いている方が「自分は真っ直ぐのつもり」とおっしゃるのは、この感覚のずれが関わっていると考えられています。
この「感覚のずれ」に着目している点が、後で紹介する運動療法の共通点です。鏡や壁、療法士の手を使って、自分の体の向きを外から確かめながら整えていく、という組み立てになっています3,4。
この分野をまとめた検証報告として、2024年のシステマティックレビューがあります。
パーキンソン病などの姿勢異常に対する、薬物・リハビリ・手術のすべての選択肢を対象に、99件の報告を集めて整理したものです。
リハビリについては、ランダム化比較試験で体幹の前屈が10〜20度減少し、その後の追跡でも保たれていたと報告されています。用いられていた方法は、水中運動(週5日・8週間)、体幹に特化した運動と自己管理の組み合わせ、背筋の筋力トレーニング、感覚(固有感覚・触覚)への刺激を用いた姿勢の再教育、下り坂でのトレッドミル歩行(週3日・4週間)などです。
このうち8週間の水中運動を行った試験は、質の評価で「Good – 1b」とされ、対照群と比べて姿勢異常の程度が有意に小さくなったと報告されています。1
個々の試験も見てみます。イタリアで行われた体幹に特化した運動のランダム化比較試験では、前屈のある37名(ホーン・ヤール4以下)を、体幹特化の運動を行う群19名と、一般的な関節可動域・筋力・ストレッチ・歩行練習を行う群18名に分けました。体幹特化の内容は、視覚と体の感覚のフィードバックを使った自己修正の練習、体幹を安定させる運動、生活動作の課題です。どちらも1日60分・週5日・4週間行いました。
結果は、前屈の程度の減少が体幹特化群のほうが有意に大きく(4週後 p=0.003、1か月後の追跡でも p=0.004)、動的・静的なバランスでも1か月後の時点で差がありました(それぞれ p=0.017、p=0.004)。一方、運動症状の総合的な重症度、痛み、転倒、生活の質については両群で同等でした3。
もうひとつ、より小規模な単盲検のランダム化比較試験があります。姿勢異常のある20名を対象に、13名へ4週間の姿勢リハビリ(一人ひとりに合わせた固有感覚・触覚への刺激、ストレッチ、姿勢の再教育)を行い、7名は無治療としました。1か月後、リハビリを受けた方は前後方向(p=0.002)・左右方向(p=0.01)とも姿勢が変化し、歩行とバランスの指標も変化していました(p<0.01)。2か月後も多くの指標は保たれていましたが、左右方向の傾きだけは戻っていました。著者らは「効果が薄れるのを避けるため、くり返し訓練することが推奨される」と結んでいます4。
姿勢の土台づくりという意味では、体幹や下肢の筋力への働きかけも関わります。この点はパーキンソン病の筋力トレーニングについて解説した記事で別途整理していますので、あわせてご覧ください。
腰曲がりのある早期パーキンソン病の方9名(平均67.7歳、ホーン・ヤール2以下)に、姿勢に働きかける体操を50〜60分・隔週で計10回行った報告です。生活の質の指標のうち移動の項目(中央値4→2、p=0.028)と日常生活動作の項目(2→1、p=0.026)、バランスの指標(平均47.33→53.22、p=0.007)、体幹の可動域(56.00→58.00、p=0.007)、腹筋(p=0.046)と背筋(p=0.025)の筋力に変化がみられました。
ただし参加者9名・対照群なしの前後比較であり、著者ら自身が「サンプルが小さい」「観察期間が短い」「一般化できない」ことを限界として明記しています。5
リハビリ以外の選択肢についても、医師との相談材料として簡単に触れておきます。いずれも医師が判断する領域です。
ボツリヌス毒素の注射については、2024年のシステマティックレビューが16件の研究・計104名を検討しています(14研究77名が注射単独、2研究27名が注射とリハビリの併用)。結果は種類によって異なり、体の傾き(ピサ症候群)では一貫して前向きな結果が報告された一方、腰曲がりでは結果が分かれ、首下がりについては研究がきわめて少ないという状況でした。
この検証報告の著者らは、研究デザインや評価指標がばらついているため「臨床での使用について最終的な推奨を示すことはできない」と明記しています。同時に、注射と集中的なリハビリを組み合わせたランダム化比較試験では、姿勢の程度・痛み・生活のしづらさ・生活の質について、注射単独よりも良好な結果が報告されたことも紹介し、「早い段階からの多職種による取り組みが望ましい」と結論づけています2。
脳深部刺激療法(DBS)については、体の傾きを扱った21件の報告をまとめた検証で、DBS・ボツリヌス注射・姿勢の運動・脊髄刺激などが取り上げられています。この報告では、副作用が記載されたのはDBSのみで、刺激の電圧と傾きの程度に関連がみられた例や、DBSによって再発した例が報告されています。著者らは、参加者の背景や服薬状況、副作用のデータが不足しているとして、「より力のある研究が必要」と述べています6。
・研究ごとに評価の方法(壁を使った角度測定、機器による分析、目視など)が異なり、数字をそのまま比べにくい状態です6
・研究間で評価指標のばらつきが大きく、統合した解析(メタアナリシス)が行えなかったと報告されています2
・注射については、著者ら自身が「臨床での使用について最終的な推奨を示すことはできない」と述べています2
・傾き(ピサ症候群)を扱った検証では、参加者の背景・服薬状況・副作用のデータが不足していると指摘されています6
・首下がりについては、研究がとくに少ない状態です1,2
・最適な運動の種類・強さ・時間・頻度・続ける期間は定まっていません1,2
・変化がどのくらい続くのかは分かっていません。ある試験では、2か月後に左右方向の傾きだけが戻っていました4
・姿勢の角度が変わったことが、転倒の減少や生活のしやすさにどこまでつながるかは示されていません。ある試験では、姿勢とバランスに差が出ても、痛み・転倒・生活の質には差がありませんでした3
・進行した段階の方、姿勢異常が長期間続いている方に当てはまるかは十分に検証されていません1
・注射やDBSとリハビリをどう組み合わせるのが良いかは、研究がごくわずかです2
研究全体としては、姿勢に働きかける運動を続けた群のほうが角度の面で良い方向を示す傾向がありますが、対象者も方法も研究ごとに異なるため、すべての方に同じ結果が当てはまるわけではありません。とくに「角度が変われば生活が楽になる」とは限らない点は、正直にお伝えしておきたい部分です。
「これが最適」と言える条件は決まっていません。以下は各研究で実際に用いられた設定です。ご自身に当てはめる際は、必ず主治医・リハビリ専門職とご相談ください。
内容:視覚と体の感覚のフィードバックを使った自己修正の練習、体幹を安定させる運動、生活動作の課題
対象:前屈のあるホーン・ヤール4以下の方37名
結果の解釈:前屈の程度とバランスで対照群より良好。ただし痛み・転倒・生活の質は同等3
内容:一人ひとりに合わせた固有感覚・触覚への刺激、ストレッチ、姿勢の再教育
対象:姿勢異常のある方20名(うち13名が実施)
結果の解釈:1か月後に姿勢・歩行・バランスが変化。2か月後、左右方向の傾きは戻った4
下り坂でのトレッドミル歩行:週3日・4週間
その他:背筋の筋力トレーニング、体幹特化の運動と自己管理の組み合わせ
報告されている変化の幅:体幹の前屈が10〜20度減少1
共通しているのは、いずれも4〜8週間、週3〜5日という比較的まとまった量で行われている点です。そして条件Bの研究が示すように、やめると戻る指標があります4。単発の運動指導ではなく、続けられる形を組み立てることが前提になります。
姿勢異常は、それ自体が転倒につながりやすいだけでなく、前が見えにくくなることで歩行の安全性にも影響します。バランスと転倒への向き合い方についてはパーキンソン病のバランス運動と転倒への対応について解説した記事で扱っていますので、あわせてご確認ください。
また、姿勢が変わると、着替え・洗面・食事といった日々の動作のやりにくさが変わってきます。生活動作の側から組み立てる考え方はパーキンソン病の作業療法について解説した記事で整理しています。
また、無理に反らせる・引っぱるといった強い力での矯正は、痛みや圧迫骨折につながるおそれがあります。ご自宅で行う運動は、必ず担当のリハビリ専門職に確認したうえで進めてください。
正直にまとめます。この領域は、研究の数も規模も限られており、「これをやれば必ず」と言える方法はまだありません。それでも、複数の小規模なランダム化比較試験が、体の感覚を手がかりに姿勢を自分で整える練習について、一貫して同じ方向の結果を示している点は注目に値します1,3,4。そして検証報告が強調しているのは、早い段階から多職種で取り組むことです2。角度が大きくなり、筋肉の変化が固定してからでは、できることが限られてきます。
視覚的な手がかりで姿勢を意識しやすくなる方がいる一方、自覚できても傾きが大きく変わらないことや、疲労、痛み、薬の効いている時間帯によって日内変動が大きいこともあります。その場合は無理に反らせず、支持物や動作方法を調整します。急な姿勢変化や痛みの増加があるときは、リハビリだけで判断せず主治医への相談につなげています。
2. 分類には基準があります(腰曲がり:腰椎型30度超・胸椎型45度超、傾き:10度以上、首下がり:45度以上)1,2
3. 検証報告では、リハビリで体幹の前屈が10〜20度減少したと報告されています1
4. 体幹に特化した運動の試験では、前屈とバランスで差が出た一方、痛み・転倒・生活の質は同等でした3
5. 中止すると戻る指標があり、続けられる形の組み立てが前提になります4
6. 注射やDBSは医師が判断する領域です。姿勢が急に変わった場合はまず主治医にご相談ください
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Gandolfi M, Artusi CA, Imbalzano G, Camozzi S, Crestani M, Lopiano L. Botulinum Toxin for Axial Postural Abnormalities in Parkinson's Disease: A Systematic Review. Toxins. 2024;16(5):228. PMID: 38787080.
3. Gandolfi M, Tinazzi M, Magrinelli F, Busselli G, Dimitrova E, Polo N. Four-week trunk-specific exercise program decreases forward trunk flexion in Parkinson's disease: A single-blinded, randomized controlled trial. Parkinsonism & Related Disorders. 2019;64:268-274. PMID: 31097299.
4. Capecci M, Serpicelli C, Fiorentini L, Censi G, Ferretti M, Orni C. Postural rehabilitation and Kinesio taping for axial postural disorders in Parkinson's disease. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2014;95(6):1067-1075. PMID: 24508531.
5. Amadio E, Mencio M, Carlizza A, Panuccio F, Sellitto G, Ruotolo I. An Exploratory Study on the Effects of Souchard Postural Gymnastics in Parkinson's Disease Patients with Camptocormia: A Quasi-Experimental Approach. Journal of Clinical Medicine. 2024;13(20):6166. PMID: 39458116.
6. Etoom M, Alwardat M, Aburub AS, Lena F, Fabbrizo R, Modugno N. Therapeutic interventions for Pisa syndrome in idiopathic Parkinson's disease. A Scoping Systematic Review. Clinical Neurology and Neurosurgery. 2020;198:106242. PMID: 32979681.
