東京都立大学大学院 博士後期課程 在籍
初台リハビリテーション病院にて脳卒中リハに従事のち独立
「肩や腰がずっと痛いのですが、パーキンソン病と関係があるのでしょうか」「整形外科では異常なしと言われたのに、痛みが引きません」。パーキンソン病のある方から、こうしたご相談をよくいただきます。
結論から言うと、パーキンソン病のある方の痛みはまれな症状ではなく、むしろ多数派です。そして、その痛みは一種類ではなく、原因の異なるいくつかのタイプに分けて考えることが国際的に提案されています。この記事では、まず痛みの種類と割合を整理し、そのうえで運動やリハビリが痛みにどう関わるのか、研究で分かっていることと分かっていないことを正直にお伝えします。
パーキンソン病というと、手のふるえ、動きにくさ、歩きにくさといった運動の症状が思い浮かびやすいと思います。しかし実際には、痛みを訴える方がかなりの割合を占めます。
ブラジルとスイスの4施設で、認知症のないパーキンソン病の方159名(罹病期間の平均10.2±7.6年)と、健康な方37名を比べた研究です。痛みの質問票で「痛みがある」と答えた方は、パーキンソン病の方で93%、健康な方では6%でした(p<0.01)。痛みの強さは、最も強いときで平均7.2±2.6、平均的な痛みで5.1±2.3(いずれも0〜10の尺度)です。
さらに、パーキンソン病と関連する痛みがあった方は122名(全体の77%)、パーキンソン病とは関連しない痛みだけの方は35名(22%)でした。1
スロバキアで、パーキンソン病の方100名(男女各50名、平均年齢65.5±8.8歳、罹病期間5.9±4.4年)に神経学的診察と構造化面接を行った研究です。痛みがあった方は76名(76%)。1種類だけの方が29%、2種類が35%、3種類が10%、4種類が2%と、複数のタイプの痛みを併せ持つ方が半数近くを占めていました。2
研究によって数字に幅はありますが、7〜9割という報告が並びます。「痛みがあるのは自分だけではないか」と感じている方には、まずこの点をお伝えしたいと思います。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。パーキンソン病の痛みは、原因の仕組みによって分けて考えることが提案されています。先ほどの国際研究では、まず「その痛みがパーキンソン病と関連しているか」を確かめ、そのうえで3つのタイプに分ける方法(PD-PCS)が示されました1。
2. 薬の効果が切れている時間帯(オフ時間)に出る、または強くなる
3. 体が勝手に動いてしまう症状と同じ時期に出る
4. パーキンソン病の薬でやわらぐ
こわばりや姿勢のくずれに伴う、肩・腰・脚などの痛み
2. 神経の障害による痛み(神経障害性):25名・16%
ピリピリする、焼けるような、電気が走るような感じを伴い、神経の走行に沿って出る
3. 痛みを感じる仕組みそのものの過敏さによる痛み(痛覚変調性):35名・22%
組織の傷や神経の障害がはっきりしないのに続く痛み。中枢の感作が関わると考えられている
先ほどのスロバキアの研究でも、筋骨格系の痛み41%、神経の根に由来する痛み27%、中枢性の神経障害性の痛み22%、体が固まるような症状に伴う痛み17%、頭痛や内臓の痛みなどその他31%と、複数のタイプが報告されています(重複あり)2。
なぜ分け方が大事かというと、タイプによって取るべき手立てが変わるからです。オフ時間に強くなる痛みなら薬の調整が中心になりますし、姿勢やこわばりに伴う筋・関節の痛みなら運動や日常動作の工夫が関わってきます。「痛み」と一括りにせず、いつ・どこが・どんなふうに痛むかを記録して主治医に伝えることが、遠回りのようで近道です。
ここからが本題ですが、先に正直なところをお伝えします。パーキンソン病の痛みに対する運動の検証は、まだ非常に少ないのが現状です。
多発性硬化症、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病を対象に、運動が痛みに関わるかを6つのデータベースから調べた解析です。39件が該当し、36件が統合されました。全体では標準化平均差−0.83(95%信頼区間−1.10〜−0.57)と、痛みの指標が対照群より小さい方向に出ています。内訳は多発性硬化症が22件で−0.63(−0.89〜−0.38)、脳卒中が12件で−1.07(−1.63〜−0.52)。
ところがパーキンソン病で条件に合った研究は1件のみで、アルツハイマー病も1件でした。著者らはこれを「文献上の決定的な空白」と表現し、パーキンソン病とアルツハイマー病では質の高い研究がとくに必要だと述べています。3
つまり、「神経の病気全般では運動と痛みの関係が見えているが、パーキンソン病についてはまだ言い切れない」という段階です。多発性硬化症や脳卒中の数字をそのままパーキンソン病に当てはめることはできません。
運動に限らず、薬以外の方法をまとめて検討したレビューもあります。
フランスの研究チームが、2004年から2021年に発表された18件のランダム化比較試験(計976名)を集め、パーキンソン病の痛みに対する薬以外の方法を整理しました。取り上げられたのは15種類の方法で、運動、温泉・入浴療法、徒手療法、鍼、植物由来の製剤、心身へのはたらきかけ、包括的なケアの7分類にまとめられています。
結果は「エビデンスの水準は低〜中程度で、おおむね好ましい方向の結果だが、結論が定まらないものもある」というものでした。著者らは、受け身の方法よりも自分から体を動かす方法のほうが臨床的に意味がありそうだと指摘しています。安全性については、軽く一時的な有害事象がわずかに報告されただけでした。ただし今後の研究は方法論をより強固にする必要があるとも述べています。4
「受け身よりも自分で動かすほうが」という指摘は、日々の関わりでも意識している点です。なお、体を動かす方法そのものについては、パーキンソン病の筋力トレーニングについて解説した記事や、関節への負担が少ないパーキンソン病の水中運動療法について解説した記事もあわせてご覧ください。
パーキンソン病の運動については、非常に大きな検証報告があります。ただし、この報告で扱われている主な指標は運動症状と生活の質であり、痛みそのものではない点に注意が必要です。
156件のランダム化比較試験・計7,939名をまとめ、うち109試験4,394名をネットワークメタアナリシスに用いた解析です。水中運動、ダンス、有酸素運動、柔軟性訓練、歩行・バランス・機能訓練、ゲーム、LSVT BIG、心身へのはたらきかけ、複数領域の訓練、筋力訓練の10種類が比べられました。
運動症状の重症度ではダンスが平均差−10.32(95%信頼区間−15.54〜−4.96、確実性は高い)、生活の質では水中運動が平均差−14.98(−23.26〜−6.52、確実性は中程度)でした。多くの運動は確実性が「低い」または「非常に低い」と評価されています。
安全性については、85試験がデータを示し、40試験で有害事象なし、28試験で有害事象ありでした。報告が多かったのは転倒(18件)と痛み(10件)です。著者らは「含まれた介入はおおむね安全と説明された」と結論しつつ、進行した方や認知面の課題がある方の研究が少ないことを限界に挙げています。5
見落とせないのは、運動そのものが痛みの原因として報告されている試験もあるという点です5。運動は痛みをやわらげる方向にも、負担として痛みを生む方向にも働きえます。だからこそ、強度と量の調整が要になります。
個別の試験がどのくらいの規模で行われているかを知っていただくために、比較的最近の一例を紹介します。同時に、この分野の研究の限界も見えてきます。
中国の単一施設で、慢性的な筋の痛みがあるパーキンソン病の方60名を、電気を流す鍼の群と、皮膚を刺さない見せかけの鍼の群に無作為に振り分けた試験です(分析対象59名)。介入は週5日・4週間で計20回、1回30分でした。
痛みの指標(KPPS)は、介入群で25.47±4.47から13.67±2.94へ、対照群では18.67±1.61から19.00±1.64。10段階の痛みの尺度(VAS)は介入群で5.87±0.39から3.73±0.23、対照群では4.93±0.32から4.87±0.29でした(いずれも群間でp<0.05)。有害事象は軽い出血や皮下の内出血で、圧迫と消毒により対応できたと報告されています。
ただし開始前の時点で両群の痛みの点数がそろっておらず(25.47 対 18.67)、施術者は割り付けを知っていました。単一施設で人数も限られています。著者ら自身も、大規模な多施設の試験が難しいこと、長期の追跡が必要なことを限界として挙げています。6
この試験の数字だけを見ると大きな変化に見えますが、開始時点の差や盲検化の限界を踏まえると、そのまま受け取るわけにはいきません。この分野の研究は、こうした小規模で条件の限られた試験が中心だということを知っておいていただければと思います。
・薬以外の方法をまとめたレビューでは、エビデンスの水準が低〜中程度と評価され、結論が定まらない方法も含まれていました4
・運動を検証したコクランの解析では、多くの運動が「低い」または「非常に低い」確実性でした5
・痛みの分類方法そのものも、評価者間の一致度が中程度(相関係数0.59)にとどまっています。痛みを評価することの難しさが表れています1
・痛みのタイプの割合には地域差があり、痛覚変調性の痛みはブラジルで13%、スイスで33%と大きく異なっていました1
・個別の試験は小規模で単一施設のものが多く、割り付けを知ったうえで施術が行われている例もあります6
・痛みのタイプごとに、合う方法が違うのかどうかは検証されていません1,4
・進行した段階の方や、認知面の課題がある方については研究が不足しています5
・長期的にどうなるかを追った研究はほとんどありません4,6
・研究の多くは欧米・南米・中国で行われており、日本の方にそのまま当てはまるかは検証されていません1,2,6
はっきりした基準がない以上、「これをやれば大丈夫」という話はできません。そのうえで、研究から読み取れる考え方を整理します。
2. 痛みのタイプによって手立てが変わりうるため、自己判断で決めない1,2
3. 受け身の方法だけに頼らず、自分から体を動かす方法を組み合わせる4
4. 運動は痛みや転倒の原因にもなりうるため、強度と量は少なめから始めて様子を見る5
5. 痛みが強くなる、しびれや脱力が出る、転びやすくなったといった変化があれば中止して相談する
運動を行う場合も、痛む部位を一律に動かすのではなく、別の病気やけがを除外したうえで、姿勢、動作方法、負荷量を個別に調整します。新しい痛み、急な悪化、夜間に目が覚める痛み、発熱や腫れを伴う場合は、運動で様子を見ず医療機関へ相談してください。
なお、痛みだけでなく日常の動作全体をどう組み立てるかについては、パーキンソン病の作業療法について解説した記事でも整理しています。
2. パーキンソン病と関連する痛みは、組織由来・神経障害性・痛覚変調性の3タイプに分けて考えることが提案されています1
3. 神経疾患全体では運動と痛みの関係が示されていますが、パーキンソン病で条件に合った研究は1件だけでした3
4. 薬以外の方法は低〜中程度のエビデンス水準で、受け身より自分から動かす方法が有望と指摘されています4
5. 運動は転倒や痛みの原因としても報告されており、強度と量の調整が要になります5
6. 痛みのタイプごとに合う方法が違うのかは、まだ検証されていません1,4
7. 新しい痛み・急に強くなった痛みは、まず主治医にご相談ください1
作業療法士(国家資格)/認定作業療法士:登録番号2836(日本作業療法士協会)
東京都立大学大学院 人間健康科学研究科 作業療法学域 博士後期課程 在籍
・2021年:大手自費リハビリ会社に転職後、2024年にフリーランスとして独立
・2025年:株式会社Journey Rehab設立。千葉県/東京都23区を中心に訪問型の自費リハビリを提供中
・第34回日本保健科学学会(2024)ポスター発表
2. Valkovic P, Minar M, Singliarova H, Harsany J, Hanakova M, Martinkova J, Benetin J. Pain in Parkinson's Disease: A Cross-Sectional Study of Its Prevalence, Types, and Relationship to Depression and Quality of Life. PLoS ONE. 2015;10(8):e0136541. PMID: 26309254.
3. Baccaro VK, Hvid LG, Jungersen RC, Langeskov-Christensen M. Exercise and Pain in Multiple Sclerosis, Parkinson's Disease, Alzheimer's Disease, and Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Medicine. 2026. PMID: 42507062.
4. Huissoud M, Boussac M, Joineau K, Harroch E, Brefel-Courbon C, Descamps E. The effectiveness and safety of non-pharmacological intervention for pain management in Parkinson's disease: A systematic review. Revue Neurologique. 2024;180(8):715-735. PMID: 37833205.
5. Ernst M, Folkerts AK, Gollan R, Lieker E, Caro-Valenzuela J, Adams A, Cryns N, Monsef I, Dresen A, Roheger M. Physical exercise for people with Parkinson's disease: a systematic review and network meta-analysis. Cochrane Database of Systematic Reviews. 2023;1:CD013856. PMID: 36602886.
6. Wang S, Sun J, Fu Q, Li B, Wang X, Yang F, Chen Y. Effectivenss of electroacupuncture for skeletal muscle pain in Parkinson's disease: a Clinical randomized controlled trial. Journal of Traditional Chinese Medicine. 2024;44(2):388-395. PMID: 38504545.
